私達がその部屋に入った時には、既にモチャは巨大な包みに包まれている飴を抱えて逃げ出そうとしているところだった。それでも友人達を説得を試みようとするモチャに対して、これ迄は恐らく子供達に優しくしていただろう敵が現れる。
その敵は女で、サンジ君が居なくて良かったと心から思う。その時、その女が文字通り冷気を発しているのを見て、嫌な予感がする。
この時、広すぎるB棟の中央部にサンジはたしぎ率いるGー5達と共に居た。同じくB棟にあるビスケットルームに、ナミを含む大半の麦藁の1味が集結。
D棟のSAD製造室にスモーカーとローが居て、ヴェルゴとの戦闘中。C棟の地下にあるゴミ箱にて、ルフィは喋る鰻と対面中であった。
ルフィがここで聞いた真実が、ナミとチョッパーの予想している事実を裏付けるものではあるのだが、その事を現在全て把握しているのは読者の皆様だけである。そんな中でナミはチョッパーを抱いたまま、私は仲間達に言葉を告げた。
「この場は二手に別れましょう」
「ナミ?」
不思議そうにゾロが問い掛けてくる。でも、この場には共に逃げた子供達しか居ない。
だとするなら、モモノスケ君は……別な事に使われてるか、身動きが取れない状態にあるという事になる。急がなければ、どちらも手遅れになるわ!!
「ここにモモノスケ君は居ないわ。つまり、別な実験をされているのか、侍の意地で逃げようとして捕まったか……。だから、モモノスケ君の探索チームを結成する必要があると思うの」
「なら、どう分ける!?」
ウソップの言葉に私は迷いなく答えた。多分この人選で間違いは無い。
「親である錦えもんが行くでしょ。それなら接近戦は彼に任せられるから、ウソップに同行して欲しい。それと、現状壁の向こうを確認できるブルックも共に……!」
「妥当なところだな。分かった!任せとけ!!」
「分かりました。微力ながら、尽力致しましょう!」
ウソップとブルックが答えてくれる。それにより私は、子供達を追う事に専念出来る状態になった。
「なら……ウソップ、お願いがあるの」
そうしてロビンは自分が悪魔の実の能力者である事を理由に、ウソップへとその役目を引き継ぐ。そうしてモモノスケ君の父親である錦えもんを筆頭に、ウソップとブルックがモモノスケ君と海楼石の錠を探す探索チームとなりB棟の2階へと向かう。
先程説明したように、ブルックの能力ならば壁の向こうを確認したりも出来るので、接近戦は錦えもん、遠距離戦はウソップ、探索はブルックと言う構成に出来る。そうしてそれぞれが納得して別れた後で、私達の居る部屋が吹雪に見舞われた。
……こうなるとわかっていたら、コート出して貰ってから別れたのに!酷いわ、何なのこの状況!!
子供達を追いかけながら〝ユキユキの実〟の能力者との戦いが始まった。ロビンが子供達を隔離しようとしてくれるのに、ハーピーとなっているその女は枝に止まる為の足に武器を持ち、空を羽根で自由に飛び回りながらロビンの背後から攻撃を仕掛ける。
それにより倒れるロビンに慌てて駆け寄るけど、その傷は決して浅くは無い。そんな私達にゾロは言う。
相手が剣を足にしているからかも知れないけど、真っ直ぐに敵へと向かいながらその足止めをしてくれる。でも、ゾロだって女は極力斬りたくない筈なのに、この場を任せても良いのかな……?
この時、殺戮ガス〝シノクニ〟B棟充満まで、後約20分。ナミ達が居るのはB棟の3階であり、ゆっくりとしていられる時間的余裕は無いのである。
「ロビン!!平気!?」
「ロビン!!」
私とチョッパーがすぐ近くまで行って声を掛けると、ロビンはかすり傷だと言って笑う。そして、子供達を止める為にと身体を起こした。
……よくも、ロビンを。そう思わないと言えば、嘘になる。
でも今は、自我を失って暴走している子供達を優先する他ない。今は……この子達を守らなきゃ……!!
「早く追わなきゃ!!」
「頼むー!!」
チョッパーを抱えて走り出せば、チョッパーもそれを頼むと叫ぶように言う。それにより頷いて走る私の少し後ろをロビンも続いてくれるけど、そんな時にゾロが鬼の形相で追いかけて来た。
何のつもりだと叫ぶゾロから庇うようにチョッパーを抱き締めると、チョッパーが庇うなー!!と怒りを滲ませるけど、だって怖い!!
「ゾロ!?何でこっち来……っ!?」
その時殺気を感じてその場を飛び退けば、私とチョッパーの目の前に迷い無くゾロが入り込む。それにより庇われたのは、目前に迫った切先により嫌でも理解出来てしまう。
その時、愉快で仕方ないと言わんばかりの声が聞こえた。人を傷付ける事が、愉快なのだとその声1つで伝わってしまう。
「残念」
「何、弱ェの狙ってんだ、てめェ!!」
ゾロの言葉を受けて、私はチョッパーを右腕に抱え直すと左手でクリマタクトを回した。感情が、怒りに塗り潰されているのを感じて、自分でも冷静になれと思う。
でも、よりもよって〝仲間〟からそんな言葉を向けられるなんて思ってもみなかったの。許せない……と思ったのは、弱いと思われた事が悔しかったから?
違う……悲しかったんだ。信じて貰えなかった事が。
ルフィを共に守り導ける、背中を任せられる存在として認めて貰えなかった事が、辛かったんだ。そう気付くのと、ゾロに声をかけるのは同時だった。
「そこ……退いてっ」
用意していた
短剣で斬り裂くのとはまた、随分と自分の中で違うものがある。やっぱり私も、女性や子供を攻撃する事は……傷付けたり苦しめたりする事は、やっぱり気が咎めるのよね。
そんな事を思いながら、もう追って来ないでよねと言って牽制するようにクリマタクトを振り回せば、ドス黒いオーラを撒き散らしているのが確認出来たけど、とりあえず無視して先へと進む。
けれども部屋を抜ける直前、出口に雪が現れて壁となる。それでも、それこそ熱卵でどうにか出来る筈と思って駆け続ける事を私は選択した。
だって、雪でできた壁ならば、それこそ熱で溶かしてしまえばいいのよ。誰を傷付ける物でもな……!?
嫌な物を感じて咄嗟に身体の向きを変えれば、進む予定だった所に雪が不自然に現れる。更に何処からなのかよく分からない声が聞こえて来るから、私はその声の発生源を突き止めようと足を止めてしまう。
「〝雪垣〟」
技の名前だろう事を考えれば、恐らくは雪で作られたこの壁を意味するのだろう。そして……。
「〝万年雪〟」
続いた言葉と先程の不自然な雪の盛り上がりが関連してるのは、間違いようがない現実。姿は見えなくても、殺気は感じられるからとそれを避け続けていたけど、寒さで次第に動きが鈍くなってるのが自分でもわかる。
チョッパーを抱いてる部分だけが、暖かい。そう思った直後、足に雪が絡まりバランスを崩し掛けてしまう。
何とかそれに踏ん張るけど、バランスを崩した時に思わずでた声にロビンが振り向く。その直後、雪が身体に巻き付くようにして上がってくるから、咄嗟にクリマタクトを落とさないように片付けて、チョッパーを両手で私の胴体から離すように高くしてしまう。
チョッパーは動けないんだから、私が守らなきゃ。ロビンも怪我してるんだから、ここは私が……!!
「ナミ!!」
ロビンの切羽詰まったような声が響く。雪が素肌に巻き付く冷たさは筆舌に尽くし難く、雪に閉ざされてしまえば足を動かすのは最早不可能。
下からの雪に気を取られて、その冷たさに意識を向け過ぎてしまう。けれどもチョッパーが突然私の背後に意識を向けて悲鳴をあげるのを見てしまえば、即座に自分とチョッパーを守る為に身体を捩るしか無くなる。
それ迄のハーピーのような姿からは想像もつかないような、明らかに妖怪としか呼べない姿で噛み付こうとしてくる女。それがチョッパーを噛もうとするから、逃がすように腕を下げたりして対応するけど、下半身が動かないからそれ程長くは持たないかも知れないわねと内心で舌打ちする。
「子供達は追わせない!!」
その言葉と同時に、動けない私へとその巨大な口が近付く。私はチョッパーだけでも逃がしたいけど……と思って笑いそうになる。
だって、この状況なら、確かに私を狙えばチョッパーも身動きが取れなくなるもの。どう考えても、私を狙うのが定石だわ。
「
ロビンの声が響いて、その直後に崩れるその身体。それにより私が解放されて床に落ちると、ロビンが私と女の間を塞ぐように立ちはだかり女を睨む。
「ナミに、手を出さないで……!!」
「ロビンっ!!」
「こ、怖かったァ……!!」
素直に泣きそうになるチョッパーと、怒りに震えるロビン。私もいつまでも寝てもいられないからと、身体を起こしてクリマタクトで雪壁を溶かす為に動こうとした時、妖怪に姿を変えていた女がチョッパーに言った。
子供達は〝大切な実験体〟だと。そして、シーザーの実験を守る事が〝任務〟であると言う。
その後に続いた〝反逆の意志〟を植え付けたのは誰なのかと言う問い掛けにチョッパーは怒るけど……私はその前の言葉で思考が埋め尽くされるのが解った。壁を溶かす為に動きながらも、任務として守ってるだけと言うその言葉と、ローちゃんが戦う事を決めている相手である事が、確信を抱かせた。
「……どうして」
思わず声に出してしまう程に、私にはその理由が分からなかったの。どうして、ドフィがこんなにも非道な事を平然とさせてるのか。
彼自身、子供は好きな方なのに。そして、弟として間違い無くロシーを愛していたのだし、ローちゃんの事もドフィなりに考えて大切にしてたんだから、普通なら子供にこんな事をする実験を認めたりする筈は無いと思う。
ドフィに、何があったの。私と離れていたその期間に、それ程人間性が歪むような……何があったと言うのかしら……?
雪壁を溶かして、先へと進めるようにしてから、女へとその熱を投げるように放てば案の定また悲鳴を上げる。それが聞こえている筈なのに、何故か遠く思えてしまうの。
「……貴女、ドフィの部下なのね」
そんな場合じゃないのに、つい、言葉を向けてしまう。幼い頃のドフィと、青年になってから孤独に喘いでいたドフィが、脳裏にチラつく。
何があったの。どうして、そんな事をするようになってしまったのよ……!!
「……!?若様を愛称で呼ぶ事は、最高幹部にしか許されてないわ!!」
「ドフィに、何があったの?昔は優しい子だったのに」
「愛称で若様を呼ぶんじゃないわよ!!」
咄嗟にロビンへとチョッパーを託して、私はクリマタクトで応戦する。視線を向ける事なく、ロビンへと言葉を放ちながら。
「先に行って。すぐに追うわ」
話を聞き出したら、すぐに……。そう思ってクリマタクトの他に短剣を取り出そうとしたら、ゾロが女にその刀を向けた。
「ナミ、ここは任せろ!」
「ゾロ!!」
「……弱いって言ったのは、悪かった。怪我人であるロビンを庇いながら、動けないチョッパー抱えてたからそう言っただけだ。……二人を、守れ」
ゾロの言葉にそうだと思い、ドフィに関しては過去を知っても今何も出来ないと思考を切り替える。即座に踵を返して駆け出すと、背後からはゾロと女の会話が聞こえて来たけど、既にそれを気にする余力は無い。
ロビンの後を追って、チョッパーを受け取ると子供達に対して先回りする為に、雲を作り出したりしながら駆け抜ける。ロビンもまた、その能力を使い抑え込んだり転ばせたりしながら行く手を遮ってくれていた。
そうしている内に、チョッパーが上半身だけは動けるようになったと言う。なので、チョッパーの意見を聞き入れる為に私達は行動を少し変える。
チョッパーは鎮静剤を注射すると言うので、ロビンがそれのサポートをしてくれる事になった。それを受けて、私はモチャの傍へと向かい、モチャが逃げるのをサポートする為に雲で視界を遮り行く手を阻む。
「〝ミルキーボール〟!!モチャ、先へ!!」
「うん、お姉ちゃん!!」
けれども同じ事を繰り返しているから、足止め出来る時間も次第に短くなって来る。対応の仕方は、これだけ同じ事を繰り返されれば嫌でも学習するのは当然だもの。
埒が明かないわ。何処まで逃がせば、モチャは安全になるの!?
今外はガスに覆われてるし、中だってそれ程長くは持たない。その上子供達が迫って来てるのだから、解決策なんて見つからないわ。
チョッパーが動けると言うのも、まだ上半身だけ。移動はロビンが分身して、チョッパーを抱えたりしてのサポートで何とかしてるだけなのだ。
先に階段を降りるモチャを守るように、子供達を階段の上で抑えてる。だけど、この先どうしたら……?
「きゃ~!!」
「しまった!!モチャ!!」
悲鳴により視線を向ければ、子供達に囲まれて飴を抱き締めたまま動けなくなっているモチャが見えた。回り込まれてたなんて……!!
「回り込んでる子供がいた!!」
チョッパーとロビンに状況を伝える為に声を出せば、チョッパーから悲鳴が上がる。階段の下ではモチャが飴を渡すまいと抵抗しつつも、友達の説得を試み続けていた。