ドフィは独特の笑い方を響かせると、私の髪を指に絡めてキスをする。ベッドどころか椅子ですらない、床の上でされていると言うのに、ただ喘ぎ哀願する事しか出来ない自分がいるのだから情けなくて……自分を呪いたい程に憎んでしまいそう。
僅かにでも弄られると、身体の全てが悦び乱れる。玉の汗を弾きながら、胸が大きく上下する。
ロシーがこれにより辛くなるなら、見なくていい。聞かなくていいの。
私は、自力で対応できるから。だからどうか苦しまないで。
精一杯耐えて声を抑えるけど、弱い所を狙って刺激されれば抑えきれない声が出てしまう。やめて、ロシーを傷付けたくない。
「やっ……ドフィ、もう、嫌っ!!」
「まだ始まったばかりだ。楽しめよ。……あの薬は、意識を飛ばせなくなる効果もある。安心して乱れてろ」
ドフィから向けられる言葉に、身体が震える。そんなの嫌だと嘆いても、それはドフィを喜ばせるばかり。
その上身体は私の懇願を踏み躙るように、悦びに身悶える。蜜柑を思わせる色の髪を床に叩きつけながら、辞めてと訴えても身体は昂り続けて行く。
胸の飾りを舌で転がされ、甘噛みされ、強く吸われる度に、下半身にまで甘い痺れが伝わる。それにより強制的に呑み込まされているドフィを、強く締め付けてしまう。
「乳首弄ると、それだけで締りが良くなるな。そんなに、気持ちイイか?」
「やぁっ……いわ、な……「いくらでも言ってやる。ナミは、淫乱な俺の花嫁だ」」
嫌がれば嫌がる程、ドフィはそれを楽しそうに行う。ひとつ弱味を知られれば、それは繰り返し続けられるのだ。
右の乳首、左の乳首、交互に弄っては突き上げられ、交互に吸っては突き上げられ、身体の反応や締り具合を試される。幾度も、幾度も……飽きる事無く。
その度に私は逞しすぎる男芯を締め付け、更に奥へと飲み込もうとあられもなく腰をくねらせる。もっともっとと、身体は快楽に溺れて悦びながら。
胸苦しい程の悪夢の中、沈んで行く太陽を感じながら皆を思う。約束の時間には、帰れそうもない事を自覚してしまったから。
今は逃げる手段も、帰る手段も見つからない。湧き上がる愉悦に乱され、淫らな喘ぎを漏らすだけ。
「あ……はんっ……どふぃ……やっ……あぁぁ」
ひっきりなしに迸る悲鳴を直に感じようとするかのように、首筋に押し付けられた熱い感触。何かを言おうとして途中で飲み込まれてしまったのか、触れるドフィの唇から発せられた声が、何処か切なさを含んで消えて行く。
それを訝しく思ったのも刹那の事。埋め込まれた刺激と、首筋に押し付けられた唇の熱さに狂わされ、何も考えられなくなってしまう。
長い長い、官能という名の責め苦の終わりは、まだまだ見えそうもない。中に放たれた熱い愉悦を感じ、意識が遠のきそうになっても戻されるそれは苦しいばかり。
涙で滲んだ視界の中、何処か苦しげに歪んだドフィの顔を見てしまえば、襲ってる側がそんな顔しないでよと思ったのは当然だと思う。その時、ドアが粉砕された。
文字通り、跡形もなく。何事かと思って視線を向ければ、見知った男が私を認識して肩を竦めてみせるけど、ドフィはその唇をこれでもかと釣り上げて笑い出す。
「ワニ野郎……何しに来やがった?」
「ビジネスに決まってんだろ」
「落ち目のワニが……と言いてェ所だが、話くらい聞いてやる」
「その前に、目障りだから女から退け」
ここまで徹底的にこの状態の女を無視できるって、本当に凄いと思う。私に興味無いんだなぁって思えば、何でか気が楽になった。
ここで敵が増えたんじゃなくて良かった。味方とは思えないけど、敵でも無さそう。
そんな事を考えている間にドフィが妙な事を言い出した。それは、私の身体を硬直させるには充分すぎる言葉。
「……ナミの候補者の1人だろ。参加するか?」
「女を共有する趣味はねェ。……ソレには、誰に何をされても変わらない気高さがある。辱めて嫌われるのは、損でしかないと思うがな?」
「残念ながら、俺は嫌われねェんだよ」
ドフィの言葉に、クロコダイルはクハハハハッと笑い出す。そしてドカドカと歩み寄って来たと思うと、その鉤爪でドフィに攻撃を仕掛けるからドフィが私を抱いて移動する事になった。
それにより中が恐ろしく刺激されて悲鳴が上がれば、ロシーが慌てた顔でこちらを見たけどそれを気にする余裕は無い。素直に、苦しい。
考えて見てほしい、突然の駅弁みたいなものである。薬が使われてて痛いって、普通なら痛みで意識飛ばすレベルの最悪な行動と言える筈よ。
「やっぁ……どふぃ、ぬい、て……」
「クハハ!安心しろ、ナミ。その状態じゃ天夜叉はまともに戦えねェから……すぐに死ぬ。そうすりゃ解放されるだろ」
「や……!ドフィを、ころさ、ない、で……」
「甘いのもここまで来りゃ大したもんだな」
呆れを隠さないクロコダイルは、けれども攻撃の手を緩めはしない。ドフィも仕方なさそうに私をロシーの方へと投げ飛ばすから、その刺激で身体が痙攣するけど、力の入らない筈のロシーが私を支えて即座に私の手荷物を手にして壁際に移動する。
護ろうとしてくれてるのが分かり、私はそっとその手錠に手を伸ばすと、それを外す。ロシーはこれで、案外優秀なのよ。
解放されれば逃げ出す事に問題は無い。ドジ属性が無ければ、それこそ大将だって狙える器なのだから。
ドフィとクロコダイルが戦ってる今なら、どうしたってドフィには隙しかない。だから、今の内にロシーを解放するのは当然の事。
「これで、ロシーは、逃げられ、る……わ」
「自分の身体を動かすのが精一杯だ。だから、俺は逃げられね「なら、飛ばしてやるよ」」
突然聞こえた声に驚いて顔を上げれば、目の前に迫っていたのはクロコダイルの顔。驚き硬直している間に、吐息が鼻先を掠めたかと思うと、柔らかな感触が唇に触れて来た。
そのまま強引に入り込んで来る舌の粗暴さに恐れすら感じて、本能的に唇を引き結ぼうとする。けれども私の抵抗など練達の男に通用はしない。
唇をやんわりと甘噛みされて、痛みと悦楽が綯い交ぜになった感覚に、ふと正気にかえる。何故、キスされようとしてるんだろうと。
それにより疑問を口にしようと開いた唇の隙間から押し入ってきた舌に、敏感な粘膜を撫でられれば声なんて、言葉にならない。ぬめって、熱くて、弾力がある。
いやらしく蠢くそれが、感じやすい歯茎から始まり、頬の内側の筋肉の辺りや、口蓋の上から喉に至る部分を含め、脆い場所をこれでもかと撫で回す。そうして否応なしに溢れる唾液を啜り、息苦しさに喘ぐ私に余裕の表情で口付けを解いた。
「この駄賃で、働いてやる。……外に出れば、どうにでもなる。飛んでる間、逆らうなよ」
その言葉に驚いている間に、砂を使った竜巻が発生して私はロシーと共に浮かび上がる。咄嗟にロシーに手を伸ばせば、引き寄せて守ろうとしたのに何故か逆に抱き締められてしまいそのまま外へと弾き飛ばされてしまう。
「貸ひとつ、そう伝えておけ。お前の〝パパ〟にな!」
どうして助けてくれたのか、どうして突然現れたのか、何よりパパって誰を意味してるのか、聞きたい事も多かったのに私は何も聞けないままに城の敷地から離れた所へと竜巻で運ばれてしまった。けれども着地までは考えてくれてなかったらしく、落下して行く中で月歩を使おうとしたのに足が上手く動かない事に絶望する。
せめて私がクッションにと思ったのに、それをロシーは許してくれなくて、ロシーが地面に叩き付けられてしまえば心配にもなる。慌てて飛び退いて、ロシーの傷の状態を確認しようとした所で、掴まれた腕。
今度は誰!?と視線を向ければ、そこに居たのは……。
「ベック……」
どうやら、クロコダイルの言っていたパパは、ベックらしい。確かにビブルカードにはそう書かれてるけど、なんで知ってんのよ、あの男。
そんな事を考えて思考を止めている間に、強く引っ張られる腕。バランスを崩した私の耳に届いたのは、苦しそうなベックの震える声だった。
「無事で良かった。ナミ」
そのまま抱き締められてしまえば、私の涙腺は壊れてしまう。止めどなく溢れる涙を拭う事もできないままに、私はその胸に頭を預けた。
なだめるようにベックは私の頭を撫でる。ピヨピヨと跳ねる髪が、きっとベックの指とかに絡んでると思うけど、それを確認する余裕なんて無い。
「お頭は来てない。俺の単独行動だ。……この近くにある島に皆で揃って居るから、必要なら寄った時会ってやれ」
「ベック……ベック……っ!!」
「皆、心配している」
「ベックッ……!!」
そのままベックのシャツに縋るようにしていれば、ばさりと何かが肩にかけられる。見ればベックのいつも着てるマントで……。
いまいちよく分からないその趣味。でも、こうして何かあるといつもかけてくれるから、なんか定番みたいになってると気付く。
「何も着てない状態だと、流石にな。……おいあんた、動けるか」
「ああ、ナミの、知り合いか?」
「そうだ。とりあえずルフィの船で良いな。歩けるか」
「手は、煩わせねェよ。……ナミ」
二人の会話を聞いていれば、突然ロシーに呼ばれて視線を向ける。すると差し出されたのは私の手荷物。
その中には武器も全て入っていて、ホッと息を吐き出せばベックにそのまま抱き上げられた。何事かと思いながら手荷物を強く抱きしめると、ベックが優しく笑うから声を失ってしまう。
いつだったか、ベックがこんな顔するのは私とシャンクスにだけだなんてヤソップが言ってたわね。でも、それって幼子を見守る親の心理なんじゃないかしら?
そうして無言のまま歩き出すベックに私は慌てるけど、ロシーはふらつきながらも歩き出す。私は自力で歩くから、ロシーを支えて欲しいと思ってベックのシャツに手を伸ばせば顔が近付いてきて、額に軽くキスをされてしまう。
「本人がいらねェと言う時に手を出すのは、男にはプライドってもんがあるから無理なんだよ」
「でも……」
「俺のそれ、前が閉められねェから、俺に抱き着いてないと見えるぞ」
「ベックがいじめる……」
確かにベックのコレは、本来着る為のものではなさそうなので仕方ないとわかっていて、少しいじけて見せる。……と言うかシャツもベックが着てるとパツパツだから、多分裸族趣味はないけど動きやすさ重視の観点で選んでるのよね。
……私が着ると、ノースリーブのミニワンピになるのに。不思議だわ。
「今度はちゃんと、送らせてくれ。あの時どれ程後悔したか」
「ベック……ごめんね」
「馬鹿が……。あれは俺の手落ちだ。……それにしても、そろそろ天夜叉には制裁が必要だな」
聞こえて来た物騒な言葉に背筋を冷たいものが走る。ベックを怒らせるとシャンクスと同等に危険物になるのは、私も知ってるのよ。
だから思わず、私は首を横に振る。だって、大切な人達が争うのなんて見たくない。
「やめて、ドフィは私の弟よ」
その瞬間、ベックが足を止めた。それから可哀想なものを見るような顔で私を見るから、何かイラッとする。
「明らかにナミは、天夜叉の半分も生きてねェと思うが?」
「……ドフィの事は、私が育てたのよ。ドフィの戦い方は、私が教えたし……料理も私のそれが基本になってるわ」
「……偉大なる航路並に、訳の分からん奴だな。だが……嘘でも無さそうだ。確かにナミの戦い方と、天夜叉のそれは似てる所はある」
そう言って優しく笑ったベックは、私に負担をかけないように揺れを少なく歩き出す。私はそんなベックの首に腕を回して、その負担を少しでも軽くしようと試みる。
そんな私にベックはふっと笑って、直後に受けた首への衝撃。それに驚くよりも早く沈んだ意識は、間違いなくベックに奪われたんだと理解した。
意識を取り戻した時には自室に居て、隣のベッドにはロビンでは無くロシーが寝ている。そっと手を伸ばせば少しでは無く高い体温で、汗も酷いと気付く。
「ロシ……」
声は最後まで名を呼ぶ前に消える。このまま、寝かせて置いた方が良いと判断したから。
そっと身体を起こしてみれば驚く程軽い。身支度を整えて甲板に出れば、既に作戦は開始されているという話だけど……。
どうやら本来の流れに戻ったらしく、ローちゃんはガスの奴を連れてロビン達と出発したらしい。当然ロシーとも会ったらしいけど、怪我人が二人という事で、私とロシーは女部屋で寝かされていて、船医としてはチョッパーが残ってるので作戦は予定通り動き出した。
そう、原作知識がなくても分かる相違点は、ロシーがここに居る事と、もうひとつ。今も私を心配そうに見詰めてるこの人の存在。
「ナミ、体調はどうだ」
「うん、落ち着いた。でも、ベックは……その、帰らなくて大丈夫?」
「折角だから、送って貰おうかと思ってな」
「でも、ベックにはルフィとの約束が……!!」
「それは、お頭とルフィの約束だ。ルフィも、俺経由で返す事はねェだろ」
何を言ってんだって感じで笑うけど、でも、私はルフィ無しで出航するつもりなんてない。つまり送って行くって事は……。
「送って行ったら、ルフィとシャンクス会っちゃうでしょ!?」
「二人が会えるかは、この作戦とやらがどうなるか次第だろ。問題ねェよ。それに……」
そう言って言葉を切ったベックは、私を強く抱き締める。そして、多分殴っただろう辺りを撫でるから、後遺症の有無を確認してるんだと理解した。
その指先が優しい。私に、ベックはいつも甘い。
「今はまだ、ナミを手放したくねェ」
「ベック……」
「ここに居るメンバーじゃ、ナミを護れるとは思えねェ」
「……言うじゃねェか。いくらナミさんの兄貴でも聞き捨てならねェぞ!!」
怒髪天の勢いで怒るのはサンジ君で、ブルックもそれには頷いている。その上チョッパーまで膨れっ面だわ。
ここでチョッパー可愛いとか言ったら怒られるかな。でも、本当に可愛いのよ。
「ナミの事は俺が守るって決めてんだ!!それからナミ!また1人で無茶して!いつになったら学習するんだよ!!」
「ご、ごめんね……?」
チョッパーが膨れっ面なのは、どうやら私に責任があったらしい。ごめんねと謝れば、チョッパーは大きな人型の姿からいつもの可愛い姿に戻る。
それから愛らしい足音をたてながら私に近寄ると、心配そうに見て来るから、もう大丈夫と笑ってみせる。そんなやり取りの中、少し離れてモモちゃんが居るから手招いて甲板に腰を降ろした。
膝枕でもしてあげようと思ったのだけど、それに即座に気付いたらしいサンジ君が膝掛けとかクッションを揃えて来てくれて、それに小さく笑う。……怒ってた筈なのに、私に対しては相変わらず紳士よね。
「皆は、今の所本当に作戦通りなの?」
「約束の時間より前にナミさんは戻って来ましたし、ルフィはその前に飛び出しましたから。……駄目だ。なんか超絶不安になって来たので、少し様子見てきます」
「え!?待っ……」
呼び止めるより早く出発してしまったサンジ君に、確かこの船の守りにサンジ君振り分けられてた筈よねと思う。とりあえず、チョッパーはロシーを診に行ったので、甲板に残ったのは私とブルック、モモちゃんとベックになった。
その時、ベックが突然言い出した。それは、私がここに帰れた理由の真相。
「折角だ。今のうちに話しておこう。ナミにあの場で会ったのは、偶然じゃねェ」
「え?」
「お頭は目立つからな、ナミの安否確認する迄という事で俺だけ別行動していて……この島に到着したのが、会った三時間程前だ」
「へ?」
「そこでビジネスの関係で来ていた英雄殿と会ってな。色々辺りの噂などを元に考えたら……ナミが誰かを助けに1人で突入して捕まったらしいと分かり、俺の所へ逃がして貰う事になった」
……何から突っ込んだらいいの?え、これは何事?
混乱する私にベックは続ける。煙草から立ち上る紫煙に視線を向けて、現実逃避したい気分よ。
「予定通りに英雄殿がナミを逃がしてくれたんでな、俺の使っていた船は奴にくれてやった。結果俺は船がない。……送ってくれるな?」
「……はい」
これ、断れないやつ。そうよ、そもそもベックに口でも戦いでも勝てる筈無いのよ。
そう思って溜息を落とせば、ベックは優しく笑うから、余計にいじけたくなる。ベックは安定の、兄だった。
「でもそっか、だからクロコダイルが貸ひとつって伝えておけって言ってたのね」
「それは船に食料等を積み込んでおいた事で返したから、心配いらねェ。本当は俺が助けに行きたかったが、俺だと到着に時間がかかり過ぎるからと断念した」
ベック1人で、この国を崩壊させてしまう危険があったと知った私は、クロコダイルに内心で物凄く感謝しておく。それにしても、どうしてベックが負ける事ってイメージできないんだろう。
ベックが〝優しい兄〟なのは、私に対してだけだなんて事を、私はわかっていなかった。大将達でさえ、直接戦う事を躊躇うような男が、優しいだけである筈ない事を、私は本当の意味では理解出来ていなかったのだ。
それを理解するのはもっとずっと先の未来。今はまだ、過保護な兄の姿しか知らないでいる。