いっそ、爪跡から流血してしまえばいい。いつも傷付けられてるんだから、それ位は許される筈よ。
そう思って意識して思いっきり爪を立てたら、シャンクスが笑った。それも、心底嬉しそうに。
それに疑問をぶつけようとしたら、突然動きが変わり快楽の激しさに全身がゾワゾワする。そんな状態で悪態としか思えない声を出せば、それは妙に艶めいている気がした。
「……マゾなの?」
「そうかもな。ナミになら、傷付けられるのも嬉しいもんだ」
一瞬声を失った。だって、何を言われたのか分からないもの。
なんで喜んでるのよ。おかしいでしょ。
「いつも、ナミは傷付けまいと気を使ってる。それは敵にさえな」
そう言って笑うその顔が、海賊の男で……その顔に惹かれてしまう己が恨めしい。こんな時に私は、どうしたってシャンクスを嫌えないのだと思い知らされる。
そんな悲しみを向ける先が、シャンクスしかない現実の苦しさ。それをわかっていて、シャンクスはその唇を私の耳元に近付けた。
「そんなナミが、俺は傷付ける。その意味を俺は、正しく理解してるつもりだ」
「意味って……?」
自分でも分かってないのに、何がわかると言うのか。怒りが伝わったと言うなら分かる。
でも、違うだろうと思うのよ。だって、シャンクスは勝ち誇るような強気の声で甘いバリトンを響かせてるから。
「俺には何をしても嫌われないと言う〝信頼〟と〝甘え〟が俺に傷を付ける根源がある。それと……俺は、傷付けても死なないと信じてくれてる。つまり、安全な相手として見てるって事だろ」
否定も肯定もできなくて、呼吸さえ忘れてしまう。硬直する私に、シャンクスはそのままでいろと命じるのと同時に腰を動かし始めた。
思わず腰が引けてしまうけど、それを許してくれる筈もなくて腕を掴まれたと思ったら引き寄せられて、いつの間にか座ってるシャンクスの上に私が乗ってる形にされていた。隙間無く密着してるそこが、痛みを与えてくれたら良いのに……。
「くる……しっ……」
「……煽んなよ」
そんなつもりないのに、何処が煽ってたのかと思いながら上にいるのは私なのに見上げなきゃならないその顔を覗き込む。その瞬間中で膨張されて、ひゅっと変な音のような声が出た。
シャンクスはルフィと違ってゴムじゃないのに、なんでこんなに膨張するのよ。おかしいでしょと半泣きでシャンクスを睨んだら、何故か天を仰ぐようにして掌で自分の目を覆う。
「……シャンクス?」
やめてくれるのかな。疲れたのか、目が痛いのか。
どちらにしても休んで貰いたい。そうしたら私は、不自然さも無く宴に戻れるし。
皆の大切な船長を、体調不良のままにはしたくないもの。気安い仲というのは、興味が無いとか大切じゃない相手とは違うから。
皆、心配してる。大切に思ってるのよ。
「俺は、基本的に後悔しないように生きてきた。やり直せても同じ道を選ぶような、そんな生き方だ」
「うん?」
突然どうしたのか。シャンクスは休むのでは無いのかな。
首を傾げたくなるのを耐えて頷く。でも、シャンクスはそれに気付かないままに言葉を続ける。
「だが……やり直せるなら、子供だったナミを抱いておけば良かったと思う」
「は……?」
「そうしたら、他の男に襲われてもこんなに名器にはなってなかっただろうし、他の野郎共に先をこされる事もなかった」
「シャンクス?」
本気だろうか。冗談を言うにはタイミングおかしいものね。
でも、それ以前におかしい。熱でもあるんじゃないかと疑いたくなるレベルで。
「初めての船長も、初恋も、処女も、全て俺であれば……もっとナミの中に俺を刻みやすかったんじゃねェのかと思っちまう」
「当時はどう足掻いても、挿れられなかったと思うのよ、シャンクスの……大きいし……」
大人になった今でも、苦しいのにそんなの子供の時に入る訳が無い。身体もできてなかったから、普通に死んでたんじゃないかな。
そんな事を考えていたら、何故かシャンクスは呻くように、いい加減にしろよ……と言った。それに首を傾げる余裕は与えられないままに、突然の抽挿。
奥をトントンと打つような刺激があるという事は、入口付近はズコバコとなっている訳で、何かを考える余裕なんて残される訳もない。
中に埋め込まれた男根の笠が、抜き差しされる度に弱い所が刺激されてイヤイヤと首を横に振りつつ声を殺すのが精一杯。入り口に挿入されていない陰嚢がぶつかり、叩かれているような状態に陥れば、痛みとは呼べない程度の刺激となり腰が引ける。
それを許してくれないシャンクスは、太腿を強く掴むと自らに引き寄せて強制的に己の身体を巻き付けるように私の足を動かすから、陰嚢で叩かれない代わりに擦られる事となる。それにより声を抑える為に唇を噛んだ瞬間に、身体に体重がかけられ二つ折りにされるのではないかと言う勢いで折り曲げられてしまう。
それにより酸素を求めて口を開けば、そこにシャンクスの舌が入り込んで来た。歯列を割って素早く忍び込んで来た強引な舌に、口蓋の奥や舌の裏、感じやすい所をくまなく探られる。
「ナミ本人でも、ナミを傷付ける事はゆるさねェ」
いきなり憤慨した男が、まるでお仕置きだと言わんばかりに、更に濃厚な口付けを仕掛けてくる。唇を甘噛みされ、舌を痛い程に吸い上げられ、絡まった唾液の芳醇な味わいに想いの強さを感じて、はしたなくもときめいてしまう。
男がベッドで囁く愛の言葉ほど信じるに値しない事は無い。そんなの分かってるのに、信じたくなってしまうのは、注がれている視線と語られる言葉が、気恥ずかしくなる程に甘ったるいからかもしれない。
私を穴としか見てないんじゃないかと疑いたくなる事も多いのに、幾度も期待しては傷付けられてきたのに、愚かにも信じたくなるのは刷り込みか。それとも私が、ただの馬鹿なのかな。
人と人とを分かつ透明な壁をものともせず、無理矢理にでも関わろうとする人間がいる事を、この世界に生まれ直すまで知りもしなかった。他愛ない関係性から、互いを想い合うが故に傷付けて、それでも好きで守ろうとして……全てを喪った私達には、シャンクスやルフィのそれは眩し過ぎて熱すぎる。
理解できなくても惹かれる事はあるのだと、分からないからこそ憧れるのだと、そんな事も理解できないまま、独りを満喫して勝手に朽ちる運命だったのかも知れない。どれ程海賊が卑劣で、狡くても、守りたい人達がいるから、だから我慢して共に居ようと決意したのに……奪われてしまった心。
想像してたよりも、ずっと暖かくて優しくて……だからこそ残酷な男。乱暴に扱い、時に壊されそうになったのに、それでも嫌えない程に私の心を捕らえて離さない。
「ナミは敏感だ。それは間違いないが……男が気持ちよくさせたいと思わなけりゃ、苦しくて痛いばかりになり、ズタズタになって気持ち悪さと痛みに泣く事になるのも間違いようのない事実なんだぜ」
「……え?」
前にも、誰かに言われた気がする。そうだ、最高級の男達の間で揺れるのは、既に当然で浮気者な訳じゃないって。
あれは確か、そうよ。やはりシャンクスの船で……まさか、あの時の会話を知っているのかな。
「ナミは、良い男以外にその肌を許していない。力づくでで敵わないのもあるが……ナミに惚れて求めているのは、どれを見ても最高級の男だろ。……惚れた相手に尽くせないなら、俺達が最高級とは呼ばれる事なんざねェ」
「自惚れ屋」
「海賊が自分を信じられないでやってられるか。……特に、船長は全員の生命抱えてんだ。自信なくてやれる訳ねェだろ」
目眩がする程の熱さに、ひゅっと喉が鳴り、胸が騒ぐ。私の様子からか、そっと体勢を楽なものに変えてくれて、優しく笑うシャンクスは、子供の頃信じて憧れた強い師匠のもの。
師匠や親は超えるものとよく言うけど、私には越えられない。手を伸ばす事さえ難しい、太陽のような男達。
見詰めて、求めて、向日葵がその方向に向かって咲きながらも自分から太陽に触れられないように……私もまた、その熱に翻弄されるばかり。それでも……離れられないのだ。
「……私、物好きなんだわ。可笑しいわよね。ゲテモノとか嫌いなのに」
「ゲテモノとは失礼だな。ふむ……なるほど。どうやらナミは……お仕置、されたいらしい」
くくっと低く笑う声。けれども優しさに満ちた、甘いその声。
そんな声に意識を奪われてる間に、堅く怒張した欲望がギリギリまで引き抜かれ、喪失感に身体が跳ねる。それを分かっていて、シャンクスは私を静かに見下ろしてから、小さく単語を放つ。
「愛してる」
その言葉が嘘でも嬉しいと思ってしまった。これが裏切りでなくなんだと言うのか。
私は、ルフィを幾度裏切ったら気が済むのだろう。幾度、傷付けたら……。
「だから、壊してでも俺の所に連れ戻してみせる」
「いやよっ!私は……っ!ルフィのものだから」
咄嗟に拒否したのに、シャンクスは笑う。でも、誤魔化しも逃げも許さないという空気が感じ取れる。
私は、ルフィのものなのに。ずっと、そう言い続けてるのに、どうしても認めてくれない。
なのに……嫌えない。紡がれる言葉から耳も心も背けられなくて、何も言葉が言えなくなる。
「俺しか考えられなくしてやるから、安心して……喘いでろ」
横暴で、横柄。傲慢で、強欲。
でも、それが海賊。私の愛してやまない存在。
……今なら、あの日ウタがその題名を曲につけた理由がわかる気がした。愛してやまない人達を思い描いて作ったのだと分かってしまう。
それを理解したところで、何か変わるのかと問われたら答えはNOだけど。それでも……肉を割くように動き出したそれを許してしまえるの。
ずんっと、息さえ止まる程に強く内臓を突き上げられれば、その衝撃は脳髄まで貫き、瞼の裏が真っ白に明滅して、意識さえ飛びそうになる。でもそれは、一瞬の事。
すぐに身を穿つ圧倒的な質感と共に、凄まじい官能が目覚めさせられる。ギリっと窄まった粘膜が、悦びを与えてくれる剛直を逃すまいと、嬉々として絡まって行く。
私の意志も感情もお構い無しに。けれども、身体が疲れるのも疲弊するのも、私だけでは無いらしい。
その証拠に眉根を寄せたシャンクスの顎から零れ落ちた汗が、ポタリと私の頬に落ちる。身勝手に蠢く内部の、あまりに淫らな飯能に恥じ入る余裕もなく、覆いかぶさっているシャンクスの背に取りすがった。
傷付ける為ではなく、縋る為に。そうなった時、日に焼けた皮膚の下、柔軟な筋肉が緊張と弛緩を繰り返しながら身体いっぱいで私の中を抉ってる様が伝わって来る。
必死な表情を間近に見て、胸が妖しく騒ぎ、知らずに嗚咽がこぼれていく。男の股間は別物だなんて言うけど、それも嘘だわ。
血管の密集した性感帯に与えられる肉の摩擦だけで、こんなにも凄まじい愉悦が生み出せる訳も無い。両腕で私の身体を捕らえ、背をしならせ、腰を絞り、緊張しきった太腿とそれに続く逞しい足で全身を支えて初めて、戦後の激しい動きを可能にしているのだもの。
厚い胸を荒っぽく波立たせ、強靭な腰を縦横無尽に振り回し、高みを目指す為の抽挿が始まる。激しい律動に翻弄され、あられもなく喘ぎながら、私は湧き上がる甘い疼きの中に溶けていく。
「……宴に戻れる体力を、残してやれなかったらすまん」
「や……ぁ……しゃんっく……す、の……うそつき……」
「だから、謝ったろ」
謝ってるのは言葉というか、既に口先ですらない舌先だけのもの。それをわかっていながら、抵抗さえできない。
抵抗しようと暴れた結果荒い呼吸を繰り返す私に、熱い舌が下りてくる。顎から首筋、そして乳首へ。
まるで飢餓に襲われた野獣のように、食らいついてくるシャンクスの赤い髪に夢中で指を絡めながら、私は抑える事も忘れて艷めくばかりの嬌声を放つ。SEXの最中での否定は、全身全霊の抵抗でさえYESの意味に捉えられやすい事は分かってるのに、これでは望んでるように取られるだろう。
ここで私が大声を出せば、きっと誰かが助けに来てくれる。でもそれは、私のあられもない姿を晒す事に繋がるのだ。
それを恐れて、結局シャンクスの欲望を受け入れてる時点で、私はシャンクスと同罪なのだろう。分かるからこそ、酷くして欲しい。
快楽なんて与えないで、痛みだけを与えて欲しい。罰を、許されざる罪に対する贖罪を。
「あっ……シャンクス……おねが……」
「ん?」
「酷く、して……」
縋るように告げた言葉。動きを止めたシャンクスは、確かに頷いた。
なのに、どうしてこんなにも伝わらないのか。どうして、こんなにも私を違った意味で苦しめるの?
「……わかった、悦くして、イキ狂わせてやる」
「ちがぁっ……んんっ!!そこ、やらぁっ!!」
滴る汗の匂い。掌の感触。
唇の甘さと、意外にも強靭な舌の動き。その全てが、ルフィとは異なるのに……感じてしまう。
これら全てのものに支配され、力づくでは適わないからと言い訳して、与えられる快楽に溺れていた。自分からは何もしてないから許される……なんて、ある筈もないのに。
被害者を装って、抱かれる事を楽しんでなかったと……私は本当に言えるのかな。そう思ったら、涙が自然と零れ落ちた。
男の色香をたっぷり放ちながら、傲慢に私の中に居座るシャンクス。この男は、私とは違い過ぎる。
眩し過ぎて、熱すぎて……悲しい。悔しさを感じる余裕さえ私には無いの。
「ナミ、今は何も考えず……俺に愛されてろ」
私の悲しみと戸惑いを感じ取り、優しい声で言う。覚束無い頭を振って、両腕で太い首に縋り着けば……これはもう、同意した以外の何だと言うのだろうか。
だって、本当は分かってる。もしも私がシャンクスを選べば、シャンクスはこの世の全てからありとあらゆる手段で護ってくれると言う事を。
そして、シャンクスは私を本当の意味では傷つけられない。そんな事を理解して、甘えて、縋っているのは寧ろきっと、私の方なのだわ。
そう思ったのを最後に、私の意識は甘く溶けて行く。響き渡る嬌声を仲間達が聞いていたかは……私には、分からない。