※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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交渉と計画

 朝になれば私は、習慣的な時間にいつものように目覚める。そして、変わらない調子でシャワーを浴びて、蜜柑の世話をしていたら飛んできたクーちゃんに手を伸ばした。

 そっと新聞を受取り、渡す物を渡して、そのついでにロビンの欲しがっていた本を頼む。それに頷いて飛んで行くクーちゃんに気を付けてねと声を掛けて、皆を起こす為にギターを持って飛び出して来たブルックを見付けて、新聞の存在を伝えるようにヒラヒラして見せる。

 

 「ア~サ~でーすヨホホホホ~アーイエ~しーんぶんが~きてますよ~ヘイッカマン」

 

 ブルックにしか歌えないだろう独特の歌で、皆を叩き起すブルックに笑いつつ芝生まで移動する。するとローちゃんも目覚めたのか、ゆっくりとその腰を上げた。

 その様子に、どうやらローちゃんは男部屋を使わない事を選んでいるらしいと知る。……不衛生だものね。

 

 「載ってればよし。載ってなければ……」

 

 そう言ってローちゃんが広げた新聞には、思惑通りの物が掲載されていた。それは流石に全員集まって見ていて、私も髪が邪魔にならないように纏めた状態でそれを確認する。

 

 『ドンキホーテ・ドフラミンゴ〝七武海脱退〟ドレスローザの王位を放棄!?』

 

 ドフィの最後の手配書と共に掲載されたそれを見て、皆が大騒ぎになる。王である事を知らなかったメンバーもいて、成程確かにそれは驚くよねと思う。

 そんな中でルフィが言った。当然のように。

 

 「王様~!?鳥の国か~!?」

 「違うわよ。ドレスローザっていう愛と情熱の国の王様なの。ドフィはあれで案外賢いんだか「で、何で俺達の顔まで載ってんだ!?」」

 

 私の言葉を遮って言われて見たその記事の下には、ルフィとローちゃんの手配書が並べられた形で掲載されている。ローちゃんの悪人面な笑みと、少年らしいルフィの笑顔がいい感じに対比となっているのは、私の欲目だろうか。

 

 『〝七武海〟トラファルガー・ロー〝麦藁の1味〟と異例の同盟

 ローに対する政府の審判は不明』

 

 その新聞には更に次のページに続いている物があった。それは〝キッド海賊団〟〝オンエア海賊団〟〝ホーキンス海賊団〟の海賊団が同盟を結成したと言うもの。

 この二年の間、台風の目と呼ばれて来た問題児達が1斉に手を組み始めた事実。新世界で何が起きようとしているのか、世界はその恐怖にうち震える。

 

 「コイツらもか~!!同じ事考えてるのかな」

 「他所は他所だ……。作戦を進める。ドフラミンゴに集中しろ」

 

 ルフィの言葉にローちゃんはそう言ったけど、私の脳内には彼等の動向がどうにもきな臭く思えてならない。確か……前にキッド海賊団はシャンクスとぶつかってるわよね。

 ……1人では、ううん、自分の海賊団だけでは勝てないと踏んで、同盟を組んだ。……のだとして、ならば残りのふたつの海賊団は何故そんな事を?

 この同盟、理があるのはキッド海賊団だけよね。だとするなら、特にオンエア海賊団は海賊らしい海賊だから……目的は〝海賊同盟〟の華とまで言われる〝裏切り〟と考えられるわ。

 ただ、シャンクスがそれをさせるとは思えない。あの人あれで結構素直に、挑戦者に対して真正面から戦う事を良しとするタイプだもの。

 だとするなら、他の〝四皇〟に通じてる可能性が高い。でもビッグマムは珍しい種族は〝家族〟に引き入れると聞いてるから、今ビッグマムの家族と婚姻を結んでないならその可能性は低いわよね。

 そうなると残りの可能性は〝黒髭〟か〝カイドウ〟と言う事になる。どちらに通じているにしても、オンエア海賊団が裏切る可能性の高さに溜息が落ちた。

 顔しか知らないとは言え、同じタイミングでこの海を生きていて、同じタイミングで同盟を組んだ者同士。叶うならば、何事も無ければいいのだけれど。

 

 「ナミ、どうした?」

 「私達と別な同盟の方は、裏切りが起きるんだなぁって考えてたのよ」

 「……なんか、見えたのか?」

 「ううん。単なる情報分析から見えて来た答え」

 

 ゾロからの問い掛けに答えたら、何故か皆の視線が鋭くなる。そして、ウソップに肩を叩かれた。

 何かゴミでもついてたかなと肩を見ていたら、何故かウソップに呆れたような支線を向けられてしまう。寧ろ理解不能なのは、ウソップの言動なのに。

 

 「自分の価値、理解しとけ」

 「え?価値って……航海士としては随分優秀な自覚持ってるわよ」

 「……ナミって、本気でわかって無いんだな」

 

 まさかのチョッパーからの言葉に驚き視線を向けたら、ゾロに理解出来たろ?って諭されるチョッパー。何だろう、この疎外感。

 そんな中でローちゃんは深く溜息を落として、私をチラリと見てから顔を背けた。……屈辱である。

 

 「さて、ナミの件は置いといてだ。これがいかに重い取引か分かったろう?」

 「置いといて良いのかよ。危険物だろ、この蜜柑猫」

 「修正不可能だ。諦めろ」

 

 ローちゃんが話を進めようとしたらフランキーがそう言うから、思わず睨んだ私を無視してローちゃんが溜息混じりに言葉を告げる。その様子を見てロビンに視線を向けたら、優しく微笑まれたので抱き着いてみた。

 するとロビンは私を優しく抱き締めて、頭を撫でてくれるからそのまま少し甘えてみる事にしたけど、話は真面目なものに切り替わっていく。それは国王の地位と七武海のライセンスを捨ててまでドフィがシーザーを取り戻したいと言う話が、真実であると言う説明である。

 その頃ドレスローザは、国王ドフラミンゴの突然過ぎる王位奉還により、国民がただ、混乱していた。彼の人望は、それなりに高いものがある。

 それは、原作のままなのか、それとも何かが違うのか……。それは今のところ不明である。

 だが、町を壊す大きな〝高波〟も、始まりは……人知れず打ち立つ〝さざ波〟に過ぎない。全てを捨てたかに見えたドフラミンゴの行為により、その武器を求める者達は金も地位も、事によれば命さえ危ぶまれる事となる。

 それだけ、ドンキホーテ・ドフラミンゴと言う男がこの世界において持つ影響力は、計り知れないものがある。彼には〝悪〟が頭についてはいるが、カリスマ性の高い優秀な男であるのだ。

 ……麦藁の1味への説明が終わるのと同時に、ローちゃんはドフィへと電話をかけた。大人しくする事の出来ないメンバーは、それだけで大騒ぎである。

 そして案の定、ルフィが自己紹介のようにして電伝虫に言葉を告げれば、ローちゃんの顔は歪み、ウソップはその頭を叩いた。この場合ウソップが正しい。

 それでもルフィの言葉は止まらない。ルフィとは、そういう生き物である。

 

 「おいミンゴ!!〝茶髭〟や子供らをひでェ目にあわせてたアホシーザーのボスはお前かァ!!その上何度もナミを襲いやがって!!ナミは俺のだぞ!!」

 「辞めなさい、ルフィ」

 

 思わず突っ込みを入れる私に、皆も頷いてくれる。その状態でも、ルフィの言葉は止まらない。

 ルフィは明らかに怒り心頭な様子を見せるけど、さてどうしたものかしら。ここで口論してもいい事は無いけど、ルフィを止める手立てが思い浮かばないのよね。

 まさかドフィも、子供相手に本気で怒ったりはしないと思うけど……。案外ドフィって、子供好きだし。

 

 「シーザーは約束だから返すけどな!!今度また同じような事しやがったら、今度はお前もブッ飛ばすからな!!」

 『〝麦藁〟のルフィ……!!昔から名前だけは知っていた。お前が成長する迄はとナミはずっと、お前を庇い続けていた。……弱さは、罪だなァ?そうは思わねェか?』

 「……それ、自分に言ってんのか」

 『ああ!?何言って……「ナミの反応見りゃ、ミンゴのガキ時代を知ってるのは分かる。なのにナミがミンゴの傍にいないのは、ナミを守れないとミンゴが判断したからだろ。そうじゃなけりゃ……ナミは傍を離れなかった筈だ」』

 

 ドフィの言葉を遮って、ルフィは言う。その言葉にドフィは黙ってしまい、私達は誰も声を出せなくなる。

 確かにあの時は、ドフィが私を帰らせてくれたけど、でもそれは光源体に騙されたというか、利用されたから。そう思って声を出そうとしたけど、それよりも早くルフィは言う。

 

 「ナミは、自分より弱い相手を見捨てて逃げる事は死んでもしない。年齢とか考えたら、ガキの頃に関わってるとか有り得ないのは俺もわかるけどよ、トラ男もミンゴも昔からナミを知ってる感じだし、だとしたらそう考えるしかない」

 

 ……ルフィが、賢い事言ってる。なに、天変地異でも起きるの?

 それとも、これは核心になる何かなのかな。ルフィは、いつも大切なところだけは見落とさないから。

 どちらを庇う事も、その会話を止める事も、私には何も出来ない。ただ、声も出せずにその成り行きを見守るしか、私にはできないのだ。

 

 「ミンゴが、ナミに守られるのがつらくて、弱さを突き付けられて、逃がす形で自分を守ったんだ」

 『お前も、手放した口か……』

 「いや……俺は、俺を他に守ってくれる奴が居るのをナミは知ってて、だから俺よりも弱い相手を守りに行った。……泣いて嫌がったけど、聞いてくんないんだ、そういう時のナミって」

 

 その時、幼い頃のルフィが脳裏で泣いた。あれは、本気で嫌がってたのか。

 可愛かったなぁ、あの頃のルフィ。最近は技まで使って襲いかかってくるけど、あの頃はそういう事も無かったし。

 

 『ナミが、選ぶだけの事はある……か。〝麦藁〟のルフィ……!!兄の死から二年……パッタリと姿を消し、何処で何をしていた』

 「それは!!絶対、言えねェ事になってんだ!!」

 

 ローちゃんとの話が進まなくなるからと、ウソップはルフィを背後から腕で首閉めてるけど、ルフィには効果が無い。首の筋肉と腕の筋肉の、どちらが強いかがこれは重要になるのだ。

 つまり、ウソップの腕よりもルフィの首が強い。それは、私が万が一ルフィに抵抗しても、打撲にさえ出来ないだろう現実を示唆している。

 けれどもそんなルフィ相手に、ドフィは電伝虫越しに笑う。独特なその笑い方は、1体誰に似たのだろうか。

 

 「俺は、お前に会いたかったんだ」

 

 ドフィの言葉でウソップがルフィから手を離す。全員がドフィの言葉を待ちながら、電伝虫に視線を向けている。

 それだけ、ドフィの言葉は重い。今の所ローちゃんは交渉する隙さえ貰えてはいないのが、何よりの証拠。

 ある意味でこれは、覇王色を持つ者同士だから起きている事なのかも知れない。誰もがその声に、言葉に、耳を傾けたくなる相手……それが王たる資質を兼ね備えた覇王の証。

 

 「お前が喉から手が出る程欲しがる物を、俺は今……持っている」

 「お……おい、それは1体どれ程美味しいお肉なんだ……!!」

 「麦藁屋!!奴のペースにのるな!!」

 

 そのまま瞳をハートにしてまだ見ぬ肉に心を奪われているルフィに私とブルックは呆れ、ウソップとチョッパーが正気に戻そうと奮闘する。その間に、ローちゃんはドフィとの交渉を開始していた。

 本当に頭が下がるわ。……ごめんね、うちの船長が阿呆で、とローちゃんに心の中で謝罪しておく。

 

 「ジョーカー!!余計な話をするな!!約束通りシーザーは引き渡す」

 『そりゃあ、その方が身の為だ。……ここへ来てトンズラでもすりゃあ……今度こそ、どういう目にあうか……お前はよく分かってる』

 

 ローちゃんはそれに対して何も答えない。昔、ドフィの部下であった事が理由だと分かるその会話が、なんとも切ない気持ちにさせる。

 死んだような目をしていた……と、ロシーが語ったその瞳を、私は見ていない。確かに敵意むき出しにはされたけど、それだけで……あの時には既にロシーによりその瞳に輝きが戻っていたから。

 ……随分立派になったわね。大人に、なったんだわ。

 幼い頃の面影がチラつくけど、それはきっと私から見れば僅かな時しか経過してないのが理由。私にして見れば、あの時の経験は二年前の経験なのだから仕方ない事だけれども。

 

 『さァ……まずは、ウチの大事なビジネスパートナーの無事を確認させてくれ』

 「ジョーカー!!すまねェ、俺の為にアンタ七武……「今から80時間後!!〝ドレスローザ〟の北の孤島〝グリーンビット〟南東のビーチだ!!」」

 

 声を聞かせて即座に会話はさせないとばかりにローちゃんは声を張り上げた。それにより皆も空気を引き締めるから、私もその言葉に耳を傾ける。

 

 「〝三日後の午後三時〟にシーザーをそこへ投げ出す。勝手に拾え……それ以上の接触はしない」

 『フッフッフッ!!淋しいねェ。成長したお前と1杯くらい……「切れー!!こんなもん!!」』

 

 こうして、交渉と言うにはお粗末なやり取りが終わる。恐らくローちゃんとドフィだけなら、こんなグダグダな感じにはならなかったと思うのだけれど。

 それは、今更言っても無駄な事。とりあえず必要なやり取りは終わったのだ。

 ルフィの瞳が肉のままであるのは、この際おいておく。そんな時、サンジ君が人数の指定をしていない事に警戒して声を出した。

 その言い分は確かに正しいけど、ローちゃんははそれで問題無い事を告げる。ドフィがそれに、上手く騙されてくれるといいのだけれど。

 

 「既にこの作戦において、シーザーの引渡しは囮の様なもんだ」

 「じゃあその隙に〝SMILE〟の工場を潰す方が目的って事か」

 

 ウソップが確認するように問いかければ、ローちゃんは低く、工場が何処にあるのか分からないと言う。それに対してフランキーは分からない筈はないから、ビームで破壊できると笑うけど……外からでは分からないって事は……。

 

 「そこだけ……どうしても、情報を得られなかった」

 「ドフィの大切な工場。……何か秘密がある……?」

 

 隠さないと行けないような秘密。狙われたら、簡単に破壊できるような物なのかも知れないわね。

 それに、その規模の話なら革命軍だって動いてる筈なのに、そっちも解決しなくて情報が入らないのだとするなら、それは筋金入りだわ。……待って、そうよ……ドフィの仲間に……アレは……。

 

 「生きたオモチャにする能力……。ホビホビの実」

 

 確かそれを使われたら使われた人間は玩具になるから、人間であった頃の記憶が世界から消える。その〝人〟は、玩具だから〝人〟として残る物は何も無い。

 その悲劇を利用すれば、知られても隠し通すのは容易。そうなると工場が見付からない要因で、残るのは……。

 

 「なら……工場だと分からないように偽装してるのかな」

 

 私が変装するように。クリマタクトで姿を隠すように見えなくしてる……とは、考えにくいもの。

 ……見えなくする?

 見えない建物……。地下?

 

 「もしくは、地下にある」

 

 そうよ、地下にあるなら見えないのは当然だし、入口を上手く隠せばそれこそ見つけられない。表向きは海賊だけど、王様として信頼を勝ち得てるドフィが民家を利用してるとは思えないわよね。

 何よりドフィは〝力の無い民間人〟が大嫌いだもの。烏合の衆がどれ程残忍なのか、そして狂気に満ちるのか……その身を持って知ってしまっている。

 ならば、王城か……寧ろ人の多く集まる娯楽施設。人を隠すには人の中、だもの。

 

 「……ねぇ、ローちゃん。ドレスローザの中に大きな娯楽施設とか、目玉になるような観光スポットってあるかな?」

 「あるが……それがどうした」

 「それの、地下が怪しいと思うの」

 「なら、時間を長めに用意して正解だったな」

 

 ローちゃんはそう言って笑うと、今後の作戦について話を始めた。そっと錦えもんが不安を隠せない様子でローちゃんに問い掛けている声も聞こえたけど、そちらはローちゃんが対応していたので今は気にしない事にする。

 まずは船を偽装して、普通に観光客に紛れてドレスローザで情報収集を行う。その後約束の日にチームを三つに分けて対応する事となる。

 シーザー引渡しチームには、ウソップ、ロビンをサポートにしてローちゃんがメイン。当然、シーザーもここに入る。

 サニー号安全確保チームには、航海士の私と、戦力外であるモモちゃん。そしてチョッパーとブルック、サンジ君と言うメンバー。

 これは最後の工場破壊&侍救出チームがメインとなる為、戦力を分散させられないのが理由。でもそんな説明を最後まで皆が聞いてる筈もなく、ルフィは話を切り上げようとしてしまう。

 

 「トラ男~、お前そこ行った事あんのかよ。ドレス老婆!!」

 「ローザだ」

 「ローザ!!」

 「……無い。奴の治める王国だぞ」

 

 しっかりと訂正しつつも、呆れを隠さないローちゃんのそれにルフィは笑う。ルフィはどうやら、これ以上は難しい話をしたくないらしい。

 当然ローちゃんがそれを認める筈も無い。無いけど……ここは麦藁の1味の船である。

 

 「ほんじゃ、全部ついてから考えよう!!」

 「馬鹿言え!!何の計画もなく乗り込める様な……「サンジ腹減った!朝飯何だ!?」」

 「サンドイッチだ」

 「わー、俺綿飴サンド!!」

 「私は紅茶だけで」

 「俺はパンは嫌いだ」

 

 冒険が楽しみだと喜びつつサンジ君にルフィが問い掛けて、それにサンジ君が答えた直後、チョッパーは喜び、ロビンは本を手にする。そして、ローちゃんは乗せられた。

 そんな状態で私達は食堂へと向かう。飲み物だけでいい人達はテーブルの無い席へと腰掛け、食事をする人達がテーブルの所へ腰を下ろしたのは自然な流れである。

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