そうして少しの休憩を挟んだ後、それぞれ今夜に向けて体力の温存を測る。ただ、私がお風呂に入りたいと言った為にロビンとカリーナがそれに付き合ってくれて、お風呂上がりにサンジ君にもてなされて優雅な時間を満喫した。
その間は男達も楽しそうに過ごしていて、たまにはこんな日があってもいいのかなと思う。のんびりした時間は、けれども日が傾き始めれば終わりを告げる。
これからが本番。今度こそ、間違いなくゾロを取り戻す。
「ナミ……どうして、信じようと思ってくれたの?あの時、私は確かにナミに庇われるだけで何も出来なかったし、巻き込んだのは私だったのに……」
身支度を整えていたら言われたカリーナからの言葉に、デコピン一発。こんな事を言うのは、私の影響かしら?
マイナス思考な所は、引き継がないでいいのに。私のこれは、きっと前世の影響。
だからこそ、私は大切な人には幸せでいて欲しい。ずっと、それだけを祈ってるの。
だから、素直に伝える。カリーナに安心して欲しくて。
「カリーナは、私を裏切らない。妹分を信用しないなんて、有る訳ないでしょ」
「ナミ……」
「それなら、私も疑えないわね。ナミは、私の親友であり、妹みたいな存在だもの。その妹なら、同じ理屈よね」
「ロビン……さん……」
私は戸惑いを隠さないカリーナを一度強く抱き締めて、その背を軽く叩く。それにカリーナは頷く事で応えるから、笑いあって離れた。
着替えと準備を整えて、目的地を見詰める。夜八時の鐘が鳴り響き、目指す5000億ベリーに頬を上げてしまう。
「さあ!計画通りやるわよ!!」
「よーし!!」
私の左右に立つカリーナとルフィの言葉に小さく笑った直後、ルフィがどうやるんだっけ?なんて聞くから力が抜ける。それにカリーナは怒るけど、ごめんねと謝ってからルフィに視線を向けた。
ルフィに悪気は無いのだ。許してあげて欲しい。
「ルフィはフランキーと壁を登って、時計のところから中に入って、大きな電伝虫に細工して欲しいの。……できる?」
「おう!」
「なら、開始よ」
笑顔で告げた私に、ルフィはにししっと笑う。そして掠める程度のキスをしてから、ルフィは何事も無かったように建物に向けて腕を伸ばした。
その場に残されて真っ赤になって固まる私を皆が優しく促してくれたので、フラフラと足を動かし始めた。そうして開始したルフィとは別行動の作戦。
皆と会話をしながら進んだ先で、人が来るのに気付いて黙るように指示しつつ物陰に隠れる。それを受けてカリーナが前に出ると、巨大な鐘のような籠を運ぶ男達の気を引き付けてくれた。
作戦通りとは言え、カリーナが全力で阿呆に見える。胸を強調してやるその気の惹き方は、勿論私にも覚えはあるけど……そんなに安売りした事が無いのだから、不思議な心持ちになったのは理解して欲しい。
とりあえずそうしてできた隙を利用して、私達はその鐘の中に上手く隠れてしまう。数人減っただけで随分広く感じるし、同時に悲しい。
今回の作戦では、ルフィとフランキーはゾロを助ける本命なのだから別行動なのは当然なのに……。今回の作戦においては、どうしたって機械に強いフランキーがメインで、何も知らないルフィが暴れたり破壊したりしてくれる事が成功の鍵。
その時までに私達はゾロの元へ到着して、騙されたふりをして崩れ落ちて待つと言うのが必要なだけ。時間より早くゾロが殺されそうになったら、そこで時間を稼ぐ必要はあるけど、その程度よ。
ただ、その到着に失敗したらそれこそ人質が増えるから今は確実に前へと進む他無い。テゾーロは観客の他には、幹部にしかこの作戦を伝えていない筈。
つまり、侵入するのは容易い。それでも、全ての力を見せる訳にはいかないから気を付けなきゃ。
すり抜ける能力を持つ人物の力を利用して中に入り込むと、カリーナに意識を奪われていた男達の会話を聞きつつ、離れるのを待つ。そうして揃って表に出れば、カリーナが近くで待機していた。
「カリーナ、なんで出る為のタイミングは作ってくれなかったんだ?」
チョッパーが責めるというよりも素直に不思議そうな様子で問い掛けるけど、それは当然である。なのでチョッパーの前で膝を折って視線を合わせつつ、私がそれに答えた。
これはカリーナが答えるのは、なんかおかしい。下手すれば、誤魔化す為の言い訳と取られてしまうもの。
「カリーナは入る時に気をひいてるから、もう一度偶然会うのは不自然なのよ。それに、同じ理由で引き止めるのも無理。なら、様子見て待機するのが安全なの」
「手を出さない方がいい時もあるって事か?」
「そうよ。チョッパーも怪我の手当てしてる時に、横から風邪薬差し出されても迷惑でしょ」
「おお……なるほど!」
納得してくれたチョッパーの頭を撫でて、いつまでもここにいては駄目だからと先へ進む。その道はカリーナが知ってるので、素直について行く。
目立つ訳にいかないから無言で進むけど、いつも騒がしい彼等だからこんな時何だか不思議な気持ちになる。ロビンとはよく、二人で無言の時を楽しむんだけどね。
「ロビンさんがナミの姉貴分なら、私は今後おねえさまって呼ぼうかな」
「突然何言って「良いわよ。ナミも、そう呼ぶ事があるし」」
突然カリーナが発した言葉に呆れて声を出した私を見ながら、ロビンはクスクスと笑う。私が動揺するのもまた、ロビンには楽しいみたい。
二人が楽しいならそれでいいけど、なんか……寂しい。疎外感みたいなの感じちゃうわ。
そんな事を思いながら駆け続ければ、カリーナの走る速度が上がった。どうやら目的地が近いらしい。
皆も迷い無くその後ろに続く。ただ、皆の足音だけが響く中で、カリーナの声が私達に向けられる。
「螺旋階段の入口はこの先よ!!」
そうしてそこそこの距離を移動した先で、カリーナは突如として足を止めた。先を覗き込む姿から、見張り等の問題があるのだと気付く。
それなら、私が皆を隠すか。……駄目ね、それだと先へ進む扉が開く事でバレてしまう。
何より、私の攻撃手段を全国レベルで披露するのは悪手だわ。それも、自分だけでなく仲間まで隠せるとなれば、警戒されてしまう。
「あそこを抜けないと……」
「私に任せて……」
そう言って請け負ってくれたのは、ロビンだった。ロビンはその能力を上手く使って、見張りの男達を簡単に沈めて見せる。
それを見てカリーナは流石はお姉様と笑うけど、何だろう、本当にカリーナは原作のナミちゃんと近い気がしてならない。そんな事を考えながらも扉の先へと進めば、カリーナが少し硬い声で言う。
「ここから先は私も初めての場所だから、何があるか」
その言葉が終わるか終わらないかの時に到着したのは、サーチライトのような明かりに包まれた部屋。科学の発達して無いこの世界で、そんな物があるなんて想定していなかった。
どうしたらいいか分からないのは、そのライトが動くから。発生源を確認すれば、梟のような動物がそれをしていると気付く。
……そう言えば、前に見た事があるわ。あの時は一羽だったし、客に紛れてた時だったから躱したりもしなかったけど。
確か名前は……。そうよ!
「赤目フクロウ」
「何だ!?」
「あの目から出てる光が生き物に触れると、大声で鳴く天然トラップよ」
私の呟きに反応したチョッパーへと説明すれば、チョッパーが何かに気付いた様子を見せた。そんなチョッパーにウソップが問かければ、チョッパーは首を動かす方向を言ってると教えてくれる。
流石に私にはどうにもならない領域で……でも、この子達可愛いかも。なんて考えてる暇はない。
クリマタクトで隠しても、そこに生き物が存在している限り反応するから見えなくても鳴く理由になってしまう。ならばチョッパーの聞き取る言葉を元に、皆で躱して進むしか無いだろう事は分かる。
チョッパーの通訳を受けて、私が指示を出す。そうしてブルックを除く全員が、先へと進んだ所でサーチライトにブルックが引っかかってしまう。
これは間違いなく、着慣れてない衣装が原因と分かっていても……こんな形での作戦失敗は不味い。何も知らないルフィが見付かり、金の牢獄へと落とされて、フランキーとルフィが海水を引き込むのが今回求められている事。
その作戦を成功させる為にも、ルフィの他には悪魔の実の能力者を音させる訳にはいかないのだ。海水に沈んだ時にフランキーが助けられるのは一人だけだから、何も知らずに暴れるルフィと、そのサポートをしつつ回収出来るフランキーの組み合わせで行ってもらったのだから。
流石にこんな所でしくじれない……!何か打開策は……!?
そう思った時、一斉に照らされた筈なのに一声も出さない赤目フクロウ達。それに混乱したのは、私だけなのだろうか。
ブルックの悲鳴の他何も聞こえない中で、冷静なチョッパーの呟きが聞こえた。それは、ホッとするのと同時に、僅かな脱力感をその場にいた全員に与えるもの。
「お前、生き物じゃないから大丈夫みたいだな……」
「さみしーっ!!」
そんなやり取りの後、螺旋階段に足をかける前にフランキーへと電話を入れる。それは、予定通り進んでいる証拠。
「フランキー、そっちはどう?」
「〝もう少しだ〟」
声の他に聞こえて来る音で、何とか状況を掴めた。それはカリーナも同じ。
フランキーとの会話を進めつつ、指示を出す。それによりルフィがわかったと言って動き出したけど、フランキーの言葉が変に途切れた。
それはつまり、ルフィが予想外にお馬鹿な事を仕出かした証。私もそっちに行くべきだったかしら?
ルフィには、登りきってから見つかって貰う予定だったのに。でも、起きてしまった事は仕方ない。
「まずい!」
「おい!?ミスったのか?」
ウソップの言葉に、私は小さく頷く。フランキーに持って貰っていた電伝虫が会話を拾う。
それを皆で聞けるように掌に乗せて、無言のままそれに耳を傾ける。聞こえて来る会話から、ゾロの姿をルフィが確認したのだと理解してしまった。
「〝ゾロ!!〟」
「〝どうだ……素晴らしいだろ。公開処刑に相応しいステージだと思わないか!ハハハハ……〟」
「〝ナミ達も、このゾロを見たのか……そりゃ、駆け寄るよな……〟」
低く、ルフィが呟く。それが、怒りを耐える事さえ放棄してるのがわかる。
ゾロのあの姿は、衝撃が大きい筈。……ルフィ、大丈夫かな。
「〝イッツ・ア・エンターテイメンツ!!どうだ麦藁。笑えよ。アハハハ……〟」
「〝笑わねェ……!!お前を、ぶっ飛ばす!!〟」
その後続く戦いの音。そして、予定通りに落とされたルフィの声を聞き、フランキーが持っているのとは別な、ルフィが設置に失敗した方の電伝虫から音を拾う。
その会話で螺旋階段に人が来ると分かれば、登って行くのは危険。どの道見つかるなら、一旦赤目フクロウの道を戻り撒くのが定石。
そうと決まれば、迷う事はない。道は、必ずあるわ。
「まずいわ!!こっちに来る!!」
「このままじゃ袋の鼠だぞ!!」
カリーナとウソップの会話に、私は口を挟む形をとる。赤目フクロウちゃんを愛でる余裕はないのだ。
余裕があれば連れ帰ったけど。それくらいには、可愛いけど……!
「兎に角、ここから離れないと!」
サーチライトの中、突き進んで行けば当然のように前から現れる敵。いたぞと叫びながら、仲間を呼び集める様は時代劇を彷彿とさせる。
であえ、であえー!だけで人が集まるのは日本の伝統的な登場方法であり、西洋では驚かれるものらしい。一人で多くと戦う事よりも、呼ぶと即座に現れるそれに驚くというのだから価値観の違いは面白いと思う。
だけど勿論、面白いからとやられてやるつもりは無い。なので、迷わず声をかけた。
「サンジ君!」
「お任せを!」
そうして美味しそうな技名を口にしながら、理屈が定かではない燃える足で敵を吹き飛ばす。その音と騒ぎで敵が集まってくるから、やり過ぎ!と叱ってしまったけど、サンジ君に反省の色は無い。
カリーナが敵に向けて煙玉を投げてくれたから、私達はそれを利用してカリーナの指示に従って逃げる事を選択した。そうして逃げ回った先にあった扉の中へ逃げ込めば、そこは突然空気感が変わっていて思わず息を飲んでしまう。
装飾も配色も、照明や空調に至るまで、それ迄とは格が違う。嫌な予感がしたのは、防衛本能の一種なのかも知れない。
「えっ……何ここ?」
「ここは天竜人の泊まっている、ハイパースイートよ」
「天竜人……!?」
私の呟いたそれに答えてくれたカリーナに、つい大きな声を出してしまう。でも、こうなって来ると本当にルフィと別行動してて良かったわ。
……ルフィの育ったあの島にいた貴族と、天竜人の考えは酷似している。ルフィには、本当に耐え難い程の存在だろう。
サボは生きてはいたけど、一度は奪った事に間違いは無い。ルフィが嫌いだと言うようになった人達は、ほぼ全て幼少期に起因している。
「あ!?」
ブルックの声に反応して視線を向ければ、奥から移動してくる一団に気付く。慌てて揃って柱の影に隠れて、ソレが通り過ぎるのを待つ。
船の全てに放送される為にある、わかりやすい電伝虫とは明らかに異質な何かをそこで発見してしまう。それにより頬が僅かに引き攣りそうになったのを抑えられたのは、天竜人が去り行く直前に目の前から現れた男の存在があったから。
下手に騒げば天竜人に見付かる。そうなれば、どんな理不尽が待っているのか、想像もしたくは無い。
だからこそ、全員が無言のままにその男を見上げる。男もまた、ある程度の距離を保った位置で足を止めると、天竜人が去るのを待つように声も出さずに私達にニヤけた笑みを向けて来ていた。