三々五々に集まって来る面々は、朝食を見て嬉しそうな声を出す。ルフィなんて、今にも涎を垂らしそうな勢い。
それから朝食を皆でとる為に席に着くと、私は先に飲んでしまってたからジュースが追加された。それから早速サラダに手を伸ばせば、なんとも複雑な味がする。
ブロッコリーとカリフラワー、人参が入ったサラダは白ワインとニンニク、ほんのりカレーの風味を醸し出している。見るからにビタミンB2を大量に摂取できるサラダに何だか幸せな気持ちになるけど、飽きさせない為にわざわざカレーのスパイスも使ったのかと思えば、その手間に頭が下がる思い。
サラダとしても良いけど、おかずになってしまうこれは確かにルフィのように量を求める生き物には適してるだろう。野菜だけを貰ってきて食べていたら、フランキーが私のお皿にセットになってた蒸し鶏を入れて来たのでつい睨んでしまった。
「エネルギー補給しておかないと、ステージで倒れるぞ」
「朝からそんなに食べられないわよ」
フランキーの言葉に文句を言ったら、チョッパーに言われてしまう。何故ここでチョッパー?と思ったら変な声が出たのも当然。
「食べた方が良いぞ。ナミ、少し軽くなってたからな」
「ほぇ?」
「ナミが寝てて俺に体重掛けてきた時、軽くて焦ったよ。ちゃんと食べないとダメだぞ!朝は食べても太らないから安心して食べろよ」
「そんな事を気にして、食べてない訳じゃないから。朝は食べるのきついだけだからね?」
その証拠に朝は珈琲だけで良いと、ロビンも微笑んで珈琲を飲んでるだけ。でも、何も言われないロビンって強いと思う。
ロビンは許されるのに……と思って見つめたら、ロビンから微笑みが返された。その上で一言。
「私は、激し過ぎる運動はしないもの。それに、頭を使う頻度もそう多くないから問題無いのよ」
「うー……」
「激しい運動について、色々ここで話したいなら反論してもいいわよ」
そんな事を言われて反論なんて言える筈もない。私は逃げるように視線を逸らした。
続いて汁物に手を伸ばす。汁物は魚の団子汁だったらしく、ウソップが喜んでる。
……魚はイワシかな。汁物にはわけぎが大量に入ってるので、こちらも体温保持に適したメニューとなっていて、昆布出汁の汁物が身体に優しい。
主食として用意されていたのはカレー炒飯で、サラダに使ったカレーのそれと同じ物を使ったのだろうと分かる。そこまでで満足してたら、チョッパーから揚げ物の団子をお皿に入れられてしまった。
でも、なんか瞳が輝いてるからチョッパーの好きな感じなのかも。綿飴は有り得ないとしても、何か喜ぶ仕様なのよね?
食べてみると中からコーンが出て来て、成程と思う。コーンとヒジキを、刻んだネギと一緒にひき肉に混ぜたらしいそれは、確かに体にも良くてチョッパーも好む味。
チョッパーは甘いもの大好きだものね。醤油ベースの味付けは、他のとはまた違うので口が飽きるのを防いでくれている。
サンジ君は優しさの権化ねと思いながら、入れられた分だけは何とか食べきって、ジュースを飲む。なんかサッパリして幸せな気持ちに浸っていたら、足りないと騒ぐルフィにサンジ君が追加を出して来てどれだけ作ったのかと笑ってしまった。
料理は常にキロ単位で全て作られていて、なのにそれが即座に消えて行く現実。これではいくらあっても、お金の不安は消えないわよねと思ってしまう。
そうしている内にノックする音が聞こえた来て視線を向ければ、衣装合わせに来るようにと言われる。それに従う形で、私とチョッパー、そしてゲップをしまくりサンジ君に叱られてたブルックは皆の元を離れてテゾーロの待つだろう部屋に案内された。
無駄にキラキラした扉を抜けた先には、ゾロとテゾーロがいて……。そのゾロが頭を下げたまま動こうともしない。
「ゾロッ!!」
思わず叫んだ私と駆け出すチョッパー。私を押さえるように手を置いたブルックの手が、震えてる。
でも、このままだとチョッパーが!そう思ってブルックの手を振り払って駆け出す。直後にチョッパーが妙な形で転べば、案の定片足が金に変えられていた。
「てめェ!!何しやがる!」
「ショーのメインに勝手に触れようとされたので、つい、な……。だが……これからステージに立つのに、支障がない程度に抑えてやっただろう」
ゾロの言葉にテゾーロは肩を竦める。そして私に視線を向けるから、つい、低い声で文句を言ってしまった。
この場は冷静に対応しなければと思うのに、耐えられない。ブルックはいつでも動けるように、杖に手をかけたままじっと成り行きを見守ってる。
「充分、支障があると思うけど?」
「歌う時も、踊ったりする訳でもなく、足を使う楽器を演奏するでもない。問題は無いさ。……ステージを成功させたら、戻してあげても構わないが、どうする?」
この問い掛けにNOと言える筈も無いのに、何故か断らなければいけない気がした。その為に答えを出せずに言い淀んでいたら、低くゾロの声が響く。
「今、治せ。ステージを成功させたいならな」
「ほう?」
「チョッパーのウリは、チョコマカと動く所にある。それを失えば、ただの珍しい見世物にしかならねェ……違うか」
「なら、前払いで治してやろう。ステージが失敗に終われば……2人仲良く明後日の夜……公開処刑となるだけの話だ」
ゾロにそう答えたテゾーロは、チョッパーを嗤いながら見下ろす。選択肢は無かった。
やはり、公開処刑は消えたわけじゃないらしい。最悪戦うとしたら……。
「明後日の、夜……」
「今日のステージは夕刻からだ。衣装合わせが終わり次第、準備に専念して貰いたい」
嘲る空気を隠そうともしないそれに、けれど……何でかしら。テゾーロは時折、私を見てその瞳を揺らすのよね……。
私の髪を見て、仲間達に笑いかける私を見て、その向こうに誰かを見てる気がする。どんな人にも、その状態になるにはなるだけの過去があるのは分かってるけど……。
チョッパーとゾロを傷付けた人に、優しくしてやる義理はない。とりあえず二人にこれ以上手を出させない為にも、ステージは成功させなくちゃ。
そう思ってチョッパーの頭を撫でつつ、テゾーロを睨みそうになるのを耐える。今は、逆らっても争っても、マイナスにしかならない。
そんな私達の様子に笑いながら、テゾーロは待機させていた人達を私達に差し向ける。それに反応して視線を向けると、私達の前にブルックが入ってワンクッション入れてくれた。
チョッパーと私が体勢を整える時間を、こうして庇う事で用意してくれたのだろう。そう思えば、本当に心が穏やかになる。
「ブルック、ありがとう」
「ヨホホ……なんの事だか」
「ナミ、どうかしたのか?」
チョッパーが私とブルックを交互に見詰める。その瞳が不安に揺れているから、頭を撫でながら笑う。
「ううん、何でもないわ。チョッパー、足の調子はどう?」
「……動かせる、みたいだ」
「そっか……。……ゾロ、ありがとう。成功させてみせるから」
「……疑った事もねェよ」
何人か今斬殺して来たと言われたら納得してしまいそうな顔でゾロは笑うから、それに頷く。そうして簡単に衣装合わせが行われるかと思っていたら、動きにくさ等がないか等を聞かれながら最終調整をされた。
考えてみれば、今日が本番なのだから当然よね。何で簡単に終わると思ってたのかしら。
そんな事を思いながらも、直した方が良さそうな所を指示したり、チョッパーの可愛さに悶えたりしている。でも……ブルックは流石ソウルキングと言うべきか……派手派手しい衣装が妙に似合っていて、用意された派手としか言えない楽器とのマッチ感が尋常では無い。
ギンギラギンにさり気なくと言われて、絶対さりげなく無いよソレ!って突っ込みたくなる衣装と酷似してるような気がする。色合いが特に。
「ブルック……似合うわね」
「ヨホホ!思っていたより、慣れ親しんだ感じのデザインでしたよ」
「……ソウルキングの衣装を調べて、それに合わせて彩色だけ変更させてみたが……確かに予想を上回るな」
「目がチカチカする……」
感嘆の声を洩らすテゾーロとは対照的に、顔を顰めるゾロ。どちらの言い分もよく分かるけど、ブルックのテンションを下げないで欲しいところではある。
ステージが終わってから批判されるならテンション落ちても問題ないからマシだけど、ステージ前だと困るのよね。まぁ、ブルックはプロだしこの程度で落ち込んだりは……してた。
「ゾロさん、私、似合わない、ですか……?」
「あ、いや、似合わねェんじゃなくて、ライト浴びたら眩しそうだと……ああ!落ち込むな!!魅せるのは衣装じゃなくて、お前の実力だろうが!!剣士だろ!?斬り倒して来いっ!」
落ち込むブルックにゾロは慌てた後発破をかけてるみたいだけど、ステージだから斬り倒す相手はいないのよと突っ込むのも疲れる。基本的には突っ込みの役割の筈なのに、どうしてこうも変な事言い出す時があるのかしら。
「結局ゾロが……馬鹿だから、かしらね」
「ナミ、声に出てるぞ」
チョッパーの突っ込みにハッとするけど、ゾロの静かな睨みにテヘッと笑って誤魔化しておくしか道はない。それよりも……。
「テゾーロ、ゾロの飲食とかトイレはちゃんと対応してくれてんでしょうね?」
「金になっているから、その辺の機能は停止している。見ての通り、既に顔と胸付近を除けば、既に金だからな」
「……ゾロに何かあったら、覚悟しておきなさい」
怒りを抑えきれずに睨めば、僅かに顔を歪ませたテゾーロ。それにより、また無意識で覇気を出してるのかと気付いて、レイリーに言われたそれを思い出して少しずつ抑えて行く。
皆に影響は無さそうだから、テゾーロにだけ向ける事に成功はしたらしい。とりあえず、皆に被害がないなら良かったけど、気を付けなきゃ。
「衣装は時間までに完成させてよね。また来るわ」
「……宝玉も、覇王色を持っているのか」
強気に言い捨てて立ち去ろうとした私に問い掛けるテゾーロに、私は言葉を返さずにフッと笑みだけ残して部屋に戻る。何も答えないのもまた、ひとつの返答になるのだと知っているから。
部屋に戻り皆にゾロと会った事と、その時のやり取り、様子、今後の流れを説明すればロビンが考え込む様子を見せた他、ウソップが嫌そうに顔を歪めた。その様子に何かあったのかと二人に問い質したけど、答えは濁されたままで……。
楽器が変わった事での練習を余儀なくされていた私は、後ろ髪を引かれながらもブルックとチョッパーを伴い練習して、それからシャワーを浴びに行く。ブルックだけは三曲とも楽器が異なるのでもう少し調整すると言うので、時間が空いたのも理由である。
その間チョッパーは、気持ちを落ち着かせる為に甘い物をサンジ君に提供して貰う予定らしい。ロビンが用意してるのを確認していると言ってたから、間違いないだろう。
シャワーを浴びて汗を流せば、気持ちも落ち着くと同時に引き締まる。ここで失敗した場合は、チョッパーとゾロの生命が奪われてしまう。
でも今は、失敗した未来への不安ではなく、間違いなく成功させる手段を考える事。……そう言えば、妙に寒いのよね。
衣装は妙に内側に暖かな要素を入れてたし……もしかして、寒い海域に入ってるのかも。だとするなら……やれるかも知れない。
理屈的にはできるから、それを上手く使って神秘的な空気を生み出すのも悪くないと思うのよね。それを利用できれば、間違いなくステージは盛り上がり大成功になる。
でも、テゾーロの求める大成功とはどう言うレベルなのか。曖昧な目標である為に、どうしたらいいのかの答えは無いから、できるか精一杯の事をやるしかない。
頭を振って気持ちを切り替える。大切な仲間を取り戻し、必要な物を得て無事に戻る事が今の私達に課せられた現実。
最低限の身支度を整えて表に出ると、衣装を持った人達が待機していてそのままステージ用に整えられる。そうして私達三人が着替えを終えた時、ルフィ達は大喜びで褒めてくれて少し照れくさい。
「スゲェ!三人ともキラキラしててかっこいいなァー!!俺のは無いのか!?」
「ごめんね、ルフィ、ないのよ……」
サイズを考えたら着られるとしたら私のだろうけど、女物では嫌だろうなと思えば提案すら出来ない。それでもルフィはクルクルと私達の周りを回って羨ましそうにしてる。
そんな中でロビンは私とチョッパーを笑顔で褒めてくれて、フランキーやウソップがブルックを褒めている。サンジ君は飲み物を用意してくれて、激励してくれるから私達は変わるようで変わらない皆に笑い合うばかり。
そうして心を落ち着けつつも気力を養って、私達はステージへと向かって進んで行く。太陽は傾き出していて、これなら予定通りの事が起きそうだと思えた私はニヤリと笑いそうになるけど、そんな事は許されない。
容姿も含めて全てがステージを盛り上げる為のアイテムだし、何よりも私の考えが正しいと言う事は気温がマイナス10度よりも低い事が条件となるから。確実性を増すならマイナス20度よりも低い事が望ましいこの現象は、笑う余裕さえ奪う物。
ただ、この先日が沈み行く時間である事で気温は下がり続けるし、更には条件も揃うのだから悪い事ばかりでもない。そう考えたら、自然と自信に満ち溢れた笑みが浮かぶ。
その瞬間、ステージからテゾーロの声が響く。煽るように紹介する言葉でブルックが紹介され、ステージへの入口が明るく照らされる。
その場所へ躊躇いなく足を進めるブルックの背を見送り、大歓声で迎えられる彼に安堵する。次はどちらなのか……そんな事を考えながらも、チョッパーの緊張を解す為に笑顔を向ける事しか今はできそうにない。
「チョッパー、この先には多分沢山の人が待ってるわ。でもね、気にしなくていいから」
「気にしなくていいのか!?」
「うん。チョッパーのかっこいい姿を見に来た人達ではあるけど、チョッパーはそのままの姿で十分カッコイイんだから、気にしないで楽しんだらそれでいいのよ」
私の言葉にチョッパーは頷く。そして、外と私を交互に見て心配そうな表情を浮かべた。
「ナミ、外は寒そうだから……調子悪くなったらちゃんと言えよ。俺、ナミの事ちゃんと治すからな!」
「ありがとう」
ガチガチに緊張していたチョッパーが、いつもの調子を取り戻したのを確認して、私は笑みを浮かべる。その時、表からチョッパーを呼ぶ声が聞こえてその肩を軽く叩けば、頷いて足を踏み出して行く。
残るは私のみである。ならテゾーロは、まずは誰に歌わせるつもりなのか……そんな事を思いながら、そっと目を閉じて深呼吸を繰り返した。