※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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筆者がオッサン好きなので長くなりました。


ノラ

 修理されたウェイバーに乗り、使い勝手を確認すれば微調整もしてくれるというおじさんの言葉に浮かれ掛けて、消し炭2人を思い出す。先に手当をしてからにするわと言った私に、船医さんだったのですかと2人に問われるけど、それは違うのでしっかりと否定しておく。

 2人は脈も呼吸もしっかりしてるから、火傷用の薬を塗って、必要以上の乾燥を防ぐ為に包帯を巻いて、他は意識が戻ったら鎮痛剤を飲ませて……後は2人の回復力に頼るしかない。……無理、させてるわよね。

 私がもっと早く反応できていたり、騒いでるウソップに声をかけて黙らせるなりすれば良かったのかなと思うけど、過ぎた事はどうにも出来ない。それに騒ぐ事が必ずしも悪い事ではないし、そんなウソップだからこそ、皆も大切に想うのだから、下手に変わらないで欲しい。

 強くなって余裕が出来て、それにより騒がなくなるのはいいんだけどね……。2人の頭を撫でて、それから立ち上がるとウェイバーの調整をして貰う為に動作確認を行う。

 無事にそれを終えてメリーに戻ると、私としては初対面にあたる女の子が膝を抱えて泣いていて、どうしたものかと思う。その時他の皆は何処にとコニスに聞かれて、それに対して4人で探索に向かったわと答えると、少女が4人組なんて居ないと言い出した。

 そして、4人を思い浮かべれば確かに揃って行動とか無理よねと思う。ゾロは方向音痴で、ロビンは何かに夢中になると周りを見なくなる。

 ルフィは我が道を行き、チョッパーは誰について行けばいいか分からなくなり途中で逸れる。そう考えれば何もおかしい事は無い。

 そうなるとチョッパーが心配だわ。そう思って覇気で探ろうとしたら恐ろしい数の人が蠢いているのが分かり、この中から探すのは難しいかと諦める。

 元々探索系は得意じゃないのよ。攻撃を躱す事にのみ、特化してる見聞色なのだから。

 ウソップは見る事に特化してるタイプだったかなと思いながら、視線をウソップに向けた瞬間に少女が突然自ら川に飛び込んだ。それを見て私は、何も考えずに助ける為に川に飛び込む。

 この川これで案外危険なんだから!

 子供……少女は必死に抵抗して歯向かってきて、その様子に私もシャンクス達に、こんな風に迷惑かけてたのかなと思うと申し訳ないような気持ちになる。

 それでもとりあえずこのままには出来ないからと少女への説得を続けていたら、巨大な蛇が姿を現してメリーに顔を擦りつけ始めた。それを見て私は少女を抱えてウェイバーに飛び乗り、この先どうするかと考える。

 メリーを動かしてこの場から逃がす事は、現状不可能に近い。ならば蛇を倒せるのかと言われたら、それもまた難しい。

 どうしたらいい、メリーを壊させる訳にもいかないし、今メリーに戦える人は誰も居ない。悔しくて蛇を睨み付けていたら蛇が突然その場で暴れ始め、その勢いのままに私の方へ突っ込んでくるから慌ててウェイバーを用いて、その場を離れる為に出発する。

 

 「ナミさん!」

 「コニス!私は大丈夫だから、心配しないで!」

 

 心配するコニスの声に必死に声を張り上げて答えたけど、その声が無事に届いたのかは定かではないし、それを確認する余裕は無い。止まれば私だけでなく、少女も共に食べられてしまう。

 その逃げている途中で戦っている人達を発見したけど、そんなのよりもこの大蛇が問題で戦う2人の脇をすり抜けて進む他には、今選べる選択肢など存在しない。それらが蛇と戦って倒してくれたりしないかなと、蛇の気配が少し離れたのを感じてウェイバーを止めてみる。

 少女はアイサと言うらしく、私の腰にしがみついて明らかに怯えた様子を見せている。結果論としては、メリーも壊されなかったし、アイサも死ななかったのだから良しとするしかないだろう。

 アイサの頭に手をおいて、軽く撫でる。ここで私が不安そうにしてたら、アイサは誰を頼ればいいのか分からなくなるだろう。

 ならば私はしっかりしなくては。とりあえず森の中に入ってしまった事に間違いは無いと分かるけど、ここにいては先程の2人では大蛇を倒せるとも思えないので、追い付かれるだろう。けれど……ね、現在位置が分からないのは痛い。

 だからと言って、戻るのは現実的じゃないのよね。明らかに途中で大蛇に出くわすのは考える迄もない現実で、即ち遭遇時間を自ら早める行為に他ならない。

 ならばこのまま登って、途中でルフィ、ゾロ、ロビンの誰かと合流してどうにかしてもらうのが確実ね。チョッパーと遭遇したら……チョッパーも乗せて逃げるしかないけど。

 そう心に決めた私は、アイサに1声掛けてからウェイバーで上を目指す。その背後から嫌な音が聞こえて、それでも聞こえないフリして進んでいたらアイサが悲鳴をあげながら、震える体で私に全力でしがみついてくる。

 地味に内臓が飛び出しそうな程の力で持って、しがみつかれてる。そういや、子供の力って舐めたらアカンのでしたね。

 

 「ナミ!追い掛けて来てるよ!」

 「大丈夫だから、掴まってなさい!」

 

 全然、大丈夫なんかじゃないけど、今は必死で逃げるしかない。1人なら諦めても、今はアイサがいる。

 恐らく私の顔には今〝必死〟と書かれているだろう。それもペンキか何かで。

 逃げていたら行き止まりになっているのが見えて、でもそれが雲だったから私は構わずに突進した。雲なら、抜けられる!

 万が1の為に速度を上げたのもあり、雲を勢い良く抜ける事になれば視界が突然クリアになる。そこで3人の声が同時に聞こえた。

 

 「ナミっ!」

 「アイサ!?」

 「娘っ!?」

 

 その声に視線を向けた瞬間、襲い掛かってくる神官の姿が確認出来てどうするかと逡巡する。戦うにはウェイバーの操縦を諦めるしかなくて、でも避けるには少し遅い。

 アイサだけは守らなければとそれでもウェイバーの操縦をしようとした時、ゾロと見知らぬ男が同時に動いて神官を瞬殺してくれた。アイサはその助けてくれた筈の相手に少しの怯えを見せるから、私にとってのベックみたいなものなのかなと考える。

 

 「ナミ!てめェが何でここに!」

 「ゾロ!色々あって仕方なくよ。でも良かった、助かったわ。皆もここにいるの?」

 

 ゾロの言葉に答えて笑うと、どうやら短気らしいアイサの知人が攻撃を仕掛けてきた。アイサが共にいるのに!

 それを躱そうとした時、空の騎士が私とアイサを抱えて助けてくれて、事なきを得た。けれどもアイサは怒り心頭の様子で、抱えられた状態でその男に文句を言っている。

 文句を言いたくなる気持ちはよく分かるけど、とりあえず今は少し待って欲しい。会話をして、状況を伝えないといけないから。

 その時ゾロと同じ質問を空の騎士がして来たので、素直に口を開く。状況把握は双方必要だものね。

 

 「大蛇と言うのも烏滸がましいような大蛇に追われてここまで……」

 

 そこまで言葉を口にした瞬間、私、空の騎士、ピエール、そしてアイサがその件の大蛇に飲み込まれた。有難い事に蛇である事が幸いして、丸呑みにされた為に生きている状態で落下して行く。

 暗い中でのそれに、けれどもアイサは守らなくてはと手を伸ばして抱き締めると、アイサが驚いた顔で私を見た。1応背中に覇気を纏って落ちる事で、私に衝撃は来なかったけど、アイサに怪我が無いかの方が重要。

 

 「怪我、してない?どこも痛くしてない?」

 「……ナミって、お人好しとか、言われない?」

 「たまに、言われるけど……?」

 

 それがどうした。それより、怪我はないの?

 

 「……庇ってくれて……ぁ…………ぅ……」

 

 うん、聞こえなかったけど、しっかり伝わったわ。アイサは可愛い。

 赤くなって俯いているアイサを見て思わずその頭を撫でながら、空の騎士は無事かなと視線を巡らせると、どうやらピエールも含めて無事らしいと分かる。その時、奥から聞き慣れた声が聞こえて来て、体から力が抜ける。

 

 「ナミー!何やってんだ?」

 「ルフィ!」

 

 私が声をかけるとルフィがズタボロの状態で近付いてきて、アイサを抱き締めてる私をアイサごと抱き締めてくる。そのまま額にキスされて真っ赤になった私を見て、アイサが小さく馬鹿ップルと呟いた。

 それからアイサが私の腕から逃げて行って、ルフィが私に容赦無く絡み付いて、そんな状態で1応この場にいる全員で状況把握をする為に情報交換を行う。ルフィの服は溶けてしまっていて、着替えは流石にないけど男の子だし大丈夫よねと確認したら、子供扱いするなと叱られた。……解せぬ。

 その話の中でルフィは洞窟にいると思っていたらしいと分かり、蛇の中ならケツから出ればいいななんて言い出したので殴っておく。それにしても蛇が不機嫌で困ったのよと言ってから、まさかと思う。

 ま、さか。まさか、ね?

 

 「ルフィ、ここでずっと暴れてたんじゃ……?」

 

 私と同じ事を思ったのか、空の騎士とピエール、アイサの顔色も少し悪い。それなのにルフィは呑気な顔と声で当然だと笑うから、つい本気でクリマタクトを使って殴り飛ばしてしまった。

 ……クリマタクト?

 そうか、雷人間に対抗するには雷を使えばいいのよ。電気で道を作れば、とりあえずの所ダメージは受けない筈。

 勿論威力にも寄るけど、私は覇気も使えるから、可能な範囲は躱してとかすればなんとかなる……?

 その時ルフィが内壁にぶつかった衝撃で、蛇が暴れて私達は揃って蛇の中で転がる事となった。こうなればもう、私もルフィと同罪ねと小さく笑う。

 ウェイバーに飛び乗り、瓦礫に埋まりそうなアイサとルフィに声をかける。こんな所で溶かされてる場合じゃないもの。

 

 「しっかり掴まって!ウェイバーで1気に外に出るから!」

 

 その言葉に空の騎士も頷き、そうだなと言って外に出る事に同意してくれる。だから私は、ルフィ達に行くわよと声を掛けてから発進した。

 なのに……ルフィとアイサが落下して行き、私はもう戻る事も出来なくて叫ぶようにルフィの名を呼ぶしか出来ない。それに反応して、空の騎士がピエールに指示を出して戻らせてくれて、結果私と空の騎士だけが外へと飛び出した。

 飛び出した先は明らかに空中で、そこからは落下して行く事になる。落下中の空気圧を感じながら、着地に備えつつ飲まれたのとは明らかに違う場所に居ると気付く。

 着地を無事に済ませると、そこは明らかに遺跡でロビンが喜びそうとは思うけど、現在位置が全く分からないのだから、困ったものだと思う。とりあえず情報交換をしようと思って空の騎士に話しかければ、何故か眉を顰められた。

 

 「娘、その腕は……」

 

 その言葉にハッとして腕を見れば包帯が取れかけていて、裂けた皮膚が顕になっているのが分かる。慌ててそれを巻き直して、手荷物にしまっていた上着を羽織る事で誤魔化す。

 ルフィに、バレてなければいいけど……。空の騎士はそんな私に、無理をさせたな、すまんと言って頭を下げるから、私はそれに首を横に振る事で応える。

 空の騎士は何も悪くない。下がってろと言ってくれたのに、戦う事を選んだのは私だもの。

 

 「気遣ってくれて、ありがとうございます」

 「娘は、楽士なのだろう。戦いに向いている性格でもなかろうに。無理をさせた」

 

 そうか、宴の時に演奏しながら歌ったから。その勘違いに気付いて、私は自分が航海士である事を告げる。

 測量士も兼ねてるけど、そっちは趣味みたいなものだからと言えば、あの小僧が大切にするのも分かるなと笑ってくれて、でも少しばかり怒ったような顔で私を見て来る。そんな顔をされる理由が分からなくて首を傾げたら、その表情を変えないままに言葉が紡がれた。

 

 「想ってくれる者がいるのならば、自分を粗末に扱うな。自分を大切に出来なければ、大切に想う相手の事も、大切に扱っているとは言えんぞ」

 「それは……でも……」

 「自分が大切に想う相手が、自らを大切にしてくれずにいつも怪我をしていたら……つらくはないか?」

 

 言われて、息を呑む。確かに、逆の立場なら、つらいかも知れない。

 でも私は、ナミちゃんの身代わりでしかないから……。それくらいしないと、いけないと思うのよ。

 そうしなければ、存在する資格が無いような……そんな気がするの。私は、存在する事が罪だから。

 

 「娘が何を抱えていのかは知らぬが、小僧達から見れば娘が大切な存在であり、それは誰か他の人間で代用できるものでは無いだろう。……わかるな?」

 

 涙が、零れ落ちた。空の騎士を見詰めて私は、ただ呆然と涙を落とし続ける。

 私はずっと、私がナミちゃんの代用品だと思って来たけど……そうだ、ルフィ達と出逢ったのも、共にいるのも、全て〝私〟で、皆は〝ナミちゃん〟の事を知らない。だからもし例えば、突然私が消えてナミちゃんになったとして、それは皆から見たら見た目が同じでも違う人なんだと……。

 皆は私がナミちゃんの立ち位置にいるからではなくて、私個人を大切に想ってくれてる。そうだ……と、空の騎士に言われて、その眼差しを向けられて、気付かされる。

 私は涙を拭い、細く息を吐き出して笑う。空の騎士はそんな私の頭を軽く撫でて、優しく言葉を向けてくれる。

 

 「独りではない事に、慣れて居らんのだな。少しずつでいい、自分がして貰えたら嬉しい事を、仲間にしてやるといい。頼られて嬉しいならば、頼ってやれ」

 「嬉しい、事……でも、迷惑……かけたり……」

 「……娘は、仲間に頼られた時迷惑に思うか?」

 

 その問い掛けに私は首を横に振る。すると空の騎士は穏やかな声で言う。

 

 「ならば、仲間達も同じだろう。想いは伝わる。大切だと自分が想うのと同じ程度の強さで、相手も想ってくれているものだ」

 「……そう、なの?」

 「優しくされれば嬉しい。傷付けられれば痛い。大切に想われれば、形は違えどやはり想いは返される。……娘が仲間にして貰えた時嬉しい事を、してやりなさい」

 

 私はそれに頷き、ありがとうと涙の止まらない状態で笑う。空の騎士がその時、ドクターやゲンさんと少し重なって見えた。

 いつまでも泣いては居られないからとそれを止めれば、空の騎士が器用だなと呟いた。それから、その若さで抱えるには大き過ぎる何かがあるのは分かるのだがなと、その瞳を優しく細められ居た堪れないような気持ちになる。

 それからその視線から逃れるように辺りを見てみれば、ルフィが中に居る筈の大蛇がご機嫌な様子で歌うように、踊るように移動しているのが見える。中にルフィがいるのに、そのご機嫌な様子を見せている事が不思議で、少し考えてから気付く。

 あの大蛇は過去編に居た生き残った孫蛇だと。確か、名前は……。

 

 「ノラ?」

 

 ノーランドの名前からつけられた、ノラという名前。彼等が、実在した何よりの証。

 突然ノラが泣き出した事で、ここが何処なのか分かる。ここは、黄金都市であった筈の場所。

 

 「ノラ!」

 

 私の声にノラが反応する。いや、名前に反応する。

 

 「ノラ、よね?」

 

 声をかければ、ノラは蛇の筈なのに泣き出した。名を、呼ばれない事の苦しさは……寂しさは、言葉にできるようなものでは無い。

 ノラがゆっくりと私に向かい体の向きを変えて、私もまたノラに1歩歩み寄ろうとしたその時、ノラは雷に打たれてその場に崩れ落ちた。それを見て私は、即座にその犯人を睨み付けてしまった。

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