私には理性等、既に欠片も残ってはいなかった。欲望と快楽の虜となり、善悪の分別さえつかない愚か者へと成り下がっている。
その自覚は頭の片隅にあるのに、それを正す理性は無い。だから、求めるままに声を出し、手を伸ばしてしまう。
手を伸ばせば、そこには私を拒む事の無い存在が居るのを本能で理解しているから。甘えるなんて生易しい表現ではなく、既に縋り付くように伸ばしている。
「あっ……やぁ、!も、ぅ……焦らさないでぇっ!」
私は首を振って強請る。例え痛みが伴っても、早く欲しい。
最奥でシャンクスを感じたい。身の内を隙間ない程にいっぱいに埋めて欲しいと切望している。
内壁を擦り上げて、掻き回して、熱い迸りで濡らして欲しい。それ以外に、この飢えと渇きを癒す方法は無いと知っているから。
腰を激しく揺らし、括約筋を蠢かせ、更なる抽挿を強請るナミの上気した身体は、汗を弾きながら妖しく煌めいていく。それに合わせるように、香りだかくなるのもナミ特有の事だろう。
「シャンクス……シャンクス……」
「発現したばかりの覇気が、媚薬効果出してんな……俺には、美味い話でしか無いが」
「シャンクス……早く、きてぇ……!」
己では未だ制御できない力が故に、我儘で妖艶な女王様の威光をその身から発していくナミを、シャンクスは歓喜に震えながら見詰め続ける。愛を振り撒くしかできないナミが女神ならば、今こうして愛を貪り輝く姿は魔性……いや、淫魔属性の魔王だろうか。
魅入られたら最後、他のどんなものでも満足出来なくなってしまう。ナミの全てを手に入れたくなる。
何もかもを自分のものにしたい。海賊となる程度には、自我が強く我慢が出来ないと自覚しているが、それがなくとも欲してしまっていただろう。
この美しい女が手に入るなら、生命をかけても構わない。生気の最後の1滴までも捧げ尽くそう。
今、鮮やかに香り立つ惚れた女を前に、魔性と神聖さを併せ持つ矛盾の塊のような女に、シャンクスはケダモノとなる事を選んだ。気遣い等と言う言い訳を放棄し、更なる快感を求めて身を沈めた。
「俺の全ては、ナミのものだ……!」
心からの誓いと共に1気に最奥まで穿った瞬間、ビクビクと身悶えたナミの喉から、耐え切れぬ嬌声が迸る。奥を突かれた衝撃で、キュウッと閉まった入口の隙間から、けれどもいっぱいに埋め込まれたモノに押し出されるように、どちらの物とも分からぬ粘液がゴボリと溢れ出す。
そう、ナミがシャンクスのものでは無いのだ。シャンクスがナミのものである現実。
これは、ある意味劇的な変化だろうか。いつも自分のモノにしたいと願い、ナミの言い分や願い、拒絶を無視して来た男達の中において、珍しい存在とも言えるのかも知れない。
ナミは1人しかいないが、求める男が多いのだ。なれば逆に、ナミのものとなれば複数の男達は共にある未来も見えて来るのかも知れない。
無論、複数いる男達の1人……で、満足できるのであれば、だが。これの答えは、今暫く答え合わせに時間のかかる問いだろう。
濡れ光る結合部分の扇情的な眺めに、シャンクスはゴクリと喉を鳴らす。ココを……ナミを犯して良いのは、自分だけだ……と、錯覚する程の倒錯。
真っ赤に充血した入口を捲り上げ、押し窄め、何度も出入りして、熱い蜜液を注ぎ込む事が許されるのは俺だけだ。他の誰にも渡せない。
見せられないし、許せないだろう。そんな事になるくらいなら、このままベッドに繋いで飼っていた方がマシだ。
過去に同じような想いでココを見詰めた男達がいる事さえ、許し難い。否……許せない。
そんな身勝手過ぎる嫉妬に突き動かされ、シャンクスは激しく腰を前後させる。本来の恋人は己でないと分かっていながらの、暴挙。
心を分け与えられようと、自分一人のものではない現実。そんなもの、王者の1人にまで登りつめた男に耐えられる筈もない。
そう、これが答え。どれ程求める者が多いとしても、共有などできようはずも無いのだ。
「あっ……いや、そこ、ひゃぁああああ!!」
甘やかな声で嫌がって見せながら、けれどもナミの腕はシャンクスを更に強く抱き締める。まるで、甘やかすように、全てを許し与えるかのように。
これで諦めろと言うのは無理な話。抜ける手段を持たぬ、マグマのような泥沼から男達が抜けられなくなるのは、間違いなくナミにも原因があると言える。
全身が火照り、小さな胸の飾りもプッチリと身を堅くして充血の赤に染まっている。シャンクスは夢中でそれを口に含む。
乳首への刺激が腹部から下半身へと順に駆け抜けるように伝わり、埋め込まれたシャンクスのモノをキュウッと締め上げる。嗚咽に泣きながら、ナミは許しを乞う。
「いやぁ……も、ぅ……変に、なっちゃぅ、よ……あぁ……っ!」
だが、シャンクスは変にしようとしているのだから、辞める筈は無い。歯に引っかかる程ツンと立ち上がったソレを、舌先で転がしながら吸いまくると、腕の中でナミの身体がビクビクと痙攣する。
痺れるような快感がナミを忘我の高みに追いやっていくのを感じながら、シャンクスは更に締め付けを強めるその場所を攻め立てた。愛する者のこんなにも悩ましい姿を前にして、走り出した欲望を止められる筈もない。
そんな事ができるなら、海賊なんて、男なんてやってない。だから続けさせろと、身勝手なケダモノと化した身体が叫んでいた。
「もう、止まらねェ。……キツかったら、しがみつけ!俺の背に爪を立てろ……!俺に、跡を残してくれ……っ!」
消えない傷跡のようなものを、繋がりと言えるものを、心だけでなく、いっその事身体にも刻んで欲しいと願う。それくらい、シャンクスはナミに囚われている。
それを感じ取ったのか、ナミは答える代わりに、汗を撒き散らす逞しい背中に思いっ切り爪を立てる。それと同時に、荒い息に乱れたシャンクスの唇に自らのそれを寄せた。
どちらからともなく舌を絡ませ、大胆に互いの蜜を味わう。どこもかしこもひとつになって、互いの想いの全てを分け合う為に。
「ナミは、俺の女神だ」
口付けの間から告げられる、耳に馴染んでしまう程に言われ続けた所有の言葉。それが何故か嬉しくて、ナミは泣き出しそうな顔で微笑む。
今、ナミとして生きる現世の前は、誰もこんなに切望してはくれなかった。前世では、誰もここまで愛情を持っての束縛はしてくれなかったの。
過去の人生と今の人生を比べて、どれ程幸福なのかを思い知る。そして、自分が何を選んだとしても見捨てたりしないと、そう信じられる相手だとシャンクスを認識してしまう。
ルフィに対する背徳感がない訳も無いのに、喪う恐怖を感じる必要のない安心感から、甘えても良いのだと錯覚してしまった。それにより、涙の滲む視界の中でシャンクスに素直な想いを吐露して微笑う私がいる。
「……シャンクス……愛してるわ」
その神々しいまでの鮮やかな微笑みに、美貌に、愛の告白に、抗える者等いる筈も無い。シャンクスの身体が1際大きく跳ねて、殆ど同時に二人は絶頂の瞬間を迎えた。
自分より明らかに強く、多くの事を知り、そして……何があっても、誰を見ていても愛してくれる男。勝手放題な自分を愛し続けてくれる男を、信じられる。
けれども通常とは異なる性質を持つ覇王色の覇気を発現させながらの激しい運動に、身体は耐えきれなかった。その為にナミはもう縋り付く力さえも失い、後はただ寄せくる愉悦の波に呑み込まれていく。
身の内にシャンクスの熱い迸りを感じた瞬間、真っ白にスパークした意識の中、自らもまた熱を放出した。そうして、ゆったりと眠るように意識を失ったナミは、愚かにも艶やかさを増し続けるその美貌が、男を狂わせ信頼なんてしてはならない存在となっている事に気付かない。
運命を感じた、その瞬間が色褪せない限り……恋に終わりは無いのだ。それがどれ程身勝手で1方的な運命であっても、変えようの無い現実としてそれは存在する。
意識を完全に失い、力の抜けたナミの様子を見詰めてシャンクスは好戦的な笑みを浮かべた。戦う事を厭い、傷付ける事を厭いながらも修羅の道を進むしかないその運命を背負う贖罪の女神。
覇王色の覇気を持つ者は、望む、望まざるをなしに強敵との戦いを余儀なくされる。それは、王となる素質を持ってしまったが故の宿命。
その中でも特殊なこれは、恐らく他の王達を従えられる可能性を秘めた物。他の覇王色の覇気が〝王〟の素質だと言うなれば、ナミの覇王色の覇気は〝皇帝〟の素質だと言えるのかも知れない。
王を束ね、従える力。ただし、扱いきれなければそれこそ、食い物にされるしかない諸刃の刃。
つまり、どれ程厭わしく思っても、戦い続けるしかない。戦う事を辞めた時、生贄のように喰らい尽くされる他の未来を持たぬ憐れな少女。
「……このまま、俺の子を孕ませてやろうか?そうすりゃ、ナミは俺の傍で庇護されるしか無くなるだろう?」
「馬鹿を言うなよ、お頭」
独り言に突っ込みを入れたのは、まさかのヤソップで……シャンクスはその存在に驚嘆させられる。こういう時の突っ込みは、大抵ベックマンだったから。
そもそも何故、この部屋に居るのか。鍵はかけておいた筈である。
「……誰かの子を宿したら、ナミは手をつけられなくなるぞ」
「あ?」
「ナミは、慈愛と博愛の性質が強過ぎる。海賊に向かないと満場一致で言えるのは、それが理由だろ」
「それはそうだが……」
だからこそ、縛る事が可能なのではないか。子供という枷があれば、俺から逃げるなんて概念は消えるだろう。
この海で、俺に追われながらその他大勢の敵から子供を守れるとは、賢いナミは思うまい。そうなれば嫌でも俺の庇護に縋る筈だ。
「その上で、ナミは女、子供、年寄りに甘い。その中でも得に〝家族〟には激甘だ」
「そうだな……?」
「まだ、分からねェのかよ?」
呆れを隠さずに溜息を落とすヤソップは、これでも父親だ。俺には分からない何かが、分かるのだろうか。
だが、その妻子を捨てて俺の元に来たのだ。そんな男の言葉が当てになる保証もない。
「女は、子を守ると決めた時……母親となると決めた時、強くなる。……ナミの性質で母親になられたら、誰にも太刀打ちできねェぞ」
子を守る為、我が身を犠牲にするナミを想像して眉間に皺を寄せたシャンクスだが、ヤソップはそれに首を横に振る事で答えた。言葉にしなくとも、彼等は時に通じ合う。
だからこそ、現実を突き付ける。甘いばかりではない真実を、隠す事なく。
「母親はな、身を犠牲にする事もあるが、それは最終手段だ。……己の身を守りながら、我が子も守り抜く。そうしなけりゃ、我が子を育てる事ができないか
「なら、ナミは死のうとしなくなるのか」」
シャンクスの言葉にそうだと頷こうとして、ヤソップは辞めた。そんな事を言えば〝生きる意味〟を与える為だと大義名分を振りかざして、本気で孕ませかねねェと気付いたから。
ヤソップから見れば、シャンクスは信頼出来る仲間であり、尊敬し生命をかけるに値する船長だ。だが、ナミは目に入れても痛くない程に愛しい妹であり、娘であり、やはり大切な信頼できる仲間なのである。
つまり、犠牲にする気は無い。相手が親愛なる船長であっても。
「さて、それはどうだかな。ただ、身体を清めてやらないとならねェし、休ませてやらないと誰かさんがヤリ殺しそうだから貰い受けるぞ」
「俺の質問にこた「お頭……ナミをそのままにしとくつもりか?」」
底冷えするような声を響かせ参戦したのは、ルーで、シャンクスはギョッとして視線を向ける。自分の名前を変えられてしまっても、顔をにやけさせて喜ぶルー相手にナミの安否をかけた戦いに持ち込むのはリスクが高過ぎた。
シャンクスは過保護な兄達の出現により、ナミの意識が無いうちに孕ませる計画を断念する他無くなった。そんな恐ろしい可能性があったとも知らず、翌朝目覚めたナミは己の行動と言動に自己嫌悪して、冷水を浴びようとしてしまう。
それを止めたのは、そうなる事を予見していたベックで、上手く泣く事さえできない不器用な妹をベックはただひたすらに甘やかす事で宥める。そうしている内に届いた新聞に、ドフラミンゴが王下七武海から追放されインペルダウンへと収容された事実が載っていた。
「ドフィ……」
それは安堵と共に悲しみを連れて来た。仲間達の無事を確信出来るのと同時に、弟の投獄と身分剥奪が決定したのだから。
震えるナミに、ベックは気遣わしげな眼差しを向ける。この男にこんな顔をさせられる存在は、それ程多くはないだろう。
「ナミ?」
「分かってた……のに、ね。ドフィがルフィに勝てる筈無いって。なのに、インペルダウンに居るって見ただけで……震えが、止まらないの」
震えが止まらない理由は、私が何も出来ないから。エースの事をインペルダウンに居る時に助けられる筈もないと、戦争になるのを待っていたわ。
つまり、どれ程心配してもドフィを助ける手段もなにも私は持っていないのだ。ドフィがルフィとの戦いの後で囚われの身となるのは、知識を失っていても予想はできていた。
なのに、何の準備も計画もできてはいなかった現実に打ちのめされる。ルフィは主人公なのだから、どれ程の規模で戦う事になるかはともかくとして、最終的には勝つ事が確定していると言っていい。
ただ、それは最終戦の前まで。物語としてのエンディングになる戦いにおいては、死ぬリスクもある。
ルフィは海賊王になる。だから、その最後と戦いだけは……どうなるか分からない。それに、生きていても身体の1部を失う事くらいならば、容易に有り得てしまう。
だからこそ私は、怖い。それに、生きている事が確定してはいても、それはルフィだけ。
ルフィと共に残った仲間達は、いつどこで誰がどんな形で死んだとしても……不思議はない。ただ……まだ空島から帰ってすぐの頃に青雉に手も足も出なかったように、負けても見逃して貰える……なんて可能性もある。
普通なら無いけど、この作者はそういう話が案外あった。まだまだ成長途中なのだと、伸び代はあるのだと教えるようなそれはある意味で斬新。
そう考えたとしても、修行を終えた今の時間軸でそれは考えにくい。その島の中で敵に何度か負けたとしても、出航する時には勝利をおさめるのが確実と言えるわ。
だからこそ、ドフィが海軍に捕まるのは分かりきってた。なのに、私は何も手を打たなかったのよ。
「ドフィの事も、可愛いと思うのに……愛しいと思うのに、私は、見捨ててしまった」
他に選択肢は無かった。あの時はああするしかなかったと思う。
でも、それは本当にそうだろうか。本当に、私だけでも残って……ドフィを説得するなんて手法は無かったの?
ドフィを仲間に引き込むとか、やり方はあったかも知れないのに……。私は、狡い。
クロコダイル程度の罪と懸賞金の額で、インペルダウンへと投獄されたのだ。ドフィのしていた事と懸賞金の額を考えたら、インペルダウンの奥深くに投獄されるのは間違いない。
「インペルダウンには、助けにいけないのに。私の実力では……どうにも、できないのに……!」
「ナミ」
ベックが名を呼ぶ。気遣うように、優しく。
その声に反応して顔を上げれば、慈しむようなベックの視線と絡まった。そのまま互いに見つめ合うようにして、動きを止めてしまったのは何故なんだろう。