何が起きてるのかと覗き込めば、海軍がタンカーは譲るからそれを境にして海賊達に陸地への出入りを禁止するなんて言いつつ線を引いててるのが分かった。それには、流石のケムリンも呆れ顔だ。
タンカーが私達に譲られる理由は、子供達を乗せる為。サイズの大きな子供達の事を思えば、あのタンカーは必要不可欠だものね。
でも、今その話は海軍に移行された。真実を今知ると大騒ぎになりそうだから、後で説明して貰うようにしよう。
その騒動の中、ルフィはどうしてるかなと思って見れば茶髭っちと親しげに話をしていて、海軍の描いたそれを完全に無視している。ルフィらしいそれに笑った時、今度はタンカーからチョッパーの叫び声が聞こえて来た。
今は子供達がタンカーにいる筈で、ローちゃんが治療してる筈。ならばどうして、チョッパーは泣いてるのだろう?
「人殺し~ィ!!」
叫びながら泣くチョッパーを見ていれば、間も無くローちゃんが子供達を切り刻んだと言う主旨の話が聞こえてくる。そうなってしまえば、ローちゃんは他人に勘違いさせる天才ねと思う。
良い事をしてるのに、本当は優しい子なのに、いつも勘違いされてしまう。……成程、ローちゃんは勘違い系キャラなのね!!
……あれ、そうなると、バギーと同種?でもあの赤鼻は、ローちゃんとは逆にいい方向に勘違いされる系だったから同種でも無いのかな?
そんな事を考えてる間に今度は、いつの間にか傍を離れていたブルックの悲鳴が聞こえて来た。今度は何事なのよ!?と、私も思ったけど、それはルフィ達も同じだったようでそちらに意識が向けられる。
そちらではなんと、錦えもんが割れていた。それにより錦えもんが死んだとの騒ぎになるけど、その様子を見て気が付く。
中身が生きてるのを確認するよりも早く、生きてると確信できたのは中身が割れてたらある筈の出血が見られないから。つまり、青雉の能力のように砕けたら終わりではなく、寧ろ繭だけ割れば助かるのだろう。
「シノクニからの助け方が、分かった……!!」
「えっ!?ナミ、お前……!?」
「身体を割らない程度の力で、あの毒の繭を割って、それから解毒したら良いんだわ!!ウソップ……「もう、動き出してるよ」」
最後まで言わなくても、私の声が届いていたらしい海軍がシーザーを殴ったりして情報を吐き出させる所だった。それを見てホッとしたのは、これで、この島での被害者が格段に減るからだと思う。
恐らくこの島で共に逃げ回ったりした人達は、モルモットとしていた元海賊達も、海軍のG-5に所属する人達も、夜に言うモブだろう。そんな事はわかってるけど、寧ろ子供達の方が重要人物なのも理解してるけど、それでも思うの。
「出逢って、関わったからには、不幸な姿は見たくないわ」
「……聖女様か!!」
ウソップの突っ込みに、声に出してたと気付いて少し赤くなる。だけど、本当にそう思うんだもん。
仲間達に被害は無かった。敵は二人がその生命を終えたのだから、この先誰がいつ死んでもおかしくない所に来てるのも分かってる。
この先はどうしたって、
不必要に苦しんだり傷付いたりしないで欲しい。……生きてさえいれば、やり直せない事なんてそんなに多くは無いのだから。
「世界征服する為に世界を見て回ってるわけじゃないんだから、良いじゃない。別に、思うくらい」
「〝世界征服〟を目論んでなくても〝世界平和〟の為に動いてる訳でもねェよ!!俺達海賊だからな!?寧ろ、うちの1味の中ではブルックに次いでナミが海賊歴長いんだって自覚しとけよ!?」
確かにブルックには敵わない。何せブルックは、私が産まれる前から海賊やってるんだものね。
そういう意味では、ジンベエが加入した時も海賊歴で適わなくなるわね。そう判断して笑うと、ウソップがそんなんだから放置できないんだと呟いた。
そんな会話がなされてる間に、下ではモモの助と錦えもんの感動の再会と、空腹によるモモの助意識喪失事件が起きていた。それが見えたので、私はつい叫ぶようにサンジ君へと声をかける。
「サンジ君!宴のメニューに、スープ加えて!!」
「おっ任せください!ナミすァん!!」
即座に作られたのは
この世界ではイルカの存在がない訳では無いけど、この世界特有の凶暴で巨大なイルカとは別に、素直にウミブタと呼ぶ生物が居る。今回使われてる海豚は、フランキーが移動する間に漁を行い、獲ていてくれていたのだ。
「
完成した料理の匂いで意識を取り戻したモモの助に、サンジ君は優しくスープから食えと言う。何日も食べてなかったんだろうと。
本来ならば、普通の人間であれば、数日ぶりの食事なら肉が入ってたらスープだって宜しくはない。けど……この世界でも有名な強さの権化〝侍〟の少年だから、きっと問題無いわよね。
人の姿になっているモモの助が、父親の錦えもんの言葉に従い泣きながら食事を開始したのを見て、私は部屋にハープを取りに行く。そっとハープを手に取り、音の確認をしてから表へと向かう。
空島で別れたきりの友人、コニスから貰ったハープは私のお気に入り。ただ演奏するだけなら笛でいいけど、宴ならば歌う事になるだろうからと調律を進めれば、案の定宴が始まる気配がしている。
海軍も子供達も揃って器を持っていて、ルフィも即座に食べようとしてる。ゾロが海軍に酒をと言って、子供達がそれに便乗するようにジュースをねだるのが聞こえた。
「おい、麦藁屋。ここは急いで離れるんだ。ゆっくり飯なんか食ってたら、追手が来る!!仲間達にそう伝えろ」
そんな中で往生際悪くローちゃんはそんな事を言う。子供達の治療も終わったから、さっさと出発したいらしい。
そんなローちゃんにルフィは驚いた顔をして、頷いた。わかったと言って。
「宴だァーっ!!」
その言葉で開始された宴を眺めて、私はウソップからクリマタクトを回収した。そして、近海の雲を集めて雨雲に作り変えると、風でそれを炎の側に送り込む。
これで炎の勢いも収まるし、吹雪になるのも暫くは防げる。ドフィが来ようにも雲が無ければ難しいと言うのもあり、自然と笑みが浮かぶ。
「ローちゃん、これで暫くは
そう言って笑いかければ、ローちゃんは驚愕の表情から少し困ったような笑顔に変わり、諦めたように肩を竦めるとスープを手に宴の全貌が見えそうな所へと移動して行った。私はその姿を見送ってから、子供達が楽しめそうな歌をと思ってハープを構える。
その様子を見たルフィが嬉しそうに笑う。それにより私もつられて笑顔になれば、ブルックがお供しますとギターを構えてくれた。
「〝パプリカ〟」
私の言葉に合わせて、ブルックが頷き楽器をギターからドラムに切り替える。私もハープの準備を整えて、互いに頷き合う。
これはこの曲の作者が、自分が歌う為だけでなく人に曲を作る事も出来るのだと証明した曲であり、それ迄若者中心にあった人気を幼い子供とその母親に広げた切っ掛けとも言える曲。今回この曲を選んだのは、子供達がこの歌のように駆け回ってくれる未来を信じたいから。
「ーーー」
元々はしゃいでいただろう故郷を、両親のいる島を思い出せたら嬉しい。そして、その状態に1刻も早く戻って欲しいと願ってるわ。
「ーーー」
日差しの中で遊び回って、貴方達を愛する人の呼び掛けに答えて貰えたら嬉しい。だってね、今も家族は貴方達を呼んでる筈だから。
「ーーー」
季節は巡り、家族の待つ季節が待ってるわ。貴方に会いたいと願う家族が、この極寒の地から帰る日を夢見てる。
「ーーー」
空を見上げる事も出来ずにいた筈の子供達も、今夜からは星を見付けられる。この子達の明日が、今日より良い日になるといい。
「ーーー」
花が咲く、希望と言う名の花が。だから、晴れてる空を見て、幸福の種を蒔きましょう。
「ーーー」
大人になる事が許されなくなりそうだった子供達に、未来と言う夢を描いて欲しい。心で描いたそれは、きっと叶うから。
「ーーー」
暗闇の中、悲しみの雨や雪に閉ざされて、ずっと泣いていたよね。助けに来るのが遅くなって、ごめんね。
「ーーー」
子供達を慰めるように寄り添う皆が、その優しさが嬉しい。子供達に対して罪も無いのに、支える事を約束した人達が子供達の名を呼ぶ。
「ーーー」
子供達がこれからは、喜びを数えられるようになったらいい。大切な人の笑顔で、心が満たされてくれたら私も嬉しいわ。
「ーーー」
これから始まる帰り道を照らすのが、楽しい友人達との思い出であればいい。悲しみと苦しみ以外の物が、子供達を満たしてくれたら……そう願ってやまないの。
「ーーー」
笑顔の花が咲いたなら、晴れた空が待ってる。だから種を蒔いて、皆の望む未来へ続く種を。
「ーーー」
夢を胸に、心躍らせて、大人になって。きっとベガパンクがそれをサポートしてくれるから。
「ーーー」
いつかまた会いましょう。波間の向こうを目指したその先で、喜びの歌を歌いながら。
「ーーー」
きっとその時には、皆の描いた夢の花が咲き誇ってる。その日を楽しみにしてるわ。
「ーーー」
夢や希望の花が咲いたら、次の種を蒔いてね。夢にも希望にも終わりなんて無いのだから、明日を信じて生きて欲しい。
「ーーー」
夢を描けたなら、明日はきっと輝くわ。心遊ばせて、皆を待つ家族の元へ、皆が届けられる日を信じてる。
「ーーー」
踵を地に張り付かせたまま、膝を抱える日々はもう終わり。さあ、帰りたい子はこの指とまれ。
歌が終わり、演奏の殆どを任せっぱなしに近かったブルックを見る。最後は私も演奏するけど、殆どドラムだけに近いのよね、この曲のラストって思う。
そうして曲自体が終われば、楽しそうな子供達の笑顔が満ちる。それを受けて私も笑えば、ルフィが首を傾げた。
「ナミ、お前……宴で悲しくない歌、歌えたのか」
「今迄はルフィがそれでいいって言うから、その時の気分で選んでただけだもの。今は子供達に向けて歌ったのよ」
「俺には?」
「へ?」
ルフィの問い掛けに対して、本気で意味が分からない。何が言いたいの。
そう思って見つめたら、ルフィが頭を撫でて来た。それが気持ち良くて眼を伏せれば、ルフィが言う。
「俺を想って歌ってはくれないのか?」
「……お望みとあらば」
ルフィを想って歌う為の物なら限りなく有る。愛を歌う物に困る事は無いから。
そう思って笑いかければ、ルフィが少し頬を染めた。それを見ただけで、私も幸せな気持ちになる。
「お望みなら、歌うけど?」
「なら、歌って貰おうかな。どんな歌か、楽しみだ」
にししっと笑うルフィに、さて何にしようかと考える。ただ愛を歌うには恥ずかしいし、でも、今宴っぽくないのが私の歌だと思ってる様子だったから……それも考慮したい。
脳内で譜面を捲り、考える。そして、こことは違う世界でのトップアーティストが歌っていた曲を思い出す。
それは、この世界で生きる私から見ると既に、別次元の世界。前世ですら無い世界の歌だけど……きっと、ルフィや仲間達を想って歌うにはこれがいい。
「ロビン!私の机の前にある棚の上から二段目にある譜面、ブルックに渡してくれる?」
「任せて」
「ブルック、演奏可能になったら教えて。初見で演奏は難しいと思うから」
「それでしたら、楽器を変えさせて頂けるなら問題ないかと思いますよ」
その言葉で私は理解する。ブルックが主旋律を担当するなら、私はハープでは無くドラムを担当すればいいと言う事だから。
この歌の場合ドラムとセットだとキツイけど……まぁ仕方ないか。そう思ってブルックの所へ向かえば、ブルックはロビンから渡された譜面を見てギターを手にする。
そして、頷いた。……これだから天才は……。
「軽く合わせる?」
「いえ、不要です。はじめますか?」
その言葉に苦笑しつつ頷けば、魚人島では出来なかったブルックとのライブができそうだと気付く。予定では、私は演奏にのみ集中する筈だったのに……。
でも、この歌は私が歌いたい。心を込めて、皆へと。
「〝Rea(s)on〟」
題名を言うと、ブルックが私を見て頷く。数音だけで歌が始まってしまうので、まずは歌い出さなければ。
「ーーー」
儚くとも構わない。消え行く花火のように、1瞬でも美しく輝けたらそれだけで本望。
「ーーー」
そう願うように思いながら生きて来た私は、実が青いままに散る事が運命だと思ってたの。道端の花のように、見向きもされないままに踏み潰される人生しか、私は知らなかったわ。
「ーーー」
何も変えられないと、失うしか無いのだと思い知らされて、呼吸さえ出来なくなった。無力な己に絶望して……なのに、心臓は動いていたの。
「ーーー」
悲しみと嘆きの海に沈んだ私を掬いあげてくれた腕が、今傍に居る。
「ーーー」
私が今
「ーーー」
何度も揺れて、何度も縋って、情けなくも震える私。そんな私を出会った時から変わらずに慕ってくれる、可愛くて頼れる、愛しい人。
「ーーー」
私が信じているのは、ルフィだけです。この歌詞だけ英語だけど、きっとこの世界の人には簡単に通じちゃうわよね。
「ーーー」
ルフィがいる。ただそれだけで、私の生命は輝くの。
「ーーー」
何かが起きる度に、先の展開を予想して諦めてしまう。ラストシーンなんてたかが知れてると、私だけに被害が来るならばそれは構わないと思ってしまうから。
「ーーー」
なのに、飾らない言葉と行動で私の考えを打ち砕いてしまう皆が、器用とは言えないその手でシナリオを書き足してくれる。皆で笑って生きる未来を示してくれるから、だから私は……。
「ーーー」
いつしか願ってしまった。この幸福を終わらせたくない……ずっと皆と共に居たい……と。
「ーーー」
きっと、皆と出逢えたこの奇跡は誰かの魔法なんだと思う。もしくは地上に降りたオーロラか、ううん、砂漠で咲き誇る花かもしれない。
「ーーー」
駄目ね、どんな言葉でも足りないくらいだわ。大切な仲間達を表現するには、何かが足りない。
「ーーー」
それでもね、私の想いが届くまで何度でも伝えたいの。私の存在意義は皆と共にある事なんだって。
ここで少しの間奏。その間も私はドラムを叩き続ける。
そして、次に歌い出す時から少しだけドラムを叩かなくなる。ただ、想いを歌うだけになるわね。
「ーーー」
傷だらけになって、現実から目を逸らして、それでもいつかは……と、浅はかな私は信じていたの。支配から自力では逃れられなくて、助けようとしてくれた皆の手を振り払った日を、私はきっと忘れない。
「ーーー」
シャワーに紛れて流した涙を隠す事も出来なくて、どうしたって喪ったものは還らないと認めたく無かった。アーロンの支配の中で何度も消えてしまいたいと思ったけど、それでも醜く足掻いてたわ。
「ーーー」
愚かにもお金で解決させようとして、それが叶わないと知って絶望して、でも……そんな私の全てに、ルフィが意味をくれた。私なんかを必要だと、仲間だと、愛してると……言ってくれたから……!!
「ーーー」
ここに生きる理由、それは
「ーーー」
何度も迷って、間違えて、苦しみながら生きて、漸く私達は出逢えた。私が信じているのは、仲間を含む家族だけです。
「ーーー」
いつでも私の傍には皆がいる。触れられる距離には居なくても、心は繋がっていると分かるの。
「ーーー」
だからそれだけで、私の生命は輝くわ。皆が、輝かせてくれる。
「ーーー」
私は存在意義と己の利用価値を探って、存在する事を許して欲しいと思って探していました。愚かにも、醜くも浅ましく、愛を求めて居ました。
「ーーー」
そして私は、その全てを見付けて、ここに居ます。皆の笑顔に支えられて、自分が存在する事を許せるようになりました。
そうして、私は二曲目の演奏も無事に終えた。皆の視線が突き刺さってるのを感じながら、にっこり笑ってお辞儀をして見せられたのは場馴れしてるのが理由だと思う。