※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

426 / 462
太陽柱

 そっとクリマタクトに触れて、必要ならば少し調整しようと決める。私は、宝玉としてステージに立たなければならないのだと気持ちを強く引き締めて、妙に長い紹介の煽りを聞きながら待機していた。

 この場から見えるのは、ステージ中央にブルック、左端にチョッパー、右端にドラムセットと言う配置。ステージ練習をしてない事は確かに不安だけど、ソウルキングにも初心者過ぎるチョッパーにも、それは無用の長物だろう。

 ……そう言えば、ステージに立つならフランキーとルフィの相撲大会をやらせてみても良かったのかも。到着前になんか大騒ぎしながら練習してたもの、提案もしないなんて悪い事しちゃったかな?

 そんな他愛ない事を思っていたら呼ぶ声が聞こえて、仮面を付ける心持ちで足を動かす。自信満々な、美女作家として、今回は音楽家として。

 本来私は、音楽家なんて名乗れるような腕前じゃないけど……それなりには演奏できる。それもこれも、日本の学校という機関は優秀であると言う事だろう。

 そんな事を痛感させられながら進む。日本では楽器は一通りと言うか、ある程度は扱えるように教えて貰えるのだから。

 水の濾過について、授業で教える国なんてそんなに多くない。それも、小学生の時に習うのだから恐ろしいものがある。

 ただ、当然のように世界に比べて遅れてる分野も当然あるけど、何かが秀でれば何かが劣るものだからそれは仕方ない。当てられたスポットライトを受けて微笑み、くるりと回転してからウインクをしつつ軽く手を振ってみせる。

 私がこの場でお辞儀するのは、なんか違う気がしたから。それにより男達の野太い歓声が聞こえて、私は笑みを深めてからドラムの方へと移動した。

 

 「それでは登場した順番に、歌って頂こう。この先の進行は……」

 

 そこで言葉を切り、テゾーロは視線をこちらに向けた。なので私とチョッパーは即座にブルックを見て、ブルックはそれに頷いてくれる。

 するとテゾーロもそれに合わせて言葉を続け、スポットライトがブルックに移動した。ブルックの前に設置されたマイクも金色で、それを見てしまえば凄いものがあるわねと僅かに思う。

 

 「〝ソウルキング〟ブルック!!」

 「イェー!!ここからは俺が進行するぜベィベ!!……この歌は、最初に〝宝玉〟から見せられた時、歌いたい……!と思わされた歌。……ソウルを揺さぶるソング……!!それでは聞いてくださいだぜェ!『ANIMA』!!」

 

 その解説の途中、チョッパーが私の方へと駆け寄り、マイクを手にしたまま観客席を見詰める。そんなチョッパーに笑いつつ、ブルックの掛け声に合わせて声と同時に音を開始させられるように構えた。

 それと同時に、クリマタクトでスポットライトを破壊する準備を進めておく。気圧等を少し調整して、全ての条件を揃えるのは、盛り上げる為に。

 陽が沈む。ゆっくりと……。

 そして、始まる。ゾロの生命を賭けたコンサートが。

 

 「ーーー」

 

 ブルックの声が、音が、この場を支配する。そして、スポットライトが壊れて、その代わりに太陽柱(サンピラー)が私達三人へと降り注ぐ。

 これは大気光学現象の一種であり、日出または日没時に地平線に対して垂直方向へ、太陽から炎のような形の光芒が見られる現象を言う。雲の中に六角板状の氷晶があり、風が弱い場合、これらの氷晶は落下の際の空気抵抗(抗力)の為に地面に対してほぼ水平に浮かぶ。

 このほぼ水平に浮かんだ板状の氷晶の表面で太陽からの光線が反射され、太陽の虚像として見えるのが太陽柱である。太陽柱の中心は太陽と地平線をはさんで対称の位置、つまり、地平線下にあり、氷晶の水平からのズレの為にその上下に広がって見えているのだ。

 余談ではあるけど、氷点下10ないし、-20度以下の空気中で発生するダイアモンドダストでも同様の現象が起こる。日本では、冬季の北海道等でこの現象を見る事ができます。

 

 「ーーー」

 

 問い掛けの答えは得られないまま、折れたままであればと祈ってしまうのに心は定まらない。捨てたり逃げたりする事さえもできないくらい、私達は弱いのだと痛感するばかり。

 

 「ーーー」

 

 もう一度、鼓動が高鳴り、何が正しいのかさえ分からないまま価値観が変わっていく。自分が、変化していくの。

 

 「ーーー」

 

 形のないものばかりが、輝いて見えて大切に思えてしまう。それはなんとも幼い心が、私にあると言う証。

 この歌をブルックは、どんな想いで歌い、演奏しているのだろうか。歌っていて、苦しくは無いのかな。

 

 「ーーー」

 

 物悲しい曲調ではないから、騙されてしまいそうになるけど……ブルックが歌ってるから明るく聞こえるけど、本当は苦しいのだと叫んでるような気がする歌。ルフィや大切な仲間達の、飾らない言葉達が私達を強く結び付けてくれてるの。

 

 「ーーー」

 

 何度も躓いては転がって、なのに砕けないその心に魅せられる。ルフィは本当に、主人公らしくない主人公で、だからこそ愛しい。

 魂の色があるとしたら、ルフィの色は何色だろう。そして、皆の色は……。

 

 「ーーー」

 

 いつもただ無意味に傷付いて、心配してくれる皆にさえ強がってる。それでも見付けたいと願うのは、皆の輝きの理由。

 間奏に入り、ここからは気を抜けないと脳内で準備しておく。チョッパーはブルックの近くに移動して、ブルックと間奏の間踊ったりして盛り上げている。

 ステージ慣れしてるブルックに、お祭り好きなチョッパーがノッてるのだ。その様子は妙に微笑ましいのと同時に、この二人はその姿だけで集客出来そうだと今更気付かされた。

 

 「ーーー」

 

 深い地の底にいるような、希望の光が見えない中で一人、扉と鍵を探してまわるような、無意味にしか思えない日々。それはきっと、ルフィに拾うように救われた皆がそうだったね。

 仲間達は皆、大切な人と過ごす平凡で当たり前とも思えるようなお伽噺のように幸福な時間を、突然奪われた経験がある。それが泡のように全部消えて、独り遺された。

 手元にあるのは、葛藤と残像だけ。次のページへ進む方法も分からずに、立ち止まる私達を見付けてくれたのがルフィだったのよ。

 

 「ーーー」

 

 伸びていく枝葉が別れるように、私達はそれぞれの道を進むしかない。でも、その根底を支えてるのはルフィなんだと、時に強く認識させられるの。

 ブルックの歌を聞きながら演奏して来たけど、ブルックが歌うそれに合わせるようにハモリを入れる。今回のこれは、バックコーラスの意味合いが強いのかも知れないけど。

 喪った後、私達は寂しい思い出だけが根強く残ってるのに、ルフィはエースを喪ったと信じていた時でさえも〝ルフィ〟である事を貫いて、挫けない。その心はどこから、器はどうしてそんなに……?

 

 「ーーー」

 

 ただ、独り残されて、心や表情が抜け落ちて、それでも伝えたい想いが渦巻く。そんな経験をして来た私達の魂の意志は、ずっと……ずっと……秘められたまま。

 長めの間奏に入る。ブルックの歌声に泣いてる人が見えて、壊れたスポットライトを必死で直す人達の姿が視界の端に映ってるのに、私はスティックを使わない隙間を使って太陽柱の位置をブルックへと集中させた。

 結果、幻想的になる予定が、RPGのボス感を出しちゃうんだから変な感じ。予定とは明らかに違うのに、奇跡だとザワつく人達の反応に口角が上がるのを自覚した。

 

 「ーーー」

 

 魂の色は、何色なんだろう。イメージとしては、血液の色で赤とか、炎の色で赤とか……そういう人が多いよね。

 でも、だからこそ逆に青だと言う人もいる。炎には青も存在するから。

 青、黄、橙、赤。炎にはこれらの色があり、その途中に該当する色と白があるのだから、表現は難しい。

 間奏の後は、ブルックの歌声に合わせて私もハモリを入れる。それが終われば、歌詞が強調されるように区切られるのだ。

 色の無かった過去と、見えない明日に囲まれて、それでも輝きを失わず生きる皆は、何色なんだろう。

 

 「ーーー」

 

 ルフィは、何度だって敵にやられる。一度で勝てた試しなんて、私の知る限りない。

 躓いては転がって、それでも砕ける事のないその心。それはいったい、何色ですか?

 

 「ーーー」

 

 ただ傷付いて、その度に強がって、それでも見つけたい物がある。諦められない夢の形を確かめているの。

 ずっと、何度でも。飽きる事無く、繰り返すように。

 歌の終わりと同時に曲も終わる。それにより大歓声と拍手が起きるけど、それを完全に無視する形でブルックは素早く手にしていた楽器を交換して、ステージの端へと移動してチョッパーを中央のマイク前に誘導した。

 この曲の間にもチョッパーは、踊ったり私やブルックの周りを動いていたから、既に視線は気にならなくなってるみたいで、変な緊張も無くマイクの前に立った。それを見てブルックが言う。

 

 「お待たせしたぜィ!二曲目、開始ですだぜェ!!」

 

 大盛り上がりになる会場。チョッパーに合わせて下げられたマイクの前で、くるりと一回転したチョッパーが照れた様子で私とブルックを見る。

 その様子に私は笑顔で頷く。すると、ブルックも当然のように曲名を口にした。

 

 「二曲目は『泥中に咲く』。それでは、聞いてくださいだぜィ!!」

 

 正直この曲は難しい。曲の終わりに合わせて柱を三本にしてそれぞれに当てていた光を、チョッパーの所だけ少し太さを増すように調整してみる。

 光に照らされたチョッパーは、その事に気付かないままマイクの前で歌い出しを待つ。そこでチョッパーが、ゆっくりと声を出した。

 それは、歌ではなくて。ただ、素直にチョッパーの言葉。

 

 「皆、こんばんはー!!」

 

 それに微笑ましそうに、こんばんはと返してくれる観客にチョッパーは笑う。そして、言葉を続けた。

 

 「俺の大切な仲間である〝ソウルキング〟と〝宝玉〟が演奏してくれて、俺はここで歌えるんだ!でも、俺には難しいだろうって言って、最初は二人とも俺が歌えるのを信じてくれなかったんだぞ!!」

 

 チョッパーの言葉に皆が笑う。それに少し不満そうにするのは、既にエンターテイナーの素質を感じる。

 

 「今回俺が歌うのは、他のと同じで宝玉が描いた曲なんだけど……俺は、この曲の歌詞を見た時、この歌に出て来る〝優しい君〟が宝玉みたいだなって思ったんだ。だからきっと!ここにいる人達も、誰か身近な優しい人と重なると思うんだ。だから、大切な人を思い浮かべて聞いて欲しい」

 

 そうしてチョッパーは、私とブルックに振り向く。私とブルックはそれに頷いて、チョッパーが前を見たのを確認して同時に演奏を開始した。

 

 「ーーー」

 

 チョッパーは実の親に捨てられ、仲間から迫害されて、人間に攻撃されて……絶望していた筈。その心はひび割れて、でもそんな中で漸く出逢えた優しい人。

 その人は、別な人間に殺された。心は砕けて、濾過なんてできる筈もない。

 それでも涙を枯れさせなかったチョッパーは、私何かよりずっと偉いし、強い。私は涙を枯れさせて、可笑しいよねって笑って見せてた。

 

 「ーーー」

 

 苛烈な人生だと思う。例外無く、仲間達は皆、目の前を遮る荊棘により迷宮の中蹲るばかり。

 

 「ーーー」

 

 濁世の闇が立ちはだかって、そんな中でも人の事ばかり考えて憂いを帯びるチョッパーは本当に優しいと思う。この歌を私のイメージだとチョッパーは言うけど、私にはチョッパーにしか思えない。

 優しすぎるが故に苦しんで、傷付いてるチョッパーは、だからこそ溺れかけてるように見えてしまう時がある。そんな時、正しい呼吸を教えられて、今はただ……いつか死ぬ為に生きてるだけなのかも知れないと思う。

 

 「ーーー」

 

 雨が嫌いだと言う皆のそれに、深い意味は無いのかも知れない。普通の人は気鬱になりやすいからとかだけど、ルフィ達はただ、甲板で遊べないからとか、そんな理由。

 シャボン玉みたいに壊れやすくて、でも綺麗で、そして自由な皆との繋がり。だけどきっと、私達を形作るのがもしもシャボン玉なら、そのシャボン玉の素材が普通じゃない筈だから、私達の関係が壊れる事は無いと信じられる。

 

 「ーーー」

 

 地面の色を見て、水溜まりのない場所を選んで歩く。それは、不遇な道を逸れる為の自己防衛と似てる気がするわ。

 

 「ーーー」

 

 私も、チョッパーも、ブルックも、フランキーも、皆……人間です。残虐の限りを尽くす海賊や海軍に比べたら、その心は清く正しい人間だと断言できるから。

 今日と明日と、その次……そのくらいでいい。断言出来るのは、そこまでで良いのよ。

 皆が別々に呼吸して、生きてる。だからそう、どんなに外道な奴でも……認めたくはないけど、人間なのでしょう。

 チョッパーは自分の姿を嫌うけど、そんなチョッパーを私は嫌う事なんてできない。優しくて、誰の為でも祈れる人。

 私は、アーロン達に支配されていた時の自分が嫌いで、なのに助けようとしてくれたルフィ達を追い払おうとした。……確かに本気で邪魔だったけど、でも、その優しさを嫌うなんてできる筈もない。

 

 「ーーー」

 

 チョッパーを見ると、桜を思い浮かべる。それはドラム王国に突如現れた、あの巨大な桜を連想してしまうから。

 全ての自然現象を覆して、目の前に現れたそれがチョッパーの過去と未来を繋ぎ、旅立つ意味を与えてくれた。何かひとつでも欠けたら、あの現象は起きなかったと思う。

 チョッパーの両親が、チョッパーと国を憂いて咲かせた奇跡の桜。あんな盛大な出発式は後にも先にも、一度きり。

 

 「ーーー」

 

 私も皆も、まだ大丈夫とか、何でもないと言いながら、己の過去に見合った荷物を背負わされている。その荷物の降ろし方さえ分からずに、足掻いてばかり。

 

 「ーーー」

 

 運命という名の悪意が通せんぼする。周りに勘違いさせようとしたのは自分なのに、冷たい対応に心が軋む。

 自業自得だよ、そんな事分かってて、でも他に手段が無いの。逃げたくなる時も、生きたくなる時もあったけど……でも、やっぱり留まるしか道は無いと知っていた。

 

 「ーーー」

 

 この身体を投げ出す時は、アーロンに挑みかかって、それでも無駄と絶望した時と決めていたわ。私の人生が終わる事で、始まる新たな旅があるのを理解してる。

 今しかないと思った時には、躊躇わないと決めていた。そういう時がいつか来ると、頭の片隅でちゃんと理解していたのよ。

 

 「ーーー」

 

 船の上や高台にいる限り、雨はどれ程強く降っても、溺れる事は無い。それでも、強くて悲しい雨は、息苦しさを与えて来るね。

 いつか、死ぬ事を目標に生きるなんて、おかしな話。それでもそれが、皆に出逢う前の私達。

 

 「ーーー」

 

 もう、壊れる事は無い。仲間達が共に支えて守ってくれるから。

 打たれたって、心は強くなるばかり、仲間に助けを求める為に鐘のように響くだけ。そうなったらきっと、明日は晴天になる。

 その時はきっと泥だらけね。それでもいいから、遮られそうになる度に、互いの地図に線を入れて助け出す。

 共に光となろう。その為に私達はそれぞれの花を咲かせているのだから。

 ……歌声が終わり、曲がそれに続くように終わる。この歌は仏教用語が多く含まれていて、歌詞が物凄く難しい。

 元はボカロだから、曲調もリズムも歌になれた人達でも相当難しい曲。簡単な事の筈もなかったのに……チョッパーは見事に歌い切った。

 その証拠に、今、歓声と拍手は鳴り止まない。これこそが、チョッパーが成功した何よりの証拠だと言えるだろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。