現在私達は、A棟とB棟の連絡通路を移動中である。とはいえ私は茶髭っちの頭に乗せて貰いつつ、前を見て茶髭っちに色々言いながら座っているだけだけど。
まさか研究所まで犠牲にするとはと驚きの声を出す茶髭っちに、私は茶髭っちに対して本当に純真なんだわと思い知らされる。奴の能力はガスなのだから、自分だけ助かるなら他はどうでも良かったのだろうとわかってしまう。
でも待って……この性格の男が、すぐに死ぬ毒に対してこんな風に動きを封じる上に見栄えも悪くなる物で満足するのかな。もしかして、毒を強く出来なくて、代わりに動きを封じたのだとしたら……。
「色々落ち着いてからになるけど……助けられる可能性が残されてるわね」
「ナミさん?どういう事だい?」
「即死の毒なら、動けないように固める必要なんて無いわ。つまり、まだあの繭みたいな状態の中で生きてる可能性が高い」
生きているという事は、助けられる可能性もあると言う事。この場には海軍がいる。
海軍は軍だから普通に考えれば医者だって1人や2人じゃない筈だし、海賊であるこちら側に優秀過ぎる2人の医者が居るわ。特にローちゃんは長くここに滞在してたし、チョッパーは子供達の治療の為に色々調べてたから、そのついでに情報を得てる可能性もある。
助けられる可能性は、十分残されてる。それなら、今絶望する必要は無い。
「……窒息死なんて、毒と関係無い死に方されても実績にならないでしょうから、恐らく今は仮死状態よ。……だから、色々落ち着いてからなら、助けられる可能性も残されてるわ」
私の言葉に、サンジ君は納得した様子を見せる。でも、そんなやり取りを受けて茶髭っちは苦しそうに、喘ぐような声を出す。
まだ、心のどこかで信じていたかったんだろう事は理解出来る。そう思えば、苦しいのだろうとわかってしまう。
「それにしても……いつの間に全員乗っとるんだお前ら!!流石に重い!!」
茶髭っちの叫ぶようなそれに、確かにと思う。ゾロ達は怪我もしてる様子が無いし、走ってもいいと思うのよね。
それも修行になるでしょうに。何を怠けてるんだか。
「本当にすまねェ。堪えてくれ……!!……だが、こうするしか手がねェんだ!!」
私の脳内での突っ込みを知らない筈なのに、シリアスな雰囲気でゾロは言う。でも、そんなシリアスな雰囲気が長く続く筈も無かった。
相手がゾロだからと油断してたわ。何せ、その後に続いた言葉はシリアスな雰囲気や口調でも補えない程に、最悪のものだったから。
「俺達は疲れて、走るのが面倒くせェんだ」
「最悪の理由だ!!降りろお前!!」
「貴殿、茶髭殿と申されたか。拙者は心苦しいが1刻も早く我が息子、モモの助を救出致したい所存!!」
茶髭っちの怒りはもっともだと思った直後、侍改めキンエモンと名乗った彼は真っ当な言葉を口にした。流石に身内じゃないから、そこまでの馬鹿では……。
「しかしもはや走り通しで、走るのが面倒くさいのでござる!!」
「降りろ貴様ら!!阿呆なのか!?」
「うん、ごめんね茶髭っち。阿呆なのよ」
「……お前も、大変だな」
その後はのんびりくつろぎ始める皆に、茶髭っちが怒るけど……基本的には面倒みのいいタイプなのか、振り落とす事も無く走ってくれる。そんな状況下でお腹空いたと言う皆に対して、残念ながら調味料しか無いのよねと溜息ひとつ。
「サンジ君は何か持ってる?」
「材料は新鮮なのが良いから、食材は持ち歩いてないです。すみません」
「ううん、良いの。調味料しか無いから、何か獣でも居たらいいんだけどね」
「お前ら毒ガスに追われてる自覚あるか!?」
コートを脱いだりしてる皆に怒ってた筈の茶髭っちに叱られて、私は目に見えてショボンとして見る。すると茶髭っちは少し慌てた様子を見せるから、案外これで優しい人だったのね……と、先入観を抱いてた自分を少し恥じた。
そんな時、突然サンジ君が顔色を変えて空へと駆け出した。その背に頑張ってねと声をかけてから、私が定位置となっている茶髭っちの頭にて休憩していると、皆は去って行ったサンジ君についての会話をしている。
「茶髭っち……痛みは、大丈夫?」
「あァ、問題ねェ」
「良かった……」
ホッと息を吐き出せば、茶髭っちは困ったように笑いながら言う。その言葉に私は迷惑かけてる事を自覚して、小さく震えた。
「これだけ乗ってると、流石に重いけどな」
「……私、降りようか?」
「俺が振り落としたいのはあんたじゃねェ。だから、そこで休んでろよ。……怪我、してるだろ」
「怪我したのは、この身体じゃな「その身体、冷えきってるだろ。低体温になってるのは間違いねェんだから、暖をとっておけ」」
茶髭っちの言葉に小さく笑って、私は頷く。どうして皆、私にこんなにも優しいんだろう。
コートを着たまま少し休んでいたら、ブルックが何かに反応した。その視線を追えば居たのは1匹のドラゴン。
「あれ……!!さっきの竜さん!!」
「いいえ、ちょっと違うみたい。目付きが……!!」
グルル……と鳴くドラゴンに、私は顔を顰める。すると茶髭っちが焦りを見せた。
「やっぱり鎮静剤が切れたな」
「鎮静剤?」
「あァ、小さい奴程後から生み出された進化形だ。より素早く、体も硬い!!だから鎮静剤で普段は大人しくさせてんだが……襲って来るぞ!!」
その言葉の通り、暴れだした竜により辺りは瞬時に火の海となる。そんな中でゾロは呑気に寝転がったかと思うと、それを傍観していて我関せず。
ロビンは私を庇うように傍に寄り、ウソップは武器を構えたけど、襲われかけたブルックが悲鳴をあげた事で皆はブルックに視線を向ける。けれども竜はブルックを素通りして行くので、私はホッと息を吐き出した。
B棟内茶髭バス利用組はその後も呑気なもので、ブルックが無事と分かれば厄介だと言いながら寝転んで動こうともしないゾロと、やはり呑気に会話をしているウソップとロビン。そんな様子に茶髭っちは怒りながらも走り続けてくれるので、私はクリマタクトで雷雲を作り罠を張っておく。
けれどもそんな中でブルックと侍のキンエモンが喧嘩を始めるから、さっさとこの状況を打破したくて私は祈る事にした。ワノ国って事は日本だし……うん、侍らしく祈ろう!
「かかれ~、かかれ~、ニンニンニン、かかれっ!!」
「何しとる……」
私の祈りを受けて茶髭っちが呆れた様子で問い掛けてくるけど、私としては大真面目である。なので、キリッとした顔で答えた。
「侍の真似!」
「ニンジャだぞ、それ……」
ウソップの言葉に違うの!?と言おうとして、けれども直後に雷雲に掛かったそれを見れば意識は竜へと移行する。祈りは届くものなのね。
「来た!!〝
「あー!ワタ者の標的ー!!」
「な!!何と、乳バンド娘、忍術使いであったか!!」
「やめて、その呼び方!!」
騒ぐブルックと侍にとりあえず怒りの言葉を向けてから、私はその先の流れを確認するように見詰めていた。だってこの先は、私必要なさそうなんだもん。
ウソップが私の後に続くように、花を咲かせればそれに侍が反応する。それに対して竜は素直にダメージを受けて、気持ち悪いらしいそれを隠そうともしない。
それにより出来た隙をつくようにしてロビンが技を繰り出せば、侍がまたしても騒ぐ。こうなると既に、反応する気にもならない。
そう思って呆れていたら、侍はブルックと共に戦いに挑もうとし始めた。どちらも接近戦では少しばかり危険な気がするわ。
けれども竜が炎を吐き出せば危ないと思って雨雲を作ろうとしたけど、どう考えても間に合わない。焦る私の視界の先で、侍はブルックを先導して炎を切った。
それにはゾロも驚いた様子で声を出すから、参戦するのかなと思ったけど……どうやら今回は高みの見物を決め込むつもりらしい。今回はこの場にいるメンバーの中でゾロ以外の全員が参戦する形での決着となり、ブルックと侍が竜を斬った後もその場に残ったのを少しばかり心配になりつつ見守る。
今回はゆっくりしている時間的な余裕が無い。毒ガスが、私達に迫っているのだから。
余裕があるのならば、あの竜を回収して食料にしてあげればきっと喜ばれたと思うのに。そう思えば残念で仕方無いわ。
喜ぶウソップと茶髭っちの傍で、私は戻らない二人に早く乗れと叫ぶ。それでも動かない二人に溜息を落として、私は再び茶髭っちの上によじ登る。
この時には、周りが火の海となっていた為に全員がコートを脱いでいた事を1応お伝えしておきたい。暑さの余りにしたポニーテールだけど、この際団子にするべきだったかなと少しだけ思う。
その時騒がしい様子が視界の端に入り視線を向けると、暴れるチョッパーが見える。巨大なその姿は、明らかにモンスター化しているけど……その理由がよく分からない。
「あれ!?ちょっと、ねぇ!あそこ見て……!!」
私の言葉でウソップ、ゾロ、ロビンが顔を上げてくれる。よく見ればチョッパーが戦っているのは……子供達だ。
モンスターに変形してまで子供達と戦う理由。それが即座に判断出来なくて、皆に慌てて言葉を向けた。
「チョッパーがモンスターに変形してる!!」
「ブオォオオォオ!!」
「何やってんだ、あいつ!!」
ゾロの声に、けれども答えは分からない。茶髭っちとは目的地が違うので、私達はその場で別れを告げてその背を飛び降りるとチョッパーの元へとかけて行く。
互いに健闘を祈りつつ向かった先で、けれども私達の到着直前にチョッパーのモンスター化が解けてしまう。つまりは……子供達がその奥へと駆け抜けて行ってしまった事を意味している。
大きな子供達に踏み潰されているチョッパーが、次に来た大きな子供達に蹴り上げられる。そうして浮かび上がったその身体を抱き留めるようにしつつ掛け出せば、チョッパーが驚いたような顔で私を見た。
「チョッパー!!これ……どうなってんの!?」
今はチョッパーの疑問に答えてあげる余裕は無い。だから、私が理解した方がこの場合は良いと判断した。
侍は息子の名を呼び続けていて、ウソップもチョッパーに問い掛ける。チョッパーはそんな中で、泣きながら子供達が巨大で凶暴な兵士になるようにシーザーが研究してるのだと伝えて来た。
子供達の向かってるその部屋が〝ビスケットルーム〟と呼ばれる部屋で、そこに飴があるのだと教えられれば、背筋を冷たい物が走る。止めなきゃ……!!
……でも、どうやって?
煙幕では子供達を止める事は実質不可能。でも、攻撃を加えるなんて、そんな事はできないわ。
その時、子供達を止めてくれたのはロビンだった。けれども理性も何もかもを失ってる子供達は、ロビンがその手で守ろうとしてくれているのに、噛み付いたりして攻撃を加える。
ここで私達は止めようとしているから、これ程に手も足も出ないけど、そうでなければ敵ではない。つまり、兵士としては役立たない事を意味してる。
でもそれは……相手が私達だから。これがもし、自在に人を巨大化できるようになれば、戦闘能力の高い人を巨大化させたなら……巨大と言うだけで驚異になり得る事を思えばマスターと呼ばれているシーザーは、自らを見限った世界政府を見返す事が可能だろう。
その上でこれみよがしに海賊とても手を組んでしまえば……これ程恐ろしい物はない。深く思考の海に沈みそうになる私に、チョッパーが言う。
今、モチャって子1人だけが正気で、キャンディを守ってくれてるのだと。だからこのままでは、モチャが危ないのだと。
その言葉に私は走る速度を上げる。急いで助けに行かなきゃと、気ばかりが焦るのを自覚しつつ、それでも私は子供達との約束を破りたくは無いのだ。
何の罪も無い子供達を……親元に返してあげたい。1日も早く、普通の子供に戻らせてあげたいと……強く、願うから。