人が空想できる全ての出来事は、起こりうる現実である。物理学者、ウイリー=ガロン
空から降ってきた巨大な船に巻き込まれて沈まないように舵を取る。波によりメリーは大きく揺れて、船の舵を取るのがやっとという状態から抜けた時に、メリーの上に先程の船から落ちてきたものが幾つかあるのが見えた。
夢とかじゃない。空から船が落ちてくる現実。
流石は
ログポースを見れば、上を向いて動かなくなっている。新しいログに書き換えられたのかと、深い溜息を落とせば、ロビンもまた空を見上げて空島と呟いた。
それによりそれまでの騒ぎとは違う種類の騒ぎへと変わり、空島とは何なのかという話になる。いや、原作では行けたけど、私の頭がナミちゃんと同じだけあるかは甚だしく疑問なんですけどね!?
「航海士さんは空島を知っていたの?」
「聞いた事と言うか、読んだ事があるわ。全員が死ぬか、全員が生きるかの行き方と、途中で何人かを喪いながらも何人かは辿り着けるルートがあるって。でも、その何方の方法も私は知らないのよ」
知識を掘り起こそうとしても、どうやら私が自分で解決しなければならない事については、1切のヒントは貰えないと考えた方がいい様子だ。今起きてる状態と、知ってる知識からこの先を予測して計算して動くしかない。
それを聞いたロビンは嬉しそうに、また同時に楽しそうに笑った。それは教え子が正しい答えを出せた教師のような笑みで、少し気恥ずかしくなる。
ロビンが遺体と戯れている間に、私はログポースと空を交互に見ては出ない答えに頭を悩ませる。ルフィは絶対に行きたがるのだから、どうにかしなくては。
ロビンが遺体から、どのくらい前の人なのかとかを割り出して説明してくれる。それは心強いけど、空に行く情報にはならない。
それでも、空島はあるのだ。他にも情報が欲しいと思っても、船は海の底に沈んでいて、ルフィも共に沈んでいて…………沈んでいる?!
「何やってんのよ!?」
思わず叫んだ私は悪くないと思う。助けに飛び込もうとした私をチョッパーが止めるから、でもルフィがと言えばウソップが飛び込んだからと言われてしまう。
ウソップがルフィを持って帰った時、ルフィがさも誇らしげに地図を取り出して見せてきた。その地図を見れば、そこにはスカイピアと書かれている。
恐ろしく盛り上がる面々に、つい偽物もあるからなんて真実を言ったら落ち込まれて、慰めようとしてた筈なのに怒りがフツフツと湧いてきて私は混乱の中でルフィを睨み付ける。それからつい、メリーに八つ当たりしながら行き方が分からないと言えば、ルフィは理不尽にも航海士なんだから何とかしろと言ってくる。
なので取り敢えずルフィの首を締めて頭を振ってから、情報を集める方法を考える。まだ濡れているルフィは何処かひんやりとしていて心臓が痛くなった事で、ルフィが沈んだ事が原因で私はどうやら相当に動揺していたらしいと気付いて笑ってしまう。
そうね、今何を出来るのか考えましょう。今身近にある情報源は、沈んだ船だけなのだから……。
「沈んだんならサルベージよっ」
私の声にルフィとウソップは勝鬨を上げるが、ゾロは出来るかと怒り出す。なので、戦える男3人を海に入らせて、そこから先は判断を任せる形にはなるけど何かを持ち帰らせる事にした。
ウソップの作った装備のおかげで、ルフィも海の中に居て問題なさそうなのは有難い。3人を見送り、3人からの連絡を聞いても、あの3人ならば問題無いだろうと細かい事は気にせずに流していたら、妙な音楽が聞こえてきた。
その音楽の方に顔を向ければ、妙な船が近付いてきているのが見える。この人達、誰かしら?
彼等の言う事を聞いた限りではサルベージすると言うので、それを見学させて貰う事にした。そうする事でとりあえず、ルフィ達が下にいる事がバレての戦闘と言う流れにはならないだろうと踏んだのである。
船を引き上げるその技術は、私にはよく分からないけど目を見張るものがあるらしく、ウソップとチョッパーは大喜びだけど、私には全体的にイマイチよく分からない。とりあえずルフィ達が下で暴れたようで、猿が海に潜っていくのを見送って、その勢いで海を覗き込めば船と重なるように大きな影が見えた。
これは危ないのではないかとウソップと共に最悪の想像をしたら、本当にその最悪の事態が起こってしまったのだから、笑えない。でも、食べられた程度であの化け物……いいえ、強いメンバーに何か問題が起きるとは思えない。
だけど、ルフィが食べられたのは私に責任があるとウソップが言うのももっともなので、私は顔を上げて亀の口にいる皆に向かって言った。
「ごめん!」
妙にスッキリしたけど、このままではホースの為にメリーも駄目になる。そう判断した私は、ウソップに指示を出す。
「ウソップ!」
「おう!」
良い反応だと内心褒めながら次の言葉を発する。
「ホースを切り離して安全確保!」
「悪魔か!」
何よ……メリーに何かあれば、あの3人が戻れないじゃない。大体あの3人が揃ってて死ぬなんて、少しも考えられないのよ。
その時今度は突然夜が来た。その直後にルフィ達が帰ってきたと思ったら、今度は巨人が現れて、とりあえずその場を離れるしかないわねと判断して船を動かして行く。
いくら偉大なる航路とはいえ、おかしいだろうと皆で話していたら、いつの間にか乗り込んでいた猿がいて、サンジ君、ゾロ、ルフィが揃って蹴り出した。なんと言うか、いつもながら何も無い平和な時間って存在しないのね。
それから3人が持ち帰った物を見てみるけど、役立ちそうな物は無くて、ロビンにも確認したけど先程の遺体から分かった以上の情報は得られそうにない。サンジ君に貝殻を差し出されてもそれに反応する気力も無くて、でもまぁ1応受け取っておいたけどね。
この先どうしようかと思った矢先に、ロビンが何かを手渡してくれる。いつの間にかロビンがその能力を使って、猿から盗っていてくれたと言うエターナルポースを見たら、涙が溢れてきた。
「私の味方は貴女だけ!」
「……相当苦労してるのね」
ロビンには哀れまれたけど、別に良いもん。私は文字通り道を見失っていた所に、救いの手が差し伸べられた事で充分だと思えたのだから。
エターナルポースに書かれていた島の名は、ジャヤ。そのジャヤに関する記憶も知識も私には、何も無かったのだった。
船は1時、謎の土地ジャヤを目指す。これがどんな未来へ繋がっているのか、この時は誰にも分からなかった。
私の知る未来には無い多くの出来事がこの先に待ち受けているとも知らずに、そして、実際には未来を見られる能力なんて持ち合わせてない為に、波乱に満ちた未来へと向かい始める。けれどもどんな未来が待っていても、1つだけ確実に言える事がある。
何が起きたとしても、私は麦藁の1味の航海士であり、ルフィの航海士である事。そして、何よりも確実なのは……ルフィが海賊王になるのだという事だ。
釣り上げられたと言うか、持ち帰られたタコを使って、サンジ君は皆にタコ焼きを提供してくれる。我先にと食べていた男達に次いで、サンジ君に差し出されたタコ焼きを受け取り、呑気にロビンとそれを味わいながらほんの1時ではあるけど、心の休息を得た気がした。
ロビンは食べ物を食べる時に警戒する素振りを見せないから、毒で害されたりと言う経験は無いのだろうと分かり少し嬉しくなる。しなくていい経験はしないままでいて欲しい。
変な癖やトラウマに苛まれるような事にだけは、ならないで欲しいと心から思う。そして、この呑気で自由な1味に居る事で、ロビンの心が少しでも楽になれば嬉しいと思う。
ロビンは私の出したロビンの話を元にした本を知らないのかと思う程に、そういった話題に触れない。それに安心していたから、まさかこの時ロビンが〝宝玉〟と呼ばれる作家が私である事を知らないから黙っていたのだとは、少しも思い至らなかったのだ。
それから暫くの後、微かに島が見えてきた頃空からカモメが落ちてきて、撃たれたとチョッパーが騒いだ事で胸がザワメク。これは、何か良くない事がありそうだと第六感が告げる。
でも、頭痛や目眩が来ないので、今の所情報は無い。恐らくは……この出逢いは必然であり、きっと避けられないものだったのだろうと思う。
記憶や知識があれば、変えられる未来もある。けれどもそれは同時に、知らない未来へと進む事を意味している。
変えた先の未来が、必ずしも良い未来であるとは限らない。その事に私は少しも思い至って居なかったのだった。
メリーは着実に、目的の島へと向かっている。私は未知なる島に向かうメリーの上で、ただ皆が楽しく先に進んで行けたらいいと祈るように思っていた。
それから間も無く接近したのは、ジャヤ西海岸。
ジャヤという島の西にある町。そこは夢を見ない無法者達が集まる、政府介せぬ無法地帯。
そこは嘲りの町<モックタウン>ジュー=ウォールの航海日誌
ルフィは見える島に興味津々で、テンションが恐ろしく高い。ウソップも町並みがオシャレだと喜ぶが、港には何故か海賊船が堂々と立ち並んでいる。
その立ち並ぶ海賊船が掲げる旗印を見た瞬間、私の体は全身が鳥肌状態となりその場で震える体を強く抱き締めた。この旗印は……!
そんな私の変化にいち早く気付いたルフィが、私を抱き締めてくれる。その温もりに縋るように、たかだか旗印だけで怯える私を笑う事無く支えてくれるその体に、全力でしがみつく。
……会う事はもう2度と無いと思ってる。だって〝描かれていた〟範囲では、1度も遭遇しなかったもの。
そう思わなければ、それでもこれ迄に出逢ってしまってる真実に蓋をしなければ、私は崩れ落ちて2度と立てないような……そんな気持ちになっていた。そんな私をルフィは抱きしめていてくれる。
急かす事も、何かを問い掛ける事も無く。震える私をただ、優しく抱き締めてくれていた。
……弱くて、ごめんね。でもお願い、今だけでいいから……こうしていさせて。
ルフィに甘えるように頭をその肩に預ければ、ルフィが小さく笑ったのが分かり不思議に思う。それでもルフィは何も言わずに、ただ私が落ち着くその時まで優しく抱き締めながら頭を撫で続けてくれたから、私はそれに甘えさせて貰ったのだった。