光源体
この
常識では考えられない事象が起き続け、けれども私はその為に二年学んだのだ。経験するのは初めてでも、知識はあるのだから乗り切れない筈も無い。
持ち合わせた才能を遺憾なく発揮して、心血注いで学んだ二年。どんな海でも超えて見せるし、何処へだって連れて行って見せると心中で決意を新たにする。
その時、突然かけられた声。それに振り向けば、ローちゃんが真剣な顔で近付いてくる所だった。
「おいナミ!」
「なぁに?」
「真ん中の指針があるだろ。それがドレスローザだ」
思わず
「……パンクハザードと、ドレスローザって、
「あァ……。……真っ直ぐ向かわずに、迂回して進め。本当なら、ナミだけはこの件に関わって欲しくなかったんだが」
苦しそうに言うローちゃんに、呆れてしまう。同盟組んでてまだそんな事言うなんて。
それにその言葉をローちゃんが言う権利はない筈よ。色々考えたけど、ローちゃんの過去に関わる前の私に対する言動を元に推察すれば、ローちゃんは私が〝若い頃のドフィ〟に捕らえられたあの後……死んでしまったと思ってた筈だと分かるもの。
「ローちゃんの中で〝今の私〟は、本来なら死んでたんでしょ?なら、今生きてる私に対して〝関わって欲しくなかった〟……なんて、可笑しいわ」
「ナミ……」
「今の私は、今この時代で生きてるのよ。それに、ドフィが悪い子なのもちゃんとわかってるわ」
「……いや、その言い方が何もわかってないって……クソッ!!」
言葉を途中で止めて、ローちゃんは舌打ちなんて可愛いものを超えたそれを残して立ち去る。ローちゃんが情緒不安定になってるように思えて仕方ないので、そろそろ
そんな時にルフィの歓声が聞こえて来た。それによりまた何か起きたのねと視線を向けて……叫ぶように声を出す事になる。
「岩礁をよく見張って!!」
「なんか坂道になってねェか!?この海~!!」
ルフィは大はしゃぎだけど、1歩間違えば転覆である。この船には操舵手が存在しないので、船大工を筆頭にして、航海士の指示の元初心者達が操縦してるのだ。
……そう考えたら、本当によくここまで無事に来られたわよね。心底にサニーには感謝だわ。
クーラーと洗濯機のついてるこの船は、明らかにオーパーツだろう。けど、そんなのはどうでもいい。
皆が安全に、可能ならば快適に、皆の夢を叶えられるかどうかが私にとって唯一の懸念事項なのだから。さて……と。
「帆を張って!重心が傾いてる、ちゃんと中心で保って!!」
「「はいっ!!」」
サンジ君とウソップが、いい返事をしてくれる。無言のままゾロも働いてくれてるし、ブルックも骨身を削ってくれてるわ。
そんなこんなで私達は時にそうして騒ぎながらも、それぞれが時間を見付けては情報を共有しようとしていた。その中にはミニメリーはどうしたのかをフランキーに問い合わせるような、そんな会話も入ってる。
私もそれは気になったので、ちゃんと確認済みである。図書室には模型のメリーもいるけど、ミニメリーは乗れるからやっぱり特別なのだ。
「速ェ~……船が速ェ~!!」
「〝
「ねェよ!!」
「あら、あるわよ。進行方向と正反対で発生されなきゃ速度も上がるし、結構便利よ?」
大はしゃぎのルフィを宥めるように、ローちゃんが言った言葉にウソップが怒る。でも海坂は、
その時、色んな意味で何度も聞いた会話が耳朶を掠める。ブルックは何度教えられてもミニメリー二号を子羊ちゃんと呼ぶので、その度に律儀にフランキーは突っ込んでいた。
フランキーはブルックを認知症とでも思ってるのかと言いたくなる程、怒る事も無く同じ会話を繰り返すフランキーに少し尊敬する。私なんて、何度言わせんのよっていつも怒ってるから……余計に。
……もっと寛大に、心優しい人になりたいわ。どうしたら広い心って手に入るのかしら?
そんな事を本気で考えてる間に、他の全員が聞いたミニメリー回収についての話をフランキーはブルックにしていた。その話を適当に聞き流しながら思う。
急いじゃ居ないけど……ゆっくりしてる訳でも無い船旅は、知識とは違う発見もありどうしても楽しい。次は何処へ行くんだろう。
何が起きるんだろうと、未知の世界に心が踊る。その時ルフィの私を呼ぶ声が聞こえて、私はそれに反応して視線を向けた。
「ナミー!!どこだっけ、今から行く場所」
「〝ドレスローザ〟っていう場所よ。この真ん中の指針なんだけど……真っ直ぐ進まずに遠回りに辿れって、ローちゃんに言われてるわ」
ルフィが問い掛けてきたから、できるだけルフィに伝わるように言葉を紡ぐ。難しい事を言うとルフィが頭抱えちゃうけど、船長であるルフィにはやはり把握しておいて欲しいのである。
ルフィって、決して馬鹿じゃないから、説明すればわかってくれるのよね。……普段、馬鹿な事ばっかりしてるから、馬鹿にしか思えないけど。
「ド……ドレスローザ!?」
「知ってんのか?」
突然大声を出した錦えもんに、ルフィが首を傾げる。その会話はそれなりの広さがあるのにしっかり聞こえてくるのだから、その2人の近くにいるモモの助君は耳痛くないかなと、そればかりが心配。
まぁ、海の上で生活してると自然と声は大きくなるし、筋力があれば大きな声も出やすくなるから仕方ないんだけどね。でも、鼓膜とか聴覚って鍛えるの難しいから、モモの助君がつらくなければいいけど……。
「せ……拙者達……いや、拙者が行きたい島というのは、まさにそこでござる!!お主等もそこに用が!?」
「うん、たぶんな!」
まだ全貌を把握してないルフィは、他人事のようにそういう。それを受けて、私が笑った時妙な会話が聞こえて来た。
その声には、聞き覚えがありすぎる。思わず足を向ければ、ローちゃんに腕を掴まれて少し皆から離されてしまったのは、会話を邪魔されない為だろうとは思う。
『お前らは……俺に、従っただけだ』
「こりゃ驚いた……。ボスが直々にお出ましとは……」
『ローか……。久しぶりだってのに……中々会えねェもんだな……』
「お探しのシーザーなら……俺と1緒にいる」
ローちゃんの言葉を受けて、シーザーが騒ぐ。それを聞いたドフィは、それ以上シーザーに関しては何も言わなかった。
それは人質を抱える者としては、正しい選択だったと思う。人質を取られている以上は、どんな反応も不利にしかならないのだから。
『ベビー5とバッファローの身体は、何処にある?』
「さァな……。余計な質問はするな」
『余計?……ナミを傍に抱えてるからと、随分強気だな』
「黙れ……!」
『ナミの身体は、悦かっただろ。お前は俺と……良く似ているからな。女の趣味も近くなるのは当然の事だ』
いつの間にか、会話はドフィのペースになっている。まだローちゃんの交渉スキルは、それ程高くないのだとこうして知る事となった。
でもここで、私が口を出すのもどうなんだろうと思えば、下手に助け舟は出せないかなと悩んでしまう。そもそもこの2人の中で、私の価値がどのくらいなのかもよく分からないし。
「俺は、昔からナミだけを……!!」
『……それを言うなら、俺の方が昔からだ。お前がこの世に産まれる以前から、俺はナミを求めて来た。1度はナミを生かす為に手放したが、もう手放すつもりはねェ……!!』
その瞬間、ローちゃんが息を飲み顔色を変えた。わかりやすい変化に、私は黙って様子を見ているしか出来ない。
情報が不足しすぎているわ。それに今の会話は、私にとっても恐らく重要な情報の宝庫。
「お前、記憶は無かったんじゃ……?」
『あ?……ロシーから聞いたのか。俺がナミの記憶を失ったのは、過ぎた力を使った代償だ。ナミと再会した直後に記憶は戻ってる』
「待って!!ドフィ……まさか、私をこの時代に帰す時に記憶を……?」
『ナミ……居たのか』
呆然とするドフィの声。でも、それを気にする余裕は無い。
だって、コレで多くの謎が解けたんだもの。だからこそ、黙ってるつもりだったのに声を出してしまった。
私の動きとしては、過去に飛ぶ迄は普通の時間の進み方をしていた。その後ローちゃんと若い頃のドフィとロシーに会って、時を共にした後に、更に過去へと飛んだ。
その結果が、幼い頃のドフィとその家族との生活。その中ではドフィが、こんなにも悪い子に成長する要素は無かった。
でも、あの地獄のような経験をしたドフィから、私の記憶だけが忽然と消えて、喪失感や虚無感だけが残ってしまったなら?
それは、それ迄の生活の中で攻撃して来た多くの人達の敵意や殺意を元に〝悪意〟を育てて〝破壊の申し子〟となる事も不思議では無い。つまり……あの時ドフィが私をここに帰したから……帰してくれたから、この未来が発生してしまったと考えられる。
……でも待って、ドフィはあの頃悪魔の実を食べてなかったわ。食べていても糸で時を戻すなんてできる訳ないのに、どうやって私をこの時代に帰したの?
その時、背筋を冷たい物が走った。考えたくもない真実が見えた気がして、私は取り繕う事も出来なくて震える声で問い掛けてしまう。
「ドフィ……どうやって、私をこの時代に送ったの?今の言い方だと……貴方、記憶を失う事をわかってて、私を帰したんじゃない?」
『本当に、賢い女だ』
それは、肯定。それが意味する所は……と、考えて、見えてくるのはあの眩しい上に人に害しか与えなかった神様と名乗る光源体。
この世界で神を名乗る奴は、全員腐ってるわ。本当に嫌になる。
そうなるとつまり……。あの光源体が諸悪の根源と考えて間違いない。
「光源体に、私を帰す力を与えてやるとか言われて、その代償が私の記憶だったのね」
原作の流れに話を戻す為、ドフィをあの頃の可愛くて少しツンツンしてるだけの賢く優しい少年で居てもらっては困るから。原作のドフラミンゴに戻す為に、そんな事をしたんだわ……!!
許せない!次に会ったら、全力で舞ってやるんだから!!
物理攻撃が効けば、剣舞であれ舞であれ私の持ってるのは武器だからそれも叶うし、効かないとしても人の怒りの舞いは神と呼ばれる存在ならそれなりにダメージとなる筈よ。過去とは言えども、私だって1応は巫女と呼ばれる存在だったのだから!!
「あの光源体……ろくな事しないわね。……いっそ、毎日怒りと憎しみ込めて舞ってやろうかしら。少しは弱るかも知れない。……この際、歌うのでも良いわよね」
どちらも元々、神や仏へと祈りや願いを届ける為のものである。感謝を込めた歌や舞で、それ迄のお礼と今後も宜しくと伝えていた筈なのだから。
ならば、憎しみ等を込めればそれも〝想い〟だから、届く筈だわ……!あの光源体はどうして、いつもいつも何度も性懲りも無く無作為に人を苦しめたりできるのよ!!
「……あんな奴、大っ嫌い!!」
大切な親友達の未来を、幸福を、生命を奪った。過去の私の身近にいた人達の全てを狂わせて、この世界の多くの人達が嘆き悲しみ、苦しむ未来を作り出したのは、あの光源体。
この先何があっても、あの光源体だけは許さない。徒人でしかないこの身で何が出来るという事も無いとわかってるけど……それなら私は、奴が望む事だけはしないわ。
奴が人の命を弄ぶなら、私は可能な限り守ってみせる。私が絶望して自ら生命を断つ事を望んでいたのだから、それだけはしない。
でも、そんな怒りの中で、ふと胸に宿るのは悲しみ。私のせいでまた、私の身近にいた人が人生を狂わされてしまった。
どうして私は、いつも人を巻き込んでしまうのかな。誰にも傷付いたり、苦しんだりして欲しくないのに、迷惑しかかけられない自分が、何よりも嫌い。
「ドフィ……巻き込んで、ごめんね。あんなに優しい子だったのに」
『辞めろ。忘れろ。あの頃の俺は死んだんだ』
「いいえ、ドフィは今も昔も変わらずにいい子よ。あの光源体に人生狂わされてしまっただけなの。……ドフィが私を傷付けたりできないのが何よりの証拠でしょ」
確かにいつも会う度に犯されてきたけど、本当の意味で私を傷付けたり苦しめたりをドフィはしなかった。できない筈も無いのに。
大切に想う相手が自分を知らない。それも自らを犠牲にしてまで想う相手が、自分に冷たくしたら……多少攻撃的になった所で誰が責められるというのか。
そう思って笑ったら、暫しの静寂が起きた。そして、ドフィは言う。
『……ロー、用件はなんだ』
「……今、少し混乱していたが、成程な」
ローちゃんはドフィの質問と同時に私を見てニンマリと笑ったので、どうやら何か新たな作戦を立て直したらしい。私がローちゃんの中で価値を変えた瞬間に立ち会えた奇跡に、喜べる気は全くしない悲しさ。
「取引をしよう……」
ローちゃんの言葉に、独特の笑いでドフィは応える。馬鹿な事をするなと高圧的に言い放つそれは、正しく王者のものだろう。
怒らせるなと、子供が大人の振りをするなと言うドフィに、ローちゃんはカイドウとの取引をネタに脅迫し始めた。それは効果絶大で、ドフィが先程迄の余裕を打ち捨ててローちゃんとの交渉に自ら応じはじめる。
『オイ、冗談が過ぎるぞロー……!!どうすりゃシーザーを返す……!?さっさと条件を言え!!』
「〝王下七武海〟を辞めろ!!」
迷い無く言い切ったローちゃんに、ドフィは声を詰まらせた。寧ろその代わりに騒ぐのは生首二人組。
王下七武海を辞めた時、海軍本部に今度は狙われるだろうと言い放つローちゃんには、優しさの欠片も無い。ここまで追い詰めては、それこそ何をするか分からないと思うのだけど。
「リミットは明日の朝刊……」
『巫山戯ているのか』
「本気だ。本当にナミが欲しいなら、他の奴等と同じ〝ただの海賊〟となり、同じ土俵で戦ってみろよ。お前の〝七武海脱退〟が新聞に報じられていれば……こっちからまた……連絡する。何も無ければ、交渉は……決裂だ!!……じゃあな」
『おい待て、ロー!!ナミもそれに賛成し』
その時、ローちゃんは最後まで聞かずに電話を切ってしまう。この原作との些細な違いが、この先私に降りかかる問題に変わった時どれ程大きな差となるのかを……原作知識の無い私には、気付きようも無かったのである。
慌ててローちゃんに声をかけようとした私よりも先に、ルフィがローちゃんに誰と喋ってたのかを問い掛けた。それにローちゃんは端的に答えるけど、その名前には皆がピリッとした空気を纏って何やら言葉を紡ぎ出す。
「ふふふ……漸く、手を出せそうね。キッチリ……お礼してあげないと」
「〝七武海〟の1番ヤベェ奴だよな!?……ナミ、この先絶対1人で行動すんなよ!!」
ロビンは笑いだして、ウソップは怒り出す。正反対の反応に戸惑っていたら、ゾロとサンジ君は無言で殺気立ち、チョッパーは不愉快そうに腕を組んで座り込んだ。
フランキーとブルックだけは特に反応もなかったけど、ルフィは空を見て静かに眼を伏せた。ルフィがこの時何を考えていたのか、私には分からない。