私達三人が仲良くお茶したりしながら書物をしていた時、ローちゃんが皆に向けて先程よりも丁寧に言葉を紡ぎ出した。それは遊び呆けている皆へ、危機感を抱かせる為だったのだろう。
その結果、ドフィを脅迫した結果、手下等も使って今日中に始末する為に海を探し回ってるだろうと言う事を全員が正しく理解した。それにより阿鼻叫喚の巷と化した甲板は、大変に騒がしい。
「……ドレスローザって、無い物がないって言われるくらいなんでも揃ってるのよ。ロビンは何か欲しい物ある?」
「そうね……花の栄養剤を作りたいから、その作り方が書かれた本が欲しいわ」
「なら、探してみましょう。……あ!その前にクーちゃんに聞いてみるわ。知ってたら持ってきてくれると思うから!」
「あら、嬉しい」
けれども私とロビンはその騒ぎを完全に無視して、そんな会話を楽しみつつ日が沈むまで私達は本を読んだり日誌をつけたりしていた。時々サンジ君に呼ばれて皆で食事をしたりはしたけど、他は基本的に私とロビンの所に運んでくれたので動く必要も無かったのは有り難い。
暗くなった頃に私達は甲板から離れて、片付けを済ませておいた。すると夕食だと呼ばれて、ロビンとモモの助君と共に食事をしに向かう。
今日は念の為にと交代での食事という事で、私とロビン、モモの助君とその親錦えもん、サンジ君とチョッパーで先に食事を済ませてしまった。騒がしい奴等は騒がしい奴らで集めてしまおうと言う事と、モモの助君が知らない男達の中だと落ち着かないかなと言う判断でこのメンツになったのだけどね。
この後侍親子とチョッパーは見張りに戻り、代わりにウソップ、ゾロ、ローちゃん、フランキーが食事をしに来るらしい。その後で残りのメンバー。
「でも、それってルフィ最後だけど……我慢できるの?」
「残ってる分全部食っていいって言ったら、待つと言われたんですよ」
確かに先に食べたら、後の人の分を残しておく必要があるものね。そう思って頷けば、サンジ君が肩を竦めて見せてた。
侍親子は美味しいと喜んで居る他はあまり会話もなく食事を終えたので、私達も食事中はあまり会話をせずに親子の時間を大切にしてあげようと笑い合った。その後ロビンがお風呂に入ると言うので付き合おうとしたら、モモの助君が暫く入ってなかったと言い出したのを受けて動きを止める。
「……ロビン」
「わかってるわ。ナミは後でも良いかしら?」
その言葉に頷けば、ロビンがモモの助君を連れてお風呂へと向かった。流石に女二人に囲まれてのお風呂は、嫌だろうという配慮である。
モモの助君も悪魔の実の能力者だし、能力者のロビンに色々教えて貰ういいチャンスよね。ここ数日の内になったばかりだと言うなら、余計にそう思えた私はとりあえず部屋に向かい、後でお風呂に入れるように準備だけしておく。
そのまま少しだけのつもりで譜面を描き始めたら、気が付いた時には甲板が騒がしくなっていた。何事かと思って表に出てみれば、錦えもんとゾロが遊んでいる。
珍しい事もあるものねと思いながらも、1応様子を見ればゾロが1方的に追い回されているのが分かった。仕方ないので止めに入るけど、止まるかは既に分からない。
だって、錦えもんって男尊女卑の感覚が強い時代の日本人で、しかも侍だもの。女である私の意見に耳を傾けるのかなんて……未知数だわ。
「おのれ、尋常にィ~!!勝負でござる~!!」
「お、侍ゴッコ」
「だから、話せば長くなるんだ!!やめろ!!」
「ちょっと!危ないでしょ!?船の上で!!」
サニーが傷付いたらどうしてくれるのよ。そう思って睨むけど効果は無い。
ルフィは楽しそうに見てるだけで、戦力にはなりそうにないし、ロビンもお風呂ではこの場を収めるのは難しいかも知れないわね。そのままやり取りを聞いていれば、ワノ国の英雄である人物の墓を荒らした犯人としてゾロが疑われてるらしいと分かる。
「まだ騒がしいな……。夜食食うのは何人だ?」
「わァ!夜食何だ!?」
「ピザ」
サンジ君の登場にルフィが喜べば、錦えもんもその刀を収めた。今なら、話も通じるかも知れないわねと思う。
でも、意識が食で奪われる辺りは随分気を抜いてくれてるって事よねと思う。彼等が抱えてるものは、国単位の大きな事だと分かるから、今だけでも心穏やかに過ごしていて欲しい所だわ。
「ピダ!?またあの男、乙なメシを作るのだろう。モモの助はもう寝ておるかな」
「ううん。今、ロビンとお風呂」
「「「はァ!?」」」
大きな声に驚いていたら、そのタイミングでロビンがお風呂から出てきた。安心した様子でロビンに甘えるモモの助君を見てホッとしたのは、ずっと緊張してる様子だったから。
漸く落ち着いたのね。ずっとご飯も食べられなくて、誰も信用出来なかったのならつらかっただろうと分かるから。
「あ!ちょうど良かった。錦えもんさん、この子のお着物「「「何を晒しとんじゃ!このエロガキャ~!!」」」」
空島で作って来た雲で出来てるモコモコスリッパは、私とロビンのお風呂上がりに使うお揃いの品。ロビンもこれは喜んでくれたし、今も使ってるけど……何でかロビンからモモの助君を引き剥がす大人達に溜息ひとつ。
モモの助君は裸足なのに。冷えるし、怪我の危険もあるとどうして分からないのかしら?
「あらナミ。私何か着てくるから、モモの助君をお願いね」
「わかってるわ。バスタオル姿だと風邪引いちゃうから、ロビンも急いでね」
どうしても部屋に戻る時素肌を晒す事になるから、風邪ひかないかと心配になってしまう。……棚でも用意して貰えないか場所も含めて、後でフランキーに相談してみようかしら。
そんな事を考えてる間にモモの助君を囲む三人の圧が酷くなり、モモの助君が泣きそうになってるのに気付いてしまい、私は咄嗟に三人を殴っていた。錦えもんも、もう殴られたからといちいち騒がなくはなったけど、良い大人がやっていい事じゃ無いでしょうに!!
「コラッ!!寄って集って何、子供イジメてんのよ!!」
「ウプ……!!」
「違ウ……!!ナミさん……男ってやづは……」
言い訳する三人を睨んでる間も、私の横ではモモの助君が泣いている。いい大人が何してんだか!!
泣きながら震えるモモの助君をチラリと見て、余計に怒りがわく。その刹那モモの助君が動き出した。
「怖かったでござる。姫君~」
「姫君!?」
その言葉に驚きつつも、飛び付いてくるモモの助君が可愛くてぎゅっと抱き締める。怖かったよね……と思うから余計に。
漸く落ち着いたところなのに、何してんだか。1人は自分の父親であるのも、可哀想に思えてしまうところだわ。
「モモちゃんは、私達の部屋で寝ようね」
「「「何ィー!?〝秘密の花園〟女部屋へ~!?」」」
反省の色のない三人を蔑むように見てから、大丈夫よとモモちゃんを抱きしめて頭を撫でる。ベッドの隙間を無くして、キングベッドにしておかなきゃと思う。
どちらのベッドもセミダブルだから、合わせるとキングベッドになるのだ。寒い時とかは案外そうしてロビンと抱きしめ合うように寝てるから、そうする事に抵抗は無い。
「ナミ、楽しそうね」
「ふふ、モモちゃん今夜から私達の部屋で寝てもらおうと思って」
「……私は良いけど……でも、そうね、男部屋は少し衛生的にも教育上も良くないものね」
「そうなのよ。寝る所があるかも怪しいし」
こうなって来ると、サンジ君が可哀想に思える程である。でもロビンも出て来たしと思って、今度は交代で私がお風呂に向かう番だと立ち上がれば背後からルフィが絡まって来た。
隙間無く文字通りに腕や足を伸ばして絡みつかれてしまえば、身動きなんて取れる筈も無い。何がしたいのかと思うけど、何故か拗ねた様子を感じ取ってしまえば声を出すのも憚られる。
「ナミ……」
「ルフィ?」
「見られながらしたいのか?」
………………。しばしお待ち下さい。
脳が完全に停止して、それから全身が茹だる。つまりルフィは、モモちゃんがいても部屋で抱くというのかな!?
「ルフィの馬鹿っ!!知らない!離して!!」
「何だよ!!俺の意見聞かないで、勝手に決めたナミが悪いんじゃねェか!!」
「ルフィは私を何だと思って……!!ルフィなんか、顔も見たくないっ!!」
「えっ!?」
全力で足掻いて、剃ると月歩を使い逃げ出せばルフィがひとりその場に取り残される。お風呂場に逃げ込んで、やりたい盛りなのは分かるけど酷いと思う……と私はひとりでお風呂場でいじけるのであった。
でも、お風呂にのんびり浸かった後は少し正気に戻ると言うか、落ち着いたというか……。それにより今度は、ルフィに嫌われてないかなと不安になる。
ルフィ……傷付いたよね。船長の意見聞かなかったのは、確かに不味かったかも知れないし……。
私もまさか、ルフィが見張りの時はルフィの所に行くから……なんて、言える筈もない。それってだって、自分から〝ルフィに抱かれに行くよ〟って意味だし……。
見張り室は基本的に梯子で登るから声は筒抜けになるし、窓開けてしまえば全体に声が通りやすいように作られてる。外の音も、中の音も、双方筒抜けなのだ。
だから、そこで抱かれる勇気は無い。と言うか、それは既に勇気ですらないと思うの。
それに、少し前にちょっと体力とか使い過ぎたから、少しそう言うのから離れてゆっくり休みたいのも本音。だってさ、これから戦いが待ってるのに、体力なくなってたら勝てるものも勝てないもの。
どうしたらいいのか分からなくなって、私はバスタオルを巻いて窓に近寄る。慌てて来たから、着替え持ってきてないので、それが困りものでもあるのだ。
「……ナミ」
聞こえて来た声に振り向けば、梯子から顔だけ出して明らかに落ち込んだ様子のルフィがいた。それを見て、小さく笑ってしまったのは許して欲しい。
その様子を見れば、不安なのはどうやらお互い様らしいと理解出来るし、ルフィに嫌われたりしてないらしいとわかったから。だから私はルフィに返事をする。
「さっきは、ごめんね」
「ナミ……俺の顔、見たくないって……」
「……うん、ごめんね。酷い事言ったわ」
そんな訳ないのにね。私のからルフィをとったら何も残らない。
私はルフィの為にこの世界で生きてるんだから。なのに、何を言えばいいのか分からなくなったからって……酷い事言ってしまったわ。
「……ナミ、俺もごめん。ナミが子供好きなのわかってるのに、ちょっと妬いた」
「……ねぇルフィ。ドレスローザについたら、デートしましょ。それまでは、モモちゃんもまだ心が落ち着いてないし、私も、体力に自信が無いから……ね?」
「ん。ナミ、体力無いもんな。それに、皆の前で言ったら恥ずかしがるの当然だよな」
そう言ってルフィは脱衣場にぴょんとその姿を見せて、私の身体を強く抱き締めた。そのまま私の肩に頭を乗せて、小さく囁くような声で呟く。
「ナミが嫌がっても、俺はナミを手放せない」
「手放さないで……。私は、ルフィのものよ」
私からもルフィに腕を回せば、ルフィが頷くそして……私の姿を見て真っ赤になって、瞬間的に隙間無く私を抱き締めてから少し足を浮かせる形で抱き上げるから、驚いてしまう。そのまま窓から飛び出したルフィが、迷わず女部屋に私を押し込んでドアを閉める。
「ルフィ?」
「そんな格好で彷徨くなよっ!!」
「あ、着替え、持って行くの忘れちゃって……」
「着てたのはどうしたんだよ!?」
「脱いですぐに洗濯機に入れたわ」
暫しの沈黙。それから、深い溜息が聞こえて、呆れられたのかなと不安になる。
そんな私の耳に届いたのは、ルフィの泣きそうな声。だけどその言葉は……。
「他の奴に見られたら、どうすんだよっ!……ナミ、無防備すぎるぞ!!」
「…………ごめん、なさい」
だって仲間しか居ないし。そう言いそうになって、頑張って耐えたのは錦えもんとローちゃんの事を思い出したから。
同盟結んでるとか、ローちゃんには関係無い感じだったものね。そう思って、でも次の瞬間に思い出す。
ゾロとサンジ君の言動を。そうなれば危険だったと今更ながら気付いてしまい、身体が震える。
「ルフィ、その位にしてあげて。それに、さっきはルフィがナミを追い込んだからお風呂に逃げられたんだから……ルフィの責任よ。ナミを責めないで」
ビシリと言い切るその声は、ロビンのもの。私にそっと服と下着を手渡してくれながら、ドア越しにルフィにそう言って叱る。
私は声も出せないままに渡された物に着替えて、近いのに遠く感じるドアを見詰める。そんな私にロビンは小さく笑うと、優しく頭を撫でてくれた。
「今夜は、星が綺麗よ。蜜柑の様子でも、見て来たらどうかしら?」
そう言って手渡されたのはコニスから貰ったハープで、私はそれを抱き締めて頷く。それだけでロビンには通じたみたいで、遅くならないようにねと言って送り出してくれた。
ドアを開ければルフィがしょぼくれていて、そんな所が本当に可愛い。どうやらロビンに言われた事で、ルフィなりに反省してるらしいと分かる。
「ルフィ、蜜柑畑でデートしない?」
「する」
「なら、行きましょ」
そっと手を繋いで、近いその距離を並んで歩く。とは言え、中に入るのを面倒だとルフィが言った為に、ルフィに抱えられてヒョイっと移動してしまったので最終的には抱き上げられていたのだけど。