※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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これ迄とこれから

 立て、立つんだナミ……!!と、有名なボクシング漫画を思わせるような事を思いながら歩き出したのは、つい先程の事。なのに今、私はサッチさんに抱き上げられている。

 

 「悪いな、歩けなくなってるとは思わなくてよ」

 「歩きますから、おろしてください」

 「また、倒れるぞ」

 

 足が産まれたての子鹿のように震えている状態で無理に歩いたからか、身体を支えきれずに崩れ落ちたのは確かだけど、それは、サッチさんの直前にルフィとしていて体力がなくなってたからで……。と、脳内で言い訳をする。

 けど、実際意地張って見ても多分歩けないのはわかってしまっていた。なので素直に運んで貰う事にすれば、サッチさんは小さく笑って頷いた。

 この様子を見るに、どうやら揶揄うつもりで言ってた訳では無いらしい。身体から力を抜いて身を任せた時、サッチさんが突然言葉を向けて来た。

 

 「ナミちゃんはさ、自分の価値を知っておくべきだぜ」

 「へ?」

 「航海士、測量士としての能力だけでも涎モンの実力者で、その容姿だ。狙われないと思う方がおかしいだろ」

 「それは……」

 

 確かに原作でも狙われてた。世界一の美女とされているハンコックも、原作のナミちゃんを元に描かれて居たのだから間違いなく世界一の美少女はこの肉体だろう。

 測量士としても、航海士としても、彼女は優秀で、その能力は私が引き継がせて貰ってる。だから今、私はルフィの役に立てるのだからそれを厭うつもりはないのよ。

 

 「それは、自覚してます」

 「……天才の作詞作曲家であり、小説家。医学書は勿論農業や料理関係の本も出す〝奇跡〟や〝幻〟とまで言われる〝宝玉〟たる自覚もあるのか?」

 

 その言葉に身体が震える。だって、それは全て盗作か編纂しただけで、私の実力なんて何も無い。

 本当の天才達が生み出した、努力の結晶を私は奪っているだけ。けれど、私はこの道しか選べなかった。

 私は何度やり直せてもこれを選ぶし、その罪を誰かに話す資格も無い。……だから、しっかりと頷いてみせる。

 

 「最近、自覚しました」

 「遅ェよ。何十年も活動してて最近じゃ遅過ぎる。だから今、厄介な事になってんだな」

 「うっ……」

 

 言い返せなくてくぐもった声を出せば、サッチさんは笑った。それから、私を狙う世界的に有名な人達の名前があげられて、闇ルートで私のレートが恐ろしく上がってる事を教えてくれる。

 その名前の中には会った事もない人達や天竜人もいて、確かに気を付けないと不味いらしいと気が付かされれば溜息も落ちる。そんな私を酒場の椅子に座らせたサッチさんは、片手をあげて軽く揺らした。

 それだけで怒号を上げながら寄ってくる黒髪の青年。変装のつもりなのか、髭眼鏡つけてるけど……うん、案外可愛い。

 

 「サッチ!ナミに何しやがった!!」

 「ん?……美味しそうだったし、エースも居なかったからお相手願っただけだぜ。……取られたくないなら、傍を離れんじゃねェ」

 「サッチまで!兄貴達は俺がナミに惚れてんの知ってんだろ!?」

 「そりゃァ知ってるが、海賊ってのは誰かのものだからって遠慮する奴には務まらねェのよ。……欲しいものなら、殺してまで奪うって奴も少なくはねェ世界だ。本気なら、傷付けずに守って見せろや」

 

 そう言ってサッチさんはエースの頭を撫で回すと、今夜は動けないだろうからこのまま泊まってきなと言って酒場を出て行ってしまう。手を伸ばして引き留めようとしたけど、それはエースによって阻まれてしまった。

 私の手を掴んで、真っ直ぐに見詰めてくるエースの瞳が泣いている。それを見てしまえば、私も言葉を飲み込むしかできなくなってしまう。

 

 「ナミ、サッチの言ってたのは……」

 「……事実よ。おかげで立つ事もままならないわ。……休ませて貰える?」

 

 隠しても仕方ないと思って素直に頷いたけど、エースの様子が妙な感じに思えてならない。頭を撫でられた時、エースはサッチさんに何か言われたのだろうか。

 

 「怪我は?」

 「……見ての通りよ」

 

 心とか精神的な所は傷だらけだし、立てない程に消耗してるのを怪我と呼ぶ事も可能だろう。けど、エースの想像するような怪我は無い。

 キスマークだって、結局は内出血だから本来怪我だけど、エースの概念では怪我ではないだろう。マルコの時の事があるから、エースもこの状態の私に無体は強いないだろうと判断して、そっと笑いかける。

 

 「エースが無事で、良かったわ。逢いたかった」

 「ナミ……」

 「1年ぶりね」

 「そうだな。……本当に、胸が永続的に成長してんな」

 「まぁ、ね。多分虐待が理由で成長が止まってたから、遅れて成長期なのね」

 

 実際に食べ物や栄養学的には問題のない生活をしていても、虐待やいじめの被害者は身体や心の成長が遅かったりするケースは目立つ。その為に解放されてから身体が急成長したり、少しの期間精神的に幼児返りするのも珍しくは無い。

 だから恐らく原作でもナミちゃんが胸を急成長させていたのは、それが理由。1人でいた頃に比べて言動や笑顔が幼くなったのもそういう事だろう……と、私と巫女様の見解は一致している。

 それが今の私にも該当するのかは、よく分からないけど。だって私は、精神的な所は二度目である為にそんなに大きなダメージを受けてない……と、自分では判断してるから。

 軽いトラウマがあるけど、この程度気にする必要もない。皆が優し過ぎて、少し過保護なだけよ。

 考え込んでしまった私の目の前に座ったエースは、当然のように食べ物とお酒を注文するから、とりあえずエースが満足するまで食事に付き合う事にする。そうしてエースの話に耳を傾けた。

 エースの話に拠れば、マルコとエースは空島を出た後すぐに皆と合流して、白髭さんを慕う人達と共に黒髭と戦ったらしい。けれども、グラグラとヤミヤミの実を器用に使いこなし、味方さえ道具として扱うような戦い方をする黒髭に心優しい彼等は対応しきれず、敗北をさとる。

 そうなれば1人でも多くの仲間を、生きてその場から離脱させる為にと奮闘したそうだ。その情景が目に浮かぶようだと思いつつ、エースが食べ散らかしてる果物の1つを貰って口に入れる。

 その戦いの結果、倒れる迄戦ったエースをマルコが回収して、それをサポートする形でサッチさんが白髭さんの生まれ故郷へと移動。生きているのであれば、それぞれが思い入れのある島で過ごしているに違いないと言う。

 何故再び集結しないのかと問えば、エースは集まりたいと言ったらしいけど、マルコに止められたらしい。負けて分裂した彼等が再び集えば、それはまた狙われる事になる。

 その上、集まったと知ればもう戦いたくないと思って穏やかに暮らし始めたり、怪我を理由に引退を決意した人達も集まってしまうだろうと言われたらしい。そうなれば、次は守れない……と。

 

 「マルコなら、船長としてやれると思うのに」

 「ガキの頃から親父のそばに居て、マルコよりも古参の人達が死んだり引退したりして実質的な二位の立場にいた期間は長いらしい。けど、トップに立つのは性にあわないって言ってた」

 「なら、エースは?」

 「俺は実力不足だよ。マルコやサッチは勿論、他の隊長やってた皆に比べちまえば俺はまだまだヒヨコだ。そんな俺がトップに立つのは難しいし、悪魔の実の力を失った今、世界政府に俺じゃ太刀打ちできないだろうってわかる」

 

 初めから悪魔の実の能力が無いままに、ここまで来たのならば違ったかも知れない。けど、エースは何年もその実に宿る力を借り受けて生きてきた。

 今まで出来た事が出来なくなったという事は、その後新たに力を伸ばしてもやはり前の戦い方とは違うだろうし、弱くなったように感じてしまうのもわかる気がした。生まれつき目が見えない人と、ある日突然目が見えなくなった人では同じ失明でも苦労が異なるのと理屈は同じ。

 

 「賢くて優しいからこそ、復活は無理……か」

 「そういう事だな。最近じゃ、マルコは隠居爺ィみたいになっちまってるよ。……でも、なんかマルコらしいっちゃらしい生き方なのかもな」

 「エース……」

 「とりあえず、俺は1人でもワノ国には行くつもりだけどな。昔約束したんだ。だから、もう〝四皇〟じゃなくなった今、約束は守りたいと思ってる!!」

 「エース、ワノ国に行った事あるの?」

 

 思わず聞いてしまえば、エースは不思議そうにしながらも頷いてくれる。それにより、ルフィが喜ぶかも……と思ったのは当然だと思う。

 エースがワノ国に行った事があるのならば、ワノ国での人脈と言う意味で大きな前進となる。ワノ国出身の彼等が居ても、何処まで本当に協力関係となれるかは今の所未知数だもの。

 その点、エースならば確実な仲間と言える。裏切りや騙し合いが起き得ない相手であり、確実な実力者なのだから手を組む事に何の躊躇いもないわ。

 

 「……私達も今、ワノ国に用事があるのよ。その前に野暮用でこの島に来たけど……。エース、もしもマルコの許可が取れたら、1緒にワノ国へ行かない?」

 「おいおい、勝手にそんな事を……ナミが決めていいのかよ」

 「船長であるルフィが、エースを絶対に拒まない以上は、麦藁の1味として迎える事に問題がないって事よ。でも、エースはマルコやサッチさんにお世話になってるんだから、二人の許可を得てからにして欲しい」

 

 私の言葉にエースは少し考えるようにして、頷いた。そして、次の島は何処を予定してるのかと聞いてくるから、私はそれに素直に答える事にした。

 こんな所で無駄に隠し立てしても意味は無い。エースが共に来てくれるなら、本当に心強いもの。

 

 「ゾウに行く予定よ。今、ルフィが同盟を組んでる相手の仲間が、その島にいるから合流する予定なの」

 「ナミが誘うって事は、ワノ国へと行きたい俺の目的はわかってるんだな」

 「ええ、私達の目的と……恐らくは同じ筈。その為に私達は、先にやる事があってこの島に来たの」

 「分かった。二人の事は説得してみせる」

 

 エースはそう言って笑うと、そっと私を抱き上げる。そして食事代に加算して部屋代を渡すと先程まで借りていた部屋とは違う部屋に運び込まれて、私はベッドへと落とされた。

 先にシャワーを使いたくて上半身に力を入れた時、部屋のドアを閉める為に傍を離れていたエースが戻って来た。その顔が、何かに怒っているのが伝われば首を傾げたのも当然。

 

 「エース?」

 「ルフィじゃなきゃ嫌だと言ってた割に、随分簡単にサッチに抱かれたんだな」

 「……力で、男に勝てと言うの?それとも、エースやマルコにとって大切な〝家族〟を殺せば良かったのかしらね?」

 

 そんな事ができる筈がない。私は、大切な家族を守る為ですら、アーロンを殺す事ができなかったのだもの。

 実力だけなら、勝てた筈なのに。アーロンを慕う仲間達の存在を知っていたから……?家族がいるから?

 どちらも違うわ。どんなに言い訳したとしても、今目の前にアーロンがいたとしても、きっと殺せはしない。

 生命を背負う覚悟が、私には足りない。死ぬ覚悟はできてても、殺す覚悟が足りなかったのよ。

 そんな私が、エースやマルコにとって大切だと分かりきっていて、自分としても嫌いになれそうもない相手を殺すなんてできない。けれどもその位の気持ちで戦わなければ、躊躇いが強くなり過ぎて傷付ける事さえ私にはできないと思う。

 そもそも実力に差があるのだから、覚悟だけでもしていなければ逃げる事さえ難しい。そんな事、エースなら分かってる筈だわ。

 

 「エースは、私にそれができると思うの?」

 「だが、だからって簡単に身体許すなんて「簡単に?……なら、今エースがしてる事は何?嫌だと泣いたら辞めてくれる訳?」」

 

 私が挑むように言えば、確かにエースは他白いだ。それは、エースにも辞められないであろう事が自分でわかったからだと思う。

 

 「エースは、自分ができない事を、兄であるから、年長であるからと、必ずやれと押し付けるつもりなの?……私、エースをそんな子に育てた覚えは無いんだけど」

 

 確かにエースは荒んでたけど、超えちゃいけないラインはちゃんと守ってた。無差別に人を襲うとか、無意味に人を傷付けるような事はしない子だったわ。

 私にしてるのだって、姉だから……ううん、私が相手だから甘えてる所もあるんだって思ってた。でももし違うのなら、誰にでもこうやって力で押さえ込んでると言うのなら許す訳にはいかないわ。

 歳上だからって理由だけで、全ての責任を押し付けるなんて、ルフィのやった事全ての責任をこの先一生取り続けるつもりでも無ければ認められない。そんな身勝手な我儘を、私は許すつもりなんてないのよ。

 

 「エース、貴方にこの件でとやかく言われる筋合いは無いわ。……離しなさい」

 「巫山戯るなよ……っ!!妬いて、何が悪い!俺はナミに惚れてんだっ!好きな女が、兄貴に犯されて冷静で居られるかよっ!!」

 「エース……!?」

 

 掴まれた腕が痛くて、つい大きな声を出してしまうし、顔も歪めてしまう。ギリリと腕に指がくい込んでる。

 いくら大切な兄を私に取られたと思ったのだとしても、力加減位して欲しい。私はエースから、兄を奪うつもりなんて無いのだから。

 

 「っ!!いい加減にしないと、嫌いになるわよ!!」

 

 精一杯の虚勢を張りながら、拘束から逃れようとするも、元々ある体格差に加えて体調不良もあるから、エースはビクともしない。それどころかベッドの端に腰掛けていた筈の身体がふわりと浮かび上がったと思った直後、ベッドの上に全身が投げ落とされていた。

 何かを言うよりも早く、身体を跨いでのしかかって来たエースの重みで、声は発せられる事無く消えた。身動き1つままならず、それでもこの暴挙は何なのだと眼差しだけで睨め上げる。

 それを受け止めて尚、倍返しのように見下ろしてくるエースの射るような視線に縫い付けられた気がした。そのまま乱暴に着ていた物を剥ぎ取られて、気が付くと下着がわりに身に着けているビキニだけにされてしまっている。

 私の腰や足にあった筈の武器を手にしていたエースは、呆気に取られてる間に私の両手首を掴んでひとつに纏め、流星錘で手早く戒めてしまう。固く結ばれたそれは、少し冷静に対応する時間がなければいくら私でも、自力で解くのは難しいだろうと分かる。

 私とエースの呼吸音だけが、室内に満ちている。状況把握を脳が拒んでも、現実が変わらない事はこれ迄の経験から私も理解出来ているからこそ、悲しくて、苦しい。

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