※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

441 / 462
ゾウ編
手紙


 海面にサニーが着面する。けれども宴はそれによって終わる事は無く、だからと言って海面に戻ったからには遊んでばかりも居られなくなった。

 そうして宴を終わらせる事なく、必要に応じた対応をしていけば見えて来る事もある。ロブ・ルッチと薬の契約はしたけど、受け渡し方法の確立をしていない現実。

 溜息を落として視線を空に向けた時、飛んで来るモノに視線を奪われた。だって……それ間違いなく……。

 

 「ハットリ!!」

 「ポッポー!!」

 

 ネクタイしてるハットリを笑顔で受け止めれば、ハットリも甘えたように擦り寄ってくれる。その様子に皆が動きを止めて、そしてそれぞれが自由に叫んだ。

 その鳩は敵だとか、丸焼きにしてやるだとか、危険なものから離れなさいだとか、襲われるぞだとか。でもね、飼い主は危険物でも、ハットリに罪は無いと思うのよ。

 飼い主は狂暴だし、嫌な奴だと思う。でも、ハットリは可愛い!

 

 「動物をいじめないで!」

 

 ハットリを左腕に止まらせて、右腕で庇うように抱き締めたら、ハットリがウルウルとした眼差しを向けてくる。それを見て可愛いと顔でスリスリしてたら、何故かサンジ君が雄叫びを上げて、ウソップが嫌そうな顔をして、ルフィとゾロが殺気立つ。

 そんな様子に困った男達だわと呆れてしまうけど、何故か疲れたような顔でフランキーは見てくるし、ロビンは微笑ましそうにしてるから少しだけ私が可笑しいのかと不安になって来た。ブルックは可愛らしい鳩ですねと言ってくれるけど、チョッパーは小首を傾げてハットリを凝視しているだけ。

 ……チョッパーも、ハットリの事は知ってる筈よね。だとしたら、何が気になってるんだろう?

 

 「チョッパー?何かあった?」

 「〝手紙渡しに来たけど、俺は伝書鳩じゃねェぞクルッポー!でも、相変わらずコイツは俺を可愛がってくれるし、居心地良いから暫くこうしていようかな〟……って、言ってるけど、それでも、ナミはこのハットリが可愛いのか?」

 「……ハットリ?」

 

 チョッパーの言葉を受けて、思わずハットリを呼びながら見詰めると、クルッポーって言いながら誤魔化すように胸に顔を埋められる。……可愛いけど、手紙預かって来たなら渡して欲しい。

 でもそっか、遊びに来てくれた訳じゃないのね。ハットリが来た目的は必要な事だとわかってたけど、少し寂しいわ。

 そんな事を考えながら、頭から羽根に向けて手を動かす形で撫でて行く。するとハットリは胸から頭を出して、仕方なさそうに嘴で足に付けられていた手紙を外して差し出して来た。

 受け取ると同時に羽根を使ってお辞儀付きの挨拶をして来るのはもう、ただひたすらに愛しい。それに頬を緩ませつつ手紙を開いて読み始める。

 ……え?

 船長に先に読ませないのかって?

 ……そんな無駄な時間は不要よ。私が読んで理解して、ルフィに分かる形に変換して伝えた方が良い。

 

 『宝玉より依頼の品の用意はした。だが、その過程で〝麦藁の一味〟の居場所が分かったと上層部が判断し、臨戦態勢を整えて来た。

 俺は己の立場を危うくしてまで約束を守るのはどうかと考えたが、それでも契約でもある以上反故にも出来ん。そこで〝麦藁のルフィ〟と〝悪魔の子〟ニコ・ロビンがいる場所と、宝玉の居場所を報せて貰えれば解決すると気付いた。

 宝玉の元にハットリが約束の品を届ける。〝麦藁のルフィ〟の居場所に近くの海軍が船を数隻向かわせる。

これにより〝麦藁のルフィ〟が負ければ囚われるだろうが、それは負けたのが悪い。契約を続行したければ、これに従え。

 返信を待つ。ロブ・ルッチ』

 

 手紙の内容を見て、肩が落ちる。返事を出さないのは悪手だと分かる。

 だからって仲間は渡さないなんて騒げば、薬を手に入れられなくのもまた事実。これにより、ルッチからの提案に逆らう術がないのは間違いない。

 

 「皆、ごめん」

 

 私の言葉に、ロビンとルフィが同時に小首を傾げた。姉と弟だと言われたら信じそうな程に、シンクロしたその動き。

 罪悪感に心が蝕まれる。でも、伝えなければ。

 

 「求めていた〝薬〟が手に入りそうなの。でも、海軍にその事が知られたわ」

 「あ!?」

 

 ゾロが濁点付きの〝あ〟を音にしたけど、それ以外は納得した様子を見せてくれた。そこで言葉を続ける。

 海軍程度どうにでもなると言いたいのかな。そう思うくらいには、余裕のある皆の様子に強くなったのだと思い知らされるばかり。

 

 「ルフィとロビンの居場所と、薬を受け取る私の居場所を知らせて欲しいと言われたわ。つまり、ルフィとロビンには囮になってもらわないと薬が手に入らないの」

 「なら、船を分けないといけないわね。……ニワトリ君に連絡つかないかしら?」

 「ああ!ロメ男なら乗せてくれそうだよな!」

 「ナミ、クーちゃんに連絡してバルトロメオに手紙届けて貰えないか?」

 「分かったわ。すぐにクーちゃんを呼んでみる」

 「全員呼び方違ったぞ!?」

 

 ロビンから始まり、ルフィ、ウソップ、私と来た会話を聞いていたチョッパーが悲鳴を上げる。その様子にフランキーが平和だと呟いてコーラを口にすれば、サンジ君が紙とペンを差し出して来た。

 手紙を書く為とわかったので頷いてから鳥笛でクーちゃんに呼び掛けると、ハットリが驚いたような顔をした。ハットリも鳥だから反応したのだと分かれば、なんだか妙に可愛い。

 サンジ君から差し出されたそれを用いて手紙を書いて居ると、クーちゃんが飛んで来てハットリを見て何故か険悪な空気を出す。同じ雄だし……ライバル認定したのかしらね?

 ルフィとロビンを引き受けて、少し海軍と遊んでからゾウまで送り届けて欲しいと書いたそれを託せば、クーちゃんが少しだけ名残惜しそうにしつつも飛び立つ。その背にいつもありがとうと声をかければ、嬉しそうに一声鳴いてくれたので良しと思う。

 

 「さて……バルトロメオが来るまでに、一味のメンバーを戦闘と受渡しの組に分けておかないとね」

 「俺はナミと行くぞ!医者だからな!薬の扱いは間違えるとすぐ使えなくなるから管理するにも必要だろう」

 「俺とロビンはロメ男の船だろ。ゾロとサンジ、どっちか来いよ!もう一人はナミ達の事守ってくれ」

 

 私の言葉に即座に反応したのはチョッパーで、ルフィがそれに続く。ルフィの呼び掛けに、迷いを見せないのはサンジ君だった。

 

 「ならば、不肖男サンジがナミさんをお守り致します!」

 「あら、ありがとう」

 「それなら、俺様がロビンを守るか。ブルック!引渡し組に大人組ゼロじゃ危険だから、ナミ達と行ってくれや」

 

 私が気取って応えれば、フランキーがブルックに声をかけた。それを受けて頷くブルックに、ゾロも納得した様子を見せる。

 ゾロも認めたならこちら側には、私、サンジ君、チョッパー、ブルックよね。戦わない事を考えたら、人数が少なくなるのは当然だと思うわ。

 あれ?そう言えばウソップはどっちに入るんだろう……?と思った所でゾロが言う。

 

 「なら、俺とウソップはルフィとだな」

 「ぬァーんで俺まで戦闘組だよ!?」

 「あら、ウソップも億超えてるんだもの、当然でしょ?」

 

 騒ぐウソップをロビンが笑っていなす。それによりウソップはうち崩れて、でもコレで組み分けはできた。

 そこで待機している間に作戦会議が開始される。とは言え、ルフィ達には海軍の船を倒してからゾウに向かってもらって、私達は薬を受取り治療してからゾウに向かうと言う話でしか無いけど。

 

 「そうなると、俺達の方でそれなりの期間海軍を引き付けておいた方が良さそうだな」

 「でもよ、航海士居ないんだぞ、あの船」

 「……え?それ、どうやってここまで来たの?むしろ凄いと思うんだけど」

 

 フランキーの引き付けておくと言う言葉に頷いた直後、続いたウソップの言葉に驚く。少し引いてるのは勘弁してもらいたい。

 そんな私にロビンはクスクスと笑い、ウソップとフランキーは諦めたように首を横に振る。ルフィは面白れェだろと呑気に言うけど、ゾロは無言で視線を逸らした。

 ブルックとチョッパー、サンジ君はそんな様子に本当にそれに任せて平気なのかと心配したけど、現状他に案はない。今から船を調達したりする時間もないし、その船のその後の扱いに困ってしまうから、乗せてもらうのが良いだろう。

 話が纏まった所でサンジ君に目配せすれば、即座に動き出す。どうやらこれからサンジ君の用意してくれた、お茶か食事にありつけそうである。

 そんな事を思いつつ、手伝おうと立ち上がればチョッパーに呼び止められてしまった。その内容が真面目なものであったので、今回お手伝いは見送る事にしてしまったのは不可抗力。

 

 「ナミ、この医学書なんだけど……続きはあるか?」

 「あー……書こうと思えば書けるけど、売上も少なくて、一応綺麗に纏めたからもう要らないかと思ってたのよ。……必要なのはわかったから用意しても良いとは思うけど……急ぐ?」

 「いくつか確認したい事があって……続きが無理なら、編纂に使ってる資料を見せて貰えないか?」

 

 チョッパーの希望と提案はよく分かる。でもね、怖いのよ。

 チョッパーが信用できないんじゃなくて、チョッパーは言えば気を付けてくれると分かってるから良いんだけど、他の馬鹿達が信用に値しないのよね。だからって断るのは……と、悩んでしまう。

 

 「汚したり、破いたりされると困るから、読むなら図書室限定って約束して」

 「俺は汚したり「ルフィ達が近くにいたら、事故は起きるわ」分かった。約束するよ」

 

 私の懸念に気付いて真剣な顔で頷くチョッパーに、それならと鍵を渡す。製図台の下に置いてある箱の鍵。

 その箱の中には、本になっていない紙が保管してある。簡単に分類分けしてあるから、特に問題はないと思うけど……。

 

 「この本は三巻で、ウイルス系だから……virusとDocumentの頭文字VDって書かれた紙を付けてあるわ。必要な物を自分で確認してみてくれる?」

 「分かった。ありがとう」

 

 満面の笑みで答えたチョッパーの頭を撫でたら、サンジ君がちょうど戻って来た。差し出されたのはワッフルが二枚と、二色のアイスが乗せられたお皿。

 ワッフルには粉砂糖と蜂蜜がかけられ、生クリームが乗っかった上にミントが乗せられている。その横に白とオレンジのアイスがあるけど、恐らくはミルク系のアイスと、蜜柑シャーベットだろう。

 ロビンのは、アイスが色違いで白と黒で構成されている。私とチョッパーが話している間に、目の前に来ていたらしいロビンの分も、同じガーデンセットのテーブルにセッティングしてくれた。

 ちなみに私のワッフルには、オレンジソースが彩り程度にかけられていた。ロビンの方は黒いソースだから……チョコソースかな?

 

 「ワッフルでティータイムをお楽しみください。お二人共通なのは、バニラアイスと生クリーム。ミントはレモンミントを使用させて頂きました。ロビンちゃんの分には、ソースとしてビターチョコを使用しています」

 「あら、珍しいわね」

 

 ロビンが驚いた顔をすると、サンジ君が嬉しそうに笑った。確かに、いつもは少なくともロビンの分はペパーミントだから珍しいかも知れない。

 私にはオレンジミントが多いけど。まぁ、私が蜜柑とかオレンジ系を喜んじゃうからだろうけどね。

 

 「今回はサッパリ系にしてみました。ロビンちゃんのアイスで黒い方は、珈琲アイス。飲み物はホット珈琲。ナミさんのは蜜柑シャーベットで飲み物はテキーラサンライズ。ソースは蜜柑ですよ」

 「私だけお酒、良いの?」

 「テキーラが残り僅かだったので、消費にご協力を」

 「おいコック!それなら俺には、テキーラをそのまま寄越せ」

 「バーカ!後100mml位しか残ってねェよ!!」

 

 私が首を傾げると同時に始まる二人の喧嘩。ゾロはそれに舌打ちして、使えねェ……なんて言うから、激しくなる。

 ちなみにチョッパーの分も運んでくれてる。チョッパーには苺のアイスがつけられていて、飲み物もいちごミルクのようだ。

 ソースも苺は使われてるだろうけど、それだけじゃなさそう。……あ、練乳と苺混ぜて作ったんだわ。

 ルフィ達の分はいつものようにキッチンに積み上げられているらしく、中から大騒ぎの喧騒が聞こえて来ている。食器や備品を壊さないなら、適当に過ごしてもらいたいところ。

 

 「うわー!甘くて美味いな!」

 「良かったわね。……そう言えば、ロビンの珈琲アイスって、甘いの?」

 「ふふ、私のはブラック仕様よ」

 

 ロビンは決して甘い物が苦手な訳では無いけど、隣のバニラアイスと一緒に楽しめるように考えてくれてるのだろう。それにしても、焼きたてらしいワッフルの美味しさには、脱帽である。

 カクテルはオレンジとイエローの二層になっていて、グラスの縁に本来ならばオレンジがつくだろうというのに、蜜柑が差し込まれている。氷の浮いてるその隙間に、さくらんぼが一つ浮いているのもまた可愛らしい。

 つまり、オレンジ色は本来オレンジジュースで作る所を蜜柑ジュースで作ってくれたのだろう。マドラーで層を壊すのが、勿体なく感じてしまう程の出来栄え。

 インスタ映えとかしそう。インスタもスマホもないけど。

 

 「壊してあげましょうか?」

 「ロビンのイヂワル」

 

 躊躇う私に、クスクスと笑いながらロビンがそんな事を言う。でもそれより、ワッフルは早く食べないと冷めるしアイスも溶ける。

 なのでドリンクは必須なのだと己に言い聞かせて、崩してしまう時の背徳感。それを口にして、少し爽やかな気持ちになったのは間違いない。

 ロビンやチョッパーとアイスやワッフルの交換をしたりしながら食べていたら、笑顔が途切れる事は無い。ロビンのアイスを貰った時のチョッパーの様子が本当に可愛くて、慌てて私の蜜柑シャーベットを口に入れてあげたりしつつ、穏やかに過ごす。

 そうしている内に甲板に皆が戻ってきており、各々自由に過ごしている事に気付く。これ程穏やかな航海をしている時間は珍しいのもあり、私はそっとウソップを見詰めて考える。

 二年前、まだ離れ離れになる前に頼まれて出したヤソップへの手紙。内容は知らないけど、それは確かにヤソップの手に届いていた。

 その返事と思われるものを聞いてはいるけど、再会直前のシャボンディ諸島でのそれを話すだけの余裕があの時は無かった。魚人島へ向かう時と帰る時は、どうしたって大騒ぎだったし、その後はローちゃんを含む一味以外の人達がいたのも伝えられなかった理由としては大きい。

 そう考えたら、伝えるなら今だろうか。でも、あんなのを返事として伝えていいものかな……?

 

 「ん?ナミ、どうかしたか?」

 「あー……うん。二年前にウソップから手紙預かって、送ったの覚えてる?」

 「ああ、返事は無いって言ってたけど……まさか、親父から返事貰ったのか?」

 

 私の視線に気付いたウソップに問い掛けられては、言い難いなと思いながらも伝えるしか無い。ウソップに返事を渡せるならば、その方がずっと気楽だった気がしてるけど、無い物は無いのだから仕方ないと覚悟を決める。

 妙に、心臓の音が響く。どうやら、私は緊張してるらしい。

 

 「会った時に、伝言頼まれたんだけど……」

 「なんて言ってた?」

 「……おー!楽しそうだな!そのうち会えると良いな!って、伝えてくれって」

 

 私の言葉を聞いて、ウソップは動きと表情を固まらせた。その衝撃は、いかばかりか。

 でも、差程の時間をおかずに回復する。その胸には、どんな感情があるのか分からない。

 

 「そっか、了解。……って、いつ聞いたんだ、その伝言」

 「シャボンディ諸島で、皆に再会する少し前よ。再会してからはバタバタしてて伝え損ねちゃってたの。ごめんね」

 「謝る事はねェよ。確かにあの騒ぎじゃ、伝えてる暇は無かったもんな」

 

 ウソップはそう言って笑うと、一人納得したように頷く。ウソップの表情のように穏やかな航海は、今クーちゃんが飛んで行った先に居る相手が合流するまでは続くのだろう。

 そんな事を思いながら、いつの間にか片付けられたテーブルの上に日誌を広げる。それと同時に蜜柑ジュースとアイスコーヒーが運ばれて来て、私とロビンはサンジ君のそのタイミングの良さに小さく笑みをこぼした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。