※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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短い曲

 ハットリとクーちゃんが居なくなると、途端に寂しくなる。 クーちゃんは私からの手紙と出版予定物を持って、ハットリはルッチへの手紙を持っての出発だ。

 しょんぼりした気持ちでいると、いつの間にか用意されていたサマーチェアに誘導され、促されるままに腰を下ろす。即座に運ばれてくる飲み物を口にすればチョッパーが診察を始めて、ブルックが演奏を開始してくれた。

 優しい時間が過ぎている中で、ルフィとゾロが戯れ始めて、ウソップがフランキーと楽しそうに新しい兵器について語り合う。ロビンは私の近くに来ると、サンジ君へと目配せしてみせる。

 何も言わないロビンのそれに、サンジ君は即座に反応して消えて行く。こうなって来ると、既にエスパーとか、妖怪サトリの領域だと思う。

 その為に誰も知る筈もない存在を口にしてしまう。それに興味津々な様子を見せたのは、ロビン。

 

 「妖怪サトリみたい」

 「妖怪サトリ?」

 

 私の呟きにロビンが反応してくれたので、簡単に説明する。でもそうね……。

 恐ろしい妖怪だけど、現実にそれに近い人や近い思想の人は案外いる。その恐怖体験から、この妖怪は生まれたのかも知れないわね。

 

 「愛する人の好む姿、望む声で現れて、どんな願いでも叶えてくれるの」

 「あら、素敵」

 「でも、少しずつ誘導して同棲を始めたら……自分以外の誰かを求める事を拒んで、監禁してしまう。それでも逃げ出すと……」

 

 言葉をあえて途中で止めて、ためる。するとロビンは小さく頷いて、けれども少しだけ驚いた様子で言う。

 私が言葉をためた意味ってなんだろう。まぁ、良いんだけどと思えば笑えて来る。

 

 「まあ……。殺されちゃうのね」

 「正解。ま、逃げ出す前にも心を読まれてるから、逃げようとしてるよねって問い詰められて、そんな事ないとか嘘をつくと〝嘘をつくなんて酷い〟って、結局殺されるんだけどね」

 

 あの話は、他に心を移した人間が悪いのか……自分だけをと望む妖怪が悪いのか、微妙よねと思う。私は、ベルメールさんやノジコは勿論、仲間達をどうしても求めてしまうから……。

 二人だけの世界だと、どれほど物を与えられても辛くなってしまう気がする。確かに愛する人と過ごすのは幸せだけど、それだけでは私の夢は叶わないと言うのも大きいわ。

 

 「…………ナミ、気を付けるのよ」

 「へ?」

 

 ロビンの言葉に変な声が出る。だって、ロビンの顔が真剣なんだもん。

 陰鬱そうな、心配そうな雰囲気で、ロビンは私を見つめる。そして、言葉を続けた。

 

 「ナミの周りの男達って、その傾向がある気がするわ」

 「えっと、それ……私にできる防衛策なんて、ある?」

 「……頑張ってね」

 「ロビン!?」

 

 笑顔で応援されるだけと言う現実が、回避方法の無さを伝えて来る。半泣きでロビンの名を呼べば、優しく撫でてくれるその手に少し甘えてしまう。

 それをロビンは、優しく微笑んで受け入れてくれる。ロビンはいつも、私に甘い。

 

 「大丈夫よ。本当にナミが嫌がっていたら……私が助けに行くわ。……ナミが、助けに来てくれたみたいに」

 「ロビン……」

 「ナミ……」

 「ナミは俺のだぞ!?なんでロビンとイチャついてんだー!」

 

 ロビンと見つめ合っていたら突然割り込んで来たルフィに、ロビンが冷たく微笑む。そして、その能力でルフィを引き剥がして私を強く抱き締めるから、つい……カッコイイ……と呟いてしまった。

 だって、ルフィを引き剥がすだけじゃなくて優しく抱き締めてくれるのよ?なかなかできる事じゃないと思うの。

 

 「言ったでしょ?ナミの事は、私が守るわ」

 「ロビン、大好き!」

 「ふふ、私もよ」

 

 ロビンの胸に甘えるように頭を預けると、そのまま腕を身体に回す。それだけで、ロビンもまたしっかりと抱きしめ直してくれる。

 同じような生き方をして来たのに、ロビンは私よりもずっと大人で、優しい。多くの経験から、多少臆病な面も見え隠れしてるけど、そればかりは仕方ないと思う。

 

 「ルフィ、諦めろよ。昨日の件があるから、ロビンは今日容赦ねェぞ」

 

 ウソップの言葉にルフィが地団駄踏んで抗議するけど、ロビンは防御に秀でているのとルフィが仲間相手では全力を出せないのとで、軍配はロビンに上がる。そんな様子にフランキーは笑い転げ、ゾロは無言で酒をラッパ飲みするのだから、それぞれ思う所はあるのだろうと思う。

 そんな中でサンジ君だけが我関せずな様子でロビン用の珈琲と、読みかけの本、そして航海日誌と筆記用具を持って来る。それを受け取り、軽く礼を告げるロビンに大人の女が持つ余裕を見せ付けられた気がした。

 航海日誌は私とロビンの共同作業で書いている。ロビンから見たそれは報告書のようになっていて、私のそれは航海士ならではの視点らしく、どちらの意見も必要だからと言うもの。

 私なら珍しい貝が手に入ったとしか書けない所で、ロビンはそれが古代から生きていて今では絶滅危惧種なのだとかって情報を書き連ねてくれる。逆にロビンは変な天気で波が高いって書く所で、私はその現象の名前とどうやって乗り越えたのかを書けるって訳よ。

 いつかこの航海日誌は、世界が求める物になるだろうと顔を引き攣らせるのはウソップで、それを聞いてドヤ顔するのがフランキーである。そんなにロビンが自慢なのねと思い出して笑った時、ブルックが突然声を掛けてきた。

 

 「ナミさん、何か歌いませんか?」

 「宴でもないのに?」

 「ナミは、まだ体力的に歌ったりするの難しいと思うぞ」

 

 私の疑問とチョッパーの指摘にブルックは悲しそうにバラード系の曲を演奏し始めるから、仕方ないわねと思う。そして、ちょっと悪戯心を込めてロビンに耳打ちした。

 これなら短い曲だし、ルフィを焦らせる事ができるかもと思ったのだ。その選曲にロビンは笑うと、その能力でブルックにもそっと囁いてくれる。

 三人で頷き合うと、ロビンが譜面を持って来てくれて、チョッパーにもそれを見せる。そうなると必然的に四人で視線を交わらせて、笑い合った。

 そんな私達の様子に、選曲を知らないメンバーは首を傾げるばかり。そうしてチョッパーからは歌が短いのを理由に許可を貰えたので、ブルックの演奏に合わせてと思ったらロビンが楽しそうだからと言ったかと思うと、竪琴を用意する。

 そう言えば前に全員……とは言えまだフランキーが仲間になる以前でブルックも当然居なかった頃だけど。……で、演奏会した時も、ロビンは竪琴を選んでたわね。

 置型の竪琴って、実はピアノみたいに足元の操作が必要で、更には弦楽器だから引っ張ったりそのままだったりで鳴らすことで音を変える為に、全身運動なのよね。まぁ、ロビンは手が多いから少しは負担も軽減するけど、それでも大変である事に変わりは無いのだ。

 あの時現れた七色ブラザーズをルフィ達が食べようとして、大変だったわ……。そんな事を思い出して、少しだけ遠い目になるのは許して欲しい。

 チョッパーは私の横にいて、問題の三馬鹿が近付けないようになんて言うから、ゾロはチョッパーを睨み、サンジ君は嫌そうに自分は含まれない筈だと言う。そんな中でルフィだけが少し寂しそうにこちらを見ていたが、それに絆されるつもりは無いのだ。

 それにしても、ブルックは何を演奏するのかと見ていたらヴァイオリンを片付けて、木琴をセットする。どうやら主旋律をロビンに任せて、自分は副旋律を担当する様子。

 主旋律とは、歌う時のメロディで、それをサポートするのが副旋律。主旋律と戦うようなメロディの場合は、対旋律と呼ばれるけど、これはロック系か一部のクラシックでしか用いられない珍しいもの。

 当然今回の選曲では対旋律は存在せず、入れようものなら雰囲気が一変してしまうので、主旋律と副旋律に別れるのが当然なのだ。主旋律は、その歌を知っていた場合歌う時のメロディであるのが理由で、聞き馴染みがあり間違えた時わかりやすい反面演奏もし易いのが特徴。

 

 「俺も、何か楽器演奏できるようになりたいな」

 「ブルックに話してみたら?喜ぶと思うわよ」

 

 チョッパーの諦めを含んだ呟きに、つい口を挟んでしまう。そんな私に、チョッパーは不安そうな瞳で見上げてくる。

 それからそっと視線を俯かせると、自信なさそうに声を出す。その頭をそっと撫でたのは、既に無意識の領域。

 寒い地域の動物は、毛がゴワゴワしてたりチクチクしてるものだと思うのだけど、チョッパーはフワモコなのだ。だから、慰めるために撫でてる筈の私が癒されてしまう。

 

 「でも、この前も俺、たくさん時間使わせたぞ。歌うだけであんなに時間かかったのに……楽器なんて言ったら……」

 「チョッパーは、怪我した人を治療する時時間奪ってごめんなんて言われた時どう思う?」

 「そんなの、俺は医者なんだから気にしなくていいって思うけど……?」

 

 不思議そうに、けれども間髪入れずにチョッパーは答えてくれる。でも、それならそれが答えなのにね。

 自分の事は見えない。世間には、自分がやられて嫌な事を〝する〟のはいいのに、それを〝やられた〟ら怒り狂ったり泣き叫ぶ人が多い気がするわ。

 そんな中で、私の大切な仲間達(クルー)は、逆に〝自分がされるのは構わない〟のに〝自分が迷惑をかけるのはつらい〟と思う人達ばかり。頼り方や甘え方が分からない阿呆ばかり無のよ……私も含めて。

 

 「チョッパーは、私が怪我の治療法を学びたいから教えてって言ったら、迷惑に思う?」

 「思う訳ねェだろ!?」

 「なら、同じよ」

 

 私の言葉にチョッパーはキョトンとしている。本気で分からないみたい。

 ごめんね、上手く説明できなくて。でも、同じなのよ。

 

 「ブルックは、音楽家よね。なら、音楽に関して時間を取られる事を嫌がったりしないと思うわ」

 「そっか……そっか……!」

 

 チョッパーは嬉しそうに笑うと、納得したように頷く。その様子を見て、会話を聞いてただろうブルックに視線を向ければ頷いて貰えた。

 そのまま視線を動かせば、ロビンとブルックの調律が終わった事に気付いて、小さく頷く。短い歌だからって、私達に手を抜く気は無いのだ。

 時代が変わり、いつの頃からか一曲は五分弱を基準に作られるようになった。けれど、過去に名曲と言われた物は一分に満たない物も多くある。

 それを考えたら、短い曲を馬鹿にするような風潮はどうしても好きになれない。ただ、逆に考えたら最近の人達はある程度の長さを用意しないと、一曲として確立する物を作れなくなったのかも知れないとも思うけど。

 そうして考えれば、最近はCM用のオリジナルソングと言う物が無くなった。既存の曲を抜粋して使う事が増えたのが、証拠になりはしないだろうか。

 

 「ナミさん、大丈夫ですか?」

 

 ブルックの問い掛けに小さく頷く。それだけでロビンとブルックは姿勢を整えて、私も歌う為に意識して背筋を伸ばす。

 そうなれば後は私の言葉を合図に始まる。それが分かるから、ゆっくりと息を吸い込んで一泊置いてから声を出した。

 

 「『瀬戸の花嫁』」

 

 題名聞いた瞬間どこの花嫁だよ……。ってなるだろうけど、でも、この世界観なら誰でも当てはまる奇跡の歌。

 そう考えた時演奏が始まった。なので、息を吸い込んで、私はそっと声を、歌を音にして響かせ始めた。

 

 「ーーー」

 

 場所については分からなくても、分かる単語と情景が多い筈のこの曲。相手の特徴も示さずに嫁に行く事をダイレクトに伝えるのは、共感を呼ぶ効果が高いと思う。

 若さ故に心配されるのも、愛を免罪符に飛び出す描写が余計に双方の立場を際立たせる。この歌詞を考えた人は、天才だと思うのよ。

 

 「ーーー」

 

 この世界では、あまり見ない段々畑だけど、きっとイメージだけはできるだろう。蒟蒻とか、山葵なんかが段々畑を必要としてたんだったかしら……と、記憶を辿るけど、歌ってる途中だからかちゃんとは思い出せない。

 泣く幼い弟に言い聞かせる言葉が、何だか私には強く共感できてしまって、気を付けないと泣いてしまいそう。私が誰の元に嫁ぐつもりなのかと、焦った顔をするの三人が見えるけど、その答えは教えてあげない。

 間奏が入る。全体的にゆっくり目だから、それ程長いものでは無いけど。

 

 「ーーー」

 

 岬を小さな船がまわる事を歌う歌詞に、私の意識は開放された直後の旅立ちに戻る。メリーは、海賊船としてみたら相当小さな物だったわね。

 私の産まれた島がどこなのか、正確には分からない。でも、育った島である事は間違いないし、大切な人達が住んでる故郷なの。

 港から手を振ってくれた皆は、悪戯をした私に怒ったけど……でも、いつでも帰って来いと言ってくれた。普通に別れを告げていたら、きっと泣いてしまっていたわ。

 

 「ーーー」

 

 島から島へとログを辿り渡って行く。仲間達と、これからを生きて行くと決めたから。

 夕焼けを見れば、明日の天気がわかる。……それは、海の上では難しいけど……不可能じゃない。

 それでも、あの日の晴れた空は私の出航を祝ってくれていたと信じてるの。だけど今は……。

 歌が終われば、それの余韻を響かせるかのようにラストの演奏が続く。でも、明らかにいつもよりは短いこの曲に前情報の無かった面々は驚きを隠せない。

 曲が終わると、私とロビン、そしてブルックは揃って頭を下げた。その後に顔を上げると近付こうとする三人をロビンが能力で押さえて、チョッパーが私を回収するように部屋に移動させてしまう。

 そうしてチョッパーの診察室に隔離された私は、そのまま休むように言われて寝かしつけられてしまった。歌が意味深過ぎて動揺してた三人に答え合わせをさせない事が、皆が決めたお仕置なのかも知れない。

 私としては、少し悪戯を兼ねたお灸を据える行為でしか無かったのだけど。……でも、少しくらい焦って困って、不安になったらいいのよ……なんて、そんな汚い事を思ってしまっていたのも事実。

 海が荒れない限りは休んでいるように言われた私が、ゆっくりと休んでいる間……ルフィ達が珍しく本気で、天候が荒れる事を祈っていたのはある意味当然の事。けれどもその事に私が気付ける筈は無かったし、気付いても天候を変えるなんて容易くはできないのだから、どうにもならなかったのだ。

 珍しくシャワーさえ浴びずに寝てしまった私は、翌朝目覚めると同時にチョッパーへとシャワーを浴びて平気かを確認した。私の中にある常識が、病人はシャワーやお風呂を禁止していたから。

 でも、チョッパーに確認したら寧ろ推奨されてしまった。理解に苦しむ私に、チョッパーはなるほど……と一人で納得してから説明を開始してくれる。

 

 「怪我してる時は、湯船はやめて欲しいけど……寧ろシャワーは浴びて欲しいのが本音だ」

 「そうなの?」

 「湯船って、じつは結構汚いんだよ。勿論、怪我とかしてない人にはいい物なんだけどさ、怪我してると自分の身体から落ちた汗とかに含まれる細菌も毒素のひとつになるから」

 

 その言葉でシャワーは流れてるから、停滞しない為に清潔さを保てるのだと気付く。だとしたら怪我してる時はシャワーのみ可能だとわかるけど、病気の人は結局……と思った。

 でもその時にチョッパーが、私の様子から説明を引き続けてくれた。それは、私の常識を大きく覆すもの。

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