そうして治療を受けつつ、何故か小さくなりズタボロな姿を晒す三人から甲斐甲斐しい世話を受けた翌日。私は思いがけず、久々にゆっくりと過ごす事が出来た。
溜まっていた仕事を片付けたり、読みたかった本を読んだり、有意義な時間を過ごして問題を起こされる事も無い奇跡の時間を体験させて貰えたのだ。その間皆は楽しくBBQをしていたようで、私にお粥を持って来るしかない現実に対して、サンジ君は気が引けてたみたいだけど。
点滴してるなら、食事なんていらないのに……と、本気で思って口にしたら胃腸が働かなくなるから食え!とチョッパーとサンジ君とロビンに、声を揃えて言われてしまった。そんな訳で渡されたお粥をはふはふと食べていたら、何故かサンジ君は天使っ!と言って崩れ落ちてしまう。
だけど、正直こんな反応には慣れてるのだ。サンジ君はどんな女の子にも近い事するから実感を伴わなかったけど、今思えば、幼い頃は勿論、ルフィ達と再開する前や、食料補給に寄った島とかでよくこんな反応されて来たのは間違いない。
ドレスローザに向かう前に立ち寄った補給兼ねた陽動の島でも、見蕩れた人は勿論沢山居たし、靴の不備を伝えに行ったら何故かモデルもやらされた。……まぁ、あの時貰った
ただ、私の聞いていたルブノと今のルブノは全く違ったし、腕の良い靴職人は別な所で一から初めている筈だからもうこのメーカーは衰退するでしょうね。この靴が最後のルブノとも言えそうな程に貴重であるのは間違いないわ。
でも、名前は違っても同じクオリティの靴は手に入るかもしれない。そう思ったらつい、崩れ落ちているサンジ君に声をかけていた。
「……サンジ君、レターセットとインク持って来て。可愛い女のコに手紙出すから」
あの島ではこの靴の他に、いけ好かない男から宝石をたんまり貰って来て、ルフィの食費を賄えたから満足ではあるんだけどね。ショーで着る予定だった衣装を貰って帰ったって他は、私が何かを貰ったなんて誰も思っていない筈よ。
その為にショーに出る時あの服を脱いで、持ち帰りたい他の物を隠すように袋の上に入れて置いたのだから。うん、最初は不良品売り付けられたと思ったけど、結果的にはいい買い物だったわ。
10センチのピンヒールは、ルフィを思わせる真っ赤なパンプスで、爪先が見えるこのデザインなら、マニキュア等で爪を可愛くデコってもはけるし、シンプルなデザインだから落ち着いたドレスと合わせる事も可能。
この、走っても踊っても足が痛くなる事のない靴を……ロビンの分と併せて新しく作って貰えたら良いな……と思う。あの子、名前何だったかな。
別れ際に決別と再出発を決意した関係で、不安と開放感から泣いていた少女を思い出せば、どうしたって気になってしまう。……あの腐れ男、サンジ君に話して蹴り飛ばして貰えば良かったと思う程よ。
確かに華やかな子ではなかったけど、間違いなく可愛い子だったし、職人としてはうちのクルーと同格の天才だった。なのに、あんなのに軽く扱われて……!
「ナミさ~ん」
「あら、サンジ君、どうしたの?」
「レターセット持って来ましたよ。どれをお使いになりますか?……何を考え込んでたんですか?」
「ゆっくり選ぶから置いといて。……私が前に買ったって自慢した後で、赤い靴に変えて貰って来た事があったの覚えてる?」
小首を傾げて問いかければ、レターセットをサイドテーブルに置きながら頷く。これは、ルフィやゾロなら覚えてる筈もない内容。
覚えてるという事実に、ただ驚愕させられてしまう。流石はサンジ君よね。
「ええ、変える前の方が豪華でしたが、後からの方はナミさんの美しさを邪魔しないシンプルでありながら素敵なデザインでしたね。そう、ナミさんの為に特別に作られたかのようによく似合っていました」
「ふふ、ありがとう。その靴を作ってくれた子にね、今度はロビンとお揃いの靴を作って貰おうかと思って色々考えてたのよ」
「……なんと……なんと、お優しい……!」
そう言って崩れ落ちたサンジ君から視線を外して、脳内を整理すれば名前を思い出せた。後は、私の肩書きをなんだと伝えるべきか……よね。
……宝玉……だとビックネーム過ぎるわよね。だからって〝海賊〟だとも書けない。
うーん……そうなると〝測量士〟や〝航海士〟または〝旅人〟かな。もしくは〝音楽家〟になるんだろうなぁ。
旅人は旅行者の意味合いが強くて、大金持ちの余裕がある貴族と思われてしまいそう。だからって測量士や航海士だと、海賊にイコールで繋がりやすいのよね。
だとすると、作詞と作曲は実質してないけど、記憶にある曲を思い出しつつ演奏して、譜面に描き起こしている事に間違いは無いから。だから、音楽家……って事にしておこう。
そう決まれば、手紙はサラサラと書き進める事ができた。完成したそれには、私の電伝虫番号を記載しておいたので、細かい事を打ち合わせする事も可能な筈だわ。
フランキーに作って貰った私の電伝虫は、何故か小さな麦藁帽子を被っている。それは、ルフィの電伝虫に被らせるべきでは無いのかとじっと見詰めてみたけど、満足そうに手渡して来たフランキーにそれは伝わらなかった。
電伝虫の被ってる麦藁帽子には、小さな蜜柑の実と花両方の飾りがついている念の入れよう。まぁ、頭にカサブランカの花を一本咲かせたロビンの電伝虫よりは良いかと思って受け取って、後にフランキーがズタボロの姿で花冠にそれを改良させられていたのは懐かしい。
パンプス、ブーツ、ミュール、スニーカーも良いわよね。どんな靴でも走れるのがウリなのだから、スニーカーを作ればきっとそれこそ無敵に近いだろうと思えば頬が緩んでしまう。
ロビンとお揃いで、でも色違いとかワンポイントだけ変えるとかしてもいいのかも。そう思うと後でロビンと話し合わなきゃと思うけど、とりあえずこの手紙をクーちゃんが戻り次第渡さなきゃと次に渡す物に混ぜておく。
そのままベッドに身体を預けて目を伏せれば、聞こえて来るのは皆の笑い声。昨日の怒りが嘘のように心は穏やかで、もしかしてあれは八つ当たりと呼ばれるものだったんじゃないかと不安になって来る。
そうして不安を解消する為に読書等を楽しみつつ過ごしていれば、突如表が騒がしくなり眉間に皺が寄るのを自覚した。本から視線を外して甲板側に視線を向ければ、それと同時に扉が勢いよく開かれてウソップが突入して来て言う。
「ナミ悪い!ニュースクーが帰ってきたから対応頼む!ハットリと喧嘩してんだ」
「それは良くないわね……」
立ち上がろうとしたら上手く身体に力が入らなくて、転ぶかと思ったけどウソップが即座に支えに来てくれて、それに少し驚く。そう言えばウソップは、こういう介助的な事が上手いわよね。
……そうか、お母様が具合悪くて、確か病死だったわね。ウソップがオオカミ少年になったのは確か、これが理由。
思わずウソップの頭を撫でたら、ウソップが私を見た。それから深々と溜息を落とす。
「酷い嵐の夜、サンジが一人になると怯えてる事があるんだよ」
「……知ってたの?」
突然の話題に少し混乱する。でも、だけど、つい聞いてしまう。
知ってたなら、どうして誰もその事を話題にもしなければ、傍に居たりしないんだろう。普段仲良しなのに。
サポートしてあげられる事だってある筈。なのに、どうして?
「おう、だけど同じ男である俺達に知られてるなんてなったら、キツイだろうって事で気付いても触れないのが暗黙の了解なんだけどよ。……ナミ、お前そういう時サンジが落ち着くまで抱き締めて頭撫でてる時あんだろ」
「……なんで、知ってんのよ」
「そんなんだから、襲われんだぞ」
「弱ってる時は襲われないもん!」
サンジ君が弱ってる時は少し子供帰りしてて、そのまま寝てしまうし、多分覚えてない。その事を本人が自覚してないんだと思うのよ。
だから、元気な時に突然発情して襲われるのは、それとは関係無いわ。ウソップったら、何言ってんのかしら。
「……ナミ、サンジが弱ってる時は襲わなくても、それの後襲われてんだろ。例えサンジが覚えてなくても、ナミが傍でなんかしててくれたら後からでも分かるんだよ」
「……予知能力?いや、違うわよね。……過去だから、透視能力?」
「違ェよ!そういう問題じゃなくて、ナミの匂いが自分からしたら、普通にわかんだろうが!」
言われてからハッとする。チョッパーは敏感だからよく言うけど、そうじゃなくてもルフィとか、確かシャンクスとかレイリーなんかにも言われたわ。
腕とか肩の匂いを嗅いでみるけど、よく分からない。……そんなに蜜柑の匂いするのかな?
小首を傾げる私に、ウソップはその後もなんか言ってたけど、私は自分の服を少し引っ張って胸とかの匂いを嗅ぐのに必死で聞いていなかった。甲板に到着するとロビンが私の方を見て、優しく笑うと同時にどこかから移動させてきたショールを手に近付いてくる。
そっと抱き着くようにしてそれを巻いてくれて、それから部屋に置いて来た筈のペンダントトップにつけてある安全ピンを使ってショールを止めてくれたので、少し気恥しい。互いに顔を見つめ合いどちらからとも無く腕を伸ばして抱きしめ合えば、チョッパーから仲良しだなーなんて言われてしまう。
「……おいナミ、ロビンとイチャついてねェで、さっさと鳥達をどうにかしやがれ。ロビンも、イチャつくべき相手は俺だろ」
半日ぶりの再会を喜ぶ暇もなく、ロビンがフランキーに奪われて行く。それを見送ってから、問題の二羽へと視線を向けた。
羽根と嘴で互いを攻撃する姿に慌ててしまう。ロビンから離れて二羽を引き離すように間に入ると、嘴での攻撃は止まったけど勢い良く来た羽根は避けられない。
二羽の羽根が舞飛ぶし、地味に痛いけどそんな事より怪我させたくない。どうしたって言うのかしら。
「クーちゃん!ハットリ!辞めなさい!」
「くー!ククックー!」
「クルッポー!ぽー!ポポーッ!!」
「ハイハイ、わかったから辞めなさい。……クーちゃん、お手紙届けてくれてありがと。お返事読ませてくれる?」
わかったのかよ……と、ゾロの呟く声が聞こえたけど無視してクーちゃんから手紙を受け取る。代わりに今日の分の完成させた作品と、届けて欲しい手紙を託してからそれに目を通して行く。
バルトロメオからはマッハで行きますと書かれていて、居場所についてはルフィのビブルカードがあるから問題無く来られるとの話だ。……あれ?
「私達、ルフィからビブルカード貰ってないわよね?」
「え?……いるのか?」
「ふうん?なら、私のもいらないわね?」
その瞬間皆は大騒ぎになる。ルフィのビブルカードという物が存在する事を初めて知った半数と、私のビブルカードと言う今まで話したつもりですっかり忘れてたシロモノの関係だ。
念の為に私のビブルカードには、私の電伝虫番号7373-737373と、蜜柑の絵を描いて渡して行く。ルフィのそれには単純にルフィと書いて配れば……って、あれ?
「なんで私が全員にルフィのと私のを配ってるの?」
「それが手っ取り早いので、仕方ないのではありませんか?」
ブルックの言葉を否定できず、そうよねと頷いて全員にそれを渡してしまう。それぞれが色々な所へそれを片付ける中で、ルフィだけが当然のように私に麦藁帽子を手渡して来るから、そのリボン部分に私のビブルカードと、畳んだルフィのビブルカードを挟んで、それぞれをエースのビブルカードの時にしたように縫い付ける。
一度燃え尽きてしまったから、今ここにエースのビブルカードは無い。新たに実の力を失った今のエースが、ビブルカードを作ったのかは不明である。
そうして落とす心配と無くす心配を消してから帽子を返せば、嬉しそうに笑うルフィ。こうしていつも、私の怒りはナアナアで終わってしまうのだ。
とりあえずそんな騒ぎの中でも、来てくれると言うならそれに合わせて私も動かなければ。まずは、ハットリに持たせる手紙を書かないと。
「手紙が帰ってきたから、状況と今後の事を決めてしまいましょう」
「あら、グループ分けなら既にしたでしょう?」
「今後の動きについてよ。いつ別れて、何時どこで合流するのか。それを確認する必要があるでしょう?」
私の言葉にロビンか首を傾げたので、素直に簡単な説明をしておく。それによりロビンが頷いて視線を男性陣に向けて、軽く肩を竦めてから笑った。
その様子に私もつられて笑いつつ、この先の流れについて話し合う事になった。これは、一応計画としては立てておいたもの。
「まずは、バルトロメオが到着したらルフィ達遊撃チームはこの場に残って貰うわ。私達は真っ直ぐローちゃん達のいる島に向かう」
「怪我人の近くで化け猫と会うのは、危険じゃないですか?」
「そうね。だからそのルートの途中で会って、薬を受け取る予定よ。赤髪のテリトリーで私のいる船を攻撃する程、ルッチが命知らずとは思えない。だからまずはテリトリーに入る予定なの」
これは、世界に私を〝女神〟と言って辞めてくれないシャンクス達への信頼であり、世界から見て私のバックに赤髪海賊団が居るのだと見えてる現実を示すもの。ウタの事を見た事があっても、私と言う存在が彼女と混同されて危険は及ばない。
冷静に考えれば、シャンクス達は私を表に立たせる形でウタがシャンクス達と繋がっていた現実を消し去ってしまったのだと分かる。それが、彼等の守り方。
守られてるウタがそれを認識できるかは分からないし、あの時は私も許せないと思ったけど……でも……。今なら分かるのよね、シャンクス達が愛しい娘の心と生命を守りたかったんだって事が。
こんな思考から呼び戻したのは、ウソップの声。それに反射的に返事をしていた。
「どうやって合流するんだ?」
「ハットリに私のビブルカードを持たせるわ。無地のまま。それを会った時に返してもらって、解決って流れよ」
「
「そうよ。それならもし、マネマネの実やそれの上位に当たる悪魔の実を使う相手が邪魔しようにも無理が出るもの」
ゾロの問に答えれば、フランキーが問い掛けてきた。それは聞かれると思っていた内容ではあるけど、正直あんまり自信は無いのよね。
計算上は、これで何とかなる……って程度の事だし、そんなに長期間戦ってろなんて言うのはどうかとも思う。勿論、無理ならルフィの事だから上手く逃げたりしてくれるとは思うけど。
「そうなると、俺様達はいつ頃戦いを辞めて向かえば良いんだ?」
「三日……ここにいて欲しいの。そうすれば……五日程の時間差ができる筈だから」
「ナミがいない事で移動速度が倍まではかからなくても……って事ね。わかったわ」
ロビンが納得を示してくれて、ホッと息を吐き出した。それから説明の続きに入れば、皆ちゃんと聞いてくれる。
ずっと黙ってるブルックは、聞いてない訳では無いみたいで頷いたりはしてる。……寝てるんじゃ、無いわよね?
「ありがとう。薬で治療を開始したのを確認したら、最低限の補給だけして私達は先にゾウへ向かうわ。ゾウに急いで行く必要があるって桃ちゃん達は言ってたから、少しでも早く連れて行ってあげたいの。その時ローちゃん達は残して行くから、拾って来てあげて」
「怪我人や病人は陸に残した方が確かに良いもんな。ルフィ、大丈夫そうか?」
「わかった!なら、ゾウで会おう!」
チョッパーの言葉に反応して放たれたルフィの言葉に私達は大きく頷いて、ハットリが飛んでいくのを見送る。後は、バルトロメオの到着を待つだけ……の、筈だわ。