※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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経過時間

 目覚めた私に最初に気が付いたのは多分、私本人よりもロビンだった。だって、目を開けたら目の前にロビンのアップがあって、その顔が泣きそうに歪んでたからそう判断する他ない。

 

 「ナミ……!良かった……っ!!」

 「ロビン?」

 「ええ、私よ。ルフィがね、昨夜ナミを奪い返して来たのよ」

 

 言葉を理解できなくて、瞬きを繰り返す。だって……相手はレイリーよ?

 

 「……うそ、でしょ?まだ、ルフィは実力的にレイリー相手なんだから、勝ち目なんて……「ナミ起きたのかっ!ナミ、助けてくれェ~!!」」

 

 言葉が途中で消えた。だって、半泣きでルフィが飛び付いてきたから。

 

 「ルフィ……どうしたの?」

 

 思わず抱き締めて、その頭を撫でながら問い掛ける。するとその頭が濡れてる事に気付いて、少し驚いてしまう。

 ただ濡れてるならプールとか海とかに落ちた可能性もあるけど……ルフィの場合は、悪魔の実の能力者だから頭が濡れるのはリスクが伴う。つまり、水鉄砲とかで遊んだか、お風呂という事になるのだ。

 でも、流石に今水鉄砲で遊んだとは考えられない。そうなると消去法でお風呂になる。

 だけど、ルフィはそんなにお風呂に入らない生き物である事を考えたら、どうしたって驚いてしまう。何があったの?

 

 「ルフィ?」

 「頭叩くとぐわんってなるんだ。耳に入った水出そうとしてんのに、上手くいかねェんだよ!……サンジが無理矢理風呂に入れるからだ!!」

 

 お風呂に入ったのは、サンジ君の手によるものらしい。そう分かれば納得できる。

 本来ならば、助けてくれてありがとうとか、言うべき事は沢山ある筈なのに……。ルフィはそれさえ言わせてはくれない。

 ならば代わりに、助けてくれと言われた事を叶えなければ。……本来、チョッパーに頼むべきだと思うのだけど。

 

 「……水が耳に入って出てないのね?」

 「おうっ!」

 「治してあげるから、ちょっと待ってて」

 

 そんな事なら簡単である。ティッシュで紙縒りを作り、耳に差し込むだけなのだから。

 水に触れるとティッシュはそれを見事に吸収してくれるから、水がある時の違和感がなくなったら引っ張り出せば解決である。頭や顔を洗っていて水が入ったら、是非試して欲しい簡単な解決策。

 だから手を伸ばしてティッシュを細く丸めていけば、後はルフィの耳に入れるだけ。膝を叩いて膝枕の体制を取ってもらってから中に入れれば、中でティッシュが広がるのが変な感じなのか、ルフィは少し嫌そうに顔をしかめた。

 それによりゆっくりとティッシュを引き抜いて、身体を起こしたルフィと視線を合わせる。ティッシュを確認しても溶けたような痕跡はないけど、つらかったのかな?

 

 「どう?ルフィ、ぐわんっ……ってならなくなった?」

 「ん。大丈夫みたいだ」

 「良かったわ」

 

 こんな事で役立てるなら、それに超したことはない。ベッドで上半身を起こしてる私にの目の前に腰掛けて、少しだけ困ったような顔をした。

 

 「……ナミ、助けに行くの遅くなってごめんな」

 「そんな事ないわ!……寧ろ、どうやってレイリーから助けてくれたの?」

 「にししっ!気にすんな!!それよりさー……」

 

 そうしてルフィは、私を連れ戻してからの事を話してくれた。連れ戻した私をお風呂に入れようとしたら、滅多にお風呂に入らないルフィは汚いから、洗う所か病気にさせかねないとチョッパーに言われて、ロビンとチョッパーに私を預ける事になったらしい。

 それでも私がお風呂を終えてベッドに戻ったのを確認したら近付こうとして……サンジ君に捕まったと言う。清潔な姿にならないと、弱ってる人は病気になる可能性があるから近寄るなと。

 それによりお風呂に入れられて、途中で飽きたルフィを風呂に漬け込んで洗ってくれたとの事だ。……多分、芋を洗う感覚で洗ってくれたんだろうなと思う。

 

 「でも……楽しそうね。見たかったわ」

 「ナミは風呂好きだからいいかもだけどよ、俺は疲れるし、力抜けるし、頭が変な感じになるし、いい事無かったんだぞ!」

 「ふふ、でも、入ってくれたのね。ありがとう」

 

 少しむくれてるルフィが可愛くて、よしよしと頭を撫でていたら、ロビンの手が生えてきてルフィを少し引き剥がした。元々はロビンと居たのをルフィに邪魔されたのだし、ロビンのやる事を全面的に支持したいと思う。

 

 「あ、ロビン!あのね、皆を呼んでくれる?確認したい事と、今後の事について話したいの」

 「わかったわ。すぐに集めるわね」

 

 そう言って笑ってくれたロビンは、能力を使って皆の近くに小さなロビンを発生させて呼んでくれた。こうして見ると、パッと聞いた時はハズレの能力なのに、実際は物凄く便利な能力だとしみじみ思ってしまう。

 皆の傍を離れて、何日目であるのか。そして、カリーナについて確認しないと。

 そう思って待機していれば、皆が集まって来る。サンジ君はその手に飲み物を持っているから、長引く事を想定されてるらしいと理解した。

 

 「皆……助けてくれて、ありがとう。助けて貰ってすぐで悪いんだけど、まずはいくつか確認したいの。……私がクロコダイルと共に傍を離れて、何日経過してる?」

 

 皆に問い掛けたのは、私としては当然の事。でも、皆からしたら意味が分からないだろう。

 でも、事実私には分からない。シャンクスとレイリーに抱き潰されて、私の中で時間の感覚が狂っていてどれくらいの期間が過ぎたのか分からないのだ。

 でも、そんな事言える筈もない。だから、ただ何日経ったのかだけを聞こうとしたのだけど……。

 

 「ナミさん、時間の経過が分からないって、何が……あったのですか?」

 「ブルック……あの、えっと……」

 

 言葉を詰まらせてしまうのは当然。でも、それをまさかのルフィが遮った。

 

 「レイリーに修行つけられてたからな。ホントにレイリーの修行はわかんなくなるぞ。俺も目隠しされて身体を縛り上げられて、目の前で飯の匂いさせられてよ……そのまま放置されてたら時間の感覚なくなったから、よく分かる。レイリーの修行って、時間とか痛みとか空腹とか色々わかんなくなるよな」

 「ルフィ……」

 「ナミも、レイリーに修行させられてたんだろ」

 「……聞いた、の?」

 

 私がレイリーに修行をどうやってつけられたのか。そして、私がそれによりどう反応したのかを。

 ううん、ルフィはレイリーから聞かなくても、本質的な所で理解してるのかも知れない。でも、こうして庇ってくれる位には……何があったのか気付いてると考えるべき。

 それが、ただひたすらに怖い。ルフィに、見捨てられてしまう事が、呆れられてしまう事が……怖いの。

 

 「ん?……ナミ?」

 

 恐らく青ざめているのだろう。そして、震えているのだろうと分かる。

 だからこそ、ルフィは私の顔を不思議そうに覗き込んでるのだと分かるのに、どうしたらいいのか分からなくて視線を合わせる事さえできない。指先が冷たくなるのが自分で嫌という程分かるの。

 そんな私をルフィがフワリと抱きしめる。ベッドで上半身を起こしてるだけの私を真正面から抱き締めて、後ろ頭を優しく撫でてくれるルフィの肩にそっと頭を預けた。

 

 「レイリーから取り戻す時、虐めんなって言って来た。でも、ナミの覇気は感じたから……だから、ナミがいるって気付いて助けに行けたし、そうなるとレイリーが覇気鍛えたんだろうってのは分かる」

 「ルフィ……」

 「俺の時とはやり方違ったみたいだし、時間も無かったから普通ならそんなに成長する訳ねェけど……ナミ、頑張ったんだな」

 「ルフィ……っ!!」

 

 縋り付くようにして抱きつけば、宥めるように背中を軽く叩いてくれる。嬉しいのか悲しいのか、悔しいのかさえ私には自分の感情が分からない。

 ただ、ルフィの声が優しくて……。甘えていたいと思うの。

 

 「ナミの事、1番見てきたのは俺だぞ?……ナミが、覇王色持ってんのは、俺が持ってるってわかった時にすぐ理解した。でも、俺のとはなんか違うから……何にも言えなかったんだ」

 「うん、私も、覇王色の覇気を使えるって言われて……コントロールを教えて貰って……」

 「え、ナミも使えるのか?」

 「うん。疲れちゃうから時間とか色々制限はあるけど、扱えるわ。相手を指定するのはまだ不安定だけど」

 

 ウソップの問い掛けに頷いた時、誰かが座り込む音を聞いた。それによりルフィの肩口から皆を見たら、フランキーが座り込んでいて、ロビンがその肩に手を置いているのが見える。

 どういう事、かな。呆れられたの、かな?

 あれ、ゾロは……どこ?

 当然いると思っていたゾロの姿がない。それに慌てて視線を動かすけど、誰もその事に触れようともしてない事に気付く。

 

 「ゾロは……?」

 「……ナミを迎えに行く少し前に、カジノ王ってのが来て……ナミが舞台に出るのを確認するまで預かるって……連れて行った」

 「そんな!ゾロは1人だと身動き取れないのに……!!」

 

 私の問い掛けに答えてくれたルフィに、思わず縋るように服を掴んで悲鳴のような声を出す。そんな私に、ルフィは悔しそうな顔をして見せた。

 こんな顔、久しぶりに見た。船長として前に立つようになってから、ルフィはこういう顔を見せなくなってたのに。

 ……二人の時は、たまに見せてくれたけど……今は皆も居る。なのに……。

 

 「ルフィ……ごめんね……」

 「ナミが、無事に戻ってくれたから、大丈夫だ。取り戻そう、ゾロを」

 「うん。その為に、話をしたいの」

 

 私の言葉を受けて、ルフィは頷くと私の背後に回って私の壁になるようにして座り、背後から腕で支えてくれた。私が話してる途中で倒れないようになのかな。

 その優しさが嬉しくて笑うと、チョッパーが溜息を落とした。えっ……まさか、甘え過ぎで呆れられた……?

 

 「ルフィ……ナミから離れる事覚えろよ」

 「いやだっ!ナミは離さねェ!」

 「え?支えてくれてたんじゃないの?」

 「ん?俺が抱いてたいから抱いてるんだぞ?ナミは話したいって言うから、後ろからで我慢してるけど……駄目か?」

 「ううん、ダメじゃない。ありがとう、ルフィ」

 

 何も考えずに即答した。だって、ルフィが小首傾げて可愛かったんだもの。

 なのに、チョッパーは怒る。怒ってても可愛いと思うけど……ってそう言えばルフィとチョッパーの可愛さは質が違うのよね。

 

 「ナミもルフィを甘やかすなー!!」

 「だって……私も助かるし……」

 「ルフィ……無理させたら、引き剥がすからな」

 「にししっ!おうっ!!」

 

 チョッパーが心配そうに私を見てから、さっきの質問だけど……と言ってから私が皆から離れてたのは約三日間だと教えて貰った。それにより時間をすり合わせれば、カリーナの事も聞く前に説明して貰えて脳内はその整理に追われる。

 私がクロコダイルと過ごしてた時、シャンクス達はそれを見ていて、ルフィ達はカリーナにこの部屋へと案内された。ルフィ達はそこでカリーナから変な事して生命を粗末にするなと言い捨てて、この部屋は自由に使えるようにしておくと言って去っていったらしい。

 その後、私はテゾーロと契約を交わしてシャンクスの所へ。その時にテゾーロは皆の所へ来て、ゾロを私が契約を反故にしない担保として連れて行った。

 そして私はレイリーに保護されて、朝から修行をつけられて……力尽きた所でルフィに救出されたらしいと知る。そうして助けられた私を洗って休んでいたら目覚めたので、三日未満位の時間が経過したらしいと理解するには十分。

 

 「……なら、残りは一日ね。私は、テゾーロとゾロを開放して貰う為に契約したの、猶予は一日。つまり明後日には私は舞台で演奏する事になってるわ」

 「ナミさんが、1人で舞台に立つ予定ですか?俺達は、何もできないと……?」

 

 サンジ君が苦しそうに問い掛けてくる。明らかに心配してくれるその姿に、心から感謝して唇を開いた。

 

 「それについて、相談したいのよ。私に課せられたのは三曲。全てを私1人で演奏と歌という形で魅せるのは難しいと思うの。……それに、皆も納得しないでしょ?」

 「そうね、ナミを守れる人が傍にいないと困るわ」

 「だからって、懸賞金の高い奴がついて行くのは許可されねェだろう。あの金ピカ野郎、明らかにナミとゾロを手に入れようとしてやがるからな」

 

 ロビンとフランキーがそう言って、不愉快そうに腕を組む。二人の動きがシンクロするのを少し微笑ましく思いながら見詰めて、素直な心を吐露する。

 

 「そこで……悩んでるのよ」

 

 ルフィやサンジ君が舞台に立つ事を、テゾーロは許さないだろう。そうなると、どうしたらいいのか分からない。

 

 「なら、俺が一緒に舞台に立つよ」

 「チョッパー?」

 「俺は懸賞金低いから……それに、ペットって事になってるから、許可も出るだろうと思うんだ」

 

 チョッパーはペットとの記載に落ち込んでたのに、自分からそれを利用するなんて。……それだけ、本気で守ろうとしてくれてるんだと分かれば、泣きたくもなる。

 でも、泣いてる場合じゃないから、何と答えたら良いかを考える必要が出ていた。そんな時にウソップが自分の胸を叩いて、力強く頷く。

 

 「それなら、俺様もついて行ってやるぞ!歌は得意だしなっ!!」

 「……ウソップは駄目よ」

 

 チョッパーの言葉に続いてくれたウソップに、私は首を横に振る。だって……ウソップの懸賞金は既に億を超えているもの。

 世間的に見て、億を超えれば立派な大悪党。そしてそれは、政府から見てそれだけの驚異があるか、実力があると認められた証拠となる。

 私の場合は生け捕りのみであり、繋がってる人達に問題があるのだから、実力では無いと誰もが判断できるけど、ウソップはその実力だと判断される筈。だから、ウソップを頼る事はできない。

 私が真剣な顔でウソップを見れば、ウソップは自分の手配書の金額を思い出したのか、焦った様子でそうだったと叫ぶ。だからごめんねと謝ってから、チョッパーに視線を向けて考えてみた。

 

 「チョッパーを舞台に……」

 「それでしたら、私も立ちましょう。ナミさんと同じ音楽家として」

 「ブルック……は、私からお願いしようと思ってたのよ。ソウルキングであるブルックは、世界的に有名だから断られる筈ないもの。……でも、そうなると……チョッパーは、歌える……?」

 「え?」

 「沢山の人に見られながら、歌う事ができる?」

 

 私が何を求めているのか理解したらしく、チョッパーは力強く頷いた。任せてくれと言わんばかりに。

 宴で歌うのとは訳が違う。練習だってそんなに時間は取れない。

 

 「俺が歌えそうな曲を、教えてくれ!俺、舞台で歌うよ!」

 

 チョッパーの言葉を受けて、私は笑う。何曲か未発表の曲を見て貰って、ブルックとチョッパーにそれぞれ選曲して貰おうと思いながら。

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