とりあえず着替えた私は、その先は放送により案内されるそれに従いサニーを皆に動かして貰う。そうして到着した港にサニーを泊めて、私は問題がないかをチェックして回る。
古代エジプトもビックリな黄金装飾。日本で言うなら、豊臣秀吉辺りと気が合いそうねと少し思う。
彼は黄金の茶室を作って千利休に叱られたし、金閣寺と銀閣寺を作ったし、とにかく金が大好きな派手好きだから思考は近いと思う。ここのオーナーって間違いなくお金持ちだけど、私と趣味は合いそうに無いわね。
凄いとは思うけど、住みたくはない。朝日とか当たったら、眩しくて死ねる気がするわ。
原作のナミちゃんなら素直に喜ぶのかな。でも私は、サニーの方がずっといいし大好き。
「メリー、行ってくるわね」
図書室の机にいるメリーを軽く突っついてから、私は表に出る。窓から見える景色だけでも十分過ぎる位の情報が入るのに、それが何の役にも立たなさそうなのが嫌な予感を加速させていた。
無事に、何事も無くカジノで稼いで欲しい薬を得られるかしら。そう考えた時、それは酷く難しいような気がしてしまう。
適当にいつもの姿になっていたけど、表に出ようとしたその時にルフィにつけられた跡があり過ぎると気付いてしまった。それにより、慌ててシャツをカーディガンのように羽織ってみたのだけど、変じゃないかな。
特に何かがある訳じゃない。でも、何だか怠さは残っているので少しばかり気持ちは憂鬱。
「早く来いよ!」
船の下から聞こえて来る皆の声に導かれるようにして、私はサニーを降りた。そこでは皆がすっげー!!と大騒ぎしていて、何だか微笑ましい。
「流石に港もドハデだな!!」
ウソップのその言葉に合わせるかのように、ド派手な女が近付いてきた。明らかにカリーナでは無い。
赤いロン毛はクネクネとしており、自分の髪質と近い事を伺わせる。……私の髪質、本来のナミちゃんの何割か増しで丸くなってる気がするけど、それは気にしない方向で。
赤い髪だからか、黒いドレスが本当に良く似合う。大きなサングラスが似合うのは、目鼻立ちがハッキリしてる証拠よね。
「ワ~オ~、アメイジング!」
「ん?」
突然の声にルフィが反応する。サンジ君では無いので、女だからとか胸とかが理由ではないだろうけど、ならなんでだろう。
ただ、驚いたのかな。それとも、知り合いだったとか?
「もしや、麦藁の一味御一行様では?はじめまして」
サングラスを外して微笑みを浮かべた女は、顔だけならノジコと何処か似てる気がした。つまり、ハイレベルな美人さん。
なので当然サンジ君が素早く反応した。そんな事に、剃を使わないでよ……と言いたくなる程の移動速度。
「どうも、マドモアゼル。私、この船のコック、サンジです。ここであなたに出会えたのはまさに運命」
「まぁ、お上手だ事。お会いできて光栄ですわ」
メロリ~ンってやってるサンジ君へのあしらいが、冷たくない。つまり、この女性……プロだわ。
プロ以外は冷たくあしらうのが、サンジ君と言う生き物に課せられた宿命。折角の美形を無駄遣いしてる、何よりの証拠。
「私、VIP専属コンシェルジュ、バカラと申します」
「お前、俺達の事知ってるのか?」
ルフィが問いかければ大袈裟に驚いてから、バカラと名乗った女は手配書の写真と世間に流布してる情報の載ったリストを見せて来る。それを見て心から思うのは、そのVIPリストが欲しいという事。
政府、海軍幹部、有名海賊の情報が集まってるなんて、この海で生きる上では大いなる力になるわ。……良いなぁ、スっちゃダメかなぁ?
「ナミ、貴女何を考えてるの?」
「ロ、ロビン!?イヤダワ、私別に何も……」
「彼女の手にしてるアレ、私が似たような物作ってあるけど、それでも欲しい?」
「お姉様!!」
「ナミ!!」
そのまま抱きしめ合っていたら、フランキーに引き剥がされた。心の狭い男である。
皆が自分達が有名になっていると驚いてるけど、冷静に考えて欲しい。そもそも、東の海にいた時点から、行動が普通の海賊と呼ばれる領域を越えていた事を自覚して欲しいとも言える。
まずは元ロジャー海賊団のクルー、つまり海賊王のクルーであり、現在四皇と呼ばれている赤髪のシャンクスの兄弟分である男。現状本人も王下七武海の称号を得ている、道化のバギーを撃破したのが最初。
あ!……その前に何かあったらしいけど、そこは私居なかったから何も分からないのであえて割愛。
次に東の海でのみとは言え、最強と言われていた首領・クリークを倒して、更に東の海で最高額の懸賞金をかけられていた魚人アーロンを打ち倒した。そのアーロンは、その時王下七武海で有名だった海侠のジンベエの弟分でもあった事を思えば、その時点で普通ではない。
その後は王下七武海のサー・クロコダイルを倒しつつアラバスタ王国の闇を暴いた。そして、エニエス・ロビーを破壊して悪魔の子ニコ・ロビンを誘拐拉致したという事になっている。
勿論私達の言い分とは大きな齟齬があるけど、海軍としてはこんな認識。ついでに言えば、宝玉の事も麦藁の一味が拉致監禁してる事になってるらしい。
難攻不落のエニエス・ロビー陥落を成し遂げ、壊滅的被害を齎した最悪の海賊団は、その後王下七武海のゲッコー・モリアを倒して同じく王下七武海のバーソロミュー・熊から逃げ果せた。その後、海賊王と並ぶ大海賊金獅子のシキをインペルダウン送りとしたとなれば、もう通常のルーキー枠である筈もない。
大半が世間に流布されなかった情報とは言え、海軍内部では大半が知っている事実。それを思えば、この時点で世間的にも知られ始めていたし、海軍や裏世界ではその名は轟き始めていた筈よ。
そんなルフィ達は天竜人を殴り、大将に追い回されて、姿を消した。行方不明となった直後、インペルダウンでのルフィの大暴れと、それに引き続いて頂上戦争での私も含んだ大暴れ。
そして……プツンと消息を絶って二年。現れたと思ったら、最悪の世代の船長達が揃って海賊同盟を組み始める。
それも……こちら側はその時は王下七武海の1人である死の外科医トラファルガー・ローとのものであった事を考えれば、騒がれて当然。その後に起きたのが、ドレスローザでのあの騒動。
それは即ち、闇の世界でも表の世界でも隠せないような大きな騒ぎだったし、天竜人に対して思う所のある人達には衝撃を持って受け止められた筈だわ。カジノを運営しているこの場所で、あれだけの大富豪と繋がりがないなんて有り得ない。
そうなれば物凄く良い印象を抱いているか、物凄く嫌な印象を抱いているかのどちらか。実際どちらなのかは知らないけど……ドフィと関係のあった相手が、ドフィをインペルダウンに送り込んで闇のブローカーを葬った事に何も感想を抱かない筈はないわ。
ここは、慎重に……と思った時現れたのは、亀が運転する車。大量の筋肉質な、小型な亀が働いている。
ハリウッドスターが乗るのかと言いたくなるようなホワイト系の車は、流石に目を奪われてしまう。床など車内のクッションは赤なのに、椅子は水色のシート。
外部も内部も縁どりは全て本物の金を使用しているから、この車一台で相当な値打ちだとわかる。そっと足を乗せてみれば、思わず声が出てしまう程のふかふか感。
「うわっ!ふっかふか!」
皆もそれに続いて続々と乗り込むけど、ルフィは安定の船首ならぬボンネットの上。運転するらしいバカラさんが、ルフィを迷惑に思わないか心配である。
ルフィが落ちるとかの心配は不要。なので私達は、搭載してあった飲物を選び始める。
お酒は勿論、コーラ等のジュースもあり皆楽しそうにしている。飲むついでにとばかりに、コーラを体内に補充するのを忘れないあたりがフランキーであると思う。
街は明かりも含めて全てが金色で、川の水さえ金色と言う念の入れよう。辺りを見ているとバカラさんがこの船の説明をしてくれて、最初のダウンタウンエリアを抜けて行く。
その時点で色は違うけど夢の国と呼ばれる遊園地のような状態だったのに、その先は既に金色のラスベガス。街のフェンスや街灯も全て金でできている事を考えたら、1つ盗めばその後またいくらでも遊べそうなのに手付かずである。
でも、それはそれでちゃんと防犯もしてるらしいから難しいとの事。その説明を聞くのに飽きたのか、ルフィはカジノへ行きたいと言い出す。
それに合わせるように、サンジ君は美人のお姉さん達とのんびりしたいと言うし、ゾロは酒を呑みたいと騒ぐ。ショーを見たいと言うブルックに、観光したいと言うロビン、そして遊園地に行きたいと言うチョッパーとそれに付き合う気満々のウソップ。
フランキーは車に夢中であるので放置。でもそうね、もう日も落ちてるし……今夜はそれぞれ自由行動もアリかしら。
「ルフィ、カジノは明日皆で行くようにして、今日は自由行動にしない?ルフィも色々食べてみたいでしょ」
「え?」
「そんなに長時間は無理だけど、遊園地にチョッパー達は行きたいみたいだし、ダメかな?」
「うーん……なら、遊園地明日にして、今夜は食い放題でどうだ!?」
「そうね、なら今夜と明日は自由行動って事にして、明後日カジノへ行きましょう。バカラさん、そのつもりで宜しくね」
私の言葉に即座にYESと答えたものの、カジノがホテルを兼ねてるとの事で、まずはそこに向かうに相応しい服装をと言われてしまう。揃いで白ベースの衣服に着替えた私達は、精算は帰りに纏めてで構わないと言われて少し考える。
だって、設えは良いけど値段が少しばかりお高い。それを考えたら、なんとも微妙な気持ちになるのよね。
純粋に喜ぶ男性陣と、営業だからなのか上手く褒めてくるバカラさん。まぁ、滞在中変な服着ていられるのも困るんでしょうけど……。
「ここはギャンブルの街。勝って返せば良いのですよ。勝・て・ば」
「うんうん、そうだよな」
「いや、お前!何も分かってねーだろ!負けたらどーすんだよ」
バカラさんの言葉は正しい。カジノがある限り、勝てばいいのである。……そうよ、私がルーレットで負ける筈はない。
ルフィの楽観的な態度に対して、不安そうにするウソップ。そのまま騒いでいたら、数人の子供達が駆け寄ってきた。
視線を向ければ元はこのVIPとして過ごしたであろう服装で、なのに薄汚れて……。花を差し出して来る。
……何かしら、嫌な感じがするわ。そう言えば、スタッフ達は基本的に白ベースの衣服を着ていたわね。
まさか……カモにして落とす予定の客が、白とか……?でも、だとしたら縋るように花を売りに来るとは思えないわよね。
一本五千ベリーだと言う子供達にウソップが高いと驚いた時、バカラさんがそれを退けようとして来る。だけど、この子達から話を聞きたいと思う。
情報が欲しくて呼び止めようとした時、その子供達の走り去ろうとした方向から現れた男がそれを全て買取り、ついでに少しのチップを渡しつつ子供の内二人を私の方と差し向けて来た。その男は私の前に立つと、当然のように花をバカラさんに投げ渡す。
「女達に渡して問題のないように、包み直しなさいな」
その存在に皆が大騒ぎになったのも当然。でも、そんな事より私は、今すぐにでも少年と少女から話を聞きたくて仕方ないのだ。
「何故……貴方が、ここに」
「ロビンちゃんは、渡さねェぞ!」
「あー……俺はもう海軍辞めてるし、まァ……なんだ?……忘れた。もういいや」
狙う理由が無い。そう言いたいのだろうとは分かる。
でも、横着なのか何なのか、この男はいつもこうやって周りを慌てさせる。それが趣味とか、楽しんでるとか、そういうのでもなさそうな辺りが読めないのよね。
「「「良くねェよ!!」」」
「皆、大丈夫よ。ここは海軍であっても、海賊を捕らえることの許されない場所だから」
皆を落ち着かせる為に割って入ったのに、何故か青雉は平然と殺気と似たものを滾らせる。その間にバカラさんは、薔薇を二つの花束に直して戻って来ていた。
「……殺す事は、できるぞ」
「あら?……こんないい女、殺すには惜しいでしょ?」
「言うねェ……。所で、俺はそこのガキ共と飯にするが……どうする?」
「……ご一緒するわ」
この子達から話は聞きたいし、皆はゆっくり遊んで来て欲しいもの。その程度ならすぐに取り返せるわ。
稼ぐのは明後日から。ならば今は情報が少しでも多く欲しい。
そう思ってロビンに目配せすれば、当然のように頷いてくれる。その時、バカラさんが青雉に問い掛けた。
「こちらの花束は、どなたにお渡しすれば宜しいでしょうか?」
「……ニコ・ロビンと、ナミに」
「かしこまりました。お二人共、どうぞ」
「ロビン!そんなもん捨てちまえ!」
普通に受け取った私とロビンを見て、フランキーが騒ぐけど……ロビンはニッコリと笑うばかり。よく見ると、少し顔が引きつってるけどね。
フランキーのは嫉妬で、ロビンは得体の知れなさで嫌悪感って所かな。ロビンと青雉ってよくカップリングされてたと思うけど、この二人の距離感はそんな感じしないのよね。
「花に罪は無いわ。私、花は好きなの」
「薔薇は特に食べられる訳じゃないけど、香りを抽出しておけば成分としては効果が高いし、いいと思うわよ」
「……ルフィは、なんかねェのか?」
私がロビンの言葉に続けば、珍しくゾロが口を挟む。それに対してルフィは、食えない物に興味はないと言うから、そうよねと思う。
そんな騒ぎの中で子供達を待たせておくのは忍びなくて、皆には好きに遊んでくるように伝えて子供達の手を取る。ここでこの子達から話を聞くのは、重要だと本能が告げていたから。
ルフィ達はバカラさんに絡まるようにして、やりたい事のできる場所を聞く。それに対して順番に案内しますと言いながら対応する姿を横目に、私は青雉と共に子供達を連れてその場を後にした。
青雉のお金で食事をしつつ話を聞けば、家族がカジノで負けて自由を奪われているのだと言う。でもそれは、このカジノ等の賭事を生業とする業種の人達から見れば当然の事。
負ければ借金生活。勝てば豪遊というのが、この世界の決まり事。
地球でも、負ければ妻や娘がソープ等に沈められる事はよくある事で、そんなものに手を出したのが悪いとされる。本来ならば、同情の余地はない。
「正直、負けたのが悪い……と言わざるを得ないわね」
「あらら……。ナミちゃんなら、可哀想とか言って金出すのかと思ったよ。……ナミちゃんも金で奴隷やらされてたろ」
「……あら、ご存知だったの?……あれは、貴方が海軍に所属してた頃の話しよ」
横から口を挟む青雉を睨み付けて言えば、子供達が私をじっと見詰めてきた。同じように借金で苦しんでた筈なのに、今VIPになってる存在だと知ったからかも知れない。
そのまま少しだけ話をした。この子達が負けたのではなくて、その家族が負けた事で起きた悲劇は、私達が海賊により堕とされたそれと境遇は近いと言えるから。
それに多分……何かある。普通では納得できないような、理不尽な負けに関するカラクリが存在している筈よ。
「私は、十億ベリー払えば村の人達……つまり、私の家族と私を解放してもらえるって契約で、働かされてたのよ」
「「十億!?」」
「ええ、でも、まぁ、なんとか支払いをしてね。解放されて、今は自由に行動してるってわけ」
私は1人だったけど、この子達は支え合える存在がいる。心は簡単には折れないだろう。
互いが互いの心を守ってる筈だから。そう思って微笑んだら、二人はボソボソと声を落とした。
「返せる……かな」
「お兄ちゃん……」
「私は、八年かかったわ」
あえて、ルフィ達に助けられたのだとは言わなかった。自分達は助けて貰えないのだと知っているこの子達には、それを言えばなんの慰めにもならなくなる。
ただ、返した人は自由になれるのだと夢を与えるしか、今はできない。この話を聞くにあたっては、恐らくここで働いているのは大半がそれなのだと分かるから。
だとすると心配なのは、到着した時歌っていた女の人。彼女は、カリーナなのかな。
だとしたら、借金で歌わされてるのだろうか。正直、可哀想だから……なんて理由で、この船で働いている人全員を助ける事はできない。
でも、ルフィが耐えられないと思うような何かが起きれば変わる可能性と、救われる可能性があるわ。ただそうなった場合、私達の内誰かが傷付いている危険性が高いのが問題よね。
仲間に何かが起きない限り、ルフィは困ってる人がいても別に手をいちいち貸したりしない。仲間や友達が苦しんでるから、助けを求めたから、だから戦うのだ。
よくあるヒーロー物語と、ルフィ達が違うのはそこ。誰彼構わず助ける訳では無い。
そんな彼等が私は誇らしく思えるのは、自分を犠牲にして影で涙するような人達では無いから。自分をちゃんと大切にできる所が、憧れてしまう所以なのかも知れないと思う。
「さぁ二人共!今日の食事はこのオジサンの奢りよ!好きなだけ食べちゃいなさい!」
「「うんっ!」」
「あらら……。宝玉のが金持ちでしょうに……ケチだねェ。金持ちはケチってのも、あながち間違いじゃねェのかもな」
「うちには食費のかかる問題児がいるのよ!それだけで精一杯だわ」
出版する本が増えるに従い、お金の入る量も増えてる。それに、空島にいる間にも随分貯められたのにも関わらず、今もまだ生活が余裕では無い現実があるというのになんて事を言うのかしら。
1人で執筆をしていた頃よりも、出版量が多いからか、収入は右肩上がり。それでも生活が苦しい謎の現実に溜息を落としつつ、子供達が食べている物を少し摘ませて貰う事にした。