※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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エンターテイメンツ

 響き渡る花火の音と、ショータイムの始まりを告げる声。でも、果たしてこのショーが誰にとって笑えるショーとなるかは……まだ、誰にも分からない。

 賭けで私達が負けるなんて……有り得ない。テゾーロは、ルフィの底力と私の異名をまだ、知らないのだ。

 笑いそうになるのを耐えて、驚く。それくらい、簡単な事だわ。

 

 「何……これ……!?」

 「どういう事だ!?」

 

 私が驚きの声を上げれば、ウソップがそれに続く。皆は声も無く騒ぐ観客と花火に視線を向けて、騙されている事にも気付いてない感じが漂う。

 そこでテゾーロが声を掛けてきた。楽しげに、嘲笑うように。

 

 「ハハハハ……驚いたかね……。ここは、天空劇場!!」

 「天空劇場!?」

 「そうだ……!!ロロノア・ゾロの処刑に相応しいステージだと思わないか!?見たまえ!!」

 

 テゾーロの言葉に合わせるように花火が打ち上がる。そして、ライトアップされたのはあの時と変わらぬ姿のゾロ。

 大切な刀はすぐ傍にオブジェとして飾られている。でも、当人がそれに触れる事は出来ない。

 どうやらその形を崩さないままに、上に移動させたのだろう。奈落とシステムとしては同じ感じかしらね。

 外から見た時、上に一本伸びてる指のように見えた建物を背にする形で、ゾロは見世物とされている。それに対して、思わず声が出たのは当然と言えるだろう。

 

 「素晴らしい眺めだろう。ここには大金庫も5000億ベリーも無い。天上金はもう天竜人の船の中だ。……お前達は騙されたんだよ!私の忠実なしもべ……カリーナにな!」

 「カリーナ!!あんた!!」

 

 その言葉に従うように、テゾーロへと近付くカリーナの姿。打ち合わせしていてもそれが心配で、思わず声が出てしまう。

 皆は怒りの表情を作り、けれども声は出さない。ここは、私とカリーナの見せ場。

 

 「最初に言ったでしょ……。ここはグラン・テゾーロ……。騙された方が負けなのよ……」

 「そんな!!」

 

 作られた悪役のようなその笑みに、テゾーロが満足そうに笑うから、それに釣られて笑いそうになる。それを誤魔化す為に膝をついて、言葉を荒らげた。

 観客は絶望したと思ったのか、歓声を上げる。そこで始まる種明かし。

 その中でご褒美として映し出される、ルフィとフランキーの姿。思わず顔を上げてルフィの名を呼ぶけど、届く筈も無い。

 海水に沈むルフィは心配だけど、これが最初から目的だった。問題は、間に合うかだけ。

 時間をどうやって稼ぐか……そう思った時サンジ君が動いた。どちらにしても捕まるなら、一矢報いてからと考えたらしいそれに涙が出そうになる。

 慌ててサンジ君を呼んだけど、それは引き止める為ではない。ただ、見ているしかできないもどかしさに歯を噛み締めたら奥歯を砕きそうだったから。

 そんな中で、サンジ君が捕まり、その勢いで伸びて来たそれに皆が捕まって行く。私とウソップは咄嗟にそれを避けたけど、その分次の動きは激しくなり捕らえられたウソップは苦痛の呻きをこぼす。

 その様子に心配して意識を取られた時、私にも絡みついた金の蔦は私達を空中ブランコのような状態で吊り上げてしまう。そんな私達に、笑いを抑えられない様子のテゾーロ。

 

 「さあ……特等席で見るがいい!!ロロノア・ゾロの!!首が飛ぶ様を!!」

 

 何が楽しいのか。人が死ぬ事の、いったい、何が。

 けれどもそれは、全ての時代が証明している。人が処刑されるその場所が、何よりも集客に結び付く瞬間である事を。

 盛り上がり、騒ぎ、笑う。ギロチンも魔女処刑も、磔や晒し首も等しくそうであった。

 

 「さあ皆様……!死にゆく者達に、盛大な拍手を……!!」

 

 おぞましい。憎たらしい。

 この場に集まり笑う全員を、殴り飛ばしてやりたい。けど……それにはこいつがあの文言と共にスイッチを入れてくれなければ無理なのだ。

 だから待つ。金に変えられていく己を自覚しながら、ゾロにそれが振り落とされる前にスイッチが入れと祈りながら。

 

 「〝ゴールド〟!!〝スプラッシュ〟!!」

 

 スイッチが入る。そして、金でできた液体が降り注ぐ。

 フランキーが失敗していなくて、私の計算が間違っていなければ……これは、止まる。心臓が、嫌な音を立てるけど、カリーナは表情も変えずに私を見ているから、この流れはおかしくないと確信できた。

 カリーナは、イザとなればきっと動く。私達を助ける為に。

 

 「サラバだ……!麦藁の一味……。イッツア……エンタテイメンツ!!」

 

 金の斧がゾロに向かう。ゾロも流石にそれを睨み付けるけど、私達を憎むような様子はない。

 その信頼が、どれほど嬉しいか。その信用が、どれほど力になるか。

 きっとあのマリモは気付いてない。だからこそ、私達は迷わない。

 そして……全ての機能が停止した。真っ暗な中で、それでも私には良く見える。

 動揺するその姿の、なんと滑稽な事か。これでもう、勝負は決まった。

 肩が、身体が、喉が……震える。怒りを超えて、笑いしかもう、込み上げてこない。

 

 「ンフフフフフ……」

 「くっ……何がおかしい!!」

 「フフ……騙されたのは、どっちかしら!」

 

 吹き上がる海水。暗い中で、それを躱す事は困難を極めるだろう。

 海水が降り注ぎ、能力により動き増えていた金はその姿を消して行く。身体に染み込んだ金も、ゾロを抑えていたその金も……もう、ない。

 それは即ち、私達の解放と、この島にいる囚われている人達全員の解放をも意味するのだ。残るは、ルフィとフランキーの帰還を待つのみ。

 そう考えていたら降って来た海水の中から、フランキーが姿を見せる。海水が降り注ぐ中で、傘の下……テゾーロが驚愕の声を出す。

 

 「お前達……何をした……!?」

 「あんたがショーの最後に金粉を降らせるのは分かってた……。教えてもらったのよ……カリーナにね……」

 「悪いわね……。私が本当に組んでいたのは……麦藁の一味……」

 

 皆を背にするようにして前に出た私。その私の横に、テゾーロから離れたカリーナが並ぶ。

 何かあれば、必ず皆を守れる位置で、耐えていた言葉を口にする。その引き金を引いたのは、カリーナ。

 

 「あんた達が見てたのは、全て私達のお芝居だったの……」

 「……私達には金庫もお金もどうでもいい!!この、海水さえ……手に入ればね……」

 

 言葉と共に鍵を捨てる。幾人もの人達が、握り締めて死んだだろう鍵を。

 足元に広がる海水が、多くの人達の希望となった。それを……理解したところでもう遅い。

 今から金粉を降らせ直すには、設備の修理が必要。もう、手札は無い筈よ。

 

 「これさえ浴びれば、もう固められませんからね」

 「俺が下に落ちたのも、作戦の内さ……。海水パイプを噴水パイプに繋ぎ変える為のな……」

 

 ブルックとフランキーが言えば、悔しそうな声がテゾーロからもれる。そこに追い打ちをかけるように、ロビンとサンジ君が続く。

 

 「勿論ルフィは何も知らないけど」

 「これでお前のルールに従わなくて済む……!」

 

 その言葉に続くように、打ち合わせもしてないのにそれぞれが話す。耐えていた分、勝利を確信しながら。

 チョッパーとウソップの言葉が終わるのを待つ。私は、それを合図に言葉を投げる予定。

 

 「俺達は戦える!」

 「後はこっちのルールでやるだけだ……!」

 「私達は……海賊なのよ……!!」

 

 脱ぎ捨てた動きにくい衣装の下、ルフィに着させたのとお揃いのデザインで揃えた皆の姿が現れる。風で靡く髪を感じながら、笑みを浮かべれば皆も同時に邪魔な衣装を脱ぎ捨てていた。

 全員の支度が整うタイミングで、言い切る。ここまで来たら、私達に負けはない……!

 

 「欲しいものは!力で奪う!!」

 

 言葉に合わせたかのように、私達に向けられていたスポットライトが作動する。照らし出されたのは、黒の衣装を身に付けた私達。

 私の存在を示す左肩の刺青が見えるように、上を脱いだ状態で真っ直ぐにテゾーロを見る。悔しそうなその顔が、少しは逆の立場がどう思うかを学ぶ良い機会になったのではないかと思える程度には、冷静だ。

 

 「さあ仲間……返して貰うわよ!!」

 

 そこへ来て、ルフィがテゾーロの名を叫びながら情けない姿で降って来た。ゴムであるルフィは、打撃的な意味では怪我をする筈も無いから心配は不要。

 それが分かるからこそ、姿を見れただけで笑顔になってしまう。そっと情けない顔したルフィを覗き込んで、告げる。

 

 「やったわルフィ!作戦成功よ!」

 「作戦……!?」

 「ええ……後はあいつを……ぶっ飛ばすだけよ!」

 

 これならルフィも分かりやすくて好きだろうと思う。ねぇルフィ、私はこの作戦……ルフィだから決行したのよ。

 ルフィなら必ず、フランキーを目的地に連れて行けると思ったから。その為にフランキーと必死で、計画について話し合ってたんだもの。

 ウソップも巻き込んで、喧喧囂囂と意見を交わした。それは全て、この作戦を成功させる為。

 

 「きさまら……」

 「あ~ら、怒ってるのかしら……。ここはグラン・テゾーロ……騙された方が悪いんでしょ!?どうかしら?世界一のカジノに相応しいショーじゃない!?これぞ!!「「「「「「「究極のエンターテイメンツ!!!」」」」」」」」

 

 ルフィ以外の全員が、最後に声を揃えた。カリーナも含めた全員の声が終わるのと同時に、ルフィが言う。

 まるで、それが打ち合わせされたものであるかのように。でも、これは偶然。

 

 「お前は俺が!!ぶっ飛ばす!!」

 

 そうしている間に、支度を進めていたゾロが準備運動をも終えて悪役も顔負けの邪悪な笑みを浮かべる。その表情は、明らかに主人公サイドの人間とは思えない。

 悪役としか思えない顔で、ゾロはテゾーロを見据えた。これ迄の鬱憤は相当だらう。

 

 「どうだ!?今の気分は?」

 

 バンダナを巻いて、戦う気満々で笑う。それは鬼だと言われたら納得できそうなもの。

 こんなゾロに悪魔の子供かと言われたルフィって何だろうとは、少し思うけどね。でも、ゾロの笑みから伝わる感情が怒りである事が何より怖い。

 

 「希望が絶望に変わった、瞬間のな……」

 「……何が希望だ……。……何が絶望だ……」

 

 その時、見えてしまった。テゾーロの負の感情と共に溢れ出す過去の記憶。

 幼少期の母親からの虐待と、堕ちていくしか無かった少年期の記憶。それは、ある意味でドフィのそれと近い。

 ただ違うのは、幼少期が救いだったか、青年期が救いだったの違いである。幸福から絶望に落とされ堕ちて行くしかできなかったドフィと、渇望するだけで何も手にした事の無いテゾーロの違い。

 その救いは、どちらにしても……奪われる。無惨にも、残酷に、目の前で。

 天竜人であったドフィは、人間に。人間であったテゾーロは、天竜人に。

 そんな2人が出逢い、協力して、だからこそ互いを嫌悪した。それでも上り詰めるしかないのは、そうしなければ生きられなかったから。

 苦しかっただろうとは、思う。傷付いて、絶望して、世界も含めた全てを恨んで呪ったのだと分かるわ。

 それでも、その感情を叩き付けて許されはしない。叩き付けたなら、それがはね返る可能性を考慮して、覚悟しておかなければならないのだ。

 

 「っ……!」

 

 それでも、叫びそうになる。ドフィの過去を知っているからこそ。

 テゾーロの痛みが、苦しみが分かってしまう。もしも、テゾーロが彼女の望まない形で金を得ていたなら……彼女の身体と生命を救えても……その心と笑顔を失っていた。

 心か生命。どちらかしか救えず、どちらを選んでも彼にとっては絶望でしかない。

 分かってしまう。でも……テゾーロは、私の仲間を殺そうとした。

 

 「……どんな過去があっても、許してはいけない事があるのよ」

 「ナミ?」

 

 気遣うように、ロビンが声を掛けてくれる。それに笑い返せばその美しい顔に皺が寄った。

 あの日、ロシーやドフィを嬲り殺そうとした人達の醜悪さを忘れられない。大切な人を目の前で連れ去られて奴隷に堕とされた現実が、どれ程残酷か……分からない訳もないのだ。

 でも、その感情に振り回される訳にはいかない。そう思って無理に笑ったのに、ロビンはそれが気に入らないらしい。

 

 「……後で、ちゃんと聞かせてもらうわよ」

 

 そう言ってロビンが美しく笑った直後、テゾーロがブツブツと何かを言い始めた。そのまま発狂でもしたのではないかと思う程に、同じ言葉を繰り返して……その能力を発揮する。

 金が津波のように迫り、飲み込む。飲み込まれた者達は金の石像へと変えられてしまう。

 

 「呪縛から逃れたから、何だというのだ……。解けたのなら、また縛ればいい!!」

 

 その声は、言葉は、まるで呪い。怨念のような、呪詛を思わせる声と共にその能力が力を発揮した。

 その唯ならぬ様子に即座に反応したのは、空を飛べるフランキーと、ロビン。反応の遅れた私とカリーナをサンジ君が救出に来てくれる。

 慌てて私とカリーナがサンジ君に掴まると、サンジ君は空を蹴って飛び立つ。それにより少し体力の温存をさせて貰いながら、皆の様子に視線を向けた。

 ロビンにはチョッパーとウソップが掴まっていて、フランキーにはゾロとブルックが掴まっている。ルフィは丸くなって、自力で浮いてるので問題は無い。

 

 「この街では全てが俺の意のまま!!何が面白いかは!俺が決める!!」

 

 津波と高波にしか見えない金色のそれが、建物上空と二階部分位までを飲み込んで行く。それに息を飲まされたのは当然で、呆然と見詰めるその時、足場になりそうな場所を見付けた。

 ただ、それとほぼ同時にロビンがもう限界と言ったので、私が慌ててその場所を示せば全員揃って金に呑まれていない所へと着地する事となった。あの波に、テゾーロは仲間をも巻き込んでたように見えたけど……仲間は金にならないとかあるのだろうか。

 それとも……仲間さえ、彼は犠牲にできるのかな。一瞬見えてしまった彼の過去にいた、恐らくは彼の中にあった希望の存在と、何処と無く似ている女性の風貌をバカラは持っている。

 ……そんな彼女を、彼は攻撃できるのだろうか。だとするならば、それは、既に狂気。

 そんな事を考えていたら、大地が揺れた。いや……隆起した……?

 身体のバランスを取りつつ何とか平坦な所へと着地すると、今まで居たのがテゾーロの身体の上だったと気付かされた。……悟空とお釈迦さまじゃあるまいし、この体格差は無かろうと思いながらも、それもまたこの世界ならば仕方ないかと思えてしまう。

 

 「さあ……!ショーの再開といこうか!!」

 

 この期に及んで、笑うテゾーロ。目まぐるしく変化する状況とテゾーロの能力を目の当たりにして、怯えて断片的な声しか出せなくなるカリーナ。

 降ってくる瓦礫を避ける関係で、少しずつルフィとの距離が開いていく。ルフィはその場に立ち止まり、テゾーロを睨みあげていた。

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