1頻り笑った後に、私は飲み物を貰って口にする。コニスと言う少女は不思議そうに私を見ていたけど、ウェイバーについて等の質問をしている内に何となく打ち解けたような空気になって行く。
それからウェイバーの修理をしてくれるとの話になり、コニス達のウェイバーを借りられる事になれば、期待してウズウズするのを止められない。即座に試し乗りして来ると言って遊びに行こうとして、ふと思い出してゾロとサンジ君に声を掛ける。
そう、ここも海だから能力者には危険なのだ。そのついでにサンジ君に少量のお金を差し出す。
「2人共能力者達をお願いね。ここも〝海〟だから。それに底が無かったら1万m下まで……だから、お願いね!それと、食材とかの買い出し資金よ。1応預けとくわね」
2人はそれぞれ言い方は違っても半分呆れたような顔で、もう半分は少し青ざめた感じで請け負ってくれた。複雑な気持ちよね、それは分かるわ。
買い出し資金がいつもより少ない事に首を傾げて居るから、貨幣価値が少し違うのよと答えておく。まさか実際ここで買い出しはしないかもしれないから少な目なんて言えないもの。
実際ウェイバーに乗りたかったのもそうだけど、少し1人になりたかったのが大きい。気遣うような皆の視線が、その想いが痛くて……情けなくも泣きそうになるから。
ウェイバーに乗ってみれば楽しくて、良い気分転換になるなとそんな事を考える。コツは必要だけど、操縦できない程じゃないわね。
そう思っていたらルフィも乗りたいと、交代しろと叫んでいるのが聞こえて、無理だから諦めなさいと叫ぶけど、聞く耳持たない。……勝手に沈むがいい。
1旦浜に戻りウェイバーを貸し出したけど、ルフィは浅瀬で沈んでくれて思わず「クケケケケケケ!」と悪魔よろしく笑ってしまえば、海から助け出された直後にルフィがむくれて飛び掛ってきた。それを受け止めきれずに砂浜に2人で転がると、ルフィが今度は悪魔みたいな笑い方をした。
「何やってんだ、てめェらは」
ゾロは呆れたようにそんな事言うけど、無理だってのを聞かなかったルフィが悪いのよ。そんな事を言いながら、笑い合う。
……大丈夫、ちゃんと私は、笑えてる。なんでもない事なのよ、薬だってそのうち効果が切れるから、問題ない。
「ナミ……少し、熱っぽくないか?」
「……こんだけ動けば熱くもなるわよ。そんなに心配しないで」
「俺は、そんなに頼りないか?ナミの中で、俺はまだ〝守る〟対象なのか?」
「何、言ってるの?ルフィには守って貰ってるわ」
言いながら、心配そうな様子を見せるルフィから体を離す。微笑みを浮かべてありがとうと口にすると、ルフィは何故かつらそうに顔を歪めるから、私はどうしたらいいのか分からなくなる。
「ルフィ?」
「そんな顔をさせたい訳じゃねェのに、上手くいかねェもんだな」
「……ルフィ?」
私は何か間違えただろうか。ルフィを傷付けてしまったのだろうか?
思わず手を伸ばして私からルフィを抱き締める。よく分からないけど、傷付けたのなら謝るから……。
「ルフィ……」
「ナミってさ、俺の名前呼ぶだけで全部伝えてくるよな」
ルフィの言葉に首を傾げる。私ちゃんとルフィに色々話してると思うんだけど。
そんな私にウソップまでもが、確かにとか言うから混乱する。何を言ってるの?
「ナミは〝ルフィ〟しか言わない事が本当に多いよなァ。それなのにだいたい分かるって言う謎がある」
「確かにそうね、今も名前呼んでただけだったものね」
続いたロビンの言葉に、うっそだー!と思うけど録音してある訳でもないから何とも判断できない。
私はもう少し遊んでくるわと言って、そっとルフィの唇に触れるだけのキスをしてウェイバーに飛び乗ると、その場を後にした。少しの間をおいてルフィが何か叫び始めたけど、素直に聞き取れないので後にしようと放置する。
遊んでいるうちにもう1つのジャヤが見えて来た。今回はノックストリームに自ら乗ってここまで来たけど、それの為に無理矢理空島に運び込まれた残りの半分。
黄金郷のあった側は、今私の目の前に鬱蒼と木々の生い茂るジャングルとして存在している。……ここに、カルガラは眠っているのかしら、それとも、彷徨っているのかしら?
「これが、黄金の……」
思わず声に出しながら樹にそっと触れた瞬間、喧騒が聞こえてきた。助けてくれと声をかけられて、でも、これは2人乗りじゃないから助けを呼んでこようかと言った瞬間、その男に雷が落ちた。
目の前で落ちたそれに、鼓膜が無事だった事が奇跡のような状態で、エネルの能力を思い知る。……覇気を使えない限り、ルフィにしか勝てない相手。
鼓膜も無事だった事だしと、ウェイバーを隠して木の影に隠れて情報を集める。それによるとやはり5人として認識されており、そのメンバーは写真付きで情報が出回ってる事も理解した。
だとするならばもうルフィ達は相手さんに絡まれてる可能性が高い。今回は私も見つからずに済んだけど、何が出来るだろうかと少し考えてみる……けれど、妙案は浮かばない。
仕方ない。1度皆と合流しますか。
ウェイバーに飛び乗りルフィ達の元へと戻れば、案の定騒動に発展してるのが見える。これはうん、仕方ないわよね。
私はどうせ敵だしと思って、どうせ罪被せるのが仕事だろうしと思って、減速せずに……いや寧ろ加速して笑顔で突進する。その笑顔を見たらしいゾロの顔が1瞬引きつったような気はしたけど、気の所為だと思われるのでそれは綺麗に忘れて、敵さんに突っ込む。
見事に数人は弾け飛んで、残りの数人は轢く事に成功した。それを見て晴れやかに私は笑ってみせる。
怒り心頭の様子を見せる敵さんに、私は鼻で笑ってしまう。どうせ何処ぞで〝ゴッド〟を名乗る男も聞いてるんでしょ?
「先に喧嘩ふっかけてきたのは、そっちでしょ。やられたらやり返される。人から何かを奪ったなら、奪われた事をどうこう言う権利は無い!」
ホワイトベレーだかなんだかって名乗った男達は、言葉を失った様子で立ち尽くし、私を凝視する。私は恐らく彼等の気持ちも分かる。
大切な守りたい人達の為に、間違ってると分かっていて従うその気持ちも、判断も責めるつもりはない。でも、だからこそ忘れちゃいけないのよ。
「誰かを陥れたのならば、陥れられても文句なんか言う訳無いわよね。だって……やられて嬉しいからやるのよね?違うならやり返される事も覚悟して泥に塗れてるんでしょ?どちらも違うなんて言うならば、それは3歳からやり直すべきだと思うわ」
そう言って微笑む。私は、アーロンに従ってた時、その覚悟は持ってた。
そして、だからこそ罪深い海賊を狙い続けてきたのよ。だから、いつ死んでもおかしくないと分かってた。
なら、貴方達にその覚悟はあるの?
小娘に轢かれた程度で怒り狂う貴方達に、そこまでの覚悟があるとは思えない。私には、その覚悟が見えないわ。
「ナミが言うと、違うな」
ウソップのその言葉を最後に、なんたら帽子達は去って行った。私はそれを見送った私は、ふぅと溜息を落としてから皆に向き直る。
「ごめんなさい。罪重くしちゃった」
てへっと笑えばサンジ君が気にしないで良いよとハートを振り撒き、ウソップは呆れたような顔で溜息をついた。ロビンはニッコリ笑って居るだけで、それが逆に怖かったりする。
ゾロは無表情のままで、チョッパーは半泣きだ。それには流石に私も慌てる。
……ごめん、チョッパー本当にごめん!慌てて抱き締めようと足を進めたら、ルフィの腕が体に絡み付いた。
「ナミ、あいつらの事何か知ってんのか?」
「知らないけど?」
「あんなに怒るナミ、珍しいからよ。なんも無いなら良いんだ。……お帰り」
「ただいま、ルフィ」
ルフィを見て笑えばルフィもまた笑ってくれた。それからルフィは私に優しくキスをしてからそっと解放すると、ウソップと共にサンジ君が食事の用意をしに向かうのに、便乗するようについて行く。
そんな3人を見送ってから、私は残った3人と共にメリーに戻る。網を確認しようとすると、ゾロがその網をヒョイっと持ち上げてくれて、呆れたように私を見た。
「何度言えば覚えるんだよ。網を持ち上げる時は呼べって言ってんだろ」
「ごめんなさい、つい」
中には空魚が数匹捕まっていて、ヨシヨシと1人ほくそ笑む。とりあえず凍らせておいて、サンジ君に続きは任せよう。
そんな事を思って魚を片付けるけど、本当はこんな事してる場合でもないと分かってる。これからこのメンバーで森の探検するんだった筈と思いながら、でも他の事は思い出せない中途半端さに苛立つ。
どうしてこう、役立たないのかしら、私の記憶は!
でも、戦いになる事だけは間違いない。敵はエネルと他に神官と呼ばれる人達が複数。
強さの度合いとかは分からないけど、私程度の実力で舐めてかかれる相手なんて居ない事は十分に理解してる。魚を触ったからと手を洗っていたら船が大きく揺れたので、始まったと理解して表に飛び出す。
とりあえず皆無事の様子で良かったと思って笑えば、チョッパーが妙に冷静に私を呼んだ。それが不思議で近付くと、小さな声で謝られた。
「ごめん、ナミ。今、ナミを楽に出来る薬は作れねェよ。あんなの使われて、つらいと思うのに、俺……」
私が空魚に浮かれてる間に、チョッパーは私の為に私が渡した資料を見たりしてくれていたらしいと知る。それが嬉しくて、結果なんてどうでもいいと思ってしまった。
薬の効果が薄まる物もないと言うなら、それは確かに多少つらいけど耐えられない程じゃない。そういう意味では本当に慣れてるし……だから、問題は寧ろその事で苦しんでる目の前にいるチョッパーと言う名の天使の事だけ。
「チョッパー……ありがとう。難しい事は分かってたから、そんなに気にしな「俺は!万能薬になるんだって、決めたのに……。仲間の事、治せなかったら、楽にも出来なかったら……なんの為に……」」
ハラハラと涙を落とすチョッパーを私は抱き締める。可能な限り穏やかな声で、幾度も〝大丈夫〟と〝ありがとう〟を繰り返しながら。
チョッパーの優しさが、私の中にあった発散する事の出来なかった苛立ちを昇華して、冷静にしてくれる。……ホワイトベレーだったかな?あの人達に、随分酷い事言ってしまったなと、悔やむ位には。
チョッパーが泣き止んでくれるまで、チョッパーの気持ちが落ち着いてくれる迄、私はただその優しい心に癒されながら、精一杯の感謝を込めてその背中を叩く。仲間がいると言う現実の有り難さを、私は痛感しつつ笑った。