ゲリラの襲撃に対応しながらも、ゲリラの言葉を聞き、それでも黙っているしか今は出来ない。流石に彼の過去を知ってるとか、彼が誰の子孫か知ってたら、それは私にある知識の、根本的なおかしさに気付かれてしまう。
話の流れを変えなくていい所は変えない方がいい。川の流れを無理にせき止めれば、その歪みが洪水を引き起こす事もあるように、何が起きても不思議ではなくなってしまう。
ルフィが傷付く可能性の高い行為は、したくない。私は、皆には無事でいて欲しいのよ。
口を噤んだまま、チョッパーを背にしてクリマタクトに電気を纏わせて攻撃してみるけど、ゲリラが素早過ぎて掠りもしない。やはり、ここ空島は動きにくい。
そこに救世主のように助けに来たのは1人の老人で……ヤダ素敵!可愛いお爺様!
そんな私にルフィがボソリと本当に歳上好きだよななんて呟いてたけど、聞こえないもん!
結局その老人と少し話をしてみたけど、情報らしきものは何も得られずに笛を残して去って行く。今回も無償で助けてくれた上に、その笛があればまた助けに来てくれると言うのだから、本当に優しいと思う。
そんな貴重な笛をルフィが吹こうとしているのに気付いて、私とチョッパーとウソップが協力してそれを止める。何をしようとしているのか!
笛に紐を付けてチョッパーの首にかけると何名かから苦情が出たけど、ひと睨みしたら収まりました。良かったわ、皆素直で。
そもそも苦情も、文句も、異論もあったとしても受け付けるつもりは無いのよ。特に!戦いが得意な4人には、笛に触れる権利さえない!
そう言えば4人は大人しく引き下がった。まぁ、ルフィだけはナミは弱くねェよなんてブツブツ言ってたけど。
その後もウソップだけは文句を言ってたけど、船医守らずにどうやって生き抜くつもりかと聞けば大人しくなった。チョッパーが可愛いから贔屓してるなんて事は、多大にあるけどそこは不可抗力よ。
チョッパーが嬉しそうに笛を見ていて、それが可愛いからそれで全ては丸く収まったと思ってる。無意識的にチョッパーの頭を撫でて、画面越しに見ていた何倍も可愛いチョッパーに癒される。
さて……と、これからどうしようかしらね。ノックアップストリームはここまでだから、ここから更に何かで突き上げて貰うなんて出来る筈も無いもの。
気付けば雲に乗れると喜んでるルフィがいて、それを見守りつつ網を下ろして空魚の捕獲に勤しむ。いや……冗談抜きで空魚欲しいのよ。
その時門が見えて来たとか言う声が聞こえて、同時に頭痛に襲われる。ここでかと思いつつ体を支えきれずに、揺らしていれば心配そうにサンジ君が支えてくれた。
「ナミさん、少し休んでください。……このままでは、壊れそうだ」
「へい、き……よ」
頭痛の中で思わず答えた私に、サンジ君は眉を顰めてロビンが気遣うようにサマーベッドを用意してくれた。
「航海士さん、甲板にいるなら少しは安心でしょう?少し休んで、ね?」
ロビンの言葉にサンジ君が従うように私を運ぶから、甲板に用意されたそれに私は体を預ける形となる。そんな私にタオルケットを掛けてくるロビンは、既にお母さんの立ち位置に居ると思う。
与えられる知識と言うか、戻って来る記憶と言うか、それらに翻弄されつつも、見えて来るそれらを余す事無く受け入れようと掌で自らの目を覆うようにすれば、すぐ近くにロビンが座ってるのを感じた。ルフィ達のはしゃぐ声が聞こえて、少し冷静になれる。
この先の展開の1部が分かり、チョッパーが背後から狙われる事にならない為にも、船内に隠しておくべきかなと考える。チョッパーもまた、素直で優しいから、戦いに向かない性格なのよね。
でも、正直な所今回の敵は大概が覇気を、それも見聞色を使える。隠した所で何処まで効果が見込めるか……。
それでも、少しでも違うならとチョッパーを守る為に動く事を決意する。でもその前にとロビンに頼んで便箋と封筒、インク等を持ってきてもらうとペンに手を伸ばす。
書き出しはいつもと同じ『拝啓』で、白髭海賊団と、赤髪海賊団、そしてベルメールさん達に宛てた物を書いていく。白髭海賊団にはエースを頼むと、ティーチに会ったと、そんな事を書いて行く。
赤髪海賊団には、現在ルフィと共に空島に来たのだと、楽しく世界地図を描く為の航海をしていると綴る。ベルメールさん達には、蜜柑は順調に育ち、新しい出逢があり本の執筆に事欠かないのだと記入する。
実際ビビのお兄様と話した関係で、池波先生をはじめとした作家の皆様の作品をほぼそのまま、けれども先にこの世界の人が読みやすいように用語説明を入れつつ、書き始めた時代小説もある。曲も童謡や遊び歌、民謡と幅広く出せるようになったのも大きい。
手紙を書いていてふと思い出すのは、昔海に捨ててしまった大切な手紙の事。あの時の判断としては、ああして良かったと思ってる。
あの判断は間違いじゃなかった。もし、アーロン達に見付かっていたら、何が起きていても不思議は無かっただろうから。
流石にベックに連絡するような事はしなかったと思いたいけど、もし愚かにもそんな事をしていたら……シャンクス達の邪魔になっていた可能性は高い。そう考えれば、致し方無かったと思うけど……やはり、時々思い出しては落ち込む。
随分とあの手紙には精神的に支えて貰ったし、今みたいに少し不安定な気持ちの時はあの手紙を読みたくなる。……甘えてばかりじゃ、笑われるか呆れられるわよね、しっかりしなきゃ。
そんな私を見ていたロビンが、時間はかかっても盗聴のリスクも無いし素敵な連絡手段ねと微笑んでくれたので意識が此方に戻って来る。それから、文通相手が大物過ぎて現実感無いわなんて嘯かれた。
こんなにも優しく穏やかに笑える人だったのねと思えば、ロビンを守りたいと思ってしまう。でも、私の知識のままに話が進めば、守られるのは寧ろ私達の方だわ。
ウォーターセブンで、メリーとの別れが待っていて、ロビンはそうとは知らずに私達と世界を天秤にかけて……私達を選ぶ。そうして、私達を生かす為に1人犠牲になろうとする。
その選択をしないで欲しいと願うけど、それが自分ならと考えればロビンの選択を責める事なんて私には出来ない。特にロビンはまだ仲間になったばかりで、居候のような気分が抜けてない事も理解してる。
今の私なら、皆に助けに来てと言ってメリーを傷つけない為にと先に乗り込んで、皆が助けに来てくれるのを待つだろうけど、ロビンにその選択をしろと言うのは無理な話よね。だって、考える時間だって特に与えられた訳じゃなかった筈だもの。
手紙を書くついでに航海日誌も書いて、いつの間にか用意されていたお茶を飲めばどうやらミントティーだったらしいと知る。呼吸を楽にしてくれるミントシリーズだけど、どうやら私のはアップルミントを使用してくれたらしく甘い香りがする。
「ロビンのも同じ?」
「私は目が覚めるような物を頼んだから、航海士さんとは違うと思うわよ。……1口飲んでみる?」
それにお礼を言って、差し出されたカップの中身を味見させてもらう。……ペパーミントか、確かに目が覚めそう。
ミントなんて格好良く呼んでみても、実際は薄荷の事であり、歯磨き粉とか、缶に入ってる飴の白いヤツでお馴染みの物である。その中で果物の名前がついてるのは、それと同じか近い香り、もしくは味がするものである証拠。
アップル、レモン、パイナップル等果物の種類もそれなりにある。今回ロビンが口にしてるペパーはワイシャツ同様に、日本人が聞き取れなくて短くなっただけのネーミングだ。
ワイシャツがホワイトシャツなように、ペパーミントはペッパーミント。即ち胡椒薄荷なので、後味が少しピリッとするのだ。
そんな話をロビンと交わしながら、私の方も味見して貰って互いに感想を言い合う。そのまま今上で語ったような内容を更に詳細にしたミントについての話になり、花が可愛いとかって話になればふと思い出す事もあって口を開く。
その内容は大した事ではなくて、ロビン達が森に行ってすぐにクリケットさん達に手伝って貰って、プランターを幾つか用意した事を話しただけ。それからその流れで、それでロビンも何か好きな花でも育てたらどうかといった内容の提案をすると、ロビンは驚いたような顔をした。
何か変な事を言ったかなと思ったら、ロビンは小さな声で呟いた。少し、切なそうに。
「私は、乗せてもらってるだけでしょ?」
「……乗せてもらってるだけの人が、クルーの1人に対してこんなにも心を砕いたりしないと思うけど?」
「航海士さん、貴方って……」
そう言ってロビンが言葉を止めるから、私はその先の言葉を急かさずに待つ。でも、そんな事とは知らないルフィが大騒ぎしながら戻って来るので、そんなに呑気にもしていられなくなってきた。
「門があったんだって!」
「ハイハイ、じゃぁそこまでの道案内して頂戴」
「おォ!」
本当にルフィはいつも楽しそうだとしみじみする。空の上に居る筈なのに、まだまだこの先に上があり空がある。
地球とはどうやら違う事も多そうねと思いながら、1度サマーベッドに体を預けたまま伸びをする。酸素濃度が薄くてつらかった多くのものに、いつの間にか対応してるナミちゃんの肉体に感心してしまう。
まだまだ体中が痛いし、感触が消えないし、薬の効果も残ってる。それでも今は、ルフィの航海士としてやるべき事をやらなければと、ゾロとサンジ君に号令を出しつつ立ち上がった。
ルフィ達は楽しそうに雲で遊んでいて、トランポリンのようになっているそれにやはり地球の感覚を捨てなければこの世界では生きられないのねと、痛感する。どうやれば水蒸気と埃の塊の上に乗れて、トランポリンになるのかなんて科学的な事を考えてはいけないのだ。
ルフィ達は遊びながら道案内と呼ぶのもどうかと言うような案内を繰り返してくるから、私はそれに合わせて皆に指示を出して船を動かしてもらう。その途中でロビンが航海日誌を片付けてくれたりして、比較的穏やかな時間が流れている。
ずっとこうして、笑っていられたら良いと、心から思いながらそう言えば空島ってクーちゃん来るのかしらと首を傾げる。扉絵で空島のその後が描かれたりはしてた気がするけど、魚人島や空島にクーちゃんは来るのかな、どうなのかな。
そう考えてハッとする。届くはずだわ。
確か原作のナミちゃんは空島で新聞読んでたもの。ならと思って辺りを見渡して、見当たらないので首からかけてる笛を吹く。
それに合わせて少しするとクーちゃんが来てくれて、でもこの子初めて会う子だわ。情報はちゃんと通じてるのかしら?
その時クーちゃんは私の腕でお辞儀して見せたので、どうやら問題無いとわかる。それにより書けてた小説、譜面、手紙、医学書を託して代わりに今回受け取るべき物達を受け取ると、クーちゃんはやり終えた感満載で飛び立つのでそれを見送れば、ロビンが感心した様子を見せた。
「本当に〝宝玉〟なのね。なんだか、感動したわ」
「島に到着する前に必ずやってるのよ。そうすると、お金持ってきて貰えるからね。ついでに新作も渡すけど」
「なら、今度本屋さんで探してみようかしら」
「新刊は私の所に必ず届くから、買う必要無いわ。今回完成した小説はこれよ」
そう言ってロビンに1冊の小説を差し出して、それを受け取ったロビンと笑い合う。とりあえずはこれで、ルフィ達のお小遣いとここでの最低限の買い出し資金になった筈だわと思えば笑みが浮かぶ。
医学書を出版するようになってからは、売上がウナギ昇りなのだから、この世界には意外と医者が多いのだろうかと考える。そしてこの大海賊時代である今、各海賊船に普通は最低1人、通常4~5人は居るのだと考えれば、何もおかしくは無いかも知れないと思う。
最近はチョッパーからも話を聞いて、それも含めて編纂している事がある。だから前よりも多くの知識を形にして世に出せるようになった。
チョッパーも医者として、他の人の役に立ちたいと言ってくれたから実現している奇跡。本を読んだだけで全てが身につく訳じゃないし、全てを本にできる訳でも無い。
でも、それを手にした人がいて、それにより1人でも助かる命があるならばとチョッパーは言った。その意見には、私も心から同意する。
空島は現在、見事に晴れている。