お鍋を皆でつつきながら、私達は本題に入った。正確には、ローちゃんが入ったのだけど。
そして、それには猛反対するだろうと思った錦えもんが納得した様子を見せて、反応の読めなかった筆使いが反対した。その時の様子が少しでは無くおかしかったので、彼がまるでモモちゃんに仕えてる感じがしてしまう程。
それに対して叱って止めた錦えもんとは気安い様子から、成程……と、内心で納得してしまった。錦えもんは、モモちゃんの父親では無いのだ、と……わかってしまう。
その瞬間、ゾクッとしたものが全身を駆け抜ける。だとするならば、彼等は、何を抱えているの……?
ビビは、一人で身分を隠して戦っていた。そう考えるなら、モモちゃんが身分を隠しているのは不自然でもないけど……部下が二人いて、その二人から離れる事を是とするのかよね。
……モモちゃんが身分を隠しているとして、それはどうして?臆病な子供でしかない事を考えて、更に追われてる事を考えると……権力争い?
でも、それで物語の主人公であるルフィが巻き込まれるか……と考えた時、部下を連れて飛び出した理由はと考えるしかなくなった。だって……部下が複数人来ているのに、幼いモモちゃんの実の父親や母親が傍に居ないなんて普通なら考えられないもの。
親は今回敵となるだろう相手に囚われているのか、それとも……病で動けないのか。……考えたくないけど、敵に殺されてるのかも。
麦藁の一味は、親と縁のない人達の集まりで……だからこそ、不安になる。生きていても着いて来られていない様子から戦えるとは思えないし、死んでいるなら……その仇とモモちゃんが戦う必要があるわよね。
そうなると……今回ドフィを倒す為にローちゃんは手を組んだけど、ドフィの上と言うか、その奥にいるのは四皇〝カイドウ〟だわ。そうなると、今回モモちゃんがここにいる理由は、カイドウなのかもしれない。
でも同時に、その敵が〝ビッグマム〟の可能性も捨て切れない。モモちゃんがいる状態で、ビッグマム海賊団と遭遇してるのだもの。
でも、筆使いがドフィに捕らわれていた事を考えれば、ドフィとの契約が顕著なカイドウが怪しい。では何故、ビッグマムがこんなにも話に絡んできてるのかな。
んー……あれ?そう言えば……。
「ローちゃん、ゴミ……じゃなくて、人間のクズって、そう言えば何処にいるの?」
「その辺の話もしたい所だな。……今夜、少し時間を作ってくれ」
「分かったわ」
そのまま私が思考の渦に飲まれていると、ローちゃんがモモちゃんだけを私達と共に先に行かせる事で話を付けてくれていた。その流れで私達は明日には出航すべきとの事になり、今夜はモモちゃん達が三人で過ごせるようにしようと話が纏まれば、アクアリウムがその過ごす場所として提供されたのはある意味当然。
チョッパーは男部屋では無く、診察室で寝る予定らしい。これはロシーの為と見て間違いないわね。
サンジ君は残るメンバーの為の食事と、持っていく為の食材の下準備をするようで、終わってから男部屋で休むと言っている。ブルックはサニー全体にその音楽が響くようにと、見張り室で演奏会をしてくれると言い、それもまたいつまでも続けるのではなく、皆さんが休まれた頃には止めて寝ますよと穏やかに語った。
そんな訳で各自が行動に移し、私はお風呂に向かう。すると浴槽に沈まないようにか、紐で括り付けられた状態で付け込まれてるクズを発見してしまい溜め息が落ちる。
確かにこれは伝えておいて欲しかったわ。いつの間にこんな処置をしたのかとか、サニーが無い間はどうしてたんだろうと少し思う。
「ねぇ、何してんの?私の入浴を覗きたいなら……高いわよ?」
「そんな訳あるかっ!!……なァ頼むから飯と、まともな環境を「アンタ、子供達に何したか分かってんの?逆の立場になったら甘えるって……どういう事?」」
冷たく視線と声を向ければ流石に黙ったけど……サンジ君なら食事くらい用意してくれるんだろうなと思う。恐らく、今も見聞色の覇気でこの会話を聞いて用意してるだろうと分かるから、脱衣所に置いてある海楼石の腕輪を装着させて風呂から引き上げると、クズを踏み付けつつ水を抜いて掃除道具置場からブラシを取り投げ渡す。
「なんだ、これ?」
「掃除道具よ。……働かざるもの食うべからず。やり方は教えるから掃除してよね」
私の言葉に文句を言いつつも動き出したので、私はその作業の指示を出しつつお風呂関係の在庫チェックをしていく。蜜柑の香りがする化粧水が減ってるのと、ボディマッサージ用のスクラブが底をつきそうだと気付けばその場で調合を開始する。
ニキビに強く返金保証をつけてる某洗顔フォームも、このスクラブ成分が多く含まれている。ただコレは、それとは違って洗う為ではなく浮腫を取りつつ毛穴の汚れを取って埋もれ毛等を改善する為のものだけど……これの素晴らしさをわかってくれたのはこの船の歴代女性陣と、巫女様位なもの。
ウタはこれを必要とする年齢になる前に、私と別れてしまったものね。……そう思ったら、少し泣きそうになったけど、その瞬間にこれでいいかと声をかけられれば舌打ちと共に顔を上げたのは不可抗力。
小姑のように嫌味ったらしくクズを見ていたけど、私の作った洗剤の効果は高くてお風呂場は文句を言えないくらい大変綺麗である。それにより溜め息を落として、下に居るだろうサンジ君に連絡を入れた。
「サンジ君、いるー?」
「[居ますよ。今そちらに伺いますのでお待ちください!]」
その声が聞こえなくなるのと同時に現れたサンジ君が、ガスを引き摺って去って行く。綺麗になったお風呂にお湯を溜めつつ着替え等を取りに女部屋へ戻れば、何だか妙に懐かしく感じてしまう。
シャンクス達と会ってから全然帰れてなかったのだと気付けば、苦笑のひとつも出ようというもの。蜜柑の香りのする入浴剤を入れて、泡がモコモコしてる所に入って気持ちを切り替えようと心に誓って寝間着を選ぶ。
ロビンとお揃いにしようと笑って、魚人島で貰って来たTシャツとハーフパンツは、動きやすい上にウタが好みそうな物。……今度、手紙と一緒に送ってあげようかな。
ウタは自分で選ぶとなんと言うか……独創的な感性の服を着る。有り体に言えばダサくなるので、コーディネートは我々の仕事だったのだけど、あれは間違いなくシャンクスの影響だと思ってるので時折蹴りを入れたくなるのだ。
「……パッパグに手紙書いて、そっちから送って貰おうかな。その方が色々最新の物もあるわよね」
最近は魚人島への手紙も送れるようになった。だから、そういう事も可能な筈である。
着替えを揃えて立ち上がると、蜜柑畑を経由してお風呂場に向かう。お湯が溜まるまでの間、少しでも様子を見ておきたいもの。
そうして見てみると葉っぱがしおれたり、落葉したり、変形するといった被害が出ているのに気付いてしまった。これは……ミカンハモグリガの仕業ね。
ミカンハモグリガはその名の通り、幼虫が葉に潜り、葉肉を食べるのよね。葉っぱなんて大した事ないって思ってる人も多いけど、物凄く重要なのよ。
その為に、葉の食害が酷くなると、植物自体が衰弱してしまうの。食べられたところから潰瘍病といわれる病気の細菌が入りやすくなるので、簡単に考えてはダメなんだけど……こいつは食害すると不規則に蛇行した線の模様ができる事から〝絵描き虫〟の異名がある。
そんな訳で、食べられた痕跡のある葉をプチプチと取っていく。これにより風の通りも良くなるし……他に被害を広げない為にも仕方ないのよ。
と、思いつつも悲しい。ウソップの殺虫剤効果のおかげか、他の害虫は見当たらないので本当に感謝である。
一通りの作業を終えてお風呂場に向かえば、お湯は良い感じで溜まっていた。それに一人で満足して頷いてから、入浴剤を投入して脱衣所に戻ると服を脱いで行く。
ルフィ達が揃ってる時ならもう少し騒がしいのに……と思うけど、同時にゆっくりできる事を感謝してお風呂場に向かう。全員が揃ってたら、問題が起き続けるからゆっくりお風呂に入るなんてできないもの。
シャワー代わりにいつものようにシャワーテンポを使うのは、水の大切さを痛感してるから。そして何より水は普通に使えるけど、この船の動力はコーラだから燃料を補充できなくなったら困ると言うのが大きい。
予備のコーラはそれ程多くは積み込めないから、大切に使わないとね。人が居て、ある程度安定した生活のできている地域じゃないとコーラの補充はできないから、燃料を守る為にもこれは必要な措置。
久しぶりにのんびりと全て揃った状態のお風呂を満喫すれば、時間は恐ろしい位に経過していた。やはり真面目にお風呂に入ると2、3時間はかかってしまうものよね。
お風呂から出て女部屋に戻るのと同時に、部屋の中で当然のようにベッドに腰掛けて読書する人を見付けて……そうだったと思い出す。話があるって言ってたわね。
「待たせちゃったかしら?」
「女の風呂が長いのは仕方ねェとは思うが、無駄が多すぎるんじゃねェか?」
「女の子は、やるべき事が多いのよ。顔の髭だけ剃れば良い男と一緒にしないで」
「……その言い分も、わかるがな。さて、本編に入りたい」
そう言いつつローちゃんは私に本を差し出すから、それを受け取り本棚に片付けつつ頷く。話の内容は、今後の進路や予定についてだろうと察しはつくから。
私のそれは当たっていたようで、ローちゃんはチョッパーにロシーの対処法を伝えてある事を伝えると、それに関する資料を私に押し付けるように渡して来る。それに目を通せば、今回の毒に関しての他にもそれより弱い毒素ならこれで治療できる事や、応急処置はできると書かれていて、元となった薬も成分表があるから後でウソップやチョッパーは勿論、フランキーとロビンの知識と知恵を借りれば何とか近い物は作れるかもと思い至った。
そうなれば目が輝くのは当然。ローちゃんはちゃんとした医者だから、元の情報としての信頼性も高い。
「貰っていいの?」
「ああ、これは宝玉が持っていて形にした後発表すべきだろう。宝玉の出す物なら、その分野に興味がある人間なら誰でも買い求める。……そうなれば、助かる生命も増えるだろう」
その言葉は、私の動きと呼吸を止めるのに十分過ぎる理由となった。だって、今までずっと有益な情報だからとか、別な世界で売れてた作品だからって理由で安易に考えて販売してただけだったから。
言われてみれば、売れているという事は、誰かに求められているという事。喜び、楽しみにしてくれてる人や、必要としてくれてる人がいると言う事になる。
ただ、お金のためにってだけ考えてやってきたけど、今はもうそれだけでは無い存在なのだと……今になって実感させられた気がした。曲も、歌も、それは私の作った物じゃないから……小説も、知識の本も、全てが私の作品とは呼べないから……。
だから、どこか他人事だったんだわ。でも、それを世に出し続けていると言う事は、その作品を待つ人達にとって大切な存在であり、価値があると言う事になるのに。
私は……自覚を持たなければならない。自らやると決めて、その事を誰にも教えずに墓まで持って行くと決めたからには、その責任も共に背負う必要があるんだわ。
私はナミちゃんの人生を横取りしただけではなく、多くの天才や著名人、努力と才能の結晶を奪い……ここにいるのだと。自覚して、それでも尚手放せない〝宝玉〟の名を……無責任に扱う事はもう、許されない。
「そうね……。私は、もう、逃げないわ」
「ん?」
「責任からも、重圧からも、そして、影響力からも……逃げず、目を逸らさず、抱えて歩く。それが、私が〝宝玉〟の名を名乗る条件だわ」
覇気が、溢れ出ているのがわかる。……そう、か。
私は、この世界で王となる者だったのね。私は
原作のナミちゃんは地図、そして海図を描き、そして……世界地図を作り本来ならば世界に名を残すのだろう。その天才の力と、編纂する能力は私だとしても、多くの人達の知識を纏めただけの物、そして……盗作であれこの世界に無い作品を書き、形とする。
この世界にはない戦い方をするのもまた、影響している。だからこそ、なんの王であろうとしていたのかが分からなかったんだ。
分からないが故に、制御できなかった覇王色の覇気。それが、今では出し入れもその量も、自分の意思で制御できる事に気付いてしまう。
「世界から狙われる意味……それが、この覇気を持った理由だったのね」
「……わかったなら、それ、少し抑えてくれないか?」
聞こえて来た声にはっとして覇気を抑え込めば、脂汗を滲ませたローちゃんが苦しそうにしているのに気付いてしまう。慌ててチョッパーとサンジ君を呼ぼうと立ち上がった時、手首を掴まれた。