※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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新章開始です。空島編は全30話となっております。
気長にお付き合いくださいませ。


空島編
敵か仲間か


 海軍を突き放し、メリーは波間を真っ直ぐに進む。波間の向こうを……次の島を目指して。

 けれども私を含んだほぼ全員が、今は力無く項垂れている。気持ちはどんよりとしていて、メリーの上は雰囲気も悪く空気は暗い。

 空は快晴。けれども気持ちはそれに反映される事は無く、上手く切り替えられそうに無い。

 それもその筈だ。仲間と認めた者を1組、失ったばかりなのだから。

 ビビもカルーも死んだ訳では無いけれど、また会える保証もない。海賊なんてやってる以上どこで何があるか分からないし、どんどん物理的な距離は離れて行く事になる。

 もしもまた会えるとしたら、ビビが船で国を出るような大きな出来事があった時と、私達が何か理由を持って帰ってくるか、ルフィが海賊王になった後の周回でと言う事になる。だからこそ長くなると分かっている別れがつらい。

 ビビとカルーの幸せを思えば仕方ないのだとは言っても、別れに強くはなれそうにない。寂しさを誤魔化す事のできるような何かも今は思い付かなくて、気分は落ち込んでいく。

 ゾロの呼び掛けに対して揃って寂しいと言ってうじうじしていたら、攫ってくれば良かったとか言い出すから、皆で口々にゾロを罵る事でその空気を変える。私はルフィが海賊王になった後も、1周じゃどうしたって世界地図が完成しないから1緒に航海を続けるつもりだけど、皆はどうするんだろう。

 それにしても、ルフィに何かあった時の指揮権はルフィの最初の仲間であるゾロが取る事が多い訳だから、ゾロは実質的な副船長の筈だ。それをこき下ろしている辺り、麦藁の1味だなと内心思う。

 前にボソリとそんな事を言ったらサンジ君は「実質的な副船長は明らかにナミさんですよ。副船長って何だか知ってますか?」なんて言われたけど、あれはどういう意味なんだろう。

 私は本来のナミちゃんと性格が近いのか全く違うのか、それは分からない。でも私は私として生きていて、麦藁の1味としてこれからもこの海を進んで行くつもりでいる。

 そう決意した時、船内からドアが開き中から人が現れる。その人物はこの1味の中にいる誰よりも背が高い。

 美しい黒髪を風に靡かせて現れたその人物は、表情に微笑みを浮かべつつも、瞳には冷静で知的な色が浮かんでいる。警戒心を失う事無く、いつでも対応出来るようにして居るその姿が、私には妙に哀しく映る。

 

 「やっと島を出たみたいね。ご苦労様」

 「あァ」

 

 その人物の言葉に無意識で答えたらしいゾロは次の瞬間刀を抜いて戦闘態勢に入る。ついでウソップが泣き叫び、サンジ君はハートを振り撒く。

 うん、サンジ君の気持ちはよく分かるわ。同じ女から見ても綺麗だもの。

 チョッパーは皆の反応に釣られたようだけど、実際は誰だか分からないので首を傾げている。そんな中でルフィは冷静になんだとか言ってるから、大丈夫だろうとその様子を眺める。

 ルフィの野生の勘が問題無いという相手なら、実際何も問題など無いのだし、私は描かれていたロビンを好きだったからなのか初めから敵対するつもりなんて無い。見覚えのある服を着てるのを見れば、いつもその身1つで生き抜いてきたから荷物が無いのだと思い至る。

 

 「ロビンはいつからこの船に乗ってたの?」

 「ずっとよ。この服貴女のでしょ。借りてるわ」

 

 着られたなら良かったと思いながら頷けば、ロビンは1瞬その瞳を細めて私を見たけど、次の瞬間にはルフィに話しかけていた。結局のところルフィがいいと言えば、何でも良いのだからその判断は正しい。

 仲間に入れろというロビンは、それまでとは違い少し幼い笑みを浮かべるから、私もまたそれを受け入れてしまう。それにしても、ロビンって珍しく美人系なのよね。

 明らかにこの肉体は可愛い系だし、人魚姫もそう。ハンコックは美人ってなってるけど、ルフィ相手にしてる時とか本当に可愛いし……。

 ……なんだろう、胸が妙に痛いぞ?

 ウソップに視線を向ければ泣きながら怯えているし、サンジ君はロビンにメロメロ。チョッパーとルフィは仲良く戯れているから、残るはゾロだけかと皆の様子を確認する事で、謎の痛みを忘れようと努力する。

 ゾロは警戒心も高くて、なかなか心を開かない1匹狼のきらいがあるから、時間はかかりそうだななんて思う。それでもボーッとやり取りを見ていたら、今度こそ間違いなくロビンと視線が絡まった。

 

 「クロコダイルの所から、宝石持ってきちゃった」

 「ありがとう助かるわ」

 

 ロビンの言葉にそう言って笑いながら近付くと、迷わずその宝石を差し出してくるのでそれを受け取る。見てみれば確かに値打ち物で、ロビンも鑑定が出来るらしいと分かれば安心する。

 ウソップが取り調べ用とか言って用意していた、ロビンの向かいに置かれた椅子に座ればサンジ君が飲み物を運んで来てくれる。それをロビンと向かい合わせで飲んでいれば、ロビンは探るように私を見てくる。

 

 「ロビン、どうかしたの?」

 

 長い沈黙に耐えられなくてつい声を掛ければ、ロビンは困ったように笑うからその先の言葉は紡げ無くなる。

 

 「私、貴方とどこかで会った事あったかしら?」

 

 質問の趣旨は恐らく分かる。だからこそ私は素直に首を横に振る事で応える。

 年齢的にも、オリビアさんと会ったなんて事は有り得ない。だから余計な事は言うまいと心に誓う。

 

 「でも貴方は私の母を知っていた。そうでしょう?」

 

 ドクリと心臓が大きな音を立てる。ロビンの声音は確信に満ちているから、誤魔化せる自信が薄れて行く。

 

 「何故、そう思うの?ロビンのお母さんと私は年齢的に会える筈が無いじゃない」

 

 それでも誤魔化すように言えば、ロビンはその美しい顔に笑みを浮かべて、能力まで使って椅子から動けないように取り押さえてくる。能力で出たその手も体温があるのねと、妙な事を思う。

 花の能力だから、植物である為に体温は無いのだと思っていたけど……そうじゃないのね。そんな事を考えていたら、ロビンが静かな声で問い掛けて来た。

 

 「私の母がいつ死んだかを、どうして貴方が知っているの?」

 「手配書と共に、ニコ・ロビンの話は伝わってるもの」

 

 万が1に備えて用意していた言葉は、ロビンの笑顔を見れば無意味だったと痛感する。これって、なんか良くない感じよね?

 

 「オハラの生き残りとは伝わっていても、その時に母が死んだとは限らないわ」

 「オハラが地図から消えたのは、20年前。私はまだ産まれてないわ。その前に死んでいても、その時に死んでいても会える筈が無いでしょう」

 

 ロビンと睨み合うように微笑み合えば、ロビンは拘束を解いて困ったように笑う。その瞳に翳が宿る事に、気付けなければ良いのだろうけど……。

 

 「知っていて、何故……警戒しないの?私は、オハラの……」

 

 それは暗に何を企んでいるのかと警戒して怯えているのだとわかるから、私は肩の力を抜いて笑うしかできない。怯えているのが、嫌という程に分かるから。

 いくら戦う力があっても、いくら逃げる事が得意でも、女である限り常に恐怖は付き纏う。ロビンの気持ちは……心情は痛い程によく分かる。

 

 「ルフィが〝イイヤツ〟だと言った悪人は居ないし、何が敵であってもルフィは仲間を必ず守るから。だからね、警戒しないで飲み物を飲んでくれるロビンを陥れたりする気は無いのよ」

 

 ロビンは手にしていたカップを覗いて、困ったように笑うと肩の力を抜いたようだった。私の言葉でロビンもまた、色々と分かったのだろう。

 

 「貴女、新聞を全て読んで情報を集めてそれを精査しているのね。その上で、船長さんを信頼している」

 「当然でしょ。私がお金に目がないのも、この船のエンゲル係数が異常だからよ」

 

 理由も無く金の亡者な訳では無い。と、思う。

 そしてふとロビンを見て気付く。服だけじゃなくて、もしかして消耗品とかも何も無いんじゃ……?

 

 「個人的な私物は、あるの?無ければ次の島である程度買ってきてね。ちゃんとお金は渡すから」

 

 ロビンの過去に纏わる知識を総動員すると、ロビンは常に必要以上に身軽なのではないかと気付いてしまった。逃げるのに、荷物は邪魔になる。

 武器の1つさえ、邪魔になっている事もあるから、ロビンは能力のみで生きてきたのではないかと。私だってあの2人から貰った武器と、ベルメールさんに貰った武器だから身に着けてるだけで、その辺で売ってる武器なんて使う気は無いもの。

 これからは同じ部屋を使うのだし、味方でいようと思った。それは、絶対に同情ではないとは言いきれない。

 でも、私にはロビンを同情する資格はないから、ただ、味方でいようと心で決める。今の私よりは歳上だけど、なんと言うかロビンもまた可愛く思えてしまうから。

 

 「ロビン、何か困ったら声掛けて。男には言えない事も多いでしょ。力になるわ……戦闘以外」

 

 戦闘力はロビンから見たら半分以下だと自分で分かってる。そこはキッチリしておかなくては。

 いつの間にかウソップもルフィ達に混ざって笑っていて、いつもの様に賑やかな船内に私はホッとして笑う。お茶を飲み干して席を立てば、ロビンも似たような状態で、ゾロと何やら話をしている。

 ロビンの雰囲気が先程迄より随分と柔らかくなっている事に気付けば、自然と笑顔になる。ロビンには、少しでも気持ち的に楽でいて欲しいと思うから。

 

 「ナミ」

 「ルフィ?どうしたの?」

 「今度はナミより歳上なんだから、無理に抱え込むなよ。いいな?」

 

 ルフィはどうやら、ビビの時に寝なかったのをまだ根に持ってるらしい。それにしても、どうしてこう、この船には問題のある人物しか居ないのかしら。

 何かの分野に置いて言えば、世界が求めるようなレベルの人間だけを選んでいるし、ルフィって……本当に選ばれた人間なのかも知れないわよね。そう思ってルフィを見つめていたら、ルフィに顔を覗き込まれた。

 

 「ナミ、聞いてるか?」

 「聞いてるわよ」

 「なら、返事くらいしろよ。何考えてたんだよ」

 「ルフィの事見て、ルフィの事を考えてたのよ」

 

 私の言葉に固まって身動きを取れなくなるルフィの額にそっとキスを残して、手元の指針を確認する。指針に問題が無いと分かったので、私は蜜柑畑へと足を向けて……その場で動けなくなった。

 それはルフィに絡みつかれたとか、ロビンの能力だとか、ましてやドフラミンゴの能力だとかでは無くて……ただ空から降ってくる物を脳が受け止め切れないでいた為。巨大な船、ガレオン船が空から落ちてきたのだ。

 それでも呆然としていては船が沈むからと、無理矢理脳を起動させて大声を出す。舵を取れ!と……。

 船とは正面からの波には耐えられるけれども、横波には弱くて簡単に沈められてしまう傾向がある。だからメリーの船首がガレオン船の方を向いた状態をキープして、細かいと言うと語弊があるけど、それでも細かい物が降ってるくのを最大限躱したりして行く必要がある。

 こんな所で、ルフィの冒険を終わらせるつもりも無ければ、仲間の命を散らせるつもりも私には無いのだから。今この場だけは、気を抜くなんて選択肢は存在しない。

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