※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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お前が消えろ

 ノラが雷に打たれ、崩れ落ちる様を見た男達が叫ぶように名を呼ぶ声が聞こえる。それは明らかに案じるそれで、どうしてかしらね、嬉しくなってしまったのは。

 

 「ナミ!!」

 「アイサ!」

 

 その声に導かれるようにエネルから視線を外して声の主の方を見れば、ゾロの側にはロビンがいてホッと息を吐く。良かった、これで後はチョッパーの居場所が分からないだけになったわ。

 

 「あら、ゾロとロビン?」

 「そこかよ!!」

 

 ゾロってば意外とツッコミ属性なのかしら?

 でも、そんな事よりもいくらゴムだからって言ってもルフィが……。伝えておかないと、よね。

 

 「あの中にね、ルフィがいるのよ」

 

 つい頭を抱えるように言う私にゾロは、何でお前がそれ知ってて1人で……と言ってから、無理だよなルフィをどうにかするなんてと溜息を落とされる。それは私の無力に対するものでは無いと何故か分かるけど、やはり責任は感じるからごめんねと謝る。

 そんな間にもアイサの知人が、エネルへと攻撃を仕掛けるのが見えた。普通の人間が雷人間に勝つには、方法は限られている。

 1つ目は、ルフィを見習って全身にゴムを巻き付けておく事。ゴムは電気を通さないから有効だけどこの空島にゴムは無いし、動きを阻害されるからなかなかに難しいけど。

 2つ目は、覇気を使って攻撃する事。これは使えたら有効性が高いけど、相手は見聞色の覇気を使えるから中々に厳しい戦いになるとは思う。

 3つ目は、海楼石の武器を使う事。海に落とされたのと同じ効果を得られるこれは、能力に頼りがちなロギアには恐ろしく有効だ。

 それ以外には勝つ方法なんて無い。でも私はとりあえず、その攻防を隠れて見守る事にした。

 今はアイサの知人から敵認識されてる可能性の高い私が、下手に手を出すのはリスクが高過ぎる。しかしそれ程の時を待たずして、エネルはこの戦い全てが戯れだと宣い出した。

 それに僅かではない憤りを感じてクリマタクトを握り締めた瞬間、ゾロから何かを投げ渡されて咄嗟に受け取るとそれは意識のないチョッパーで。小声でチョッパーの名を呼び、頬を叩いてみるけど反応は無い。

 脈はあるけど、呼吸もしてるけど、呼吸は浅い。意識が無いという何よりの証。

 眠ってるだけなら、嬉しかったんだけどな……。チョッパーを強く抱き締めて、私はその場に座り込む。

 電気では無い何かにやられたのだと分かり、ゾロが託してきたからには恐らくその相手はゾロが倒してくれたのだろうと分かる。だから私はせめてチョッパーの意識が戻るまでは、守り抜かなくてはと思う。

 手荷物をあさり、簡易的ではあるけど応急処置をチョッパーに施していたら声が聞こえてきた。

 

 「私の予想は5人」

 

 エネルは立っている人数としてそう言い放つ。それ故にそれを聞いた瞬間に、ホッと息を吐いて体から力を抜く。

 戦わなくて済むならば、それにこした事は無い。今はチョッパーと言う守るべき対象も居るのだから余計に。

 エネル、ゾロ、ロビン、空の騎士、アイサの知人と言う5人で丁度だわ。私は座ってるもの。

 なんて考えてたけど、座ってるとか横になってるとか、そう言う話じゃなくてその場に6人いる事が問題なのだと言われてしまう。誰が消えるか、それとも消し合うかといったことをエネルに問われた4人は、それぞれが消える事を拒否してから、クルリと体ごと私の方を見た。

 その表情はそれぞれ、ゾロとロビンは気遣うように、空の騎士は無事を確認するように、アイサの知人は何処か呆れた様子である。私としては消える訳にはいかない理由もあるので、その視線に困ったような顔を向けるしか出来ない。

 チョッパーは動けないから私が守らなきゃだし、エネルの唯1の天敵であるゴム……いやいや、ルフィが姿を見せてくれる迄の時間を稼ぎたい。自然とチョッパーを抱く腕に力が籠る。

 そんな私の様子に、1番右側にいたロビンは少し困ったように笑い、その隣にいるゾロは視線だけで大人しくしてろと言ってくる。戦えない訳じゃないとゾロは分かっている筈なのに、極力戦わなくて良いようにしてくれる。

 ゾロの言葉が、脳裏に蘇る。敵を傷付けた事を気にすんなって言っても、無駄だろ。なんて、アラバスタで言われたそれが。

 それから呆れたような労る様な顔で、瞳だけ優しく私を見るいつものそれを、思い出させられる。お前ェはさ、優しすぎるんだよなんて言葉も続くように。

 何で、今そんな事を思い出すんだろう。嫌な、予感がするのは何故なのかな。

 そんなゾロの隣にいるアイサの知人は、私がチョッパーを抱いてるのを見て、微かに眉間に皺を寄せると溜息を落とした。そのまた隣、即ち1番左側にいる空の騎士は幼子を見るような優しい眼差しで私を見て、その瞳を細めると小さく笑った。

 それから打合せでもしていたかのように揃って体の向きを変えると、エネルに向かい武器を向ける。その行為自体が、宣戦布告を意味している。

 

 「「「「お前が消えろ」」」なさい」

 

 エネルはそれに不届きとかほざいて、不愉快そうな声と態度を隠そうともしない。そこへ空の騎士が怒鳴るようにしながら問いかければ、愉しそうに笑いながらエネルはその問いに答えていく。

 そこには絶対的な力を持つ、ライオンのボスのような風格と余裕が見える。そんなエネルはまるで天気の話をするような気軽さで、今夜の食事を楽しみにしている子供のような無邪気さで、平然と言い放つ。

 空島を無に帰そうとしているのだと。それには流石に、エネル以外の全員が動揺を隠しきれない。

 それを見てエネルは愉快そうにしている。そうだ、確かエネルは懸賞金がかけられていたなら最低でも4億クラスの存在だと言われていた筈。

 ロギアであり、覇気を使えて、その思想が危険極まりない事がその要因の筈で……。懸賞金すらかけられてない私では、普通に考えたら、勝てる筈も無い。

 空の騎士は自分に仕えていて、その後エネルに従っていた人々がもう居ないのだとエネルに告げられて、怒りに震える。彼等にも家族が居るのだと言う空の騎士を、エネルは嗤う。

 

 「すぐに後を追わせてやろう」

 

 その会話に、無関係の私でさえ体が震える。怒りと悲しみと、自らの無力さに打ちのめされて、チョッパーを抱き締めて小さく震える。

 その時、空の騎士が猛然とエネルに立ち向かうのが見えた。空の騎士は元神様であり、空島においては強い騎士でもある。

 けれども、相手は雷そのものとも言える能力の保持者。エネルの使う覇気を不思議な力と言っていた時点で、海楼石の武器を持ってでもいなければ、勝ち目は無い。

 そうなると今この空島で戦える可能性があるのは、海楼石を持つ者と、ルフィ、そして……私だけ。その事に気付いて声をあげようとするけど、光と同じ速度で動くなんて不可能で、見てるしか出来ない。

 私は空の騎士が負けたのを見て、そっとチョッパーを物陰に寝かせると自らの上着を脱いで、その体にかける。今までいたのが水辺だったから、上はビキニ姿になってしまったけど、困る事なんて特には無い。

 チョッパーの頭を軽く撫でてから、ふらりと立ち上がるとゆっくりと皆の元へ足を進める。空の騎士は既に意識が無くて、それを視界に収めながら無言で生き残りのメンバーに加わる。

 

 「本当に生き抜いたな。流石は私の見込んだ女だ!」

 「この子に、手を出さないで貰えるかしら?」

 

 エネルの言葉にロビンが反応して、私を庇うように少し前に立つ。そんな優しさに、少し泣きそうになる。

 エネルはそんなロビンや私を含めてフェアリーバースとやらに連れて行くと言うけど、それに対してロビンがエネルを出し抜こうと質問を繰り返す。そんなロビンをエネルが不愉快そうに見たのに気付いて咄嗟にロビンの前に躍り出た私は、クリマタクトを構える。

 だってロビンは花。雷に勝てる筈が無いもの。

 守らなきゃ、綺麗な花を散らせる趣味なんて持ち合わせてないのよ!疎ましい奴ね、本当に!

 ロビンを目指して放たれる雷を防ぐ為に、咄嗟に電気で道を作る。今の威力程度ならば、この先も防げるだろうと思うけど……威力を強められたら終わりだわ。

 そうなると、この先どうしたらいいか分からない。自然と喉がなる。

 

 「ナミ」

 

 背後から驚いたようなロビンの声が聞こえて、無事を確かめようと振り向いた時、エネルの攻撃が再びロビンを襲う。私を避けて、確実に狙われたそれを庇えずにロビンは〝私の目の前で〟雷に打たれて崩れ落ちる。

 

 「ロビ、ン?……ロビン!」

 

 1瞬思考が止まりかけて、直後にロビンを支えようと私が動いたのよりも早く、ゾロがロビンを抱きとめた。ゾロはその状態でエネルを睨み付けて、ロビンを私に託すように渡すと、低い声で言う。

 

 「女だぞ」

 「見れば分かる」

 

 ゾロはその言葉に、言葉を返す代わりとでも言うかのように剣を向ける。雷に、剣を……。

 不味いと思うのに、ロビンの事も心配で……2人をどうにかなんて出来ないなら今既に動けないロビンをせめて安全な所へと、そっとその場を下がりながらチョッパーと同じように並ばせる形で物陰に寝かせる。今私がゾロの戦いに参加しても、勝ち目は見いだせないというのもある。

 巻きスカートタイプのこれは、スリットは入ってるけど1枚の布になるからと脱いでロビンにかける。……完全にビキニ姿になってしまったけど、まぁそこは仕方ない。

 水辺じゃないと違和感はあるけど、何も悪い事してる訳じゃないもの。それから私は2人を守る為に、背に庇うように立つ。

 ここでもし2人に追撃をされたら、流石に持たない。今は2人共意識を失ってるだけで、生命維持に関しては大きな問題は無いのだから。

 少しでも防ぎながら、ルフィの到着を待たないと。今の私に出来るのは、時間稼ぎのみだと分かっている。

 そんな無力な私の目の前で、ゾロとアイサの知人は同時に床を蹴ってエネルに挑みかかる。でも、ゾロの刀は海楼石じゃ無いし、まだ覇気を使えない。

 

 「駄目よゾロ!相手が悪過ぎる!」

 

 剣は基本鉄で造られている。鉄は雷を通しやすい、寧ろ避雷針になると言えるような物質。

 その上雷を剣で切る事が出来ない。そうなると勝ち目は無い!

 ゾロは刀を掴まれてしまい、雷を直接流される。こうなる事はわかり切っていたのに、何も出来ない。

 崩れて倒れるゾロを、支えに行く事さえ出来ない。考えなさい、私。

 今、何が私に出来るのかを。無力を嘆くのは今じゃないでしょう!

 見据えなければ、現状を。受け入れなくては、現実を。

 エネルを睨む私の前で、アイサの知人はエネルに飛び掛る。止めるまもなく海楼石を仕込んである事をエネルに告げて、我が身を犠牲にする攻撃を仕掛ける。

 

 「リジェクト!」

 

 そんな戦いの中で崩れ落ちていたゾロは刀を取り返して、敵とまたいつでも戦えるように備える。それを横目に私は空の騎士の元へと駆け寄り、息をしているかの確認をする。

 空の騎士の無事を確認出来た時、アイサの知人がエネルを倒していた。その展開を私は知らなくて、だからこそ呆然とその状況を見詰める事となったのだった。




本編作品は、リクエスト及びアンケート結果により登場する人物が増えています。実は、筆者の独断では無いのですよ(笑)
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