※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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作戦の真相

 チョッパーの悲痛な悲鳴が谺響する。私もモチャを助けには行きたいけど、ここで抑えなければ上からも更に子供達が押し寄せてしまう。

 どうしたらいいのかと焦る内心に反して、状況は刻一刻と悪化の1途を辿る。どうしたらいいのか、分からない。

 その時……想定さえしていなかった最悪の事態が起きてしまった。大切な友を守る為に、幼いその身を犠牲にして……その危険性を理解した上で……モチャは、その行動を決断したのだ。

 

 「モチャ!?」

 「バカな事を!!」

 「モチャア~!!」

 

 私達三人の声が重なる。他の子供達がモチャの行為の意味を理解せずにモチャを責めて、口に入っているその飴を奪い返そうとするのが見えた。

 わかってる。他の子達は今、麻薬のせいでそうなってるのだと言う事は。

 理解してる。この場には、被害者しか居ないのだと言う事を。

 それでも……私は、私達達はそれを受け入れられない。モチャの気持ちは痛い程によく分かるわ。

 私もモチャの立場ならばそれを選択しただろう。だって、自分1人が犠牲(・・・・・・・)になれば皆は無事(・・・・)で、幸せに親元へ帰れるのだから。自分1人か、友達全員かとの問い掛けならば……それを選んでしまう気持ちは痛いくらいよく分かるの。

 

 「駄目だぞ!全部吐き出せ!!それがどんな薬か教えた筈だァ!!」

 

 それでも、私達はそれを選ばないで欲しいと願う。私達はモチャの犠牲を喜べないわ。

 チョッパーが制止の声を上げる。私も慌てて階段を駆け下りるけど、モチャが口に含んだその飴を飲み込む方が……早かった。

 

 「やめろ~!!」

 

 チョッパーの悲痛な声が、建物内を谺響する。私はそれを聞いている事しか出来ない。

 モチャは目の前で血を吐いて崩れ落ちる。その様子を目の当たりにして、薬により理性も何も失っていた筈の子供達が戸惑い友達を心配する(・・・・・・・)ように言葉を発し始めた。

 戸惑いは、美味しくて、楽になる筈の飴が大切な友を苦しめてる現実が理由で、波紋のようにゆっくりと、けれども確実に広がって行く。いくら言葉を尽くしても伝わらない危険性が、ただ1人……目の前で苦しむ友の姿を見ただけで解決してしまう。

 でもね、私達は……こうなる前に気付いて欲しかった。チョッパーが涙を流しながら、子供達に対して怒鳴る。

 怒りを抑えられないその気持ちはよく分かるけど……。この子達に罪は無く、チャンスは今しかないのよ。

 怯んで動けなくなってる今が、子供達を正気に戻す唯一のチャンス。今は多くの子供達か、モチャのどちらかしか救えないだろう事を私は理解できてしまっていた。

 

 「チョッパー!!子供達は完全に怯んでる!!全員鎮めるなら、チャンスは今しか……!!」

 「でも……!!モチャの治療が先だ!!」

 「時間は無いわよ!?」

 

 ロビンの言葉を受けて、私は祖父を思い出す。そして、マルコを。

 私は今モチャを諦めようとしたけど、チョッパーがモチャを優先するならばまだ可能性はある。幸運な事に、私は身近に優秀な医者が沢山いたわ。

 皆と離れていた二年の間には、幼い頃のローちゃんやマルコ。幼少期に赤髪海賊団でお世話になってた時は、心配症な先生が居た。

 アーロン1味として生きて来た時でさえ、近くには優秀な祖父が居てくれたわ。そして今は、頼れる船医のチョッパーがいる。

 

 「……チョッパー、鎮静剤を貸して!!私が子供達に打つわ」

 「「ナミ!?」」

 

 二人の驚いた声が聞こえたけど、他に今は選べる選択肢が無い。私は、皆に生きて欲しいのよ。

 モチャの気持ちを無視はできない。でも、やっぱり私も、モチャの生命を諦めるなんてしたくはないの!!

 

 「ガキ共が止まってやがるぞ!行け~!!」

 

 突然割って入った声に、私達は奇跡を見た。余りにも乱暴で、ガサツで、善行をしようとしてるなんて信じられないけれど……。

 それでも彼等は今間違いなく、護法善神や諸点善神と呼ぶに相応しい登場をしてくれた。暴力は駄目だとサンジ君が海軍に指示を出せば、多勢には多勢だと子供達を抑え込む。

 サンジ君の号令で医療班が姿を見せれば、チョッパーは私には戸惑っていた注射を託して子供達の対処が始まった。力仕事の得意な海軍が、チョッパーとモチャを運ぶ。

 検査室と呼ばれる部屋へと移動して行くのを見送っていれば、モチャが意識を取り戻したのがわかった。チョッパーは泣きながらモチャに言う。

 

 「友達を守ったんだな。ありがとう。お陰で皆、家へ帰れるよ!!お前だって、必ず助けるからな!!……っ……!!必ず、大人になるんだ!!」

 

 その同じ頃、C棟の1階にてルフィはダストボックスからの脱出を成功させていた。そして、R棟2階にある秘密の部屋にいるシーザーに対し、R棟1階にあるR66扉前にて、茶髭はシーザーを責め立て、問い詰めている。

 その結果、得意になったシーザーからルフィが聞かされる事になるのは、ナミが知れば暴れ狂うような話。けれども、ルフィがそれを聞いてどう動くのかは……未だ未知数。

 人を固め生命を奪う殺戮ガス〝シノクニ〟は、研究所内部へと侵入。麦藁の1味、海軍、子供達の居るB棟へと流れ込む。

 B棟、シノクニ充満まで、後五分!!生き残った者達は、島からの唯一の脱出口であり、ルフィとシーザーが戦うR棟1階を目指す。

 正気になった子供達を叩き起し、海軍のメンバーをも率いて私達は走る。1人でも多く、生き残る為に。

 

 「急いで皆!!頑張って走って!!」

 

 麻薬の影響で頭がハッキリしてない子供達も居るけど、それを気遣ったりしている余裕は無い。全員、生きたければ走るしかないのだ。

 1方、捜索チームは既に更に二手に別れていた。息子モモの助を探す侍錦えもんはモモの助が〝小さな竜に変身〟していたと言う情報を元に駆け出しており、それをブルックが必死に止めている現状。

 その同じ頃R棟2階秘密の部屋へと到着したウソップは、シーザーが消えたその部屋に残されている数多の敵に肩を落とす。そして最後に、D棟SAD製造室に集まるヴェルゴ、スモーカー、ローの三人は盛大に戦いを繰り広げていた。

 その戦いの様子を電伝虫を通して聞いているのは、ナミがずっと気にしていたドフラミンゴ。二年前に起きた〝白髭〟を喪ったあの戦争を超える規模の騒動が、始まろうとしている。

 その事を理解しているのは、現在その為の引き金を引いたローだけである。何故ならば、そうなっては困る者達は、そうならない為に動くからこそ、始まろうとしている事を理解等出来ないからであった。

 子供達と共に駆け抜けるナミ達は、建物が大きく揺れたのを感じた直後、建物の上部が1度確実に浮かび上がった事を確認して、嫌な汗をかく。どんな戦い方をしてるのか、そんな事を気にするよりも先に、怖がる子供達の対応が先である。

 それに……問題はそうやって建物が浮かび上がった事でガスが漏れ出した事にある。建物が浮かび上がっただけでも問題なのに、戻る時完全に同じ位置に落下してくれなかったから、壁の全てが割れ目となってしまった。

 

 「不味いわね……」

 「お姉ちゃん、怖いよ!」

 「うえーん!!」

 「おい、ビビってる場合じゃねェぞガキ共!!立って走れ!」

 

 瓦礫も降ってくる。じっとしていたら、死ぬしか無い。

 私はクリマタクトを構えると、風を起こしてガスを少しばかりではあるけど背後に向けて流す。そうして僅かな時間を稼いで、ついでに1度そっちへ流れる空気の道を作る事で、こちらに帰って来る時間を稼いでおく。

 それでも、稼げるのは数十秒って所かも知れないけど……。何事もやらないよりはマシと思う事にした。

 その時何故か前からゾロが走って来るというミラクルに遭遇して、思わず叫んでしまう。でもつまりは、まだそっちはガスが充満してないって事だわ。

 

 「ゾロ!!逆!逆!!」

 「皆急いで!!」

 

 そうして各自が各場所で必死の戦いを繰り広げている中、私達は私達で必死に走って通路を抜けて行く。R棟1階B棟からの通路を抜けて、大騒ぎの中先へ進めばそこにはルフィが居た。

 真剣な顔で、誰かを守っているのだろうか。そうだとしても何でもいい、ルフィがいる。

 

 「ルフィ!!」

 

 ルフィは私に即座に気付いて、珍しく戦いの時の凛々しい顔でこっちを見た。でも、敵が見当たらないから、もう戦いは終わったのだろうと理解する。

 

 「良かった、先に着いてたのね!!あ!!茶髭っち倒れてる!!大丈夫!?」

 「ああ大丈夫だ!!……あ、大丈夫じゃねェや!!」

 

 今はチョッパーがいないのにと少し思うけど、ルフィが誰かに嬉しそうに笑っているのが見えてもう問題無いのだと確信する。必要ならば時間を稼ぐ位はして見せるわ。

 私はそっと茶髭っちに近付いて、持ってる道具で応急処置をして行く。それにより茶髭っちは涙をそれこそ滂沱の如く流すから、私はそれに笑いかけた。

 殺戮ガス〝シノクニ〟は、既にB棟内にほぼ充満。島から脱出する道はR棟66番扉1本のみ。

 ルフィの立つR棟中央部分に、現在たしぎ、G-5、子供達、そして麦藁の1味からはゾロ、ナミ、サンジ、ロビンが到着。その他、先にこの場に到着していたルフィと共にいたのは茶髭と桃色の小さな竜。

 大所帯で移動していたナミ達に少し遅れる形で、チョッパーがモチャ共々にG-5により運ばれて移動している。その途中で、ガスで固まった錦えもんを抱えたブルックがチョッパーに合流。

 R棟の上部にいるウソップはチョッパー達に行くべき道を示して、自分も漸く合流の為に動き出す。R棟D棟間の通路を、トロッコを押しながら走り抜けるのはヴェルゴに勝利したローとスモーカー。

 彼等は順次合流を果たして行くのだろうと予想される。けれども残り時間は、僅かである。

 

 「麦藁屋!!」

 「トラ男!!ケムリン~!!そっちに居たのか」

 「シーザーは何処だ!!」

 

 海軍のメンバーがスモーカーとの合流に泣く中で、ローちゃんはルフィに大切な事を問う。それにより私も漸く、シーザーの行方が気になった。

 ……そうよね、ここに至るまでにシーザーとルフィは戦ってる筈で……。なのに、何でシーザーがここに居ないのかしら?

 

 「ああ……あの扉ごとあっちの方へぶっ飛ばした!!何処まで飛んだかな」

 「……おい!!お前……!!約束は誘拐だろう!!」

 

 その時私はハッとして視線を動かす。シーザーは公開実験をしていた。

 そうなれば今の会話も姿も含めて全てが、闇の人達に筒抜けとなっている可能性が高い。それにより辺りを見れば、やはり電伝虫が居るけど……どうやら瓦礫により今はもう意識を失ってるらしいと分かる。

 ……でも、ルフィが倒した事が伝わってる可能性が高いわ。だとしたら、ルフィとローちゃんから話を聞かなきゃ!!

 その先の対応を考えたら、後で聞けばいいなんて呑気なことは言えない。ロシーがこの場に居ない事が、こんな時に悔やまれる。

 

 「喧嘩してる場合じゃないわ!!ルフィ、シーザーは捕えなきゃダメなのよ。協力できないなら、邪魔はしないで!私がやるわ」

 「ナミ!!」

 「大丈夫よ。ウソップが海楼石取りに行ってるなら、私とウソップに任せて!」

 

 接近戦は空気を抜かれて危険だと言うのならば、遠距離で戦えばいい。遠距離戦において、私とウソップが組めば敵わない敵なんて居ないんだから!!そう思って笑えば、ルフィは小さく頷いてくれた。

 後でシーザーに言われた事を聞き出さなきゃ。ルフィの我儘はいつもの事だけど、何か気に入らない事言われなきゃこんな反応しないと思う。

 ルフィは、約束は守る子だもの。そう思って、いい子ねとその頭を撫でればルフィは少し照れたように頬を染めて俯いた。

 

 「ローちゃん、ドフィとシーザーの関係を全て教えて。そうしてもらわなきゃ、対応を考える事も出来ないわ」

 「ナミ……」

 「ドフィがJOKERなのも、ドレスローザの国王なのも知ってる。悪い事を沢山してて、ロシーの実の兄なのも知ってるわ。……でも私は、ドフィやロシー、そのご両親と共に旅をしていた時期があるから……嫌う事は、難しい。だから、情報が欲しい……ううん、必要なの!」

 「……コラさんから、だいたい聞いてる。いや、聞いて来た。その後、その事を知らないナミがコラさんと俺を助けてくれた事も理解しているが……全てを聞く覚悟があるんだな」

 

 その言葉に頷けば、ローちゃんはトロッコの準備を進めながら教えてくれた。それは、シーザーが作ったSADを元にドレスローザにある工場にてドフィが〝人造動物系悪魔の実〟を作って居るという事。

 その悪魔の実の名前が……スマイル。そのスマイルを提供、販売している相手が〝四皇〟カイドウだと言う話。

 

 「……だから、これが成功すれば四皇を引き摺り下ろせるって?……それは、これ以上の強化を塞げるってだけよね。四皇そのものの衰弱にはならないわ」

  「それでも、強化されないのであれば、勝てない相手ではなくなる。そうだろう」

 「……白髭亡き今、四皇の最強はそのカイドウよ。そんな事を知らないローちゃんとも思えない」

 

 キッと睨み付ければ、ローちゃんは困ったように笑い……賢すぎるのも問題だなと言う。でも、それが答え。

ローちゃんの目的はカイドウじゃないわ。なら、ローちゃんの目的は……。

 

 「……ドフィを、倒す事にあるのね」

 「……流石は、宝玉先生だな。認めよう。そうだ。工場を破壊すれば、スマイルを作れなくなり、ドフラミンゴとカイドウが戦う事になる。そうなれば、ドフラミンゴが勝てる可能性は無い」

 「でも、カイドウ側も無傷では居られない。だから、カイドウが弱った所を叩く事で勝てる可能性が出る……と、そんな作戦?」

 

 私の問い掛けに、ローちゃんは1瞬悲しそうに笑うと頷いた。……成程、ローちゃんはその前に死ぬ予定で計画してるのね。

 そんな勝手、許さない。ここにロシー達が居ない事が、そもそも気になって居たのよね。

 

 「ナミ、難しい話は終わったか?」

 「ルフィ……もう、船長はルフィなのよ?」

 「ナミとロビンが難しい話の対応してくれんだろ」

 「ルフィ!!」

 「大丈夫だ!ナミとロビンなら簡単に教えてくれるし、それ聞けばちゃんと俺が決めるからよ」

 

 本当に、ルフィは狡い。そう思うのに、そんなルフィに私は勝てないのだ。

 そして、私とローちゃんの会話は、聞いていたら問題になりそうな人達は子供達をトロッコに乗せるのに忙しく、何も聞いてはいなかった。その事実がこの先どう影響するのか、それは誰にも分からない。

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