何も、ベックに心配かけたい訳じゃない。迷惑だって、望んでかけてるわけじゃないのよ。
それでも、私には譲れないものがある。だから……ごめんね、ベック。
「〝ROOM〟!!」
「トラ男君!!〝ぐるわらの一味〟出航しますっ!!」
「早く行け!!」
ローちゃんの言葉に反応して、チョッパーが叫ぶように言う。それにローちゃんは視線も向けずに言い捨てて、そのまま能力を使うタイミングを見計らっていた。
そんな時に、ローちゃんに怒鳴るような勢いで言葉を向けたのはサンジ君だった。その言葉は、私をハッとさせるには十分過ぎる。
「おい、ロー!!シーザーを遠くへ運ばなきゃならねェのはわかる。先へ行くのもナミさんを待つのも構わねェが!!ドレスローザは作戦の
「「隕石隕石~!!」」
「〝タクト〟!!」
ローちゃんの技により、隕石は軍艦にぶつかる。それにより火を噴いた軍艦は、とりあえず私としては問題ない。
そこで残る問題は、ドフィだけ。私はベックに強く抱き着いてから、笑う。
ごめんね。でも、必ず帰るから。
「行ってきます」
「待ってる」
「皆も、上手く逃げてね」
「分かりました。って!さっきの鞭です!!」
「〝
向けられたその技は明らかに鞭。って、さっきの鞭って事は2度目なのかな?
見た覚えのないそれに少し動揺していたけど、なんかあの動かし方覚えがある。そう、私が流星錘使う時のそれと似てる気がするわ。
「あら、私鞭は扱い方教えてないのに」
「ナミは、腰のそれを鞭にして使ってただろうが!!見てりゃ覚える!」
「優秀な事ね」
私がドフィと話してる間に、攻撃を防いでくれたローちゃんがサンジ君に簡単に説明して、チョッパーがサニーで飛ぶ準備をしてくれる。私はローちゃんの横でその服を掴むと、人質を取るローちゃんの邪魔だけはしないようにと息を吐き出した。
強く瞑った目を開けば、場所は船の上から橋の上へと移動していて、私とローちゃん、そして女幹部が少し遅れて現れたドフィと向かい合う。ここから、どうやって逃げるべきか……そう思って居たけど、逃げる前に戦いになりそうだとわかる。
ドフィとローちゃんは睨み合いながら、言葉で戦う。私の仲間を半分逃がした所でどうにもなりはしないだろうとドフィは言うし、その意見には通常ならば賛同するところ。
「あいつら全員……いや、そこに居るナミ1人でも人質にすりゃ、シーザーなんてすぐ返しに来る」
「……残念だが、俺と〝麦藁の1味〟との『海賊同盟』はここまでだ!」
「あァ!?」
「手を組んだ時から……あいつらを
ローちゃんの言葉に、やはり……と思う。初めからローちゃんは死ぬつもりだったのだと、確信を得る。
私はそれを受けて、思わずローちゃんの事を睨んだけど、ローちゃんはドフィを睨み付けたまま微動だにしない。ロシーは生きていて、怨みなんて無いと思ってたのに、どうしてローちゃんはドフィにこんなにも執着するんだろう。
「……もし、この戦いで俺がお前を討てなくても『SMILE』を失ったお前は、その後カイドウに消される」
「成程。刺し違える覚悟か」
「お前が死んだ後の世界の混乱も見てみてェが……俺には、
波の音が妙に大きく響く。長い沈黙を破ったのは、ドフィだった。
ローちゃんの捕らえている女幹部をどうするのかと誰何するドフィと、死を厭わない事を伝えるそれは……妙に切ない。私があの日ドフィによって助けられたから、ドフィは原作と同じように歪んでしまった。
それが必ずしも〝悪い事〟とは言えないのが辛い所。だって、ドフィの言い分にも正しい所はあるもの。
ドフィがその生き方をしたからこそ、助かった生命がある。そして……世界は歪む事なく、存在しているのよね。
「ローちゃん、どうしてそんなにドフィを?ロシーは
迷いなく、澱みなく紡伝える言葉。それを受けて、ドフィは馬鹿にするように、そして、切なそうに笑った。
どちらとも取れて、どちらとも言えない笑い方。そんな顔、させたい訳じゃないのに。
「……違うな」
「え?」
「ナミは海兵じゃ無かった。つまりは、ナミが海軍に情報を流していたなんてのはできねェ事だったんだよ。つまり、ロシーが俺を裏切った事に変わりは無い」
「そんなのどうにだって「確証も無く、俺が弟を痛め付けたと思うのか。……ロシーはナミが到着する直前に、海兵だった事を認めた」」
静かな声だった。凪いだ海を思わせるような、次に来るだろう大津波を予見させるようもの。
でも、そっか……調べたのね。恐らくは、私を探す関係で……ロシーが海兵だと知ってしまったんだわ。
だからこそ、悲しみが怒りになってロシーを許せなくなった。その中で、ロシーはドフィに最後まで嘘を突き通せはしなかったのね。
そうと分かれば、私も伝えておくべき事がある。せめて、ローちゃんがドフィの家族を殺した訳じゃないと伝えなければ。
「今回、モネが死んだのは、シーザーの責任よ。彼が殺したの」
「あァ!?」
「モネの心臓を貫いたのは、シーザーなのよ。ローちゃんは直接手を下しては居ない。いつもね、ローちゃんはその1線を踏みとどまるの」
「……随分と、甘くなったもんだな。やはり、俺もあの時ナミを手放さなければ、そうなっていたのかもな」
互いに思い出して居るのは、あの遠くて近い共に過ごした日々。幼くも賢く、優しかったドフィは生きる為に手を汚して……結局、本当に守りたかった相手を誰も守れなかった。
私は、あの凄惨な過去に関わったにも関わらず、何も出来なかった。いいえ、寧ろ荷物になっていた気さえするわ。
落ち込んでしまいそうになった時、ローちゃんが声を出した。それに耳を傾ければ、幼いローちゃんがあの時何を思ったのか、分かるような気がしてくる。
「あの日……俺は、ナミが俺達を庇い自ら囚われたのを
「でも、事実私は生きて「それは結果論だろうが!!」」
言葉を失い、身動きも取れなくなった私をローちゃんは震える腕で抱きしめながら、ドフィを睨み付ける。それによりドフィは高笑いを開始して……直後、視界が歪んだ。
ローちゃんがその場から消え失せたのだ。幾度もそれを繰り返して移動を続けた結果、国内に無事到着した。
「ローちゃんはこの後どうするの?」
「ナミの治療だ」
「へ?」
「……誤魔化せると思ってたか。薬盛られただろ」
その言葉にやっぱりお医者さんなんだなぁって思う。そう思って笑うと、近くの酒場を示されて私はローちゃんに付き従うようにして入店する。
そこには先日とは少し違う客層がいて、客達の会話からコロシアムに海軍が突入しようとしてるらしい事を知る。……でも、おかしい。
ドフィが治める国で、海軍が動くって……どういう事?
ドフィは今回王を辞めてなかった。そうなれば海軍を呼んだのは、私達に対するカムフラージュでしかない筈。
それなのに、コロシアムに出た人間がその前後にでも海軍に捕まったとなれば、間違いなくその後の経営に支障が出る筈よ。……海賊が捕まったりしないと確信できるか、捕まってもそれが表に出ない手段があるって事?
あれ?……そう言えば、この国には動くオモチャが多いわね。
表立って工場がある訳でもないのに、オモチャが大量に作られているってのはどういう理屈なのかしら。日本でもロボット技術は高まりを見せていたけど、二足歩行できるのはそれ程多くない。
その上で、あんなにも軽やかには動けない。ベガパンク関連なら、ドフィの国にだけあるのは可笑しい事になってしまうわ。
そうなると……何かの能力者によるものと考えるのが妥当。ならば、元になった存在がある筈よね。
ロギアは自分の身体を自然のものに変える。ゾオンも自分の身体を動物に変化させるわ。
そうなるとパラミシアの筈。そして、どれであっても共通してるのは、無から有を生み出すのではなく、既にあるものを変化させるのが悪魔の実の能力。
磁石で近くの貴金属を集めて、身体の1部としたりしてたのもいたわ。なら、人形やぬいぐるみに生命を吹き込むのだとしても、吹き込む為のその生命はどこから来たの?
誰かの生命を移行させたのならば、オモチャであれ大切な人が蘇るのだからもっと騒ぎになったり色々ある筈。なら……
その時、騒ぎが起きた。人間病だと騒ぐ人達と、オモチャが悲痛に叫ぶ姿が目の前で繰り広げられる。
恋人なんだと叫んだオモチャに怯える女性。その女性を庇う男に、親友なのに分からないのかと叫ぶオモチャ……。
背筋を冷たいものが走る。思わず自分の身体を抱きしめるようにしてしまうくらいに、それは恐ろしい仮説。
「……まさか、人をオモチャにする能力者がいるの?」
でも、そう考えたら辻褄は合うわ。人がオモチャになったのならば、動くのも喋るのも当然の事。
そして、その能力を使われてオモチャになった人間は、他の人の記憶から削除されるんじゃないかしら。それならば、今目の前で起きている現象に納得ができる。
と言うか、そうでなければこの状況は有り得ないし、海軍にコロシアムの参加者が捕まる筈無いのもわかる。寧ろそのお陰で色々と納得できてしまった。
「ナミ?」
「オモチャになった者は覚えているのに、された相手を全員が忘れるのならば……この国のオモチャを味方にすれば、ドフィでも対応するのは難しくなる。なら、ドフィの傍にいる筈の存在を私は探し出せば「ナミ!!」」
突然肩を掴まれた私は、近くにオモチャ達が集まり人が減っている事に気付く。異様な光景に言葉を無くせば、オモチャ達が次々と頷いた。
どうやら私は、また何かをやらかしてしまったらしい。でも、それにより賛同を得たのか、オモチャ達が私のそのミスを庇ってくれたらしい事は何となく分かる。
だから、オモチャ達と肩を掴んでるローちゃんに視線を向けて頷いてみせる。見えないように隠されていた真実に、身体は震えそうになるけどね。
「ありがとう。……気を付けるわ」
「そうしてくれ。まずは治療だ」
「病人なら、ここの突き当たりの部屋を使うといい。店主には話しておくポン!!」
そう言ってくれたたぬきっぽいオモチャに、私が何かを返すより早くローちゃんが頷く。そうして私はローちゃんの治療を受ける為に、部屋へと足を進めた。
でも正直、ローちゃんを休ませたいのよね。ローちゃんの能力は体力を消耗するタイプだし、正直ここまででローちゃんは傷だらけである。
部屋に入って向かい合わせに置かれた木の椅子に腰を降ろせば、ローちゃんもそれに従うように腰を降ろした。その姿は明らかに疲れていて、元々頭脳戦が得意だったらしい事を思い出せばロシーとの相性は最悪ねと思う。
ドフィとローちゃんは、元々が体力面ではドフィに分がある。それに加えて、体力消耗型のローちゃんの能力と、ただ糸を操るドフィでは体力面での差は歴然。
そうなると残るは頭脳戦だけど、その頭脳戦の基礎知識はドフィがローちゃんに教えたもの。そして、それを改良したのがローちゃんなら、それに経験と実績を併せ持ったのがドフィ。
そうなるとほぼ差は無いと見ていい。だからこそ、正面から戦えばローちゃんに勝ち目はないとわかる。
「ローちゃん、まずは自分の治療からしなさい。人の心配してる場合じゃないし、今は作戦を成功させる方が大切でしょ」
「ナミ……」
「ローちゃんはさっきドフィに
私の言葉にローちゃんは黙るけど、ローちゃんはそれが肯定になる事を知ってる筈。沈黙は時に、何よりも真実を雄弁に相手に伝えてしまう。
「ローちゃんは〝死ぬつもり〟でこの作戦を立てた上に〝刺し違える覚悟〟でここに来た。だから確かにある意味で、ルフィ達を
計画を打破出来る可能性と、自分だけでは手詰まりだった時に〝裏切り〟の可能性が無い相手として急遽巻き込む事にした。そうする事で、ローちゃんはルフィの事も守ろうとしたのよね。
ルフィが勝手に動いてしまえば、敵になられてしまうかも知れない。ならば作戦に組み込んで、でも、生命の危険にならないように工場だけ破壊したら、後は四皇のカイドウがドフィを始末してくれる事でルフィは安全を保てる……と言う所迄を計画に入れた。
そして、ドフィを始末する事でカイドウの意識がルフィに向かなくして、暗黒の状態にあるこの国を解放する事を誓ったのだろう。……かつて、ロシーが守ろうとして守れなかったこの国の悲劇を知ってしまったから。
ロシーはローちゃんとドレスローザという国を天秤にかけて、ローちゃんを選んだ。それでもロシーはロシーなりに足掻いたのだろうけど、ロシーが裏切り者であると確信したドフィがロシーの知っている通りになんて動く筈もない。
わかっている。ローちゃんがルフィを守ろうとしたのは、私を理由にしてるけど、本当は〝D〟を守る為だって事を。
だからこそ、心からこれだけは伝えたい。そう思ったら、自然と笑みが浮かんでいた。
「守ろうとしてくれて、ありがとう」
それでも私は願ってしまうの。ローちゃんの生きる未来を。
そしてそれはきっと、許されない事でも叶わない事でもない。私はこの先の未来を知らないけど、死んでしまう予定なのだとしても、運命は変えられると私はもう知ってしまったから。
諦めないわ。私は手の届く範囲にいる大切な人を、むざむざ喪う趣味は無いのよ。