※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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転生者

 もはや強制される事の無い雨は、留まる事無く、王国に降り注ぐ。人々はその雨に歓喜して、けれども癒える事のない傷を抱えて、幸福な日常を噛み締める。

 麦藁の1味はルフィ以外がほぼ同時に目を覚まして、けれども私が目覚めるのと同時に飛び付いて来たビビにより再び眠りに落とされそうになった私を支えたのは、ビビを少し大きくしたような人物だった。ビビよりも少し角張ってるような気はするけど、本当によく似た姉妹……ってまさか!

 

 「王子様ですか?」

 「はい、はじめまして。麦藁の1味の皆様。この度は妹が大変お世話になりました。本来であるならば、船長殿が目覚められてからのご挨拶と思っておりましたが……」

 「ね!美人でしょ!?」

 

 興奮するビビに、私はとりあえず1つお願いしてみる。本当に切なる願いを……。

 

 「ごめん、ビビ、そこ傷の上だから退いて……お願い……」

 「え?……いやー!ナミさんごめんなさい!いや、死なないでー!」

 

 いや……死なないであげたいから、本当に退いて。意識飛びそう。

 ビビが退いたのか、ビビを誰かが退かしてくれたのかは、覚えがない。記憶してない。

 でも、負荷が消えれば色々と楽にもなろうというもので、私は呼吸を調えてマジマジとビビとそっくりな美しい兄を見る。申し訳無さそうにしている兄は、ビビの暴走にも慣れたものなのかもしれない。

 

 「……妹が、本当にすみません」

 「……それにしても、本当にそっくりだな。姉じゃなくて、兄なのか?」

 「はい、兄です。証拠に胸の膨らみがないでしょう?」

 

 サンジ君の言葉に楽しそうに笑う王子は、その様子を見るに何も含みは無さそうでその上好意的な雰囲気だ。ビビから話を聞いたのだろうか。

 

 「それよりも〝宝玉〟さんに、お話があります」

 「それは〝あの世界〟に関する事かしら?」

 「……やはり、そうでしたか。お時間、頂けますか?」

 

 王子は私の問い掛けに納得したように頷いてから問い掛けてくれるから、私はそれに頷く事で応える。そんなやり取りを見ていたチョッパーが歩けないんじゃないかと私を心配するけど、大丈夫よ。

 覇気で足をコーティングして歩こうとしたら、王子が〝車椅子〟を持ってきた。それを見てやはり同じ世界の人だと痛感する。

 車椅子を見てなんだそれ!?と、興奮するチョッパーの気持ちは分からなくもない。なので王子に視線を向ければ、チョッパーに説明する事が可能な人物を呼んでくれて興奮するチョッパーの、話し相手が提供される事となった。

 色々な意味での感謝を込めて頭を下げると、王子は穏やかに微笑んだ。人形のようだと少し思わされるその穏やかな風貌は、明るいビビを見慣れてるが故の違和感なのかな?

 

 「ありがとうございます」

 「いいえ、どうかお気になさらずに。それでは行きましょうか」

 

 王子に車椅子を押されながらバルコニーに用意されたガーデンセットの元へ行くと、果物と裁縫箱、それと紙とペンとインクが運ばれて来た。……色々な意味で同種だわ。

 

 「飲み物は、希望とかありますか?」

 「フレーバーティーが良いわね」

 「では、ここに林檎がありますからアップルティにしますか。ジャムと果汁と生のどれがお好きですか?」

 「……詳しいわね。そうね、選べるなら果汁かしら」

 

 私の言葉に頷いて、王子はそれを用意させる。人を使い慣れたその様子に、王子として長く生きてきたのだと言う事がわかる。

 それから人がいなくなると同時に王子はマジマジと人を見て、嬉しそうに笑った。それ迄の作り物のような笑顔ではない、自然な笑みを。

 

 「成り代わりですか。髪長いですもんね。いやァ、それにしても可愛い!」

 「それはどうも。貴方もビビとよく似てて美しいわよ」

 「……話と言うのは、貴方はどの辺まで知識があるのかです。俺は……アラバスタ編の途中で脱落した組なんですよ」

 「へ?」

 

 話を聞いてみれば〝あの髪の長い子出てから異様に話長くて進まないよな〟って言って離れた人達のグループだったらしい。なので、情報が足りなさ過ぎて自分の立ち位置が存在していた人物の成り代わりなのか、それとも居ない筈の人物なのかさえ分からなかったのだと言う。

 その他に、民謡や童謡は出さないのかとか、小説として昔読んでたような物をそのまま書いたらどうかと言われる。でも、時代小説の池波作品とか、司馬作品とか、吉川作品とか書いても話が通じないと思うのよ。

 だからと言って、ファンタジー系を書くのはリスキー過ぎる。この世界にはたまに、その架空の生物が存在しているから。

 そんな話をしていたら、それでも書いてみたら良いと言われる。盗作だとしてもこの世界には存在しない人達の物だし、一言一句違わずに書く事は不可能なのだから良いだろうと。

 言われてみれば完全に覚えてるのなんて、平家物語の1巻とか、竹取物語位なものだと分かるから確かにと頷いてしまう。あれよ、祇園精舎の鐘の声ってやつと、今は昔竹取りの翁といふ者ありけりってやつ!

 それにより宝玉として出せそうな作品の種類が増えて、助かるわと笑う私に、やはりアーロンの事は回避出来なかったのかと心配そうに問い掛けてくれる。それに頷けば悲痛な顔で頷いてから、本音を零された。

 

 「良かった、メインどころの誰かに成り代わら無くて。頑張っても未来変わらねェとか、俺なら死ぬ。無理、絶対」

 「ビビと同じ顔でそういう言葉で喋らないで」

 「元々単なるサラリーマンだったんだよ!叱られないけど褒められない営業成績で、日々胃痛抱えてたんだよ!苦しいんだぞ、お上品な口調しか使えねェって!」

 「いつもそうやって演じてるとその内それがホンモノになるのが普通なんだけど、アンタ……可哀想ね」

 「止めて、お願いします。その姿で同情しないで……俺の憧れの人だったんだぞ……」

 

 そう言って落ち込んで見せた王子は、それから真剣な顔になると問い掛けてきた。死ぬ前の……あちらでの最期の記憶はどの位あるのかと。

 だから鮮明じゃないのだと話して、多分何かの爆発に巻き込まれて死んだのだと思うと言えば、王子に喘ぐように同じだと言われる。ならばもしかしたら……その爆発で巻き込まれて死んだ人が他にも転生してる可能性は、十分に有り得るのかと互いに顔を見合わせる。だとしたら、年齢も恐らく同じ。

 何か分かったら連絡を取り合いたいと言う王子に、私からしか送れないのよねとクーちゃんを思い出して言うと、ファンレターとして送ろうと言い出した。成程と思って、互いに文通する事で話を終えた時、王子が妙に楽しそうに私を見て来た。

 その顔は本当に悪戯っ子のようで、首を傾げると揶揄うように言葉を放つ。それを受けて私の顔は、自然と赤くなってしまう。

 

 「俺はサンナミ派だったんだけど……実際今どうなの?ナミさん?」

 「っ……ルフィと、付き合ってるわ」

 「チッ……王道か」

 「だから、その見た目で止めてよ……」

 

 それから部屋に戻ると何の話しだったのかと問われて、私のファンだったらしいと話して終わらせる。それは城の人達にとって周知の事だったようで、お話出来て良かったですね王子なんて言われて涙ぐまれている。

 それからは王子らしく穏やかに会話をして、実は忙しいらしい王子は愛しいビビとの別れを盛大に惜しみつつ姿を消した。成程、ナミちゃんを好きだったならば確かに、ビビも可愛くて仕方ないだろうと思う。

 何処と無く似てるものね。そんな事を考えながらルフィの麦藁帽子にエースのビブルカードを縫い付けて行く。

 あの日の別れ際に渡されたそれは、私がずっと預かっていた。縫い付ける暇が無かったから、遅くなっちゃったけど、ルフィにとっては大切なお兄ちゃんだし、私にとっては可愛い弟だもの。

 私にもと言ってくれたけど、私はそれを断った。それを見たら、何かあった時確実に私は身動きが取れなくなると言う自信があったし、ルフィの決定には逆らえないだろうと思ったから。

 そんな私の様子にエースは少し寂しそうに笑って、また会おうなと言ってくれた。白髭の元に帰ったのだから、もう運命は私の知る通りには進まないだろうと思えばホッとするのも当然。

 

 「皆が無事で、本当に良かった……」

 

 思わず呟いた私の言葉に、ウソップとチョッパーがそうだなと言って笑ってくれて、サンジ君はナミさんらしいですねと言ってくれる。その中でゾロだけが少し不満そうに私を見て、ルフィが目覚めるまではゆっくりしたら良いんじゃねェかなんて言ってくれる。

 つい先日ゾロに甘やかされたばかりの私としては、それが何だか妙に居心地が悪くて、ルフィの寝顔を見ながら早く起きてと思いつつ麦藁帽子を顔の横に置いておいた。寝顔も起きてる時もあまり変わらなくて、ルフィはいつも素で生きてるんだなと再認識させられる。

 

 「ルフィ……早く起きてね。なんか、寂しいから」

 

 想いが言葉になっているとは気付かずに、ルフィの頭を撫でて用意されたベッドに戻った私は、皆の視線や態度から口にしていたと気付いて声にならない悲鳴を上げて布団の中に逃げ込んだ。それを微笑ましそうに見ているお城の人達が居るなんて事にも、気付けてはいなかった。

 雨は降り続ける。誰にも平等に。

 止む事のなかった砂嵐により遮られていた雨は、それを人工的に起こされなくなった事で帰ってくる事が出来たのだろうと思う。でもきっと今大切なのはそんな科学的な事じゃなくて、空から〝雨が降ってきている〟と言う誰もが望み続けた現実だけなのだろう。

 王子と私の考えが正しかったとして、だから他にも転生とかの人がいたとして、その人と知り合ってどうなるのかと言われたら答えは分からない。その人があの世界を好きだったのか、嫌いだったのか、それさえも分からないし、懐かしいと思っているのかも分からない。

 確かにナミちゃんの立ち位置で生きてきたのだから、私だって楽しいだけの人生では決してなかった。けれども、私は愛されて来た。

 それは王子として生きてきた彼も同じだろう。ではもし、他の同じような立場の人がいたとして、その人が必ずしも愛されて育ったという保証はあるのか。答えは否。

 だから、絶対見つけようと言うのではないけど、そういった人達の記憶や言葉、知識が集まれば〝何故私達が転生者となったのか〟と言う大きな疑問の答えに辿り着けるのでは無いかと、そんな淡い期待をしている。

 私は人の命を、人生を奪った形となった。そうまでしてこの世界に産まれた理由ってのが何かあるのならば、それを知りたい。

 重要過ぎる位置にモブとして産まれた彼もまた、彼なりにこの世界に生まれた理由を追い求めている。その答えが、私や彼にとって望まないものである可能性だって、双方理解してる。

 どちらも大人としてあちらでは生きていたようだから。でももし、あちらで子供で、こちらでやり直して、幼い内だけ天才と持て囃されてその後は打ち捨てられたりしてる人が居たら、そんな余計な事を考えて私は落ち込んでいる。すべて可能性の話で、今後どうなるのかなんてのは何も分かっていない。

 王子と私の年齢が同じだったからと言って、実際この先出逢う可能性のある転生した人達も同じ年齢とは限らない。幼い子供や老人であった場合その人達が、果たして他に転生した人達がいると知って喜んでくれるのか……。

 ……雨だからよね、きっと。だから、こんなにもマイナスな事ばかりを考えてしまうんだわ。

 長く続いている恵みの雨に責任転嫁しながら、自らの愛する太陽の笑顔が早く見たいと心の中で甘えてみる。あの世界の事を思い出して、ホームシックに近い状態になってるなんて、それもこんなにも長い期間をあけてなんて、そんな事は受け入れられそうもないわと、自分に起きてる症状を否定しながら眠りに落ちる。

 しっかりと治療されたからか、翌朝目覚めると足の調子は随分良くなっていたし、雨は相変わらず続いているけど昨夜のような気持ちにはならない。イガラムさんと話をして、私達に対する報酬はどうするのよなんて問い詰めてみたりしながら、ルフィの目覚めを待つ。

 分からないと事に思考を支配されてても仕方ない。気持ちを切り替えて、私はゆっくりと息を吐き出す。

 折角時間が出来たのだから、少しでも何か思いついた物や思い出した物を形にして行こうと、ペンを手にする。国中から雨音にも負けないような国民の笑い声が聞こえてくるような、そんな気がした。

 同時にこの雨は、誰かの悔し涙なのではないか。そう思えて仕方無いのは、やはり何処か雨の為に感傷的になっているのかも知れない。

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