※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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食いしん坊

 椅子だけの所へ向かおうとした私の腰に腕を回して、自分のすぐ傍に座らせるルフィに私は溜息を落とす。どうやら今日は、食べないと許して貰えないらしい。

 ルフィは無意識なのか、戦いの時は〝共に戦う相手〟を傍に、日常の中では〝共に遊ぶ相手〟を傍に、そして基本的には〝護りたい相手〟を傍に置いている。つまり、今ルフィの両手が届く範囲には私とモモちゃんが座らされていた。

 ルフィだって食べきれないんじゃないかって量のサンドイッチがルフィの前に積まれて、私とモモちゃんもそれを1緒に食べる事になった。ルフィは肉とか卵のサンドイッチを選んで食べていて、私は野菜とか果物のサンドイッチを貰っている。

 あ、このサンドイッチの蜜柑、ウチの子だわ。やっぱり美味しい。

 ホクホクした気持ちで食べていたら、突然目の前に差し出されたのは卵サンドで、パクリと食べてみれば少しピリッとしたのでどうやら辛子マヨネーズを使われてるらしいと知る。お礼にと蜜柑のサンドイッチをルフィに差し出したら、それを1口で食べつつ私の指を舐めるから、顔が勝手に熱を持つ。

 

 「る、ルフィっ!!」

 「ん?美味かった。ありがとう」

 「サンジ君の料理だもの、当然でしょ」

 「ナミ……こう言う時、他の男の名前出すなよ」

 「ルフィ……」

 「今は仲間(身内)以外もいるから、程々にしなさいね。ルフィ」

 

 ロビンの言葉によりルフィはにししっと笑うと、またサンドイッチを食べ始めた。私は頬に手を当てて少し俯いて呼吸を整えるけど、それを咎める声は何処からも聞こえない。

 ルフィは言うなればお誕生日席に座っていて、逆のお誕生日席にはチョッパーが座ってる。チョッパーの前にあるサンドイッチは、生クリームをたっぷり使われたケーキに限りなく近い物と綿飴の物なので皆とは別皿。

 そのチョッパーの左右に当たる位置では、ゾロとウソップが大皿からサンドイッチを手に取っている。私の横にいるローちゃんはお握りを食べているので、その向かい側に座ってる錦えもんは中皿に盛られたサンドイッチを1人で食べていた。

 

 「ナミ、これやる」

 「ルフィが食べたくないだけでしょ、パセリ……嫌い?」

 

 パセリには血液をサラサラにする効果もあり、良い野菜なのだ。苦手な人も多いし沢山食べるのは難しいとの意見もあるけど、卵焼きに混ぜて焼いた時本当に美味しいし沢山摂取できるので高血圧、糖尿病等の持病がある方と、ヘモグロビンが減少する事で起きる貧血持ちの方には効果的なのだ。

 その他にも浮腫の改善や口臭改善の効果も見込めるので、座り仕事の方には良い野菜なのである。でも、ルフィは視線逸らして言い訳を考えてるから、そんな脳内の説明は口から表に出る事は無い。

 

 「基本的に食い物で嫌いなもんねェぞ。ただ、不味いもんは食いたくねェけど。……だから、苦手なだけだ。野菜も……うん。他になければ食うし」

 「……そう、分かった。そう言えばルフィが不味いって言ったのは、私の記憶にある限りチェリーパイだけだったわね」

 

 ふと、二年前にルフィとゾロの二人がボロボロにやられてるのを、見てるしか出来なかった過去を思い出す。そんな私にルフィは首を傾げるから、本人は忘れてんのねと思ってしまう。

 その間も皆は皆で色々話をしていて、錦えもんも共に行動するなら何故追われているのか位話してくれとの事になったけど、それは拒否されてしまった。話せない事も有るだろうと頷くルフィにより、追求はされなかったけど、錦えもんが〝ゾウ〟を目指して海に出たと知ればローちゃんが反応する。

 

 「ゾウ……!?」

 「存じおるか!?」

 「何から何まで奇遇だが……!!シーザーを引渡し〝SMILE〟の工場を壊したら、次は〝ゾウ〟を目指すつもりだ。俺の仲間がそこに居る」

 

 その言葉で思い出すのは可愛い白熊さんと、ロシーである。あの喋る白熊さんを、もふもふしたい。

 二年でもふもふ具合は変わったのかな。ロシーは元気かな?

 それにしてもローちゃんだけを別行動させるなんて、よく許可したわよね。ロシーって過保護だし、白熊さんはローちゃんの事大好きで依存してる感じがあったのに。

 

 「まことかそれは!!……では、そ……そこまで拙者達、同行する訳には……」

 「いいぞ!ワノ国まで行こう!」

 「おい!!……いや……」

 

 ルフィが即時返事したのに対して、ローちゃんが焦りを見せた。ローちゃんは、出来ない約束はしない人だから〝約束をしたくなかった〟んじゃないかと思いその顔を見詰める。

 するとローちゃんは視線を逸らして、お握りを口に運ぶから余計に怪しく見えて来る。……この子、何を考えてんのかしら?

 その後錦えもんが四人でワノ国を出て、1人行方不明、1人はドレスローザで囮となり、二人を逃がしてくれようとするもモモちゃんがパンクハザードへ行ってしまったので、1人で奪い返しに向かった……と、語る。だからこそドレスローザにいる〝カン十郎〟を助けたいと語られれば、フランキーとチョッパーは泣きながら同意する。

 そうなれば当然ルフィも同意するから、大盛り上がりになるけど、ローちゃんはそれにより目的を見失うなよ!と叫ぶように声を出していた。そんなやり取りの中、やはりローちゃんが何か隠してるのには気付いてしまったので、嫌な予感を感じながらも私は進路を確認しに表へ出る。

 私は麦藁の1味の航海士だし、ローちゃんは別の船の人だわ。でも、原作知識があれば少しは変わっただろうと思えばこそ、なんとも言い難い気分にさせられてしまう。

 それから数時間後、1行は島の影を見る。……ここは、愛と情熱の国〝ドレスローザ〟だ。

 

 「うほーっ!!何だ、あのゴツイ島っ!!」

 「あれが、ドレスローザよ。フランキー、サニーを別な船に見えるようにコーティングって、すぐできる?」

 「少しばかり時間貰えるなら……」

 「数時間なら、私がミラージュテンポで隠しておくわ」

 「それなら可能だ」

 

 フランキーの言葉を受けて私はクリマタクトを使い、サニーの姿を隠してしまう。その状態でローちゃんに言われるまま港の端に船を泊める事になれば、後は情報収集が急務である。

 ルフィはドレスローザに到着した事を喜び、錦えもんは仲間を取り戻すと息巻く。でもまずは情報収集だから、問題起こさないでよと心から思うのであった。

 

 「はい皆!注目!!」

 

 手を叩いて皆の意識を集めると、私は胸元からお財布を取り出した。皆大好き、お小遣いタイムである。

 今回は1人につき1日3千ベリー。3日の滞在なので、ルフィとゾロ以外は9千ベリーで、2人には4500ベリーの入った封筒を差し出す。

 

 「それと、買出し組にはその分も渡すから前に出て」

 

 フランキーにはサニーの修理用品の買出しを任せるし、サンジ君は食料調達、チョッパーには医療品の買出しが任されるかウソップとロビンには衣料品等を含む雑貨の買い出しである。

 

 「宿とかに泊まりたい人は、そのお小遣いだけだと足りないと思うから、これ迄のお小遣いを足してね。買出し組は領収書やレシートを忘れずに提出してお釣りは返す事!!」

 「俺にも寄越して良かったのか?」

 「あら、当然じゃない。1緒に行動するなら〝仲間〟枠よ。それに、酒場を含む飲食店は情報も集まりやすいし、観光しつつ情報集めるならお金が無いと困るでしょ」

 「……ここにいると、感覚が狂いそうになるな」

 

 笑うローちゃんに私は少しだけ肩から力を抜いた。今すぐ何か起こすなんて事には、ならなさそうだと判断したから。

 

 「渡したのは三日分のお小遣いだから、足りなくならないように自分で上手く調整してね」

 「モモの助にも、同額でござるか?」

 「当然よ。それに、この先の船旅で必要な物も揃えないとでしょ。だからもし必要な物を買って足りなくなった場合は言ってね。領収書出してくれたら、検討するから」

 

 歯ブラシなどの消耗品は経費で落とせる事等を含めて説明して、各自1旦解散となった。そもそも常に錦えもんが傍に居るのならば構わないけれど、この先戦いになるのだから別行動となる可能性を考慮しておく必要がある。

 その場合は、服だって必要になるのだ。それぞれが順番を決めて船を降りるのを見送り、とりあえずウソップとチョッパーが帰ったら出掛けようと1人伸びをする。

 そんな私に、なんの前触れも無く絡み付いた腕に驚いたのは当然だと思う。だって、ルフィが残ってるなんて普通なら有り得ないから。

 

 「ルフィ?冒険はいいの?」

 「ん。でも、ナミとデートするって決めてただろ。だから、少し待ってる」

 

 ルフィは〝待て〟を覚えた……!!チャララッチャッチャッチャー!

 と、脳内で流れるくらいの衝撃。だって、ルフィが……!!

 

 「ナミ、何も言わなくてもその顔でだいたい何考えてるか分かるからな?」

 「だって、ルフィが、待つって……。作戦があっても10秒と待てないルフィが……!!」

 「んー……。ナミだからな。待てば、1緒に飯食ったりできんだろ」

 「ルフィ……。ついさっきご飯食べたわよね?」

 

 ルフィだけは1日5食だから、朝食の後にご飯食べてる筈。朝食は皆でサンドイッチ食べたけど、その後はマグロの血合を唐揚げにして貰って食べてたのを知っているのだ。

 美味しいし貧血にも効果的だけど、食べ過ぎると痛風になるリスクもあるのでご注意を。臭いが気になる人は生姜を多目に使ってね。

 食いしん坊なルフィに対して、仕方ないなぁと笑ってしまうのは許して欲しい。だって、本気でお腹空いたって顔してるんだもん。

 

 「ナミの事抱いてると、普段より早く腹減る」

 「ルフィ?」

 「ナミは美味そうな匂いするし、美味いもん作ってくれるし、ナミ自身も美味いからな」

 「な、何言って……!?」

 「ナミが美味いって話だぞ?」

 

 サラッと何か言われて、真っ赤になる自分を自覚したら、ルフィが私を反転させて顔を覗き込んできた。そして、首筋に顔を埋めて言う。

 

 「ナミの、蜜柑の香りが強まった……。食べ頃か?」

 「ここで食べたら……泣くから……」

 

 嫌いになれないし、抵抗も出来ないと思うから精一杯の抵抗で言ってみる。そんな私にルフィはキョトンとした顔をしてから、少し遅れて笑う。

 

 「あァ……今はまだ食わない。ナミの事、泣かせたくないからな」

 

 私はルフィに勝てる要素を見失ってしまった。その空気から逃げる為に、私は蜜柑畑へと向かう。

 予定に無かった事だから、余り食材を減らしたくないのだ。勿論、少しくらい減ってもサンジ君がそれを知れば後から追加で、買い出しに行ってくれるのはわかってるのだけれど……迷惑は、かけたくない。

 折角だから、蜜柑のパイと蜜柑の紅茶でも用意して行こうと思う。ルフィの分は、ルフィと島に行く時に持って行けば良いわよね。

 蜜柑の皮でお茶を作り、蜜柑の実でパイを作る。そうすれば捨てるところなんて、殆ど無くなるのがこれの利点。

 勿論皮を綺麗に洗ってお茶にして、それでも余った分は蜜柑でマーマレードを作っておくのも忘れない。次の食事かおやつの時にでも、サンジ君が残りは上手く使ってくれる筈だから。

 小ぶりのパイを焼きながら、淹れたての紅茶を水筒に移動させればルフィがソワソワし始める。どうやらうちの食いしん坊は、待てない感じらしい。

 

 「デートの途中で、食べましょうね」

 「おう!ありがとう、楽しみだ!!」

 

 ……どうしよう、本気で可愛い。強くなったし、頼り甲斐も出たのに……どうしてこうもルフィは可愛いんだろう。

 1人1/4枚ずつ食べる計算で三枚の焼き置きを作ったけど、そうなると1/2残る事に気付いてしまう。

 持っていくのは、それとは別に焼いた1枚だとして……。よし!

 

 「ルフィ、味見に少し食べる?」

 「食べる~っ!!」

 

 これで全員平等に残せるわねと、メモを書きながら思う。ルフィも待ってる間に半分だけでも食べられたら騒がないだろうというのもあり、気分はホクホクである。

 ルフィは差し出したパイを嬉しそうに食べてるから、余程美味しいらしいとホッと胸を撫で下ろした。ルフィが食べてる間に準備を整えたので、ウソップ達が帰って来たらすぐに出掛けられるわね。

 そう思って甲板に出れば、ウソップがちょうど帰って来るのが見えて、良かったと思う。……ルフィも居るし、クリマタクト預けていこうかしら?

 ウソップに改良して貰うのにそう考えたけど、何故か手放すのが寂しくてついに言い出せないまま、私はクリマタクトを撫でて終えた。代わりにパイと紅茶の事は伝えて、皆で交代で食べてねと言えばチョッパーは大喜びだし、ウソップも嬉しそうに頷いてくれる。

 

 「「行ってきます!」」

 

 私とルフィの声が重なり、ウソップとチョッパーが気を付けて!!と見送ってくれる。そのまま私とルフィは、手を繋いで町中へと足を進めて行った。

 ドレスローザ……この国を訪れた者達は、いくつかの事に心を奪われるだろう。1つはかぐわしき花々と、この国自慢の料理の香り。

 また1つは……疲れを知らぬ女達の情熱的な踊り。そして、もう1つは……。

 もう1つ……旅人を驚かせる物は……町に溶け込み、ごく自然に、人間と共存する、生命を持った玩具達の姿である。ここは愛と情熱と玩具の国……その港町〝アカシア〟だ。

 

 「いい匂いだな~!!」

 「そうね、美味しそうな匂いがするわ。……あ、綺麗……」

 「……先に、ナミの作ってくれたパイ食べに行こう!!あの花畑で食えば良いよな!」

 

 明らかに他に興味を持ってるのに、ルフィはそう言って私を花畑まで連れていってくれる。それが嬉しくて笑えば、ルフィが少しだけ照れたような顔をした。

 

 「ナミはさっき食ってなかったけど、今度はちゃんと食えよ!!」

 「ふふ、わかってるわ。少し花を眺めたら、町でまた何か食べましょうね」

 

 笑いながら言えばルフィはその瞳を輝かせるから、それが何だか嬉しくて……そっとその頭を撫でてから花の良く見える所に腰を下ろして、二人でのんびりとティータイムを開始した。1/4は食べようと心に誓い、残りはルフィにと思いながら1枚のパイを8個に切り分ければルフィは即座にそれを食べ始める。

 こんなにも喜んで貰えるなら、作った甲斐が有るというもの。ルフィに喜んで貰えるなら、私としてはそれだけで充分なのだから。

 それでも自分でも1切れ口に入れてみれば、安定の味。私の場合蜜柑系で失敗する事は、まず無いのである。

 結局花に夢中になってたのもあり、ルフィが7切れ食べてくれる事態になったけど、ルフィの胃袋に限界は無いから問題ないかと判断した。私としては花も満喫できたので、次はルフィの望む所へ付き合いたいと思ってるけど……やっぱりご飯かな?

 今食べたパイ程度で足りるわけも無いのは、ちゃんとわかっているのだ。だからこそ、私はルフィと手を繋いでゆっくりと町に戻る為に歩き出した。

 二人のデートは、まだ始まったばかり。背後では花が風に煽られて、甘く優しい香りを放ちながら、ユラユラとその身を揺らし続けていた。

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