いつも通りの皆
出航から二日が経過した真昼間。やるべき事の他は本ばかり読む私とロビンを心配したのか、チョッパーが小さな箱を取り出して提案した。
それは、少しばかり魅力的なお誘い。だからこそ私とロビンは、その提案に最初から前のめりで質問してしまう。
「この箱の中に、俺が調合した疲労回復薬がある。……これを二人にあげたいから、少し運動してくれ」
「疲労回復の前に疲労したら駄目じゃない?それとも、筋肉弛緩薬でも入ってるのかしら?」
「疲れる程の運動じゃなくて良いんだ。硬直する方だから、身体を暖めて欲しいと思っての提案だぞ。この薬の副作用は強くなくて、身体が冷えて硬直しやすくなるだけだから、運動した後飲んでお風呂に入れば問題ない」
ロビンの質問に少しだけ慌てた様子で言うチョッパーの言葉に頷いて、甲板の上だけどビーチバレーでもやろうかなんて話になる。そうして二人で話していた筈なのに、それを聞いていたチョッパーがその瞳を輝かせて楽しそうだな!なんて言うからロビンと顔を見合わせた。
結局審判も含めて誰がやるのか、ルールはどうするのか、誰と誰がチームになるのかを話合う。そのゲームの賞品は、食事1回かティータイムのオヤツ1回のリクエスト権利で話が纏まる。
その権利は100ベリーのコインが代用する事となり、私とロビンがそれぞれ1枚ずつ胸の間に挟む。負けた側が、勝った側にそれを渡すと言う事になったのだ。
試合は、私とチョッパーのチームVSロビン&フランキーチーム。審判はブルックで、能力の使用は禁止と言うもの。
チョッパーは身体強化なんかを使えるし、ロビンは自由に手を生やせるからどちらも狡いってのが理由ね。安定した夏島の気候なのもあり、私はビキニ姿でビーチボールに突撃した。
「いっくわよ~」
「ふっ……」
ゲームはたったのワンゲームなのだから、そう長く続く訳も無い。そもそもワンゲームと呼んで良いのかも微妙な、先制点を入れた時点で終了なゲームなのだから。
つい先日までいたシャンクスの縄張りである島は夏島の1種であったらしく、夏の花が咲いていた。その中からハイビスカスと似た花を貰って来て部屋に生けていたら、ロビンが今朝それを髪飾りに加工してプレゼントしてくれたのだ。
因みにそれを加工して枯れなくしたのはフランキーで、髪に付けてくれたのはチョッパーでした。可愛いぞと笑ってくれたチョッパーに癒されていたのに、海王類が現れてルフィ達がそれを狩り、肉にしたのが今朝の始まり。
どうやら私達に平穏な日常なんてものは、存在しないらしい。そんな事を思い出しつつ笑えば、ロビンが余裕ね……と綺麗な笑みを浮かべた。
今回のゲームは元を正せば、チョッパーからの薬を飲む為のもの。つまり、私とロビンが運動するのが目的の筈なのに、何故か私やロビンよりもチョッパーとフランキーが大はしゃぎである。
「仕方ないじゃない。ほぼ男達二人で試合してるんだから、あの良い匂いの元を思い出すくらい自然でしょう?」
「あら……嘘吐きね」
そう言いつつ、ロビンが際どいボールを返して来る。それを何とか受け止めて返せば、フランキーがそれにスマッシュを決めようとして来るのだから恐ろしい。
何この無言の連携。そして、嘘なんかついてないのにー!
「何が、嘘吐きなのよ?」
本気で分からなくて問い掛けた私の横で、チョッパーがそれを上手く受けてボールを高く打ち上げた。これはチャンス!
せいやっ!と打ち込んで見たら動きは読まれてたみたいで、ロビンがそれを簡単に打ち返して来る。その時、妖艶な含み笑顔をしていたから本気で首を傾げてしまったけど。
「ナミは、その髪飾りを喜んで、それを思い出してくれたんでしょう?……ルフィより、私からのプレゼントが嬉しいのね」
「ちょっと!?何言ってんの!?」
ルフィが聞いてて拗ねたらどうしてくれるのよ!?
そう思って慌てるけど、ロビンはにこやかに余裕を見せるばかり。それからふっと、その眉尻を下げて言う。
「あら、私からのプレゼント、嬉しくなかった?」
「う、嬉しかったけど……」
そんな顔、させたくなかったのに。そう思うからか、上手く言葉が出て来ない。
後生大事に宝箱に入れておく予定です。それくらい、気に入ってます。
……なんて、言葉にはできないけど結構本気で思ってたりする。そんな私の顔を見て、ロビンは全てを納得したようにしていたのでどうやら読まれてるらしいと分かってしまう。
むぅー……っと膨れた時、フランキーが打ち上げたボールがアミの上をゆっくりと移動してるのに気付く。私が思わず飛び上がるのと、ロビンのそれとはほぼ同時の出来事だった。
ギリギリで競り勝って、ロビンの方に押し込めばロビンはもう追い掛けようにも間に合わない。そこでフランキーがスライディングで対応しようとするけど、サイボーグな身体が芝生の甲板で滑る筈も無く、手は届かなかったかに見える。
勝ったのかな?と思ったのに、ボールはギリギリ間に合っていたのか、フワリと浮かび上がるようにアミを超えて私達のチーム陣地に落ちた。それは予想外過ぎて、私とチョッパーのどちらも、そのボールの動きを見ているしかできなかったのは残念な結果。
ピーピーッ!と、笛が鳴らされる。試合終了を告げるブルックにそうよねと思う。
「負けちゃったか……」
悔しいけど悲しくは無い。ただ、チョッパーが楽しみにしてた事を思えば少し残念。
結構頑張ったんだけどな。まぁ、ロビン達の息の合い方は尋常じゃないものね。
「勝者……ナミさん、チョッパーさんチーム!!」
「「えっ……!?」」
ブルックからの予想外の言葉に、チョッパーと二人で反応する。するとブルックは平然と言った。
「能力の使用は反則です」
「あら、残念……」
まったく残念そうじゃない言い方でロビンはそう言う。これにより勝者は私とチョッパーに変更となった。
その事を理解した瞬間にチョッパーが笑う。だから私も、膝を折ってチョッパーからのハイタッチを受ける準備をする。
「ヘヘッ……!!」
「イェーイ!!」
笑うチョッパーに私は声と共に手を向けて、チョッパーがそれに合わせてハイタッチして来るから、なんかそれが微笑ましい。基本形態がトナカイでは無くぬいぐるみっぽいのが、チョッパーがチョッパーたる所以かも知れないわ。
そんな妙な思考に飲まれていた時、ロビンの声が聞こえて来た。視線を向ければ、コインが飛んで来る。
「ナミ!勝負は私達の負けね」
「毎度ありっ!」
飛んで来たそれを受け取り笑えば、チョッパーは早速食べたい物を考え始める。そんな様子を眺めつつ、サンジ君に今回のゲームについて伝える事にした。
でも、話は既に通っていたらしくて、近い内に食べたいメニューを教えてくださいと言いつつBBQの参加を勧められる。断る理由もないし、動いたのは確かなので私は手近にあったトウモロコシに手を伸ばして大騒ぎしている皆の輪へと参加してみた。
サンジ君はその間もパイナップルを切っては串に刺しており、チョッパーやロビンはそれの丸形タイプを食べている。初めはオニオンリングかなと思ったけど、どうやらパイナップルっぽい。
ゾロは手近な物を手に取り食べつつ酒を呑み、ルフィは肉をメインに選んで食べる。ウソップは魚系を見付けるといそいそと手を出していて、フランキーはコーラを飲みつつ次に食べる物を物色中。
ブルックは時折何かをつまみつつ、基本的には演奏したりして楽しいこの空気を更に盛り上げている。皆が思い思いに手を伸ばし、食べて行く。
時にルフィが人のお皿から物を盗んで喧嘩になるけど、相手と平等の喧嘩してるなら構わないかなと思う。本当はお行儀が悪いと叱りたいけど、楽しそうだし海賊やってる男の子にお行儀良くしなさいなんて言うだけ無駄だと思うのよね。
「ナミさんもパイナップル、如何ですか?」
「ありがとう、ブルック」
生なのかと思っていたパイナップルは、程よく火が通っていて甘くて暖かい。蜜柑はいつでもあるから、蜜柑とパイナップルを使ってフルーツポンチとか作ってもいいかも。
柑橘類は特に、1度先に火を通してから使わないとゼラチンを破壊してしまい上手く固まらないので、蜂蜜か砂糖で煮たものを使うのが良いです。固まってないゼリーや寒天は寂しいからね。
余談だけど、ゼリーって固まってる訳じゃないのよ。ゼラチンは熱を加えると1度解けて粒子状態になり、冷えると本来の繊維の形に戻るのだけど、この時に近くに居る水素を絡めとって形成するの。
だから、立体で形を留めてる。水素を使って組体操してる感じなのよね。
「ナミー!ナミもなんか歌うかー?」
「別に何かの宴でもないんだから、今日はゆっくりしたいわ」
チョッパーの問い掛けにそう答えつつ頭を撫でれば、少しだけ残念そうにしながらも納得してくれる。それから、ついでとばかりに渡された疲労回復の薬をロビンと共に飲んでみた。
その効果を私達が実感するより早く、チョッパーはウキウキを隠せない様子で私達を見る。流石にそこまでの即効性はないでしょうと思ったら、違う事でウキウキしていたらしい。
「夢の街、グラン・テゾーロの遊園地、早く行ってみてーぞ、俺!」
「遊園地だけじゃないのよ」
「んん?」
遊園地を楽しみにしてる様子のチョッパーに、あえてゆっくりと、言葉を溜めつつ指折りあるものを教える。そんな私に合わせてチョッパーは頷くけど、その表情は明らかに期待に満ちていく。
「流行の最先端をいくショッピングモールに」
「うん」
「劇場やアミューズメントパーク」
「うん」
「豪華なホテルに巨大スパ、そして、カジノ~!!何でもあるのよ!!」
「そっか~」
最後の時には説明に力が入った。ずっと行きたかったカジノがあるのだから、当然の事。
チョッパーも妄想の世界に飛んでいて、互いに心はハッピーである。そんな私達の会話に、たった今横で丸くなって寝そべっていたルフィが参戦した。
……その痩せ方、憎い。たった今までボールだったのに、今はいつもの細身な身体に戻っているのだから当然と言えるだろう。
「じゃ、俺は最高級ホテルで食い放題~!」
「24時間、飲めや食えの満漢全席がきっとありますよ!」
「どんだけうめェ飯なんだ~!?」
ルフィは顔が蕩けて、まだ見ぬ料理に涎を垂らす。それをそっと拭きつつ、ルフィのそれに参加するブルックに笑いかけた。
「それに、お嬢様達による、超一流のショーとかも……。ヨホホホホ~」
そうして私達に続いて、ルフィとブルックが夢の世界へと飛び立つ。そんなやり取りを聞いていたゾロが参戦。
「俺は風呂で世界の酒を飲み比べだな!!」
「じゃあ、俺はコーラ風呂だぜ!」
続くフランキーの言葉に、サイボーグなのに砂糖と炭酸の塊に入って大丈夫なのかしらと思う。お湯になってはいても、沸騰してないから炭酸効果はある程度残るのだから、成分的に心配だわ。
そんな私の心配を他所に、フランキーもゾロも妄想に僅かな表情変化を見せる。これは多分仲間達にしか分からない程度の変化だろう……特にゾロの方。
「ったく……センスがねェんだよ。お前ら!!」
「ん……!?」
「セレブがごまんといるんだぞ……そりゃ当然……。……にゃひひゃい~」
突然割って入るサンジ君にルフィが首を傾げたら、そのまま妄想の世界に飛び立ち何も説明しないサンジ君。なのに全員が、その脳内を理解してしまう悲しい現実がそこにはあった。
その結果ゾロとサンジ君が喧嘩を始めるから、二人を軽く宥めて引き離す。そうしないと船が壊れてしまう。
「ロビンはどう過ごすんだ?」
「そうね……。ゆっくりエステでも受けてみようかしら」
チョッパーがロビンに可愛く問かければ、ロビンもまたそれに視線を合わせて微笑む。本当にチョッパーの癒し効果は高い。
その会話を聞いていたサンジ君は、壊れた。そして、神の降臨でも待つかのようなポーズで静止してしまった。
「エ……エス……エ……エ……エス……。うおおおおお~!」
「ア~ホ~……」
「ダメに効く薬はあるぞ」
「おいっ!!」
「今度はアホに効く薬も作ってみせるよ」
思わずといった感じでゾロがサンジ君に突っ込んだら、チョッパーが可愛く爆弾を投げた。もう既に、投石した勢いである。
流石にゾロは突っ込んだけど、チョッパーはさらなる意欲を見せる。その様子が可愛くて、ついチョッパーの頭を撫でてしまう。
「でもよォ……セレブが集まるって事は……」
「まぁね。そうなると、求めてる薬も高額であると考えた方が良さそうね。だけど……ね?」
「「「「「「「「ん?」」」」」」」」
ウソップの心配はもっとも。だけど、忘れて貰っては困る。
私は二年間、ただ怠惰に過ごしてはいないのである。それに、暇みては色々新作も出していたのだ。
皆の不思議そうな視線を受けて、にっこりと笑う。任せて欲しいわ、こんな時位。
「それなりの稼ぎは、私持ってるもの。気にしないでいいわよ」
この船には二億ベリー位しか用意してないし、他は預けてある。けど、預けてあるのを全て用意すれば10億ではきかない程度の自由になるお金があるのだ。
船の整備費用や、食費用に手元に二億ベリー置いてあるので、これを元手にカジノで勝てばいいのである。勿論負けるなんて考えはない。
「今ある手持ちのお金で、カジノで稼げば良いのよ!」
「でも、もし負けたら……?」
チョッパーの不安そうな顔に私は視線を逸らす。それから力強く頷いた。
「そん時はぁ……カジノの金庫に潜入して、ちょ~っと……」
「「「「「おいおいおいおい……」」」」」
このツッコミに参加しなかったのは、目をハートにしたサンジ君と、小声で貯めてあるお金は使わないんですね?と突っ込んだブルック。そして、私に甘々なロビンである。
ちなみにこの時のチョッパーは、珍しく可愛くない顔をしている。そう、フランキー入のやさぐれ時と近い顔であるので、可愛くないからやめて欲しい。
大切な事なので何度も言う。可愛くないので、辞めましょう!
「ったく……頼りねェクルーだなァ!!」
そう言ってウソップはショーをやるといいだし、それに参加したいと言ったメンバーで〝キンタローショー〟なるものの練習を開始した。勿論ゾロは離れて寝始めたし、ロビンと私は仲良くサマーチェアで寛ぎ始める。
ロビンには最終チェックの為に差し戻された本を差し出して、推敲を頼んだけど快く引き受けてくれたので久々にゆっくりと休ませて貰おうと思う。ロビンは私の書いた本を楽しそうに眺めて、そのまま本の世界に突入した。
「レモネードのお代わりできたよ~」
「ありがと」
「サンオイルもあるよ」
サンジ君がレモネードとサンオイルを持ってきてくれたけど、折角の美肌を焼いてしまっては勿体ない気がするのよね。そう思っていたら、ブルックが欲しがりサンジ君が大騒ぎする。
私はロビンの分と合わせて受け取り、二人でレモネードを飲みながら本について話したりウトウトしたりと、のんびりとした時を楽しんだ。その内騒がしくはなったけど、土俵内で暴れてるだけならば問題ないわよねとそれを無視して、夕方まで私とロビンは珍しく穏やかな時間を過ごす事ができた。