※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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クリケットさん

 空島についての情報を纏めて話をした私と、その話を聞いて瞳を輝かせる男達、それを穏やかに眺めるロビン。そんな私達に倒れたオジサン事、クリケットさんは穏やかに微笑んだ。

 親切にも無償で色々と情報をくれるクリケットさんの言葉を、途中から聞かなくなってしまう程に興奮してるルフィ達を殴り飛ばして、大人しくしなさいと言いおいてから話の続きを聞けば先程迄の穏やかさから1転、クリケットさんは真剣な顔をする。

 

 「ここからが本題だ。言っておくが命をかけろ」

 

 その言葉を聞いた時、私にボコボコにされたばかりのルフィとウソップは、もう瀕死だとか言ってるけど黙殺する。これ正に自業自得である。

 余談ではありますが、自業自得の言葉は自分の行いによる業、即ち悪い事が跳ね返ってくると言う解釈をされてる方が多いですが、本来は良い行いも悪い行いも、自分に返って来ると言う意味ですので、人助けした恩恵を受ける事も自業自得に該当します。……あまりこちらで使う方はいらっしゃいませんけどね。

 それから説明を聞けば成程と思う。それならば、メリーがその負荷に耐えられるなら私でも航海出来そう。

 これ迄の知識と経験、そして直感が行けると判断する。私はルフィの航海士、ルフィが行きたいと言うならば、何処へだって連れて行ってみせる。

 そうは思うけど、これ迄に随分疲弊しているのに、船大工の1人も居ない為にメリーが重力、気圧等の変化に対応して1万m上空まで耐久がどうかと考えて……落ち込む。せめてこれ迄に、ちゃんとしたメンテナンスを出来ていれば違ったのでしょうけど……ね。ドックの1つだってこれ迄の島には存在しなかったのだから、そんな無理をさせたらメリーが壊れてしまう。

 

 「……でも、駄目ね。船が持たないわ。かかる負荷を考えたら、メリーが粉々になる。時間だって残り1日しかないのよ。それを過ぎたら、ログが書き換えられてしまうわ」

 

 それに対して猿達が対処してくれると言い出した。なんの因果か運命か、次のチャンスは明日の昼だと言う。

 なら、もう行くしかない。何せ、ルフィが喜んでいるのだから。

 ルフィが楽しそうに笑ってるのを見て、もうそれだけで良いと思えた。そんな風に私が納得した脇で、ウソップはそんな筈は無いとクリケットさんを責め立てる。

 何も情報が無い状態ならば、ウソップの言い分にも1理あると思わされるだろう。それくらいにはリスキーな話をずっと繰り返している。

 でも、そんなウソップに対してクリケットさんは笑って許してくれる。その事態にウソップは動揺して、ルフィは笑って、共に食事でもしようとクリケットさんと共に歩き出す。

 ウソップだけが身動きを取れずに、その場で座り込む。その姿は悲壮感が漂っていて、何だか可哀想になって来る。

 多分ウソップは常識人だからこそ、こんな事になったのだから。そう思っていたら、ウソップが震える声で問い掛けてきた。

 

 「ナミ、俺は惨めで腰抜けか?」

 「ウソップは、常識人だから……気持ちは分からなくもないわ。私は航海士として、海賊として生きて来た期間があんた達とは違うもの」

 「……そっか、お前10年以上のベテランだもんな」

 「そうね。まぁとりあえず、今のウソップは間抜けさんよ。謝って来なさい」

 

 普段はルフィにばかり感じていた幼い弟のようなその感覚が、ウソップからも感じられる。それもその筈よね、ウソップもルフィと同じ年齢なのだから。

 軽くウソップの頭を撫でて、喧嘩したり間違ってたと分かったら、謝るのが当然でしょ?と問いかければすぐにウソップは立ち直り皆の元へ駆けて行く。即座に謝罪して、その輪に入り込むウソップにホッとするのは、あまりにもつらそうにしていたからだろうか。

 私もその輪に入って良いのかな。そんな考えが脳裏を掠めて、きっとロビンはいつもそんな風に考えて1線引いてるんだろうなと気付く。

 ならばせめて、ロビンの側にいよう。女同士で側に居るのは、何もおかしくは無いし……少し離れすぎたらきっと皆が迎えに来てくれるから。

 まだ距離感が上手く掴めなくて、どうしたらいいのか分からなくなる事も多い。でもね、私はこの1味の航海士として生きて行くと決めたから、もう離れる事だけはしないつもりなのよ。

 ロビンの傍らに行けば、ロビンは少し驚いたような顔を私に向けて来る。

 

 「船長さんの傍じゃなくていいの?」

 「必要なら、ルフィが勝手に手を伸ばしてくるわよ。私は……ロビンを独りにしたくないの」

 「……男前ね、恋をしたらどうしてくれるの?」

 「ふふ、その時は愛してあげるわ」

 

 互いに冗談だと分かっていながら、悪戯に続けられるその会話を聞いていたらしいサンジ君がまた崩れ落ちたけど、本当に大丈夫かしら?

 それから私達に食事を運んで来てくれたサンジ君が、2人共そんなに離れてないで中に来てくださいよなんて言ってくれる。本当にサンジ君は人の事を良く見てるわと感心するのと同時に、ほら迎えが来たと小さく笑う。

 ルフィに視線を向ければ、気分良さそうにしていると分かる。ルフィが笑う、ルフィが喜ぶ、ならばきっとそれが正解。

 人の不幸を喜ぶような人じゃないから、人の喜びを素直に共に喜べる人だから、そんな人だからきっとルフィの周りには笑顔が絶えないのだろう。そう思って笑いかければ、その視線に気付いたルフィが文字通り私に腕を伸ばしてきた。

 悲鳴を上げる間もなく、ルフィに抱き寄せられれば仕方ないなと思えてその頭を撫でる事になる。妙に甘えてくるルフィが可愛くて、そっとその頭を抱き締めればルフィの動きが止まった。

 ……眠かったのかな?

 そんな様子をゾロは少し切なそうな顔で、チョッパーは相変わらずだななんて言いながら、サンジ君は苦しそうに、ロビンは穏やかな笑みで見ている。ウソップは猿達と戯れていて、こちらを見てもいない。

 見ればルフィの手元にはお酒があって、成程酔ったのかと理解する。ルフィには少し強めのお酒だったのかしらね。

 

 「酔ったんなら、もう辞めときなさい」

 「……ナミは、本当に鈍いよな」

 「お酒の場合〝鈍い〟じゃなくて〝弱い〟とか〝強い〟って言うのよ。ルフィはお酒弱くは無いけど、強くもないからそろそろ辞めときなさい」

 

 言葉を向ければ何故かルフィに嫌そうな顔で、溜息をつかれてしまった。……解せぬ。

 そんな中でも話は盛り上がりを見せる。クリケットさんはお宝を見せながら話を始めるから、それに1瞬瞳を輝かせたけど次の瞬間には嫌な予感に襲われる。そうだ、あの……虫だらけの森に……。

 虫は、嫌よ!それなら残って居たいわ。

 原稿料とか色々な物がメリーにはあるんだし、きっとそれを言えば納得してもらえるわよね!本当に、虫とお化けは嫌なのよー!

 そんな私の胸元でルフィが何をしてるかなんて、虫に怯えてる私には分からなかった。本当に、ある意味で平和な時間だと言えるだろう。

 皆で森に行くと言う事になった中で、私は真剣な顔をしてみせる。私から見たら死活問題だもん。

 

 「皆、私はここに残るけど……」

 「「「ビビの真似してんじゃねェ!」」」

 

 チョッパー、ゾロ、ウソップが声を揃えた。やっぱりバレたか。

 

 「冗談は半分よ。即ち半分は本気。私はここに残るわ」

 「……何でだよ」

 

 ルフィは不満そうに言うけど、虫の巣窟になんて行きたくない。いや、絶対!

 

 「森、すなわち虫!私は虫とお化けは本当に駄目なのよ!」

 「……ナミさんの気持ちと言い分は、理解できますよ」

 

 サンジ君が同調してくれる。でもロビンは小さく首を傾げる。

 

 「1人残ってどうするの?」

 「ここには私の宝もあるし、書きかけの本もあるわ。それらを守って、大人しくしてるつもり。メリーを直してくれるって話だけど、あんまり任せっぱなしなのもね」

 「それなら、認めるけどよ。……ま、体調も良くねェもんな。少し休んでた方が良いかもな」

 

 ルフィはそう言ってから、気を付けて待ってろよなんてアベコベな発言を残して去って行く。皆に気を付けてねとメリーの上から声を掛けて、その背を見送った。

 猿達がメリーに羽根とかを装着してくれてるのを眺めながら、クリケットさんと会話をする。私が航海日誌を読んでる間にロビンから宝玉だと聞かされていたらしく、クリケットさんはあの小説が真実だといいんだがななんて呟いた。

 

 「真実ならいつか、きっと鐘は鳴ると信じています。……ねぇクリケットさん、きっとね、信じて努力をしていれば、叶わない事なんて何も無いんですよ」

 「若いな……」

 「私も、これ迄に何度も諦めそうになったわ。何度も死にたいと思い願った。けど、ルフィがそんな私に道を示してくれたの」

 「だから、あの小僧なら、何でも叶えるって?」

 

 クリケットさんの言葉に私は頷く。だって、ルフィは海賊王になる男だから。

 

 「宝玉として、ただ作家として生きようとは思わなかったのか?」

 「そう出来るなら、きっとそうしてたわ。でも……出来なかったの。私の故郷が、海賊に支配されて、私は彼等にとって都合のいい道具だったから」

 「それで、死にたい、か」

 

 気遣うような声音に、少し笑ってしまう。本当にこの世界の人達は基本的に優しい。

 

 「そんな絶望の中で、私はある手紙を大切に心の拠り所にしてたの。でも、それが見つかれば大変な事になるって分かってたから、歌いながらそれを海に棄てたの」

 

 クリケットさんは私の言葉を黙って聞いて、そして続きを無言のままに促して来る。だから、その現場にいたノジコとの事を少し話そうかなと思えた。

 

 「その時歌ったのは〝紙飛行機〟と言う歌で、歌の主人公が死んでしまうものだったの。それを聞いていた姉が、私に好きな人がいるんだって勘違いして、すぐにその人の所に逃げろって言い出したの」

 「優しい姉だな」

 「えぇ、きっと世界中の誰よりも私には大切な人」

 

 私の言葉にクリケットさんは、不思議なものを見るような眼差しを向けて来る。どうしたのかと思ったら、あの小僧は?なんて聞かれる。

 

 「ルフィは、世界であり太陽だから、世界よりも大切な存在なのよ」

 「……こりゃ、参った」

 

 そう言ってクリケットさんは楽しそうに笑う。そんな私達に猿達は平和そうだと笑ってくれる。どうやら会話自体は聞こえていなかったらしい。

 そんな会話の中で、クリケットさんがどんな歌だったのかと聞いてくる。勘違いさせるような歌詞なのかと。

 だから私は、深読みすれば勘違いすると思うけどなんて言って……言葉を濁す。いや、あれはレンくんの歌う所で泣くんだって……本当に。

 だから、歌いたくないなと思うけど、メリーには楽器があって、クリケットさんは興味津々で、私は押しに弱い。どうしようと思わず空を見上げたのは、仕方ないだろうと思う。

 その時、急に辺りが騒がしくなり何事かと視線を向ければ、ベラミー達がその姿を見せた。私はとりあえずメリーに戻り、雷雲を生み出す。

 こんな事になるって分かってたら、サンジ君にも残ってもらったのにっ!

 クリケットさん達が戦う邪魔にならない程度に雷を落として、メリーを守る。全てを守れないなら、せめてメリーは守ってみせるとクリマタクトを握るその手に力を込めた時、ベラミーを含む襲って来た男達が歓声を上げて動きを止めた。そして、私は咄嗟にその場を飛び退いて歓声の元に対峙する。

 

 「探したぜ?ナミ……いや、俺の花嫁」

 「私は、2度と会いたくなかったわ」

 

 楽しそうに笑うドフラミンゴに、私の体は勝手に震えそうになる。それを気合いで抑え込む他には、睨む事しか私には出来なかった。

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