※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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最後に

 ルフィが許せない事。その全てを凝縮したようなテゾーロの行為。

 ルフィの嫌う要素を濃縮したような存在。それが、今のテゾーロと言えるのかも知れない。

 

 「お前が守ろうとした……大事なモノは全て、俺の力に……飲み込まれる……。それが……この世界だ!!全ては……黄金に支配される!!」

 「だったら、支配してみろよ!!」

 

 ルフィとテゾーロの攻撃が交錯する。テゾーロの攻撃なのか、ただテンションが上がったのか、ゴールドスプラッシュが放たれて……それの意味を測り兼ねてしまう。

 それでも威力は相当なものであるようで、ルフィと力比べのようになっている。それを見て応援する人と、ただ信じて見守る人……として、不安に震える人の視線と想いが交錯していた。

 

 「ハハハどうだ!!俺は神になったんだ!!ハハハハハハッ」

 「何が神だ!!お前なんか、ただの怪物だ!!」

 

 仲間達はただ、ルフィを信じて待つ。無言で待つのは、邪魔しない為。

 そして、確かにテゾーロは神ではないだろうと思う。だって、テゾーロはあの光源体と比べたら……相当に優しい存在だと思うから。

 騙す為とはいえ、必要な対応はしてくれた。ラストのショータイムまでは手を出さないという誠意を見せてくれたわ。

 あの光源体は、私を殺す為に手を少しも抜いてはくれなかった。その事で周りにいた人達が苦しみ、悲しみ、人生を狂わされたのだから、それに比べたらずっとマシよ。

 

 「俺は!!海賊王になる男だ!!!!」

 

 その言葉を口にしても尚、直後に幾度も負けて来た。だから、これが勝利に繋がる合言葉ではない。

 でも、私達は信じて疑わない。この戦い、ルフィが勝つのだと。

 その証拠に、目の前でテゾーロがルフィに殴り飛ばされる。意識をそれにより奪えたのだろう。

 金が砕けて消えて行くのに合わせて、周りにあった金の川が失われていく。何処かへテゾーロが飛んで行くのと同時に、ルフィが降ってくるのが見えた。

 つまり、意識を失ったのだろう。悪魔の実の能力による効果は、睡眠では失われないけど意識を失うと解除されるから。

 

 「……すごい……」

 

 カリーナが嬉しそうに呟くのを聞きながら、ルフィの元へと駆け出す。落下して来たのを支える事はできなかったけど、打撃って意味だと問題のないルフィにそこは心配してない。

 ただ、何度も爆撃等を受けて怪我をしてるルフィが心配で、意識があるのかと確認する意味でも声をかける。それと同時にチョッパーも来てくれて、そっとチョッパーと二人でルフィを囲むように近付く。

 チョッパーが治療を開始したのを見て、私も手伝い始めれば、ルフィはまだ何かを警戒するように荒い呼吸を繰り替えしていた。そんな時に爆発とは明らかに違うけど、聞き慣れない音が響いて来る。

 ボンッボンッ!と響くそれに眉間に皺を寄せたのは当然だろう。私が辺りを警戒していれば、突然スクリーンに映し出されたのは数字。

 一秒毎ではないけど着実に減るその数字は、明らかにカウントダウン。100から始まったそれは、残りの時間が無い事を意味してる。

 

 「何……あれ!?」

 

 何のカウントダウンなのかと驚く私達の元に、カリーナの声が響いた。焦った様子のそれに、誰もが注目している。

 混乱に陥り自棄になる人が出ないとも限らない。だから私もそれに合わせて、心を強く引き締めた。

 

 「皆!!急いで逃げて!!テゾーロは……船を沈める気よ!!」

 「皆!!早く船に!!出航の準備を!!」

 

 迷う時間も躊躇う暇もない。即座に指揮をとる私に、皆は従ってくれる。

 それでも瓦礫等で道が塞がれていては、普通の人達は先へ進めない。そんな時に力になるのはフランキーで、即座に道を作ってくれるから逃げる為の道が作られた。

 子供達を含む民間人が駆け抜けるのを見送り、私も声を出す。この時点で残りの数字が〝86〟になっているのが確認できてしまう。

 

 「急いで!!カリーナも!!」

 「……先に、行って……。私はこの船を遠ざける……」

 「えっ……!?」

 

 心臓が、跳ねた。ドクドクと耳障りな心音が強く響く。

 聞きたくない。認めたくないのに……カリーナの唇は動きを止めないで言葉を紡いで行く。

 

 「今逃げても、皆爆発に巻き込まれる……。私が船を遠ざければ、犠牲が少なくなる筈……」

 「何言って」

 

 心の発する衝動のままに、叫ぶように、怒鳴るように声を張りあげようとしたら……カリーナが抱き着いてきた。その腕が、震えてる事で冷静さを取り戻して、叫ぶ事も怒鳴る事もしなくて済んだ。

 カリーナは、怖いのだ……と、わかる。なら、その役目は私がと言おうとした時、カリーナの声が耳朶に届いた。

 

 「いい仲間だね……。最後にあんた達とやれて楽しかった……」

 「……カリーナ……!?」

 「いつも、こういう事はナミがやってくれてたよね。いつも、私は庇われて守られて来た……。知るのはいつも、庇われた後で、お礼さえ言われて貰えなくて……いつか、いつかね……返したいって思ってたの……」

 「カリー……フランキー!?」

 

 名を呼び終えるより早く、カリーナが私を突き飛ばす。それを受けてか、フランキーが私を掴む。

 慌てて声をあげる私に、カリーナは笑う。何でもない別れの前に見せる、いつもの笑顔。

 

 「ウフッ……よろしく……」

 「……分かった!!」

 「カリーナ!!」

 

 フランキーは私の声を、足掻きを無視して背を向けて駆け出してしまう。話を聞いて貰えない。

 数字は、刻一刻と減って行く。フランキーに運ばれる私が、叫ぶように戻らせてと言っても誰もそれを許してはくれなくて。

 サニーが見えてきた時、私は覚悟を決める。この先はただの個人ではなく、航海士ときての仕事が待ってるから。

 

 「フランキー……降ろして。〝航海士〟としての、仕事をするわ」

 「……ナミ……」

 「皆!時間が無い!今から私の指示に従って!!」

 

 私の声に皆が反応する。私個人としては、今からでもカリーナの元に戻りたい。

 でも、今の私は〝麦藁の一味の航海士〟だから、その選択肢を選べないの。確実に……皆をこの場から遠ざける必要があるのよ。

 指示を出しながら、港にあった小さな金庫に手を伸ばす。触れてみれば簡単に開きそうで、そっと中身を確認すれば全てが金で、とりあえず身に付けられる分だけ身に付けながら指示を出し続ける。

 小さな金庫だから、入ってる量も大した事は無いけど……貰える物は貰って行くべきだと思うのよね。ルフィの指輪があるから、その指と……結婚指輪のあるべきそれを外して……八本全ての指に金色のそれを嵌めた。

 ……そう言えば、テゾーロも左手の薬指以外の全ての指に……指輪をしていた。大切な人の為に、その指だけは……と、空けていたのかもと思えば、何とも言い難い気持ちにはなるけど。

 私の指示で皆が船を出す中で、もたついてる隣の船が民間人メインだと分かり少し飛び乗って指示を出した。そうして避難し損ねる人達が居なくなったのを確認してサニーへと戻れば、海軍船も含めて皆ギルドテゾーロから離れたのが確認できる。

 カウントダウンは、続く。空は、ゆっくりと、けれど確実に明るくなって行く。

 

 「おい!あいつは!?もう、爆発すんぞ!!」

 

 減り続ける数字。ルフィの焦る声。

 でも、私はもう……今更何も出来ない。仲間達と、見知らぬ子供達を優先したのは……私の決断。

 今から戻ったとしても、無駄に死ぬか大怪我するだけ。それも、会う事さえ出来ないままに。

 ……私が残れば良かった。私なら、この数字を止められた可能性もある。

 今はベガパンクとして生きてる友人に過去教えて貰った知識があるから、カリーナよりは可能性が高かった筈よ。……どうして、私が守られてしまったんだろう。

 目を伏せて、歯を食いしばる。数字が……ゼロになる。

 その時、聞こえてきたのは爆発音では無く……。でも、ドンドンと巨大な音が聞こえて来て。

 

 「なんで……」

 

 驚く私の横で、ウソップが確認する。カリーナのやらかしたそれに感心したような声を出して、皆で笑いあった。

 そんな状態になってから、腰に何か紙が挟まれてると気付く。それを取り出して、広げて見れば笑うしかない。

 

 「あの女狐……」

 

 思わず出た悪態を、誰も咎めない。ルフィはそれを見て、カリーナのいる船を見て、笑いながら声を張る。

 哀しみは既にない。仲間達はそれぞれ少しずつ形は違っても、笑っていた。

 

 「よーし!野郎どもォ!!逃げるぞ!」

 

 ルフィの声に応えるように、私は頷いて指示を出す。今目の前にいないカリーナがウシシ……と笑ってるような気がした。

 海軍も、テゾーロの船から離れてしまえば協定の範疇から外れる。だから、これが正解なのだろう。

 爆撃や砲撃から逃げる為に、届いてしまうそれを三強が対処して、その間に準備を整えたら……後は飛んで逃げるだけ。無駄に戦う必要なんて無いから。

 飛んで逃げる時、ミホークの棺桶船や、シャンクスの船も見えた。けど、ルフィはそれに気付く事はなくて、教えてガッカリさせるのも嫌だから、黙って遠くなるそれを見詰めている。

 そこで突然、フランキーが呆れたような声を出した。それを受けて、つい笑ってしまったのは、何だかそのやり取りが懐かしかったから。

 

 「本当に……折角のカジノで何の収穫も無かったな。やらかした事だけが残っちまって……」

 「奪われた仲間、取り戻したんだ!俺達の勝ちなんだから良いじゃねェか!」

 

 ルフィが笑う。その様子が、ロビンを取り戻した時と重なる。

 だから、私はサンジ君に視線を向けた。だって、続くルフィの言葉は理解出来てしまうから。

 それはサンジ君も同じだったらしく、一つ頷くとそれだけで姿を消した。それと同時にルフィが言う。

 

 「野郎ども!!宴だァ~!!!!」

 

 そうして始まった宴は、海軍から逃げるとか色々やるべき事はあるのに問題なく進められる。大切な仲間を取り戻せたから、必要な事は終えたから……。

 乾杯して、呑んで、食べて、踊って……ブルックの演奏を聞いていたら突然、ゾロが言う。少し、真剣な様子で。

 

 「……助かった。礼を言う。皆、ありがとう」

 

 にかっと笑うゾロに、やっぱりまだまだ若い子なのだと痛感させられる。この笑顔が、案外レアなのだと言う事は本人の預かり知らぬ話だろう。

 皆も笑う。ゾロが帰って来た事実が嬉しくて。

 

 「あ!ナミ!……トラ男に頼まれてた事はどうなったんだ?」

 「薬の購入は、手配できたの。問題は受け取りだけよ」

 「なら良かった!トラ男、喜ぶな!」

 

 ルフィの笑顔に、色々な物が浄化される気がした。それにより小さく笑って頷けば、ウソップがゾロに妙な事を言ってるのが聞こえて来る。

 

 「ゾロ、何か歌えよ」

 「は?……歌う訳ね「今回の宴は、ゾロを取り戻した事を祝ってんだから、主役が歌わねェとかおかしいだろ」」

 

 ゾロの言葉を遮ってのそれに、フランキーが同意するとチョッパーまで聞きたいと言い出す。その流れで、チョッパーに自分達も舞台の上で歌ったのだと得意気に言われては、ゾロも居心地悪そうな様子を見せる。

 それから諦めたように項垂れると、ブルックに視線を向けた。ブルックはそれによりゾロの元へ行くと、二人で何やら話し合いを始めたので、ゾロの歌声を聞けるチャンスだと気付く。

 

 「マリモが歌か……。ナミさんは、俺の歌、聞きたいですか?」

 「そうね、サンジ君も歌ってくれないから……聞いてみたいわ」

 

 ロビンもやはり、連れ戻された時の宴で歌ってくれた。チョッパーは今回一緒に歌ったし、ブルックやウソップは宴の度に歌ってくれる。

 そう思って笑えば、サンジ君が困ったように笑った。それから唇の前に指を立てて、その内コッソリお聞かせしますなんて言われてしまえばそれ以上は言えない。

 それにはけれど不満はなくて、頷く事で応えればルフィがチョッパーと共に遊び始める。その様子を眺めていると、ロビンがサンジ君に軽く呼びかけて飲み物の追加を頼む。

 そんな当たり前で平和な時間が、本当に尊いと思う。フランキーがついでにと自分用のコーラを頼めばサンジ君は文句を言いつつも運んでいて、そのやり取りが妙に楽しく思えた。

 私も追加のお酒を……と思った時に、聞こえて来たのは少し懐かしい音楽のサビ。それに驚いてブルックへと視線を向ければ、ゾロが近くの樽に偉そうに腰を降ろして言う。

 

 「ロビンも帰った時の宴では歌ってたからな。……歌ってやるよ!『M八七』」

 

 そうしてゾロが大きく息を吸い込むのと同時に、ブルックがヴァイオリンを構えた。そして、音と同時にゾロの声が響く。

 

 「ーーー」

 

 この選曲は明らかに、宴に合わせたものでは決して無い。ただ、それを非難する気にはなれなかった。

 ゾロにとって酷く輝いて見えた星は、くいなさんなのだろうか。それとも、ミホークやルフィなのかもしれないけど……その答えを私は知らないままだろう。

 

 「ーーー」

 

 割れた鏡は不吉な意味を持つ事が多い。それでもきっと、その鏡が目の前にあって、そこに映る己を見ている姿が……想像できてしまう。

 きっと、それが現実ならば、ゾロは己の拳で鏡を割ったのだろう。憧れと遠い距離に苦しみながら、己を叩き割ろうとして……。

 

 「ーーー」

 

 風に吹かれて翻る帽子を見上げて、手を伸ばせば届く筈のそれを見ているルフィが、何故か脳裏に映し出された。そんな時は決まって、誰かがその帽子を捕まえて返すのだけど。

 甘えなのか、信頼なのか。はたまたルフィにも物思いに耽る……なんて事があるのかな。

 

 「ーーー」

 

 ルフィが望むなら、ゾロは強く応えるのだろう。迷い、恐れる事を、上に立つ以上は許さないとゾロは言うけど、それを厳しいと思う反面、仕方ないのかなとも思うのよね。

 己の全てをかけて、ゾロはルフィと共にある。強くある事を、互いに互いへと求めているのが、なんとも羨ましい程だわ。

 そのまま少しの間奏に入る。それにしても、なんだってゾロはこんな難しい曲を選んだのか。

 確かに、最新で出版した物の中にこの歌は含まれてはいるのだけど。まさか、こんな形で仲間が歌うとは思っていなかったのよね。

 

 「ーーー」

 

 枯れる花と言う歌詞は、死にゆく人を連想させた。それはきっと、私だけでは無い筈だわ。

 勿論、そんな意味ではなく弱る人や、老いていく女性を連想する言葉ではあるのだけどね。そう考えると、言葉って難しいと痛感させられる。

 

 「ーーー」

 

 打ちひしがれて、削られる心。でも、そうした絶望の中から立ち上がるからこそ、物語は始まるのかも知れない。

 

 「ーーー」

 

 絶望する日々の中、そっと手を掴んでくれたのは、貴方も孤独だったからかな。そうだとしても構わないのだけど、求め合えると断言出来る程度には……信頼をしてるの。

 先程よりも短い間奏。その間に呼吸を整えるゾロに、誰も話しかける事は無い。

 

 「ーーー」

 

 輝く星や君とは、ゾロにとって誰なのだろう。その答えは分からないけど、この歌と同じように、私達は進むのだと知っているの。

 私にとっての輝く君って、一人なのかな。自分の事さえよく分からない情けなさ。

 

 「ーーー」

 

 皆が望むなら、それを他の仲間が応えてくれる。だから、今は全てに恐れる必要は無いのよ。

 痛みを知るのは、私だけていい。大切な人には、誰にも傷付いて欲しくはないから。

 

 「ーーー」

 

 だから、笑え、私。ゾロの歌う星にはなれなくとも、大切な仲間である事に違いは無いのだから。

 そうして歌が終われば、ゾロはサンジ君からお酒を奪い取って呑み出して、満足そうにしている。その様子に皆も笑いだして、余韻なんてあったもんじゃない。

 最後に歌ったぞ!文句はねェな!なんて言われたら笑うしかない。それくらいには、ゾロにとって恥ずかしい事だったみたいね。

 その様子を見てたウソップが次は俺と言えば、チョッパーも歌いたいと続く。フランキーが俺様も歌ってやろうと言い出せば、演奏する物を確認するのに突然忙しくなったブルックは楽しそうに笑った。

 ロビンは私の隣に移動してきて、少しは食べなきゃダメよなんて言うから、二人で軽食をつまみ始めれば宴は大盛り上がりとなる。楽しい宴を続けながらも、サニーは進む事を辞めはしないのだけど。

 この先……麦藁の一味として全員が揃ってゾウを目指せると……私達は信じて疑っていなかった。けれども私達を待ち受ける運命は、そんなに優しくできてはいない。

 そんな事とは知らず、宴の空気に溶け込む面々。明るく楽しい皆の様子は、更に仲間達にも伝達されて行く。

 とりあえずナミは、ローちゃん達の待つ島へと急ぎつつも多少の戦利品を見せながら笑う。明るくなって行く世界に、仲間が揃ってる幸福に頬を緩ませながら。

 波間の向こうを目指して、サニーは進んで行く。まだ見ぬ冒険が、この先も待っているのだという事を私達は本当の意味では分かっていなかったけど。

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