まずは、作戦配置についての情報共有を行う所から始まる。それの後で、ロビンと私、そしてカリーナの女チームは裁縫を開始。
フランキーとウソップは使えそうな物の制作に取り掛かり、ルフィとブルック、チョッパーが試着をして行く。サンジ君はそんな皆の間を動き回り、給仕に専念してくれていた。
侵入経路の関係で、ショーに出る人達のような派手な物も含めて準備が必要だからと、服に羽根をつけたりして行く。派手な方が目立たないなんて、何だか不思議だわ。
一応それぞれにコンセプトはある。何の目的もなしに衣装を揃えるのは無理なので、その辺もちゃんと話し合ってあるのだ。
それぞれが、己の受け持つコンセプトに従い衣装を揃えて行く中で妙に盛り上がる声を聞いて視線を向けたら、妙に似合うワンピース姿に花の髪飾りを付けてるルフィが見えて持っている物を落としてしまった。卑怯者と叫びたくなる可愛さに、身悶えなかった私を誰かに褒めて欲しいくらい。
その後はサングラスと付け髭、海賊服と言う姿でカッコイイだろうと言うチョッパーと、紫色のバレリーナみたいなブルックがザマス風な様相でポーズを決め始めたから、私としては我慢できなくなる。いい加減にしろとルフィとチョッパーを殴れば、ブルックが謝りながら宥めてきたので簡単に許す。
そのまままた作業に戻り、それが落ち着いて軽く伸びをする。淡々とした作業を行っていた私は、少しばかり筋肉の硬直が問題になっていて、その現実に首を傾げしてまう。
いつも、座って同じポーズを取り続けてるのはよくある事なのに、どうして今日に限って固まってるのかしら。海図を書くのも、日誌や作品を書くのも、動かないという意味では同じ筈なのに。
皆の方へと視線を向ければ、そちらも良い感じに仕上がっている。派手すぎるのではないかと思わされるような衣装は、だからこそこの場所では目立たなくなるというのだから恐ろしい。
ちなみに、ルフィとフランキーはシンプルに目立たなくて動きやすいのが大切。でも、私達の方は目立つ必要があるのだ。
それでもそれは、万が一見つかった時も怪しまれたり捕まったりしない為の物なので、基本的には動き回り隠れながら行動する事になる。私達は大きく分けて清掃員とショーの衣装に別れる事になっているのだけど……正直、ブルックだけは心配。
サンジ君は普通に清掃員としか見えない普通な感じに仕上がっていて、プロよねと思う。キッチンの掃除とかするからかな。
ロビンは勿論、何故かウソップまでお揃いのメイドさん系で、どうしてウソップが女装する気になったのか気になる所。それに対して、私とチョッパー、そしてブルックは舞台系。
これは、どうしたって目立たなくはならないからと言うのが理由。特に、チョッパーとブルックがどうにもならないのだからこれは不可抗力だと思うのよね。
チョッパーはオモチャのソルジャーをイメージして、ブルックは骸骨ピエロの奇術師と言う設定。私はバレリーナでもと思ったのに、満場一致で猛獣使いと言われてそれになったので、鞭を持って行く予定。
……鞭を使うのは慣れてるから良いんだけど。何で猛獣使いなのかしら?
そうして色々考えながら片付けていけば、日が傾いて来る。その頃になって、息抜きにと登った屋上で夕陽を眺めるカリーナを見付けた。
いつの間にか姿を消していたカリーナが、それ程遠くには行ってなかったらしいと知ってホッとする。夕陽とカリーナなんて、何とも言い難い程に、悲しくなる組合せ。
「カリーナ……こっちは準備OKよ……」
「そう……」
気落ちしてる様子のカリーナに、何かあったのかと心配になる。この子こそ、いつも一人で抱え込んでしまうから。
あの時もそう。私は、結局……守られただけ。
「どこ、行ってたのよ……」
「ん?ちょっと、野暮用でね」
「また、消えたのかと思ったわ」
「はぁ!?私が?いつ?」
怒ったように言うけど、この夕陽は、あの日の夕陽と何処か似ている。挑発して逃げて行くカリーナを、追いかける事も出来ずに意識を失った情けない私を思い出してしまう。
もっと強く止めれば良かったのかな。そうしたら、カリーナとこれ程長く離れる必要は無かったかも知れないのに……。
「忘れたとは言わせない……。トレジャー海賊団のお宝を盗もうとした時の話よ」
「ああ……。無事で、良かったわ」
「それは……っ!それは、私の台詞よ!どれだけ心配だったかっ!!」
思わずカリーナに怒鳴るように言った私に、カリーナは静かに笑みを浮かべた。それは何処か儚くて……。
半分だけ夕陽に照らされてるその顔を見ていたら、両腕を伸ばしたカリーナが私を抱き寄せる。少し震える腕で、離すものかと言わんばかりに抱きしめられては、私から抱き締め返す事も、撫でる事もできない。
「……どうして……」
「ん?」
「どうして、私を庇って、拷問一人で受けたりしたの!?アンタ一人なら逃げられた筈でしょ!?」
少し身体に隙間を開けて、私を睨むカリーナ。その顔を見たら何だか変わらない現実に、あの頃に戻ったみたいな気持ちになる。
だから、そっとその頭を撫でながら笑ってしまう。本当に、この子は可愛い。
「そんな昔話……」
「アンタは殺されてたかも知れないのよ!」
「可愛い妹分を……見捨てられる筈無いでしょ」
「ナミっ!!」
怒鳴るように名を呼ばれる。その必死さが、カリーナの魅力。
強がりで臆病な、けど……愚かでも馬鹿でもない、私の大切な相棒。そう言えば、カリーナは昔からよく怒る子だったわね。
「寧ろ、どうして引き返してきたの?……リスクを犯す必要なんて無かったのに」
「馬鹿言わないでよ!!……友達が、姉みたいに思ってた大切な相棒が自分のせいで死にかけてたのに、見捨てられる訳無いじゃないっ!!」
「カリーナ……。……私は、カリーナを泣かせてばかりね」
最後に見たのは、逆光で表情なんて分からないものだったから……その前の、ずっと泣いていたカリーナが目の前にいる。あの頃から変わらずに、その裸の心は私に対してあまりにも無防備。
大切な相棒だなんて、そんな風に思ってくれてたなんて、少しも気付かなかった。宝の取り分に関しては喧嘩になってばかりだったのに……。
あの日、私が自ら姿を見せる形で先に捕まったその時より少し前から、泣く事しか出来なくなっていた幼い少女。それが今は、こんなにも頼もしい。
「カリーナ……ありがとう」
「ナミ……」
「生きていてくれて、良かった……」
「ナミ……!!」
「今度、自分を犠牲にしようとしたら許さないから」
笑う私の言葉を受けて、飛び退くように離れたカリーナは威嚇するように怒鳴る。その様子が可愛くて、余計に笑ってしまうのだけど。
でも不思議ね、昔は本当はこの子がナミちゃんなんじゃないかと思ったけど、今は子猫と言うより……小狐に思える。決して、誰かのペットなんかにはならない存在。
「…………アンタにだけは!言われたくないわっ!!」
「宜しくね、女狐ちゃん」
「なによ、泥棒猫……!!」
拳を突き出せば、カリーナも受けてくれる。今回は、ルフィには説明してない本当の作戦があるけど、こればかりは仕方ないだろう。
そんな風に思って笑った時にルフィが迎えに来てくれて、私とカリーナは顔を見合わせて笑う。昔に戻ったような、そんな気がした。
「ナミ!カリーナ!サンジが飯だって言ってたぞ!」
そんな事を言いつつ、涎を今にも垂らしそうな様子はルフィらしいと言えるのかもしれない。だから笑いながらカリーナと離れて、でも少し進んで振り向いて手を出せばプイッと顔を背けて先に行かれてしまった。
そんな様子が、ツンデレな猫みたいって言ったら怒るかな。そう思って笑ったら、ルフィの腕が伸びて来て背後から抱き締められてしまう。
「俺の事も、構えよ」
「ルフィ?」
「食後で良いからよ」
その言葉にハイハイと頷いた私は、背後で少しだけ黒い笑みを浮かべてるルフィに気付く事が出来なかった。気付いていたら、訂正したのだろうけれど。
そうしてルフィと共に戻ったそこでは、サンジ君が肉をメインにした食事を用意してくれていて、少し力が抜ける。何だか、いつもの光景により時間が現在に戻ってきた様な、そんな気がしたから。
トマトスープには豚肉と豆類が大量に入っていて、味付けその物はコンソメ風。メインの料理は七面鳥の内臓を抜いた所に米等を入れた、クリスマス等でお馴染みの物。
私としてはメインとなるサラダには、サラダチキンが混ざっていて梅を潰したドレッシングが掛けられている。その他にも焼売が中身違いでいくつも用意されていて、皆の好きな物が少しは入るように考えてくれてるのが分かった。
普通の焼売に見せかけて、豚肉の焼売にはグリーンピースが、鶏肉の焼売にはトウモロコシが、そして牛肉の焼売には人参が乗せられている。この組み合わせは可愛いけど、私としてはどうしてもこの彩りと野菜のチョイスが、ミックスベジタブルを連想させられてしまうのだけど。
その他にも、肉メインではない海老焼売を初めとして、ホタテ、カニ、イカ、フグ等もある。……フグって毒あるのに料理できるって、サンジ君は本当に何でも有りよね。
日本ではフグの調理には、調理師免許の他にフグの取扱い資格を取得する必要があるし、抜き出した毒を金庫のような物に入れて専門の業者に回収して貰わなければならないのだ。それを簡単に扱えるサンジ君は既に、神の領域だと私は信じていたりする。
「ナミさん?」
「フグ……」
「毒は抜いてありますよ」
「わかってるから、感動してるの」
私の言葉にサンジ君は黙って俯く。何か不味い事でも言ったかと焦る私の近くで、盛り上がるルフィ。
「この魚毒があるのか!?その毒、美味ェの「毒を食べようとするな!!それでお腹壊しても、治してやらないからなっ!!」ずびまぜんでじだ……」
ルフィの言葉を途中で遮り、怒り狂いながらルフィを全力で殴るチョッパーを私はオロオロと見詰めていたけど、ロビンは微笑ましそうに、フランキーとウソップは頷きながらそれを眺めていたし、ブルックは何も気にせずに食事を楽しんでいた。用意されてる醤油や塩も種類豊富で、料理に国籍は無い感じだけど楽しい日常の風景に心が癒される。
ただ、この空間にゾロがいない事だけが……胸を締め付けるけれど。だからこそ、早く取り戻したいと強く思わされるのだ。
サラダと海老焼売を堪能しつつ、皆の様子を見ていたらチョッパーに睨まれてスープにも手を伸ばす。でも、何故か呆れたような顔をされてしまって、これには私としては首を傾げるしかない。
「ナミ……もっと肉を食えよ。サンジがナミに体力付けさせる為に食べやすく作ったんだぞ!!」
「え?!ルフィの為じゃないの!?」
「野郎の為なら、焼いた肉をそのまま出しますよ。ナミさんが食べやすいように焼売にしたんです。……少し、細くなってますよ、ナミさん」
心配そうに肯定されてしまえば、ごめんなさいと謝るしかない。そうして各種の焼売にも手を出していけば、素直に美味しくて……何だか優しい気持ちになって来る。
あら、でも……。珍しいわね。
「紫蘇焼売は無いのね」
「あ……!!作れば、良かった……!!」
「まぁ、ほら、次回もあるし……」
余計な事を言ったと気付いた時には、もう遅い。慰めるように言葉を口にして、その様子に皆が笑う。
落ち込むサンジ君と、慌てる私。そこに追い討ちをかけるロビンがいて、また皆が笑い出す。
「私も紫蘇の焼売食べたかったわ。残念ね」
「もっ……申し訳ありませんでしたァァァっ!!」
「ロビン!?辞めて!サンジ君を虐めないで!!」
土下座しながら涙を流すサンジ君を庇うようにロビンに言うけど、ロビンはくすくすと笑うばかり。そして悠然と微笑むと、虐めを否定した。
「あら?……虐めてないわ。……弄んでるのよ」
「ロビン……!!」
「ふふ、ナミ可愛い」
楽しそうに笑うロビンは、私の顎に、頬に触れて満足そうにしてる。私が怒っても何処吹く風なのだ。
そんな私とロビンのやり取りに、呆れたような空気を出すのはフランキー。その奥では、ルフィと仲良く喧嘩しながら七面鳥を奪い合うブルックが見える。
「ロビンのそういう所、そろそろ慣れろよ、ナミ」
「フランキーも止めなさいよ!!」
「これがロビンだろ。海賊らしく、自由にやりゃァいいじゃねェか!!」
「フランキーはロビンに甘過ぎるわよ!!」
私とフランキーが揉めてると、横でロビンが動く。そっと床に潰れているサンジ君の顎に指をかけて、クイッと持ち上げると甘く艶やかな笑みを浮かべた。
視線を合わせるロビンに、サンジ君の瞳はハートに変化する。それは、何とも見慣れた光景。
「……ねェ、サンジ。私に弄ばれるのは……イヤ?」
「俺は……弄ばれても、幸せだァ!!」
「本人が幸せなら、何でもいいわ……」
諦めた私にまた笑いが生まれる。とりあえず、ロビンは美しいです。
……私も、アレができるようにならないとなのよね。レイリーにはできるって言われたけど……。
「ロビン……今の技術、今度教えて」
「ナミ……!?……任せて、手取り足取り教えてあげるわ」
「禁断の花園!?」
「サンジ、お代わり!!」
「俺も!!」
「あ、なら俺も!」
「俺は今忙しいんだよクソッタレ!持ってくるから待ってろ!」
慌ただしくも幸せな夜の時間。この食事が終わったら、明日の昼までは自由行動になると決まっている。
私は少し身体を休めておきたいから、ソファで読書でもしようかなと検討してる。だって、サニーじゃないから道具が少なくて本くらいしかゆっくり楽しめる物がないんだもの。
食後のデザートは柚子のシャーベットで、口の中がサッパリする。セットで出されたのは柚子と蜂蜜のホットドリンクで、自分が柚子になったような心持ちになっていく。
ロビンには同じデザートと珈琲。男性陣には山のように積まれたシャーベットと、各自好きな飲み物を手渡すサンジ君に、優しいわねと思う。
シャーベットの山は勝手に器に盛って食べろとの事なのに、何をとち狂ったかルフィが直接かぶりつこうとしてウソップやチョッパーと喧嘩してるけど、まぁ、皆らしい。呆れたように脱力する私と、クスクス笑うロビン。
「平和ね」
「ゾロが揃えば、確かにって言えるのに……」
「そうね。……取り戻しましょう。私達の日常を」
「そう……ね。ロビン、明日の夜は……寝られないわよ?」
「あら、お肌に悪そうね」
クスクスと笑い合う私達。添えられているミントが、器の端で忘れないでと訴えているのに、私とロビンはその存在を忘れて談笑していた。
その結果、ルフィが残ってるからと食べて……ウゲーとか言ってたけど、仕方あるまい。添えられてたのはミントでもペパーミント。
つまり、少し辛いミントなのだから。後味が黒胡椒だから、ペッパーミントと名付けられ、聞き取りに失敗されたからペパーミントになったのである。
「何か、苦っ!あとから辛っ!」
「ルフィ、ほら、これ飲んで」
程よく冷めた蜂蜜入りの私の飲み物を飲ませれば、漸く落ち着いたらしい。良く飲めましたと頭を撫でたら、ルフィにその手を掴まれてしまう。
その上で、空気が変わった。いつもの少年のそれではなく、雄を感じさせる空気。
「……いつまでも、ガキ扱いしてんなよな」
「ご、めんね?」
「ナミは、今夜も眠れねェぞ」
それだけ言ってルフィが離れる。その背を見送り、頬が熱くなるのを抑えられなかった私は、その場を逃げるように立ち去り、与えられている部屋へと逃げ込んだ。
そんな私をロビンが微笑ましそうに眺めていたのには、気付かないまま。逃げ込んだ部屋でお風呂に入る準備を進めるしか、心を落ち着かせる方法が思いつかなかった。