ホテルで揃っての朝食を口にしながら、サンジ君の作る物じゃない料理が何だか珍しく思えて小さく笑う。勿論皆が食べてるのを見ながら、私は果物を摘んでいたんだけど。
あ、この蜜柑は辞めとこう。これ絶対酸っぱい。
こっちの梨、美味しそうだわ。よし、これにしよう。
「ナミ、果物は食事じゃないわよ」
「……でも、医学的には「ナミ、ちゃんと食えよな。バランスのいい食事ってのが大切なんだぞ!」」
口に含んでた梨を飲み込んでから、ロビンの言葉に反論しようとしたのに、チョッパーから追い打ちを掛けられてしまう。渋々サラダに手を伸ばそうとしたら、フランキーからステーキの乗ったお皿が回されて来た。
えー……って言いそうになりながら見上げれば、何故かウソップからナイフとフォークを差し出されてしまう。朝からステーキとか、どんな拷問……。
でも、出されたからには食べなければ!と頑張るけど、半分位で辛くなってきてしまう。動きが鈍くなった所で、ステーキのお皿が消えて代わりにシャーベットが差し出された。
犯人を見てみればサンジ君で、残りは貰っておきますなんて言われてしまう。……皆、何だかんだと言いながら優しいのである。
何のシャーベットかなと思いながら食べたそれは、柚子のシャーベットらしくて食べやすい。サッパリした気持ちで浮かれていたら、ブルックがそっとティーカップを差し出して来た。
「ジャスミンティーです。お肉を消化するのに役立ちますよ」
「ありがとう」
「ブルック!俺には!?」
「ルフィさんにはそんなもの必要ないでしょう」
「酷ェ!差別だ、差別!ダンジョサベツはいけないんだぞ!」
むくれるルフィにゾロは笑いながら酒を口にして、ルフィ用にと勝手に肉を追加する。それが運ばれてくれば、ルフィは目を輝かせてそれ迄文句を言っていた事を忘れたかのように食べ始めるのだから、平和なもの。
「おはようございます。お食事は、お口に合いますでしょうか?」
「あら、バカラさん。……ええ、ありがとう」
笑って応えれば、バカラさんもニッコリとお手本のように笑う。見事な営業スマイルに惚れ惚れしそうな程。
そんなバカラさんの後ろに男の人が着いているのを見て、カジノだからだと気付く。つまりその人が手にしているのはコインなのだろう。
「それは、いくら分?」
「二千万ベリーです。お貸し致しますので、ご利用ください」
ニッコリと笑って言われたそれに頷いて皆を見れば、ワクワクした様子を隠さない。なのでおまたせしましたとばかりに、私も笑ってカジノへと向かう。
赤をベースに造られた内装には、これでもかと金を施してあり、本気で眩しい。ただこうして眺めていれば、色彩的に見てもカジノとしては最高級だと分かる。
赤は興奮の色。そして、お金を連想できる金色を用いて気持ちを昂らせるのだろう。
その証拠に皆は大興奮。私はルーレットを求めて視線を動かすけど、ルフィの声で視線はそちらに吸い寄せられてしまうのだから、情けない。
「うっひょーっ!!これがカジノかー!!広いなー!!」
「はい!当カジノには様々なゲーム、アトラクションがございます。分からない事は、何なりとお聞き下さい。ご案内致しますので」
「わりいな!」
ルフィとバカラさんがそんな会話をしているのを聞きながら、それぞれが辺りを見ていると付き人の黒スーツがコインの入ったアタッシュケースをサッと開けて見せる。間違いなく二千万だと分かるそれを見て、私が頷くのと同時にルフィの腕が文字通り延びてきた。
何事かと思うより早く、遊んでくる!と駆け出すルフィ。それに続くように、ウソップとチョッパーが駆け出して行った。
私は中身の減ったアタッシュケースを手にして慌てて三人を追い掛けたけど、何かの入口で足止めとなる。そこで聞いてみれば、参加費百万ベリーの〝カメ車レース〟とやら、らしくて仕方無く残された皆で観客席から応援する事を決めた。
バカラさんに案内して貰った観客席から、ルフィ達を探せば案外すぐに見つかる。なんとも楽しそうにしている姿は微笑ましいけど、事前に相談くらいして欲しい。
「ルフィ!負けないでね!」
「任せとけって!!勝てば良いんだろ、勝てば!!」
そう言って始まったレースは、何とも実況するのが大変そうなメンバー。妨害とかも好きにしていいらしいそれは、何とも楽しげ。
でも、コースアウトしたと聞いた時には頭を抱えてしまう。まぁ、百万位ならすぐにでも取り戻せるけど……。
「怪我とかして無ければ良いけど……」
「あの子達なら、大丈夫だと思うわ」
ロビンの言葉にそう言えば、年齢の低い三人組だと気付く。とは言え私やゾロ、サンジ君もそこまで大きな隔たりは無いのだけれど……十代か二十代かは案外大きい。
コースアウトした場合は、何処から帰って来るのかなとソワソワして辺りを見ていたら、突然響くアナウンス。まさかのそれについ、モニターを見詰めてしまった。
「〝あー!?これは!?どういう事だー!!〟」
画面に映るルフィの楽しそうな笑顔。盛り上がってると分かるウソップとチョッパーの姿に、ホッと胸を撫で下ろした。
全員怪我もなく楽しんでるみたいね。それにしても、レースに戻るとか……有りなんだ?
「〝あ~!?麦わらチームが戻って来たー!!〟」
ルフィ達のそれにより会場も大きくわく。これはレースに戻さないなんて選択肢は無いわねと小さく笑ってから、どうせならルフィ達にかけておけば良かったわと少し思ってしまった。
まだ結果は出てないけど、ルフィ達が勝つ事にかけておけば、衣装とかホテル代位にはなったかなと思うから。まぁ、そこまで大きな金額でもないから良いんだけど。
「〝一気にラストスパート!!激しいデットヒート~!!さあ!!勝つのは!誰だー!!!!〟」
結果、目視で誰が勝ったのかは判別が難しい程の接戦。でも勝利したのは……ルフィ達だった。
大喜びのルフィと、ホッと息を吐き出す私。そんな私やルフィ達を見て、微笑ましそうに笑う大人組。
この時点で900万ベリーの儲けなので、遊園地やホテル、衣装の代金は取り戻せたと言える。とは言え、それを返しても今借りた二千万ベリーの損失があるのだけど、それだって最悪そのまま返せば良いだけの話。
保身に走るなら、ここで終わるべきだけど……そんな事はありえない。だって、私達は強欲な海賊だもの。
まずは私とフランキーでルーレット。ウソップとチョッパーは、スロットで勝ちに行く。
ブルックとロビンはブラックジャックで、ルフィとサンジ君はボクシングの試合を観戦して勝利をおさめる。ゾロはそんな私達の周りを巡って護衛してくれながら、お金を預かっていてくれた。
同時に散らばり得て来たコインを手にゾロの元へと集合する。そうしてそれぞれのコインをアタッシュケースに納めれば、気持ちが高揚するのも当然。
「凄い……5千万ベリーも儲かってるわ。この規模でこんなに……!!」
掛け金も少ないから、儲けも普段より少ないと踏んでたのに……。本当に嬉しい。
確実に瞳がベリーになってる事を自覚しながら、それでもウハウハな気持ちを抑える事ができない。ルーレットでなら、私まだまだ当てられるから休憩挟んだら行こうかしら。
ルーレットなら数時間でそれなりに稼げるもの。そう思った時、バカラさんが声を掛けてきた。
「流石ですわ。皆様。では、そろそろVIPルームへ行きませんか?」
「何だそれ!?」
バカラさんの言葉に、ルフィが反応する。それにニンマリと笑ったバカラさんが答えたのは、皆を動揺させる言葉。
誘惑は強く、臆病風に吹かれたら挑めない。でも、私達はこの海を生き抜ける〝強運〟の持ち主なのよ。
運が無ければ、とっくに死んでる。この海には、実力だけではどうにもならない事が沢山あるのだ。
「ハイリスク、ハイリターン。勝てば億万長者のスペシャルギャンブルに参加しませんか?」
「えっ!?お、おい、どうする?」
ウソップが誰にともなく問い掛ける。けど、これに限っては船長の言葉なんて待っていられない。
答えは決まってる。未来の海賊王の運が、その辺の奴らに劣る訳無いじゃないの。
「……勿論!!ここは、勝負よ!!」
「ザッツ、グレイト!!最高ですわ」
その笑顔を見た瞬間、気付く。何かある……と。
賭事で陥れる時は、先に勝たせるのは定石。なら、この次に嵌めるのだろう。
でも、何で嵌めるつもりなの?
このカジノコーナーでだいたいのゲームは出揃ってる。彼女と同じ名前のバカラもあるし……。
残る賭け事って何かしら?
……麻雀?
三人で共闘するとかなら話は別だけど、そうじゃないなら詰むのも自分ならそれは自分で牌もそれぞれ工夫して乗せる物だから陥れるなんて難しい筈。それとも、初心者だからって事で軽く見られてるのかな。
……ここで、作注。麻雀で牌を積む時に工夫するのは、本来いけない事です。
「……分からないわ」
「何がだ」
私の無意識に発していた言葉を聞いたらしいゾロが聞いてくるけど、バカラさんがいる今答える訳にはいかない。なので、黄金のエレベーターが到着したみたいなのに、開かれない事に対してだと言う旨を伝えておく。
その瞬間、顔の大きな男が現れて悪魔の実を使って中に入るのだと教えられた。それにより言われるままにその男に触れるか、触れてる人に触れて入室を果たす。
そうして入室したら最後、コイツらの手を借りなければ出られない空間へと誘導されてしまった。嫌な予感がムンムンするわね。
「すげえっ!すり抜けた!?」
「ここが、VIPルーム……?」
洋風の造りに、和風の賭事。辺りを見渡せば、客には海軍の将校が紛れ込んでいるのがよく分かる。
正義を背負ったままで、賭事に興じるなんて……。せめて、脱いでからやんなさいよ。
軽い苛立ちを覚えたのは、ベルメールさんが大切にしていたそれを思い出したからかも知れない。私やノジコが渡したプレゼントと一緒に、大切にしまい込まれていたそれは、ベルメールさんにとって誇りの筈で……。
……八つ当たりもいい所なのかも。海軍が腐ってるのなんて、今に始まった事じゃないものね。
気持ちを切り替えて、スペシャルギャンブルの丁半を見る。イカサマができるようなタイプかどうかを、確認する為に。
全てが巨大で重さも尋常では無さそうなそれは、下から針で刺してなんて事はできそうもない。驚き興奮する皆は放置して、ならばどうやって罠にはめるつもりなのかと考えてしまう。
ただ好きに遊ばせて、運に頼っての自由な振る舞いを許すなら……私達が負ける筈は無いのだから。つまり、この船のオーナーは損しかない。
そんな事になるような仕掛けが、残される筈も無い。だから色々探る為と言うのと、当初の目的を果たす為に声を掛ける。
「バカラさん、この船では薬とかも販売してる?」
「オー、イエー。勿論です。何かご入用ですか?」
「欲しい物があるの。揃えて貰えると嬉しいわ」
ある意味賭けになるけど、まだ罠に落とす前の私達が望む物を彼女が断るとは思えない。だから、ローちゃんに頼まれていた物を紙に書出して手渡す。
するとバカラさんは、僅かに困ったような顔をした。それから、そっと紙を返して来る。
「全ては揃えられないかも知れません」
「……どうして?」
「特権階級の方と、それの関係者にしか販売してはならない薬が含まれております」
つまり、天竜人にしか使えない薬。ロシーは元々天竜人だから……その薬は多分1番重要よね。
買えないなら、他の入手方法。場所さえ分かれば、盗み出すけどそれも難しいなら……。
「賭事の景品なら、どう?」
「流石に現状は認められておりませんが……オーナーの許可が降りれば、可能かも知れません」
私は、この船のオーナーについて何も知らない。でも、善人であるとは考えられないわ。
ならどうするか。そんな事を考えている間にも、丁半の決着はついていた。
何故か斧ではなく頭でかち割るその姿に、様々な反応を見せる皆を眺めて少し肩から力が抜けた。全員が揃ってる今、何が起きたとしても負ける気がしないから。
「さあ皆様、チップをとりあえず三億程お貸ししましょう」
突然の声と現物に、つい意識が逸れる。二千万借りて、七千万になってたから、五千万勝ってた。
けど、ここで三億借りたから二億五千万の借りって事になるわね。……ルーレットなら私負けないけど、丁半だと完全に運任せになるのよね。
動体視力でどうにかるかしら。それとも、これを辞退するべきかな。
でも、増やしておけるなら増やしてしまいたい。よしっ!
「これは!一気に億万長者になるチャンス!!」
「おい、でも……!」
「ここは慎重に……」
なんて、私とウソップとブルックが話してる間にルフィは全額丁に賭けてしまう。咄嗟に、三人で声を揃えたのは当然だろう。
三億七千万ベリーは、簡単に言い放ったルフィの一言で決まる。これには流石に緊張してしまうけど、ルフィの強運を証明するように結果は〝丁〟であり、あっと言う間に倍額に増えた。
思わず瞳をベリーにしてルフィにしがみつけば、ルフィは得意そうに笑う。だって、倍よ、倍!!
七億四千万ベリーよ!?
そう思ってニンマリしてしまう。これで暫くは食費に悩まされる事も、薬を購入するのに手段を選ぶ必要も無い。
ならまずはここからお金を先に返却して、残りで戦えばいい。そう思ってバカラさんにそれを伝えようとした時、巨大な男が姿を見せた。
ピンクのスーツを着たその男は、何故かドフィを連想させる。ドフィが昔はスーツで、その後はピンクのもふもふだったからかな。
辺りのざわめきから、このカジノのオーナーであるとわかる。ルフィは誰だと誰何するけど、相手は大人な対応をするのだから反応に困ってしまう。