※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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思考の海

 私は基本的に肩を露出するような服を着ている。そして、短剣を装着する為に深くスリットの入ったロングスカートをはいて、何かを上から1枚羽織るようにしている。

 上着を脱げばそれだけで家族のマークが姿を出すし、この見た目は武器になるから体の曲線を隠している事はマイナスになる。腰に鉄笛と鉄扇を装着する為のベルトを巻いて、そこにそれらを装着した上から流星錘(りゅうせいすい)を巻き付けている。

 胸元にはクリマタクトをしまっているけど、さしておかしくは……。あ、普通武器を装着してないから同じような服装の人が居ないって事か!

 納得して説明しようと口を開きかけた時、ルフィが言葉を続けた。その表情が妙に優しくて、私はそれもあって少しでは無く惚けたような感じになってしまう。

 

 「それにナミは戦い方も少し変わってるよな。なんて言うか、ひらひらしてて……そう、ハナビラが散ってる感じに似てる」

 「へ?」

 

 妙な声が出た。なに、その、花弁が散ってるみたいな戦い方って。

 首を傾げている私を見兼ねたのかロビンがクスクスと笑いながら口を挟んで来た。その笑顔に、少しホッとするのは何故だろう。

 

 「航海士さんは舞うように戦っている。船長さんはそう言いたいのかしら?」

 「舞うように……私が?」

 

 言われてから考える。そうして思い出すのは幼い頃に、修行を付けてもらってた時の言葉。

 ベルメールさんは水が流れるような綺麗な動きをするから、次の行動が読める気がするのよねと言って、でも……実際は風に舞う花弁のように、掴もうとしてもヒラリと躱されちゃうんだから分からないわねと言っていた。実際花弁や木の葉が降ってくるのを掴もうと腕を伸ばしても、腕を動かした事で生じる空気の流れが、それを逃がしてしまう。

 それを許さないような細い剣……フェンシング等であればまだ、捉える事も可能かも知れないけれど、剣や刀でさえ難しく、木刀や竹刀、棍棒等では捉える事はほぼ不可能。それにも関わらず、逆らわずに、追い掛けずにいれば花弁も木の葉も自ずと上に落ちてくる。

 落ちてきたそれを受け止めれば、ずっと傍に置いておく事も可能だけど、手を伸ばせば逃げてしまう。それと似た動き……か。

 シャンクス達も、そう言えば舞っているようだと良く言っていた。戦いながら、刃を合わせながら相手の呼吸を知れば、確かに私も舞っている時と同じ様な感覚に陥る事があったけれど……。

 闇雲に剣を振るっても、得られるものは無く、剣を振らなければ、総てを喪ってしまう。だから、流れに逆らわずに受け流すような戦い方が、私は得意だったのだと思い出して、それは同時に舞は武に通ず(ぶハぶニつうズ)と言う言葉そのままだと気付く。

 成程、今の私になる前に舞いをしていた事が、そんな戦い方の基礎になっていたのか。過去の自分に思いを馳せかけて、今はもう関係無いのだからとそれを振り切るように思考を此方に戻す。

 私を抱き締めているルフィの腕が、妙に心地好い。でも、薬の効果が抜けてないから……お風呂で水を浴びる訳にいかなかったし、今回の薬の効果はその程度では抜けない為に……火照る身体を持て余してる身としては、早く離れて欲しい。

 少し身動ぐだけで、妙な声を出しそうになる事が怖い。ルフィに、変に気遣われたくも無いし、そんなのは恥ずかしいし……。

 なのにルフィは腕の力を強めて、顔まで近付けて来るからどうしたら良いのか分からなくなる。離れて欲しい、離さないで欲しい、2つの矛盾する想いが私に何も行動を許さなくする。

 

 「おい、ナミ大丈夫か?」

 「……大丈夫よ。少し、離れて。恥ずかしいから」

 「……寂しそうな顔で、んな事言われてもよ」

 「……っ!?」

 

 声が、言葉にならない。私今、寂しそうな顔なんてしてるの!?

 自分が情けなくて泣きたくなるけど、そんな場合でも無くて……思わず俯くと、ルフィが私の頭に手を置いて身体に顔を付けさせる。そして、誰にも私を見せまいとするように帽子を被せてくるから、余程酷い顔をしてるらしいと知る。

 

 「ナミは、強がりで臆病だからなァ……。ちゃんと、護るからあんま離れんなよ。戦えるのも、分かってるけど基本的に甘いから、結局ナミが傷付く」

 「ルフィ……?」

 「ナミが傷付かねェなら、笑っていてくれるなら、俺は結局の所多分何でもいいんだ。……その戦い方は気になるし、話してくれねェ事が多過ぎて不満もあるけどよ、そういうのも含めてどうせ〝俺達の為〟にとかってなんか考えてんだってのは知ってっから」

 「ルフィ……」

 「俺は、いつでもこうしてナミに触れていたい。そうしねェと、守りきれねェ……。俺、もっと強くなるから、遠くに行くなよ」

 「ルフィ、ありがとう。私はずっと……ルフィの傍に居たいわ」

 

 その時ふとウソップが帰ってきてない事に気付いて、顔を上げる。……嫌な、予感がするわ。

 

 「ルフィ!ウソップが落ちるかも!」

 「そういや、遅いな」

 

 ゾロがその言葉に同意するように頷けば、ルフィが大慌てで雲の中へとその手を伸ばした。それにロビンが迷う事無く協力してくれて、無事にウソップを助け出すと、それに巨大な生物もついてきていて大騒ぎとなる。

 そんなある意味で非日常的な、けれども麦藁の1味としてならば日常としか思えないような、そんな大騒ぎの光景の中に自分が混ざれている事実が少し不思議。それは何処か違和感もあるけれど、やはり胸の奥が暖かくなり嬉しいと感じる。

 だからこそ同時に、筆舌に尽くし難い程の罪悪感もある。本来この優しい空間にいるべきは、私では無かったのだと言う事を私は忘れる事が出来ないから。

 私が今のナミとして生まれ直す以前に読んだ本の中に、転生物はいくつもあった。ゲームの悪役令嬢に生まれ変わり、真っ当に生きて、ヒロインよりも先に攻略対象と出逢うことで悪役令嬢の筈が、ヒロインとなり逆ハーレムを作るような物が特に大変に多かった気がする。

 けれども現在生まれ直して見て思うのは、本来そこで生きる筈だった人の事は考えないのだろうかという事。本来ならば居た筈のその魂から、全てを奪っているのに何も感じないのかと言う事だったりする。

 確かに悪役ならば、その人のままに生きれば手痛い目に合う事になるから、頑張るのはわかる。でも、その悪役令嬢が楽しいと思えるような瞬間までをも含め、全て奪う権利があるのだろうか?

 特に私の場合、悪役令嬢なんかじゃなくて、ヒロインとしても人気の高い、明らかに〝いい子〟の部類に入る人の人生を奪ってる。それって、どうしたら償えるのかな。

 悪役令嬢だったり、その取り巻きだったり、途中で死ぬ筈だったりするキャラクターとして産まれて、精一杯生きる事そのものは正しいだろうと思う。けれど、好きなキャラクターに実際恋をしてヒロインがやる筈の行為を行い、ヒロインの立場に成り代わったとして……それって上手くいくのかな。

 ゲームや原作知識で得た仕草や台詞を真似てみても、全ての期間が描かれてる訳じゃないのだから、そのシーンだけ真似てみても……やらないよりはマシでも、効果ってあるのかなと思う。そのシーンには前後があって、心に響く言葉でもそれが必ずしも恋愛に発展するなんて思えない。

 台本通りに動いてみても、それって演技であって本心じゃないよね。上辺だけ取り繕って、中身は虚無で、そんなんで心を動かす事なんて……出来るのかな。

 だからこそ、ナミちゃんならば助けて貰えるとしても、私にそれが起きた時私が助けて貰えるなんて保証は無くて、仲間として認めて貰える保証も無くて……。不安はいつも私に付き纏う。

 輝く仲間達が笑ってくれる。それを見ていられるだけで私には考えられない程の幸福だし、それ以上を望んだらバチが当たるんじゃないのかなと心から思う。

 過去に生きていた頃、この世界について描かれている物を読み始めた当初は、ルフィ達の方が歳上だったと思う。そんな彼等が織り成す大冒険に憧れを持って、夢を貰いながら読んでいた。

 いつの間にか時は過ぎて、年齢が追い付いて、そして、追い抜いて……昔の私は死んで、今ここにナミとして存在している。ナミちゃんの代わりとして。

 それならば、ナミちゃんのした事以上にルフィ達の役立てなければ、ここにいる資格なんてないと思うのは、おかしいのかな。けれども、ナミちゃんがやっていた事以上に役立つ方法なんて思いつく事は無い。

 それどころかどうしても劣ってしまってる気がしてならない。ナミちゃんなら、こんなヘマしなかっただろうとか思う事も多いのは、どうして?

 描かれていたナミちゃんよりも私の方が明らかに戦闘能力は高い筈なのに、どうして私は……!

 そんな思考の海に沈んでいると、ウソップが叫び声を上げた。どうやら空魚が服の中に居たらしい。

 ……確か、空魚って美味しいのよね。なら、どうにかして少し捕まえたいわ。

 ルフィの為にも食料調達はしたいし、サンジ君も知らない空魚について色々試してみたいだろうと思う。魚ならばウソップも喜ぶし……網の点検して置かないと。

 あれ?でも……待って、ウソップの服から魚が出て来たって事は……?

 私は気持ちを引き締めて、襲って来る筈のそれに意識を集中させる。クリマタクトで作り出した雲は、それなりにある。

 強くクリマタクトを握りしめながら、違和感を抱かれないように皆の輪に入って、空魚を1緒に試食させて貰う。それがまた本当に美味しくて、我知らず驚きの声がもれる。

 これ、保存するのに何か特別な方法が必要かしら?

 特殊な魚だったりするのかしら?

 火を通す……煮込んでからなら長持ちさせられるとか何か……塩漬けとか、どうかな。下に帰ってからも食べられるようにしたいわ。

 空魚を睨むように見て色々考える。どうやら今日は、思考の海に沈みやすい日らしい。

 そんな時にチョッパーが騒ぎ出した事で、来たかと身構えつつ咄嗟にチョッパーを庇うように立つ。そんな私の行動に、ルフィ、ゾロ、サンジ君が臨戦態勢を取る。

 その直後、ゲリラの襲撃に合う。3人の攻撃を器用に躱して行くゲリラに、用意していた雲で雷を落とせば、小さくエネル?なんて呟かれたけど……違います。

 サイズも性別も何もかもが違うでしょうよと、心から思いながら私も可能な限り戦いに参加する事となる。……でも、確かこのゲリラって……と、海の中を探し続けるクリケットさんとは形は違っても、戦い続けていつか約束の為にと頑張るもう片側の、子孫だった筈だと思い出す。

 今はまだ、誰にも、何処にあるかさえ分からない〝約束の鐘〟を求める人達は、ここでこうして出揃った形となった。

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