※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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それぞれの行動

 ローちゃんを連れ去ろうとするドフィは、けれども私も狙いに入ったままで……。このままだと私とローちゃんの二人が捕まると分かる。

 ここで、私が捕まる訳にはいかない。そもそも、私がドフィと戦おうとした時点で間違ってたのよ。

 でも、あの状況で、ローちゃんだけを残して逃げるのは無理だった。では、今はどうだろう。

 私までここで捕まれば、被害は甚大。そう思って私は、振り向きもせず錦えもんに声をかける。

 

 「ローちゃんをお願い。私は、私の身だけ守るわ」

 「それは……」

 「私は絶対に、捕まったりしないから!!ローちゃんをお願いっ!!」

 

 ローちゃんを守ろうとすれば、共倒れになる。助けるどころか、今の私では足枷にしかならない。

 それが分かるから、私はクリマタクトで姿を消して、ドフィの視界から消える。それでも、それだけで逃げ切るなんて不可能なのはわかってるのよ。

 その状態から、私の幻を大量に生み出して、不敵に笑ってやる。これ迄の事を思い出せば、ドフィは私が近くにいるのは香りで分かる筈よね。

 でも、だからこそ幻に触れるまで幻だと分からなくなってる筈。それは私の予想通りだったらしく、ドフィは大きく舌打ちをする。

 今は、私が捕まらない事と、錦えもんを含む仲間達を信じてローちゃんから距離を取るのが必要になる。この体調で無理をすれば、間違いなく私が皆の仕事を阻害してしまうわ。

 

 「〝ナミ!!聞こえるか!?〟」

 

 ドフィの猛攻を躱していた時聞こえて来たのはフランキーの声。返事のない私に、フランキーは言葉を電伝虫越しに言葉を伝える。

 必死である事が伝わる緊張感を孕んだ声。そして、抑えきれない憤り。

 

 「お前ェの優しさは美徳だ。だがな……この国に、国民に、天夜叉の野郎がした事は……っ!!どれ程ナミが庇おうと許されはしねェ!!」

 「ほお……あの日の事を知ってる奴から、話でも聞いたのか。フッフッフッ!!それが出来る〝人間〟が居るとは思いもしなかった」

 「〝この国で起きた悲劇をナミも知るべきだっ!!〟」

 「トラ男~!!」

 

 その時突然ルフィが叫び、見ればローちゃんが連れ去られるところ。それにより、私は思考が停止する。

 今なら、飛びかかれば、助けられるかな。でも、失敗したら……?

 

 「ナミ!!トラ男の〝声〟まだ消えて無かった!!だから、信じて待て!!無茶すんなっ!!」

 

 ルフィの声で、言葉で私の思考は動き出す。下手に雷を放つ事もできないから、今は隠れるしか出来ないけど……。

 今は、どれ程助けたくても、結果的に私が捕まらない事が大切。奪われたなら、皆で助けに行けば良いのよ。

 

 「〝次から次へと……!ナミ!話は後だ!今は逃げ延びろっ!!〟」

 

 電伝虫の向こうから、フランキーの声が響く。こんな時、やっぱり大人なのだと教えられた気がした。

 私も随分長く生きてきたつもりなのに、不思議ね。フランキー達に、遠く及ばないような気がする時があるのよ。

 

 「〝ギィヤァァ~!!〟」

 「今度はなんだ!?ブルック達だ!!」

 「サニー号!!どうした!?」

 「〝ビッグ・マムの!!海賊船だァ!!〟」

 

 そこで電伝虫から聞こえて来た情報を纏めれば、サニー号の目の前にはシーザーを求めて現れたビッグマムの船がいる。けれど、フランキーとしてはこの国を助けたいからそんなものが来ては困ると言う。

 ルフィ達はローちゃんの交渉が決裂した事を正しく理解して、エースの実を諦める事を決めたらしい。コロシアムをどうにか抜け出すと言うルフィに、ならばと思って連れ去られたローちゃんを見送ってから、ルフィの速度に合わせるようにして姿を消したまま駆け出す。

 

 「ルフィ聞いて!!ドフィと奪い合うカードは三つよ!〝シーザー〟〝SMILE工場〟そして何故か〝モモの助〟」

 

 私の言葉を、電伝虫の向こうにいる皆まで黙って聞いていてくれる。だから、私はそれに促されるような気持ちで言葉を続けた。

 正直、前は覚えてた事や、過去に飛んだ時の知識と経験まで私は奪われてる。多分、私が勝手に動く事ができないようにとやられたのだろう。

 いつか再び会える時が来たのならば、今度は気が済むまで殴ってやるわ。救える筈の生命も、知識を奪われた事で守れなかった。

 モネだって、ドフィにとっては大切な仲間であり家族(ファミリー)だったのだ。それなのに、私は知識を奪われて……全てがどうにもならなくなってから見せられてしまったのだ。

 情けない。私は本当に、役立たずになってしまった。

 でも、今は自己嫌悪に陥ってる場合じゃない。私の役目は他にある。

 

 「〝SMILE工場〟は、まだ破壊できてないからドフィの物。だけど、残りの二つのカードはサニー号にいる。ローちゃんがドフィと戦ってたのは、このカードを遠ざける為の囮!!……そして〝工場破壊〟の時間稼ぎも含まれてたわ!!」

 

 電伝虫の向こうで、息を飲む音がした。工場破壊が進んでない現実により、ローちゃんがしてくれた事に対して理解ができたんだろう。

 私達は、ローちゃんに守られていた。それなのに、今はまだ何もなしえていない。

 つまり今、私達は大切な人を……恩人を人質に取られてる状態にある。でも、ドフィはローちゃんを簡単には殺さない。

 だって、ドフィはローちゃんの身に宿るその能力を求めているから。殺してから数年待たなくては実は手に入らないし、ドフィのファミリーは既に幹部のほぼ全員が能力者である筈だもの。

 ドフィは大切な人を守る為に金に糸目をつけないから、良い実があれば食べさせて来たのだろう。でも、それが仇となった。

 今は既に傍に居ないロシーも、そばに居る簡単に死を選ぶ事を選んでしまうあの時の少女……ベビー5も、今は悪魔の実の能力者。冷静になって思い出せば、時が過ぎていて分からなかったけど、ベビー5も気付いてなかったけど、私は過去……あの少女と会っていた。

 ドフィが本来、オペオペの実を食べさせて、その生命を捨てさせる予定だったのは……その二人のどちらか。その時になってふと思い出したのは、ドフィの幹部にいたピンクと言う男性。

 彼の妻子を助けたくて、過去にいたあの時私は口を挟んだわ。彼は、家族を守れたのかな?

 ……思考の海に沈みそうになる自分を叱咤して、私は言葉を続ける。皆も、それを待っていてくれると知っているから。

 

 「そこまでしてローちゃんが守った〝カード〟!!私達が差し出しに行くような真似はできない!!そんな事したら、ローちゃんが報われないわ!!」

 「そうだな、わかった!!トラ男は俺達が、必ず奪い返す!!だから……ナミはサニー号の皆と先にゾウへ向かってくれ!!」

 「〝なら、俺がナミを迎えに行こう。……ルフィ、異論はないな〟」

 

 突然割って入ったのはベックの声。つまり、ベックは今サニーの上でビッグマム海賊団にその姿を見せながら、仲間達を守ってくれている。

 絶対……と言える事は案外多くない。それでも今回は絶対と言える事だわ。

 ベックは、原作なら絶対こんな所でルフィに関わってない。私の為に、四皇同士の衝突(・・・・・・・)となる事を覚悟して、理解していながら、本船の副船長であるのに庇ってくれてる。

 

 「おう!副船長なら、ナミを何があっても守ってくれんだろ」

 「〝だが……ゾウに行くのは後だ。まずは、その馬鹿猫の治療も兼ねて俺達の縄張りに連れて行く。ナミのビブルカードで、そっちが落ち着いたら追いかけて来て合流しろ〟」

 「わかった!!」

 

 どうやら、私の意識が無い間に会ったというのは本当らしい。その為か、ベックとルフィの会話はスムーズに進んで行く。

 そんな話の終わりに、声が変わる。どうやらサンジ君の手に、電伝虫は移動したらしい。

 

 「〝わかった船長!ナミさんが戻り次第俺達は動く!だが、1つ許可をくれ!〟」

 

 この状況下で、許可?

 そう思って少し待てば、サンジ君は言う。少しばかり楽しそうな声で。

 

 「〝ビッグマムの船に、反撃する許可を!!〟」

 

 それに様々な反応が聞こえる。でもルフィは簡単に許可を与えて、喧嘩は既に売ってあるなんて言うから、電伝虫の向こうでベックが笑う声が聞こえた。

 これでベックは案外声出して笑うのよね。そう言う素直なところが、可愛いと言いますか……。

 

 「〝じゃあお前ら!!赤髪の縄張りで待ってる!〟」

 「〝工場破壊はこっちに任せろ!!〟」

 「皆、無事でな!!俺達は〝王宮〟へ行く!!ドフラミンゴをぶっ飛ばしに!!」

 「ルフィ!!お前が出て来るまで、俺達は逃げ回りながら待ってる。途中であの男に会ったら、ナミは託しとくぞ!!」

 「おう!頼んだ!!」

 

 ゾロはルフィの返事を受けて、私の姿は見えてない筈なのに迷いなく手を伸ばして私を片腕で脇に抱える。完全に、荷物扱いだ。

 でも、今はそれに逆らうより少し休ませて貰える事に感謝すべきかも知れない。走らなくて良くなったのは、正直ありがたいから。

 

 「……血の臭いがすれば、俺の刀が反応する。よく、耐えきったな」

 「ゾロ……」

 「話は、少し蹴散らしてからだな」

 

 そう言ってゾロは走る速度を上げる。それに錦えもんは難なくついて行くのだから、やはりワノ国の侍は強いのだろう。

 そのまま意識が沈み、戻った時には建物の影に入って上手くやり過ごしてる所だった。辺りを伺う二人に、私は声をかけて1度姿を見せてから、三人の姿をまとめて消しておく。

 

 「これで今、消えてるのか?」

 「各々の姿は見えておるが?」

 「私達は互いに見えるけど、他の人には見えてないわ。見聞色の覇気が使える人には無意味だけど」

 「それでも、大半はやり過ごせる。ナミ、ありがとう」

 

 そう言って笑うゾロは、どかりとその場に腰を降ろす。それは、私の事を信頼してくれてる証拠だろう。

 だって、互いに見えていて消えてる自覚を持つのは普通ならできない。なのに、不安を少しも見せずに笑うのだ。

 それが、どれ程私を支えてくれるかきっと知らないのだろう。その時錦えもんが、私を見てその瞳を僅かに細めた。

 

 「それにしても、ナミ殿の出血は尋常ではないな」

 「大丈夫よ、この程度。慣れてるわ」

 「だから、慣れんな」

 「ふーんだ!ゾロにだけは言われたくないわよ。いつもいつも大怪我して、死にかけてたのはゾロの方じゃない!!」

 「そりゃ、ナミもだろ。寧ろ生命の危機って意味じゃ、ナミのが危険だった事が多いだろうが」

 

 そんな言い合いを小声でしてたら、フッとゾロがその空気を変えた。真剣なそれに私も居住まいを正す。

 じゃれ合うような時間は終わった。それをゾロは、空気の変化だけで伝えて来る。

 

 「ナミ、俺達はここが片付けばその後すぐに合流する。ナミにとっては家族のような存在で、ルフィには憧れの相手でも、同盟を結んでる訳でもない以上は敵船(・・)だと言う事を忘れるな」

 「ゾロ……」

 「ナミは甘い。その甘さに俺達は救われてるが、同時にそれが恐ろしく危険でもある。頼むから、気を抜かないでくれ」

 

 真剣なそれを受けておきながら、ベック達は私に危害は加えない……なんて言えなくて、小さく頷くしか出来なかった。そんな私の頭をゾロは撫でてから、この島に起きた過去について、フランキーから聞いたという話をしてくれる。

 底知れない闇が、オモチャという形になっている。それは、私の想定していた通り。

 失われた知識があれば……と、つい願ってしまう。巫女様と連絡取り合えたら、何か教えて貰えるかしら……と考えて、教えて貰えないわよねと思う。

 それに、あの光源体は皆からそれを奪ったと言ってた。つまり、巫女様も知らないんじゃないかな。

 

 「ところで、ナミは幹部について何か知ってるのか」

 「えっと、知ってるのも少しはあるけど、前みたいに見える訳じゃないから詳しくはないわよ?」

 「わかる範囲でいいから、教えておけ。ここで戦う敵の情報だ。あって困る事はねェ」

 

 確かにそうね……と思う。ゾロ達はここでこの先戦う事になる。

 私は戦わないのだから、情報を私だけが持っていてもなんの価値もない何がどう役立つかも分からないし、ロビンが知れば上手く活用してくれる気がしたからゾロを通してでも伝えておきたい。

 

 「ローちゃんと同期だったのが、パンクハザードで攻めてきた二人なのよ。大きくなっちゃってて、認識に遅れは出たけど」

 

 それから過去に知っていた幹部達の名前と特徴を伝えて、その中で気になっていたセニョール・ピンクって呼ばれてた人の事を少しだけ話す。するとゾロがそれに反応した。

 

 「その妻子なら……多分、生きてるぞ」

 「え?」

 「ルフィ殿が参加しておる見世物の受付に、女性と青年がおってな。そ奴らが〝セニョール様のご子息〟と〝奥方様〟と呼ばれていたのは拙者も耳にしておる」

 「息子さんも、助かった……の?」

 

 奥さんの方は、生死が定かではないと原作ではなってた気がする。でも、息子さんは……。

 問題は知識が無いから、どうして喪う事になったのか思い出せないところにある。でも、ドフィがあの時の私の発言を真面目に受け入れて、ピンクさんの家族を守ったのだろう事は理解できた。

 

 「奥方ってのが、息子の名前呼んでたな。確か……ギムレットとか言ったか」

 

 流石に私もそれは、覚えてない。覚えてないけど……と言うか、知識があっても、その辺りを覚えてたかは疑問だわ。

 ただ、過去に飛んでたあの時ドフィに捕まってたのに、福利厚生をちゃんとしなさい!……とか、そんな事を言った気はしてた。けど、まさか本当に守り抜くなんて思って無かったのよ。

 その妻子が無事だと言うなら、それはドフィの功績ね。それならきっと、本来あった絆を超えた結束を見せてくるわ。

 それでも、人の生命だ。私は関わらないのだとしても、大切な生命が守られた。

 

 「良かった……」

 「っとに」

 

 呆れを隠さないゾロに、少しだけ申し訳ないような気持ちになる。いつも、心配ばかりかけてる気がしてしまうから、余計に。

 そうして俯いた私の顎を掴んたゾロにより、強制的に視線が絡まったと思った直後、重ねられる唇。錦えもんは何してんのかと即座に助けを求めるように視線を向けたけど、残念な事に辺りを警戒する為に少し距離を取っていた。

 その僅かな隙に何してんの!?と思うけど、声を出すのは極力控えたい現状、抵抗の為にと腹部に入れた拳。なのに、私の拳が痛くなる謎。

 

 「……っ!?」

 「何してんだ?」

 

 僅かに離れた唇の隙間で、本気で分からない様子で問われる。それが堪らなく不快で、不機嫌さを隠せない。

 

 「やめなさいよ。何してんのは、こっの台詞だわ」

 「……言っただろ。しとけば良かったと後悔するのはもう懲り懲りなんだよ。……ほら、迎えだ」

 

 ゾロの言葉に文句を言おうとした所で、突然身体の向きを変えられてしまう。その真正面に立っていたのは、つい先程まで電伝虫で話していた筈のベック。

 ベックは私の事が見えてんじゃないのかって言いたくなる程真っ直ぐに、迷い無く歩いて近付いてきて、笑った。まるで当然のように。

 

 「ナミ」

 

 それだけで私は何も考えられなくなる。迷子の子供が親を見つけた時のように、何も……。

 私は駆け出して、ベックへと飛び付く。ワンテンポ遅れて抱き締めてくれた腕は、いつもと変わらない優しさを含んでいた。

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