衝撃的過ぎる手配書の検分を終えて、私は現実逃避を企てる。だって、この一味の中で私の懸賞金の額は、四位と言う好成績を収めているのだから。
いっときはもっと高いところにいたのだから、マシになったとも言えるけどでも……!それは皆の金額が阿呆みたいに上がっただけで、私は下がってないのだから、落ち込むくらい許して欲しい。
なんで……こんな事に……?
宝玉である事が理由で、最初の手配額がそもそもおかしかった。そこに、戦争に参加して金額が跳ね上がったのも分かる。
でも、ならどうして……!どうして何もしてない今回、こんなにまた上がってるの!?
「酷い……!私、今回何もしてないのに……!!」
「しただろうが……」
「え?」
「……さっきも言ったが、ナミは充分過ぎる程にあの島でも活躍してる。今回、ナミの懸賞金が、億上がってないのが寧ろ納得いかねェ」
その言葉の意味が分からなくて、ついジッと見詰めてしまう。そんな私を見ていたゾロが、疲れたように溜息を落とす。
あ、また眉間に皺が。……癖になっちゃうぞー?
「ナミ」
「ん?なぁに?」
「……あんまり、男をじっと見るな」
「ほぇ?」
ゾロは何を言いたいんだろう。そう思って首を傾げたら、剣呑な空気をゾロが放つ。
なに、敵でもいるの?何も感じないけど。
「…………計算か」
「何が?」
ゾロの言葉の意味を正しく理解しようと、必死で考える。その瞳や眉間から何か情報を得られないかとじっと見ていたら、ゾロが眉間の皺を深くしていく。
何かあるらしい事は分かるのに、その先の事が読み取れない。ゾロの表情って分かりにくいのよね。
「俺は、辞めろと言ったからな」
「ふぇ?」
何を言われているのか理解できないままにゾロを見て、手配書を床に置いておくのも良くないかと思い至る。そこで伸ばした腕を、ゾロは乱暴に引き寄せ、ベッドへ押し倒すなり、激しく唇を重ねた。
「ん……っ……!?」
突然どうしたのかと慌ててしまう。それにしても、間近で見ればこれで案外精悍な顔つきと言えるのではないかと、キスされてる間も眺めて見る。
何せ断った所で聞かないし、抵抗しようにも無理なのだからとりあえず落ち着くまでキスくらいなら付き合おうと思ったのだ。私はゾロを攻撃出来ないし、形は違ってもちゃんと大切に想っているから。
ゾロはその間も、奪うように激しく貪り喰らう。そうして、痛い程強く身体を押し付けてくる。
流石に息苦しさに耐えかねて、僅かに離れた唇の間から訴えるけど、ゾロは聞く耳を持たない。ただ何故か、私の唇を睨んで更に熱く奪うのだから困ってしまう。
たっぷりと唇を舐め、舌を深く絡め、甘く溢れ出す蜜を一滴も零すまいと激しく吸い上げる。そうしながら、更に逃げ道を塞ぐように遠慮も無く体重をかけて伸し掛ると、私の両足を割り開いて身体をねじ込んだ。
「んっ……やっ!ゾロっ!」
「ん?どうした」
「どうした?じゃないわよ!何なの突然!!」
怒り心頭な私に、ゾロは挑発的に笑う。それがまた私を苛立たせるのだ。
それにしても本当にどうしたと言うのかしら?
考え込めば怒りが霧散してしまいやすいから、あまり深く考えないようにしながらゾロを観察するように見る。けれども答えは、ゾロから直接聞かなければ分からないだろうと言う情けない結論しか出なかった。
「俺は、男を無意味に見詰めるのは辞めろと忠告しただろう」
「されたけど……無意味じゃないし、さっきは無意味にって言葉は使わなかったわ」
キッと睨み付ければ、何故か深い溜息を落とされてしまう。なんだと言うのか。
その辺の男共なら、正直この肉体は上手く逃げられるし、場合によっては振り払うとかも可能なくらい力もある。これは、船で生きている事が大きく影響してるし、ある程度戦えるのも大きい。
けれど、ならばそれを理由にゾロ相手に逃げられるかと問われたら、正直無理と言えるだろう。覇気で強くなれるのだとしても、それは底上げしているのであって、皆無からでは太刀打ちできない。
勿論皆無では無いと思うし、その辺の一般海兵に比べれば私も十分に強い筈だけどね。その証拠に、一般海兵を10とした場合の強さをはかるなんて事をしてた時に、彼等は尋常じゃない数字を叩き出していたわ。
けれども私達は、そんな彼等を倒してこの場に居るのだから当然相当に強い。私を捕らえたりすることができるとしたら、それなり以上の強さが必要だと言えるでしょうね。
それでも、同じ敵を相手に……ううん、私が倒したのよりずっと強い相手を倒して仲間達は傍に居るんだったわ。そうなれば、ここはじっくり話を聞くしかないだろう事は理解できる。
「それで、何の話があるの?」
「あ?」
仲間だからって甘えて、ボーッとしてたら話は進まない。気持ちを切り替えてちゃんと真面目に質問してみれば、ゾロの眉間から皺が消えた。
ドスの効いた声は出したけど、不機嫌というのではなく、単純に私の質問の趣旨を理解してない感じね。どう言えば祖語なく伝わるだろう?
「仲間を見ないでいろなんて無理な事、本気で言ってる訳じゃないんでしょ?なら、何を言いたいのかだけ教えて欲しいのよ」
「……男ってのは単純だから、容姿の整った女に見詰められると期待しちまうんだよ」
「んー?」
「本気で、分かってねェな」
分からないふりをする理由が分からない。ゾロは時々変な事言うわよね。
期待する。……つまり、何かを楽しみに感じるって事なのはわかるわ。
つまり……何だろう。駄目だわ、答えが迷子よ。
「ナミの天然ボケ発言聞いてたら、滾ってたモノが萎えちまう。……だから、黙ってろ」
「は?何言っ」
言葉は最後まで紡げなかった。重ねられた唇が、その先の言葉を紡ぐ事を許さない。
今日は一日部屋の中で休んでるつもりだったから、バスローブ姿だったのが災いしている。簡単に開かれるそれに、抗う手段が見つからないのだ。
唇が離れたと思ったら、片手で胸飾りを弄りながらもう片方に唇を寄せ、飴でも舐めるようにチュウッと音を立てて吸う。望んでもいない事なのに、抑えきれない喘ぎが漏れる。
ただそれだけの愛撫でさえ、ヒクヒクと小刻みに震える身体を指先で、唇で、堪能するようにゾロは動く。そうして、キュッと乳首に歯を立てて、甘い声を聞いた後揺るぎない眼差しで私を見た。
「ナミが誰の女でも、誰に何度犯されていようと、俺はナミを諦めるつもりはねェ。ナミがどう思っていても、俺は俺の女だと思ってる」
「なに、言って……」
「だからこそ、昨日コックとルフィが苛立ってたのも分かるし、ウソップが部屋から青雉が出たと言った瞬間に俺達は揃って臨戦態勢に入った。そして、そのまま建物から出るのを待って三人で殴りかかったが……それは、ナミが誰かの女だからじゃなくて、仲間だからだ」
「え?」
「仲間に手を出されて、黙っていられる奴がいるかよ。ロビンも、サポートに入ったし、ウソップがあの赤い髪の女に交渉して金を取られなくしてくれたんだぜ」
「そう、だったの……」
呆然と呟く私に、ゾロは笑う。欲望に燃える瞳で、私を捉えながら。
こんな時、僅かに身が竦む。私は多分、性的な意味で見られる事そのものが怖いんだわ。
ゾロは仲間だからとか、そんなの関係無く……過去の経験が、身を竦ませる。寧ろ私の過去の経験のように、痛いばかりなら耐えられるのに……。
皆に仲間と思ってもらえてる事が、素直に嬉しい。エースが処刑台の上で喜んでしまった気持ちが、何だかわかる気がした。
「それでも青雉には逃げられちまう上に、そのままルフィとイチャつきやがって……。可愛さ余って憎さ百倍って言葉、知ってんだろ。……ナミをやり殺したくなる」
「何と言われても、ルフィとする事に罪悪感なんて抱かないわ。私の全ては、ルフィのものよ。捕まった事は謝るけど、八つ当たりされる謂れは無い」
青雉に逃げられてムシャクシャするからって、私をやり殺すって意味不明だから。殴れないから性的に発散とかなら、女買いなさいよ。
この島にはそう言う女も少なくない。カジノがあってそれがないなんて有り得ないもの。つまり、身ぐるみ剥がされたら、そういう未来もあるって事になるわね。
「この状況で言うか?」
「当然でしょ。私は、麦わらの一味の航海士。ルフィの航海士なんだから。仲間を拒む事も傷つける事も私にはできないけど、本気で害されるなんて有り得ないと信じてるわ」
「潔過ぎるだろ」
ゾロの感嘆の吐息が、私の肌を震わせる。それは、何とも不思議な表情で、けれども私も譲れないからとその顔を見詰めるばかり。
ゾロに限らず、私はルフィが選んだ人達を信頼してる。消えないような傷を付ける事も、生命を奪うような事も彼等はしない。
「ナミは、その剣も、心も、気配も、全てが気高い」
「私の……剣……?」
言われてみれば、ゾロと刃を交えた事があった。その時に感じたのは、ゾロには防御の概念が皆無であるという事。
手負いの獣のような気配で、そういう戦い方をする。だからこそ、本来なら同等のパラメータを持っている相手にも勝ててしまう。
防御に振るべき部分をかなぐり捨てて、攻撃に全振りしてるようなもの。レベルが上がった時に勝手に上がった分だけの防御は、最初から無いものとして扱うそれの方が私には潔く思える。
「俺は……会ってすぐの時から、ナミに助けられて来たのに、あの時信用出来なかった。それを負い目に感じてる間にルフィと関係を持って、だからと手を出さずにいたら会えなくなった。……二年だぞ」
「そう、ね」
シャボンディ諸島で再会した時にも言われた。でも、あの時よりは絶望感が薄い。
劣情とか、焦りも消えてる。その代わりとでも言うように、優しい気配が見え隠れしてるのが、どうしてか逃げたいような衝動を私に与えていた。
「まだ十代だった俺達には、長すぎる期間だ。その上、ナミの安否は不明で、俺が手を出しても出さなくてもナミは他の男達に狙われる。どうせ傷付くなら……結局護ってやれないなら……っ!俺の手の届く所で傷ついて欲しいと願って、何が可笑しい!!」
「ゾロ……」
「これだけ言っても、ナミは信じない!俺を信用できないって言うならまだ良いが……!!ナミは、自己評価が低過ぎて、自分に愛情を向ける存在がいる事を信じきれてねェ!!」
その言葉に息を飲む。だって、それは本当にそうだから……。
ゾロは、いつも私の事を的確に見ている。だから、怖い。
「だけどな、俺はそんなナミに変われなんてもう言わねェ。そんなナミが信じるしかないって位……愛してやる。無理に変わらなくていい。そのままのナミを、俺は愛してる」
言い切るゾロの言葉が、胸を鋭く射抜く。くらりと、目眩さえ感じたような気がした。
なんと言う告白か。この男は、狙った獲物は逃さないと、何処までも追うと……そう言いながらも、私には好きでいていいと、無理しなくていいと甘やかしてくる。
逃げなくてもいいのだと、愛情と呼ぶには熱すぎる想いで教えて、それでいて逃げたら追い掛けると宣言してるようなもの。狡いと、思う。
なら、私に残される選択肢はそんなに多くない。たまからこそ、笑顔が溢れる。
「ゾロ……止める気は、無いのね」
「……ナミ?」
「なら、好きにしなさい」
逃げる事も、抵抗する事もできない。恋愛では無いけれど、大切に想い、想われている。
なら、もういい。心はあげられないけど、ゾロを傷付ける位なら受け入れる方がずっといい。
初めての事でもない。ゾロにされるのだけでさえ、これで数回あるのだから今更だろうと思ってしまったのは大きいかも知れないわね。
そうしてフワリと笑うと、身体の緊張を解き、全てを投げ出した。そんな私に、ゾロは困ったように眉を寄せるけど、きっと慣れてない人には怒ってるように見えてしまうだろう。
「本当に、ナミの剣はナミの性質を表してるよな」
「よく、分からないわ」
「俺のどんな攻撃も、全て受け止めてくれる。綺麗すぎるんだよ、ナミの剣は。それに……ナミの心が綺麗すぎて、尊い」
綺麗な訳が無い。私は、汚いわ。
ホンモノのナミちゃんなら……って何度も思ったもの。情けない位、私は原作の彼女に遠く及ばない。
だからってそれはどうにもできないから、ゾロには提案してみる。ベックには連絡つくし、ルフィが約束を果たしたタイミングと言うのも手だから。
「それは……他の人では中々ゾロを受け止められる実力が無かっただけでしょ。ミホークにはできるでしょうけど、性格的に受け止めるってのとは違うだろうし……シャンクスと今度戦ってみる?」
「馬鹿か……。でもな、そんなナミの気高さが逆に……俺を本気にさせる。欲しい……と、渇望させるんだ」
ゾロの剣は、自滅さえ厭わない。勝つ事しか頭にない、打ち倒す事しか知らないのだ。
自らを傷付けてでも、相手を切る。そんな諸刃の剣。
それを受け止めるには、同じだけの技量と、そして覚悟がいる。例え軽い打ち合いであっても、ゾロは殺気を滲ませるのだ。
そうなれば、その殺気に尻込みして、さっさと負けを認めてしまった方が楽だと、逃げ出す者も多いだろう。でも、私はそれを良しとできない。
力そのものが及ばなくても、逃げてはどちらの身にもつかない。仲間である意味が無いと思うの。
だからこそ、戦うと疲れるし、怖いとは思うけど、逃げる事はしない。……できたら戦いたくなんて無いけど。
仲間として背を預けて戦っている時ならば、絶体絶命の状況下にあっても、私は仲間を見捨てたりしない。見捨てるくらいなら、身代わりになってでも守る事を選択するわ。
でも、戦いたくはない。色々な意味で、戦いそのものが好きにはなれないもの。
「ナミは、本質が綺麗だ。ナミに関しては、ルフィとだって争ってやる」
「そんなの、望んでないわ」
「知ってる」
そう言いながら、無防備に開かれた身体に、ゾロは口付ける。胸から腹筋へ、さらに茂みの奥で隠れている小さな豆へと。
擽るように舌先でそれを弄ぶ間も、ゾロの手は私の柔肌をまさぐりながら、二人が繋がれるその場所を求めて這い降りて行く。そうしてついに、力強い指が蜜壷に触れた途端、私の全身を甘い痺れが駆け抜ける。
「んっ……!あぁっ!!」
「何で連日連夜襲われてて、こんなに狭いんだよ」
「気に入らないなら、辞めてよ」
「阿呆……誰が止めるか」
敵を前にした時みたいに、楽しそうににやりと笑うゾロは、本当に厄介。その体温と同じくらい、その想いが熱くて……強くて……。
諦めを全面にしての受け入れなのに、身体は求めてる。本当に、自らが嘆かわしい。
「敏感過ぎる位なのに、声を押し殺して……そんなに、虐められたいのか」
「そんな訳……!!」
「なら、声を押し殺すな」
男でも女でも変わらない事がある。それは、鍛えている身体は脂肪だらけの身体とは違いがあると言う事。
傲慢に言い放つゾロに戸惑い、私は眉根を寄せる。正直、どうしたらいいのか分からない。
ゆっくりと進んでくる指は本数を増やし、私の身体を開いていく。それに呼応するように、渇いていた粘膜は、教えこまれた感覚を思い出し、愉悦の伸縮を開始する。
悔しさと言うより、切なくて、何を言えば良いのかも分からない。ゾロは私の顔を見て、困ったように口の端を歪めた。
「本当に……ナミは嗜虐心を刺激するのが得意だな」
「そんなの、知らないっ!」
「無自覚だからこそ……厄介だ」
苦笑いもそのままに、私の恥ずかしく伸縮するその場所にゾロの唇が降りてくる優しい吐息が、指を飲み込んだままの入口に吹き寄せたかと思うと、次の瞬間それは激しい嵐になって、感じやすい場所に押し入って来た。
「あ……やだぁっ!」
咄嗟に飛び出した拒否の悲鳴は、諦め切れない私の弱さ。ルフィが知ったら怒るだろうと、傷付けてしまうだろう現実に対するもの。
そんな所を舐められる羞恥は、何度されてもなれる事はできない。だけど、ゾロは耳を貸さない。
「知ってる。知ってて、やってんだ……」
嫌でもなんでも、もう好きにすると決めた男は、存分に舌と唇で私の中を味わう。奥の奥まで指で掻き回す。
荒く上下する喉から、甘やかな嗚咽がひっきりなしに漏れ始める。私は我知らずゾロの髪に指を絡めようとして、短過ぎるそれにより失敗した。
結果的に撫でたみたいになってしまう。そんな私に、ゾロは吐息を吐き出すように言葉を吐き出す。
「ああ……甘いな」
「そ……なわ、け……んんっ!!」
「ナミは、全身が甘い。……甘いもんは嫌いなのに、ナミは美味く感じんだから、不思議なもんだよな。……そういや、これも美酒のひとつだったか」
妙な事を言うゾロは、そうしながら指で入口を押し広げて中へと息を吹きかける。それだけで感じて悲鳴を上げる私に、ゾロは満足そうな笑みを浮かべた。