騒ぎに乗じてロシーの耳元で小さく囁く。他には聞こえないように、最大限の注意を払いながら。
伝えなければ暴れてしまうかも知れないけど、伝えれば騒ぎの中でも気付かれる可能性はある。ロシーのナギナギの能力が、こんな時だけ羨ましくなるわ。
「ロシー、助けに来たわ」
「っ!?」
「だめ、声は出さないで。今から海楼石の手錠外すから、抵抗しないで、何も気付かないフリをしてて」
恐らく私の名を呼ぼうとしただろうロシーにすぐ様言葉を告げれば、小さく頷く事で返したロシーは大人しくそれ迄通りを装ってくれる。でも、どうしてロシーは海楼石の手錠をされたんだろう。
ロシーが悪魔の実の能力者である事を、ドフィは知らない筈なのに。もし知っているのだとしたら、どうしてドフィは知ってるんだろう。
……でもそうよね、私の知識は原作でロシーが死ぬ話までだもの。つまり、その後生きてきたロシーの事をドフィの情報網で調べて、その中で知った可能性もあるわよね。
それにしてもロシーは怪我も酷いから、早く解放して逃げ出さないと。ここで手当てしたら流石にバレちゃうから、移動してから手当して、そこからの脱出が1番確実。
姿は消していても、騒ぎが落ち着けば安全じゃなくなってしまう。海楼石の手錠は少しばかり特殊だから、慎重にやらないと。
細く息を吐き出してから、そっと髪につけていたピンを外して、その先の形を変える。軽いU字を作り、鍵穴に差し込んだ時……妙な感触があった。
……なに、今の。なんか、変な引っ掛かりがあ……。
「おかしいな。誰かが手錠に触れたから来たんだが……」
突然降って来た声。相変わらずいい声だわとか思うより先に、背筋が凍る。
瞬間移動でもできるのかと言いたくなる位、突然現れたドフィは私の背後にいた。かと思った直後に、ロシーの正面へと移動する。
それから不思議そうに辺りを見て、騒ぐ部下に視線を向けてから唐突にその口角を上げた。そして、見える筈も無いのに真っ直ぐに私の居る場所へと視線を向ける。
その行動ひとつで、脳天から氷水でもかけられたかのように、私は呼吸も止めて見つめてしまう。そんな私が見えてる筈も無いのに、ドフィは嘲るように笑いながら言った。
「ナミ、姿を見せろ」
王者の命令。これは、シャンクスやルフィにもされた事があるけど、従いそうになるのを止めるのは案外難しい。
今のドフィは覇気を使えるから私の居場所が分かるとか、そんな感じじゃない。だってドフィは今、覇気を使ってないもの。
「ナミ……従わないなら、コイツを切り刻む。どうせ裏切り者だ。処刑したとして、何も問題は無い」
そう言ってドフィはその手を振り上げるから、私は慌てて短剣を抜いてロシーの前に立ち降り注ぐ糸を切り裂いた。その刹那、ドフィは笑い出して1気に私との距離を詰めると簡単に私を抱き締める。
見えない筈なのに、簡単に腕に捕らえられてしまえば抵抗する事も難しい。どうして、こんな事に……?
どうしたらいいの。傷付けたくないと言うより、私にはドフィを傷付けられない。
短剣を持つ手が、小刻みに震える。この剣なら、刺せるはずなのに……っ!!
「ナミ、見えないなら仕方ねェよな……前座は出来ねェから、無しで突っ込むぞ」
……ドフィなら、やる。そう判断して仕方なく姿を見せれば、ドフィは愛おしそうに私の髪を掬い上げるので、私からは自然と溜息が落ちた。
ドフィはそのまま、そっと私の髪にキスをして、独特の笑い声を響かせる。そうして髪を離したと思ったら、私の頬をそっと撫でた。
愛おしい……と、その仕草で伝えて来る。いつの間に、こんな事ができるようになったんだろう。
「ナミは、姿が見えなくともいれば分かる」
「気配も、消してる筈よ」
「……自分を、知らねェな。ナミはな、美味そうな匂いがするんだ」
耳元で囁くように後半の言葉を告げられて、二年前にルフィから言われた事を思い出す。私からは、蜜柑の匂いがするのだと言う事を。
でも、ここ二日はホテルとも呼べない安宿の備品使ってたのに、どうして。匂いなんて殆どない筈よ。
「種明かし、してやろうか」
「え?」
「姿を消せる存在は、少くねェ。特殊な装置を使って姿を消せる可能性が高いのは、ベガパンク繋がりの奴と、ヴィンスモーク家の関係者、そして、スケスケの実を含む1部の悪魔の実の能力者と、1部の種族だ」
言われてみれば確かに。私もベガパンクの繋がりで、このクリマタクトを手に入れたんだから正しい。
魚人島にも姿を消してたのは居たわ。擬態する能力を持つ魚介類の要素が強い魚人は、確かに姿を消せる。
でも、それと現状の説明が繋がらない。結局、ドフィは何が言いたいのかしら?
「そういった存在がある以上、仕掛けは常にしてある。見張りが気付けない可能性を考慮して、人質を解放する為にそいつが何をするのか……考えれば簡単だろう」
「鍵を、外そうとする?」
「正解だ。……だからこそ、手錠の鍵は俺の部屋の隣に保管し、
「でも……」
「あァ……ナミは、その鍵に触れていない。だからこそ、犯人は鍵を不要とできる技術を持つ者だと判断出来るって訳だ」
その言葉で、心臓が大きく脈打った。さっき、鍵穴に針金を差し込んだ時のあの違和感は……だとするなら、答えなんてひとつしかない。
更には、それを出来る技術を持つ者に犯人は絞られる。そうなれば、ロシーを助けに来る可能性のある者の中でそれができるのは……。
「鍵穴の中に、糸を……仕込んでたのね。そして、鍵のない状態で手錠を外せるロシーの関係者は、私だけ」
「本当に、賢い女だ。まァ……俺を育てたのはナミなんだから、ナミの出来る事や考える事は大抵できると思って貰えればわかりやすいだろう」
教えた以上の事をしてるのに、何言ってんのよ。これは、明らかに私の手を離れて身に付けた自衛作。
今は協力関係にあるように見えてるけど、実際はドフィの敵は天竜人。世界政府が敵なのだから、この位の頭が無ければ生きられる筈も無いわよね。
なら、こんな所で兄弟喧嘩してる場合じゃないわ。元々二人は恐ろしく仲が良かったんだから、説得できるかも知れない。
「……っ!ねぇドフィ、ロシーはドフィを裏切ってないわ!だから「ロシーを、覚えていないと言っていた女の言葉を、信用できると思うか?」」
「あの時は、まだ知らなかったもの。ドフィだってわかっているで」
言葉を最後まで紡ぐ前に、重ねられた唇が声を奪う。それは決して、貪るようなものでは無い。
吐息が落ちて、唇が触れる。掠める程の1瞬に、わかってしまう事もあるのだと、思い知らされた。
ドフィは、私を、本気で愛してる。私が無責任に全身を預けても、揺らぐ事の無い力を持った身体で、支えるように抱き締めているのがわかってしまう。
逃がさぬようにじゃない。ただ、愛する為に、腕に捕らえているのだと、その僅かな時に伝えて来る。
柔軟で弾力のあるもの、それでいて確固とした意志を持ったドフィの舌が、感じやすい場所を確認しながら、歯列から口蓋へと順々になぞっていく。でも、受け入れてしまう訳にはいかないからと、少々の抵抗を試みる為に身を捩ってみても、私を捕らえる腕はビクともしない。
歳上だからとか、性別が違うからとか、そんな規模の話じゃない。見事な骨格と、それを包む筋肉の鍛え方が違い過ぎるのよ。
例えこの先何十年、ゾロのように自分の身体を虐めるようなやり方で鍛えたとしても、私はドフィを含むこの世界の名だたる男達のようにはなれない。これは、持って生まれた素質も大きく関係している。
重なる角度を変えながら、容赦無く蠢き、唾液を啜る淫蕩な音を立て続ける。なのに、その表情はドフィの方が必死で……と思った時、視線がかち合った。
何かを探るような双眸は、サングラスの為にこの距離だから何とかわかるって程度。出来の悪い生徒を諭す、生活指導の教師みたいに冷静沈着で、それでいて何処か怒ったような顔を向けられる。
「おい、キスの間に目を開けてるのがルール違反って事は、幼児でも知ってんだろ」
「私は望んでないもの。それに、幼児は流石に知らないんじゃない?」
「俺は幼児の頃から知ってたから、ナミにもその礼儀は守って来たつもりだ」
「昔は可愛かったのに。……こぉんなにちっちゃくて!!」
指でちまっと数センチの隙間を作ってやれば、ドフィはあの頃の面影を残す笑みを浮かべた。そんなサイズだった時のドフィは流石に知らないと言うか、産まれてる筈も無いのだけど。
本当に、どうしてこんなにも変わってしまったんだろう。私の話も聞いてくれないし。
「そんな事言っていいのか?部下の前で犯すぞ」
「私を辱めて、ドフィが満足するなら……したら良いわ」
私が怯えるとでも思っていたのか、ドフィは少しだけ意外そうな顔をする。それから騒いでいた部下に視線を向けると、顎で出て行けと伝えるから、身体から力が抜けるのを感じた。
どうやら私も緊張していたらしい。部下の人達が消えるのと同時に、ドフィが妙に優しい声を響かせた。
「さて、ナミ」
「なに?」
「俺はナミを知り尽くしてるが、ナミは俺の事を少しだけ勘違いしている」
「え?」
「ナミの知る、可愛い〝ドフィ〟は、もういねェ」
その言葉と同時に身体が糸で空中に浮かんでるような状態にされてしまう。地に足がつかなくなるだけで、驚く程に恐ろしく感じてしまうのだ。
せめて短剣で切ろうと試みるけど、ドフィがそれを許す筈もなく、手から短剣をもぎ取られてしまう。取り返そうとしたけど、腕は全く動かない。
「やだ!返して!!」
「奪いやしねェよ。ナミが大切にしてるのは知ってる」
「ドフィ……」
短剣をそっと私の手荷物に入れると、それを持ったままドフィは笑う。それは、先程までのものとは異なる悪意を秘めたもので……もう、馴れ合う時間は終わったと告げられている気がした。
「ナミには守って貰った恩と、育てて貰った感謝があるから、選択肢をやろう」
そう言って私の頬を舐めると、ドフィはロシーに視線を向ける。痛々しい姿を晒す弟に、気遣いの心でもあるのかと思ったけど、どうやら違ったらしい。
「ナミ……俺の女になるか、俺の奴隷になるか、俺に壊されるか、選べ」
「「は!?」」
私とロシーの声が重なる。それにドフィは楽しそうに笑いながら、糸で引き寄せた椅子にどかりと腰を降ろして、悠然と足を組みつつ言う。
その足元に私の手荷物を置いて、自分はのんびりとした様子を見せるのだから憎たらしい。挑発的に笑うのは、ドフィの悪い癖だと思うわ。
「俺の女になるなら、大切にしてやる。俺はナミを、愛しているからな」
「ドフィ……私はル「だが、ナミがそれを拒むなら、奴隷になるしか正確には道はねェ」」
遮られた言葉に、強い不快感を抱くけど、3つあった筈の選択肢が消えている事により私は黙って話を聞く他なくなってしまった。ドフィはそんな私を嘲笑うかのように、言葉を紡ぐ。
「俺を拒むなら、受け入れる迄……虐め抜いてやるよ。それでも従わなけりゃ、その内壊れる事になる。……まずは、調教してどんな時でも俺を求めるようになってもらおうか」
「なる訳、無いじゃない」
「ロシーが、死ぬとしてもか?」
「え?」
何の聞き間違いだろう。ドフィが、あんなにも大切にしていた弟に攻撃するなんてある筈ないのに。
世界の全てが敵でも、守ると決めて戦っていた優しい兄だったわ。なのに、そんな事をドフィが言う筈ないわよ……ね?
「ナミが逆らえば、ロシーをいたぶる。ナミが抵抗すれば、ロシーがその責めを負う事になる。そしてナミが死ねば、ロシーも死ぬ事になるって話だ」
「そ、んな……!ロシーはドフィの弟でしょ!!」
「だからどうした。ソイツは裏切り者だ!俺に逆らい、俺の敵になる者へ情けなど不要だ!!……ナミには、返しきれねェ程の恩がある。愛してもいる。だから、選ばせてやるんだ。俺のものになるか、それとも……辱めと屈辱を受けて恥辱の中で生き続けるかだっ!!」
その言葉に本気の色を感じてしまえば、声を失ったのは当然だと思う。ドフィは、本気で言ってる。
でも、私はルフィしか受け入れたくない。大切な人に嘘はつけないし、ロシーだって傷付けたくないよ。
「考える、時間を……ください」
「ロシーの目の前で、俺に愛されながら答えを出せばいい。……抵抗するなよ。ロシーが大切なら、な」
そんな事を言われて、抵抗なんて出来るはずもない。それに、私の自由は既に効かないのだから、受け入れるしかないじゃないの。
ゆっくりと、私の衣服が剥ぎ取られて行く。脱がせながらわざと素肌に刺激を与えるドフィに、身体がビクリビクリと反応すればドフィは楽しそうにその口角を上げる。
ジワジワといたぶるように脱がされ、裸体となった私をドフィは面白そうに見て来る。でも、弟に見られて困るようなものはないし、見られて恥ずかしい身体では無い。
それでも悔しくて、キッとドフィを睨み付ければ、ドフィは私から離れて行く。不思議に思ってみていると、鑑賞を決め込んだかの様子でドフィは先程まで座っていたひとりがけのソファに腰を降ろした。
そして、糸でロシーの下半身にある衣服を切り裂いたかと思うと、ロシーの身体を操り始める。海楼石で力の抜けているロシーには、言葉だけでさえ歯向かう事は難しいだろう。
「ナミが反抗的だから、少し先にお仕置きしてやろうと思う」
「ドフィ?」
「なァに、ナミが素直になるように、まずは俺の前で二人の交尾を見せて貰うだけだ」
「兄上!!」
怒りを滲ませた声を出すロシーを、けれどもドフィは気にした様子を見せない。いいえ、別な意味で気にしているのね。
分かりやすく血管を浮き上がらせるドフィは、本気で怒ってるらしい。ドフィとロシーが和解する手段は、もう本当に無いのかな。
「コラソン……お前にそう呼ばれる筋合いは、もうねェ」
「ドフィ……辞めてくれ。頼む。ナミをもう、傷付けたくねェんだ」
「そりゃァ好都合だ。存分に、傷付けてくれ。お前の手で……な?身体のサイズだけは俺と近いんだ。俺の女が俺を受け入れやすくなる前座として……犯しつくせ」
その言葉と同時に、ドフィは私の身体を縛る糸を動かす。大きく足を開かされて、秘部を丸出しにさせられれば何をされるのかなんて考えるまでもない。
絶望に染まった顔をするロシーと、愉悦にとんだ笑みを浮かべるドフィ。身を捩る事さえ出来ない無力な自分が悔しくて、脳裏に浮かぶ愛しい人の名を救いを求めるように無意識に呼んでしまう。
「や、ルフィ……っ!!」
「ナミ、減点だ。前座無しで受けろ」
その言葉の直後、ロシーの身体が私の身体に接近して、濡れてもいない穴へとその肉塊を押し込んで来る。それは引き裂かれるなんてものでは無い、快楽の欠片もない拷問。
メリメリと音がするような気がする。摩擦を楽にする要素もない、互いの肉が張り付き、引っ張られながら強制的に引き摺られる痛みと苦痛。
常識では有り得ないサイズ差で押し込まれるそれは、通常ならばその痛みで意識を失う程だと分かる。……拷問に、慣れ過ぎて意識を飛ばす事さえ出来ない。
でもその苦痛は当然入れる側も同じ事。痛みに震えて、声を押さえて、なのに、気遣うように私を見詰めるロシーに私の方こそ謝らなくては。
ロシーは、何も悪くない。ごめんね、巻き込んでしまった。
「ごめん、ロシー……」
「ナミ?……っどう、して、謝るんだ?」
「私の、ミスだもの。助けそこねて、ごめん、ね」
その時ドフィがロシーの手を動かして、私の胸を揉み始める。すると痛みが微かに和らぎ、呼吸が落ち着いていく。
すると、操る事さえできなくなっていたらしい身体が楽になった為に、再び動かされ始める。それはつまり、止まっていた挿入が強制的に再開されてしまうと言う事に他ならない。
痛みと苦痛で会話が消えれば、身体の上げる悲鳴のようなギシギシという音が耳に届くだけ。そんな私とロシーを、ドフィは指先を事務的に動かしながらただ見ている。
やめて欲しいと願ってドフィに視線を向ければ、ドフィは動きを止めた。そして、肩を竦めると、静かに問い掛けてくる。
それは何処か、凪いだ海を思わせる。そのまま穏やかで居てくれるのか、嵐の前の静けさなのかは不明だけれど。
「俺の女になる事を決めたなら、辞めてやろう。……俺は鬼じゃねェ。
「ドフィ……もう、やめて」
「違うだろう。俺の女になるか、奥に注いで欲しいかを選ぶしか、ナミに選択肢はねェ」
私が答えるまでこのままでいさせるつもりなのか、半分程繋がった状態でロシーは動きを止めている。それにより身体の痛みは随分薄れて来て、呼吸と思考が落ち着いてきた。
ここで縋れば、ドフィは優しくしてくれるだろう。ロシーの事もこれ以上苦しめたりしないのかも知れない。
それでも、ここで従えばドフィの行為を認めた事になる。暴力で、人を支配出来ると、心さえも簡単に手に入れられると教えてしまう。
姉として、母代わりとして、それは出来ない。どれ程大きくなろうと、あの時のドフィを私は知っているのだから。
「ドフィ……いくら辱めても、身体を好きにしても、私の心はルフィのものよ」
私も海賊。求めるものがあるから海へ出たの。
そして、海賊が1度手にした宝を簡単に手放すなんて考えないで欲しい。そう思って笑えば、ドフィが静かに目を伏せた事がサングラス越しにもわかった。
明らかなる交渉決裂。室内には今、物音1つない。