※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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ガールズトーク

 ビビからの衝撃の告白を受けつつ、航海日誌を書き終えた私は、サンジ君を手招きで呼ぶ。それに素直に反応して近付いてきてくれた所に、少しホッとする。

 

 「どうかしましたか?」

 「サンジ君はアラバスタって国の事何か知ってる?」

 

 私の問い掛けにサンジ君は情けない顔で謝罪してきたので、構わないわよと言って笑う。今ここにロビンが仲間として居てくれたら、情報が正確に分かるのにと思えば、あの時無理に押さえ込んででも、仲間に入って貰うべきだったかと少し思う。

 そんな事をしても、どうせ逃げられてしまうのは分かっているけど……情報の大切さを痛感する。原作知識なんて言っても、描かれていたのは主要なメンバーだけでモブと言われるような人達は、描かれてなかったなんて可能性も十分にあると言うのに……。

 その瞬間、まるでお詫びとでも言うようにサンジ君が私とビビの前にデザートと飲み物を運んで来るから、それに感謝して受け取ると食器と入れ替えるように航海日誌を手にしたサンジ君がその場を後にする。

 

 「サンジ君、それ」

 「片付けておきますよ。書き終わったんでしょう?」

 「……どうして、わかったの?」

 

 航海日誌についている紐栞を示してサンジ君は笑う。

 

 「書いてる途中だと、この紐外に出してあるんですよね。後しまうだけになると、紐が挟まれる。だから書き終わったと判断しました」

 「良く見てるわね、本当に」

 

 つい成程とか言って頷けば、サンジ君は可笑しそうに笑う。そして、食べたら感想お願いしますと言うから、それ以上は何も言えなくなる。

 この船の人達は皆私に甘すぎると思う。口に入れてみたデザートはヨーグルトを使ってるみたいで、うまく発酵させたなぁって本気で思う。

 この発酵が上手くいかないから、本は書いたけど作れなかったのよね。発酵とは、1歩間違えれば単なる腐敗である。

 牛乳が腐ったのなんて、あーた、臭くて死ねるわよ。あれは臭いで人を死に追いやれるシロモノだと思う。

 素直に美味しかったデザートを食べ終えて、用意されていた飲み物を飲んでいたらビビが楽しそうに問い掛けてきた。

 

 「サンジさんとナミさんって、付き合ってるんですか?」

 「……どこで判断したのかは知らないけど、付き合ってないわよ。どうしたの、急に」

 「え?!じゃァ……Mr.ブシドーと?」

 

 いや、だからなんでそんな話に?

 

 「ゾロと?ナイナイ」

 「でも、昨夜も私に部屋を案内した後、2人でお酒呑んでましたよね」

 「夜酒もなしに会話しようなんて思わないわよ。情報共有の1環で呑んでただけ」

 

 ビビは納得いかないとその表情で伝えて来るけど、そもそもどうしてこんな話になったのか。……まさか、これが世に言うガールズトーク!?

 そんな経験がこれまで無かったから、どう対応していいか分からないけど、とりあえず答えるべきなのかな。いや待て、ビビが誰かを好きだってことかも知れないわね。

 

 「……ビビ、誰か気になる人がいるの?」

 

 思い切って問い掛けてみると、ビビは視線をさ迷わせたから、誰か好きな人がいるらしいと分かる。どうしたものかしら……この船に男は4人で、ルフィは……私の、恋人で……と、とりあえずビビの想い人がルフィじゃ無ければ応援って、ダメだわ!

 ウソップにはカヤちゃんが居るもの。だとしたら、どうしよう……。応援できる確率は1/2。その2人のどちらとも付き合ってないと答えて、反応が微妙だった事を思えば……ビビが悲しむのは見たくないわ。

 

 「……私のは、憧れで、恋愛じゃないから大丈夫です。そうなると、ナミさんは恋人居ないんですか?いないんですよね!?」

 

 何故か私に恋人が居ない事を望むビビに、どう反応していいのか分からない。でも、ここで嘘をついたらいけないと本能が私に伝えて来る。

 

 「……恋人は、居るわよ」

 「え?!そ、そんな……」

 

 だから、何故に嘆く?

 良いじゃない、ナミちゃんの肉体なんだから見た目的には、恋人の1人や2人いたっておかしくないわよ。むしろ居ない方がおかしい位だわ。

 

 「相手がいないなら、お兄様を勧めようと思ったのに……そうしたら、ナミさんをお姉様って呼べたのに……」

 「ビビ?私、今のところ結婚はする気ないし、陸に留まる気はないから、それはどちらにしても無理よ」

 「えー……」

 

 うん、ビビは可愛いけどね。妹みたいに思ってるけどね。

 それとこれとは話が別なのよ。そう思って笑うと、ビビは少しいじけた様子で唇を尖らせる。

 こんな子供っぽい仕草を見せるのはどうやら私にだけらしいと、今朝サンジ君から教えられた。だとしたら、懐いてくれてるこの子を、甘えてくれてるこの子を全力で守りたいと思う。

 

 「……それで、ナミさんは誰と付き合ってるんですか?」

 「そうねぇ、ビビの憧れの人を教えてくれたら、教えてあげるわ」

 

 言ってから笑えばビビはいじけたような拗ねたような顔で私を見るから、よしよしとその頭を撫でておく。ビビが直ぐに口を開く事は無いと見ていれば分かるので、私は編纂に取り掛かる。

 内科的治療の中から、今回は胃腸を選択して纏めているけど、読めば成程と思う事もあれば専門的過ぎて全く理解出来ない所もある。それらを纏めていくのはそれなりに大変ではあるけど、やり甲斐もある。

 胃腸を纏めるからには当然食道も纏めるのだけど、それだけでも結構な量があり、1冊に纏めるのは不可能だと思い知らされる。2人の医者の意見だから、どうしたって重なる所はあるから、そんな時は私が理解できる方を採用して、足りないところを補足する形で埋めていく。

 だいたいそれだけで3冊になるとわかった所で顔を上げると、何故か嬉しそうに私を見ているビビがいる。何か楽しい事でもあったのかと首を傾げて口を開く。

 

 「楽しそうだけど、何かあった?」

 「ナミさんが真剣な顔してるのを、見てるだけで幸せです」

 「……ビビ、まさか、憧れの人って……私じゃない、わよね?」

 「どうしてわかったんですか?!」

 

 うん、恋愛じゃないって言ってたからもしかしてって思ったけど、そうか、憧れてくれてたのか。そんな凄い人間じゃないのに、困ったな。

 

 「ビビにいつ幻滅されるかと思うと、怖いわね」

 「もう、そんな事言っても私はナミさんの事、大好きですよ」

 「私もビビの事は、大好きだし、可愛いけどね」

 

 不安だわ。そんな人だと思わなかったといつ言われるか。

 そんな事を考えていたら、ビビの顔が目の前に迫ってきていて、少し驚く。

 

 「ど、どうしたの?」

 「私の憧れの人は教えましたよ!次はナミさんの番です!」

 

 あぁ、そういう事。でも、ここで教えるのはなんかつまらないなと思って、ニッコリと笑ってビビを揶揄う事にした。

 

 「ビビのは、私が〝当てた〟のよ。それも1発で。なら、ビビも当てて見せなさい。既に2回外してるのだから、慎重に……ね?」

 

 この船に必ずしも恋人が乗ってるとは限らないけどなんて、嘯いてから私は編纂の続きに意識を向ける。それに対してビビが酷い狡いと言ってるのが聞こえたけど、可愛い小鳥の囀り的な意味合い程度にしか私には興味を持てなかった。

 編纂の区切りがついた時、資料を纏めて立ち上がるとサンジ君の姿が見えたので、ビビに飲み物をと視線で言えば頷かれる。長い事じっとしてたし、先程飲んだ飲み物のおかげで大分顔色は改善したけど、実際はまだ少し心配な状態だったりする。

 

 「私は海図描きに行くから、こまめな水分補給を心掛けて無理はしない事。何かあったら声掛けて」

 

 ビビにそう声を掛けて荷物を持って部屋に戻ると、今回纏めたそれを封筒に入れてから今回通って来た海域の海図を描き始める。紙の上をペンが走る音が好きで、嗅ぎなれたインクの匂いなのに、何故か嫌な記憶が呼び覚まされることは無い。

 今までとは違って、描きたくて描いてると言うのがやはり大きいのだろうと思う。無心になってこれまでに通った海域のそれを海図に起こしつつ、重要な所はメモを挟む形で文字を記入して行くと、それの区切りがついた頃にドアをノックする音が聞こえた。

 それに返事をすると、ドアを開けたのはまさかのルフィで、手にはお盆を持っている。こういう事はいつもサンジ君の役目なのに、珍しい事もあるものね。

 

 「ナミが食事しねェって、サンジが嘆いてたぞ。ちゃんと食えよな」

 「ありがとう」

 

 私の言葉を聞きながら海図を私が退かすのを待ってるのが分かるから、お盆を置ける場所を作ればルフィはそこにお盆を置いてから勝手に部屋の奥に進み、ベッドに転がった。それから少し瞳を細めて私を見ると、声を低くする。

 

 「……ナミ、ビビが船に乗ってから寝てねェだろ」

 

 何故、わかったのか。運んで貰った物を口に入れた瞬間だったから、それを喉に詰まらせそうな勢いで驚いた私は少し視線をさ迷わせてから、笑顔を作る。

 それを見たルフィは少し疲れたような顔で溜息を落として、肩を竦めると口を開いた。ルフィは野生動物みたいだなと、その様子を見ながら思う。

 

 「ナミ、1人で全て抱えなくていい。ビビを乗せると決めたのは俺だし、狙われてるのも俺とゾロとビビだ。だから、そんなに気を張らなくていい」

 

 何処か労るようなルフィの声に、その言葉に、私は漸く気付く。少し焦っていたらしいと。

 そんな私にルフィはベッドから降りてそっと近付くと、視線を合わせて来る。その眼差しは真剣で、船長なんだなと思わされる。

 

 「ナミの事は必ず守る。だから、自分から倒れるような事はするな」

 

 ルフィの言葉に頷けば、ルフィは納得したように笑い、頭を撫でて来る。突然のそれに驚いてルフィを見れば、妙に優しい顔をされてしまう。

 

 「飯食ったら、少し休んどけよ。ビビの事心配してるけど、ナミも充分顔色悪ィぞ」

 

 言ってから私の額に唇を落として、ルフィはにししっと笑うと表へ飛び出して行った。恐らくはどれかが演技とかではなくて、ルフィのこれは全て素なんだろうって分かるから……自分の額にそっと触れて、赤くなった顔をどうしたら良いだろうと考えながら、運んで貰った食事を食べる事に専念した。

 今はそれ以外に何も、出来そうになかったから。それから間もなく終えた食事の後で、時計を見ればまだ夕方にもなってないからと、言葉に甘えて少し休ませて貰う事にする。

 ベッドに横になった瞬間、ドアが開く音が聞こえて瞼を開くとルフィが居て、何だか満足気に笑われた。

 

 「夕飯の頃起こしに来るから、それまで寝てろよ」

 

 そう言いながらルフィは私の手を握るので、どうしたのかと視線で問いかければ、眠るまでこうしているから、大丈夫だと言われる。私が不安定な時に眠ると魘される事に、いつルフィは気付いたのか。

 ルフィに小さくありがとうと呟いて、私は静かに眠りに落ちた。ルフィの手の温もりに、ホッとしてる自分を確かに感じながら。

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