勝った……の?
終わったの?
ルフィの居ない状態で、エネルとの戦いが終わったのならば、後は鐘を探して鳴らすだけ。良かったと、体から自然と力が抜けて1瞬その場に崩れ落ちるように座ってしまう。
早く皆を治療しなくちゃ。やる事はまだまだ沢山ある、気を抜いてる場合じゃないわ。
とりあえず、本来死なない予定だったんだし、埋葬くらいはしてあげないと……とか、そんな事を考えてた時期が私にもありました。的な状況に陥る。
まさか、自分で心肺蘇生を行うなんて、そんな事考えもしなかったのだから、仕方ない。そうしてエネルは、無傷で立ち上がった。
それに対峙するのは、エネルにワイパーと呼ばれたアイサの知人。ワイパーはエネルと会話をして、瞳には燃え滾る闘志を宿している。
「確かに……似てるわね。真っ直ぐで、情熱的で……それでいて仲間の為ならば平気な顔して自分の心を凍らせてしまえる所が」
明らかに、子孫だわ。娘を生贄に差し出す決断をして、自ら命を断てと言い捨てた彼は、その葛藤や苦しみを表には出さなかった。
そんな彼と、良く似ている。そう、会った事もないのに思わされる程に、その気質は受け継がれているように思えた。
彼等はどちらも、その子孫が400年以上も昔に交わされた約束を守ろうとしている。それは文字通り天と地に分かたれていて、それでもその願いと思いは同じなのだろう。
胸が詰まるような気持ちになる。返して欲しいと、血を吐くような願いを感じる。
目の前でそんな男、ワイパーがエネルの雷に打たれて倒れる。ゾロはワイパーが落とした海楼石の入った道具を手に、エネルへと向かう。
咄嗟に間に入って雷を避けさせれば、エネルが私を睨み付けてきた。それと向かい合いながら、足に付けている短剣をゾロに差し出す。
「貸すだけよ。私より、ゾロの方が上手く使えると思うから。……必ず、返してね」
「これ……そうか、わかった」
エネルが再び放った攻撃を、私はまたもや逃がす形で道を作る。その隙を着くようにしてゾロが海楼石の短剣と海楼石の入った道具で挑みかかるも、見聞色を使えるエネルに躱されて私が気付いた時には、雷に打たれて崩れ落ちるゾロが目の前にいた。
「ゾロー!」
名を叫びながらゾロの側に駆け寄った私が、ゾロの体に触れるのと同時にワイパーが立ち上がるのが見えた。こういった時、下手に動けば戦う人の邪魔になるのは分かってる。
だから私はゾロの手を握りしめて、他は身動きも取れずに見守る事になる。身動きを取れるのかさえ危うい……いいえ、呼吸さえ危うい様子のワイパーを、私は見ているしか出来ないのだ。
何か秘策があるのかと様子を見ても、エネルの容赦無い攻撃にワイパーはその姿を消してしまう。その場に残されたのは、何も出来ない無力な私と、余裕の表情を浮かべるエネルだけ。
今この場で、どうしたら仲間を助けられる?
戦うには条件が悪過ぎる。従えば、時間は稼げるかも知れないけど、逃げ出す事が難しくなる。
なら、どうする……?
「残ったのはお前だけか。……名はなんと言ったか?」
「ナミよ」
「……中々に良い姿だな」
「お褒めに預かり光栄ですわ。ゴッド・エネル」
ルフィ……早く来て。私1人では、流石にどうにも出来ない。
速度が、足りない。力も、足りない。
でも、このままだと空島ごと全て消し去られてしまう。今……私に出来る事は、1つ。
「……大変失礼致しました。実力の違いを思い知りました。どうか、私も共にお連れ下さい」
時間を、稼ぐ事。ルフィさえくれば、共に戦うとか、最悪でも逃げる事は出来ると思うから。
エネルは私を頭の先から足の先まで、文字通りに見て来る。でも、その視線に何も感じない。
値踏みされるような視線も、試すような視線も、欲情を孕んだ視線や疑う視線でさえも、私は慣れきっているから。アーロン達の元にいた期間も、今の私を作る大きな要因だったのだと痛感する。
この先の問題としては、エネルの好みの女が分からないってところよね。打算的な女は嫌いだとロビンを攻撃した……嗚呼エネルを始末したい……ってダメよ、勝てないから落ち着きなさい私。
ならば、気の弱い女かな?
違う、私を珍しいと言って気に入ったと言っていたのだから、逆だわ。気の強い女。
時間を稼ぐには、エネル好みの女を演じて、そばに居るのが1番だろうと思う。気の強い挑発的な女で、けれども自分には逆らわない女……かな。
本当に我儘な男ね。でも、仕方ない。
エネルは私を見て良いだろうと言うから、お礼とともにウェイバーを持って後に続く。そんな私の目の前に現れたのは、巨大な空飛ぶ舟。
……ノアの方舟をイメージしてあるのかしら?
そんな事を考えながら舟に乗り込めば、その造りの異様さが目立つ。ある意味でオーパーツとも言えそうなそれに、息を飲む。
黄金に輝く舟の動力は雷。エネルにしか動かせない舟。
それにしてもこの舟の金ピカ度合いは、豊臣秀吉とかと趣味が合いそうよねなんて思う。
実際エネルは趣味だからではなく、電気をどれだけ効率よく使えるかで考えたのかもしれないけれど。それでも金の茶室等を作った彼とならば、きっと会話も弾む事だろう。
そんな事を考えて現実逃避してる場合ではなくて、どうしたらいいかと頭を悩ませる。だって、空を飛ばれたら、身動きが取れなくなる。
その時突然エネルが動き出した。どうかなさいましたか?と微笑み尋ねれば、意外と素直に返事をくれた。
コニスがエンジェル島で騒いでいるという。覇気と雷の力を合わせる事で、島全体の事が分かると言い出したのだ。
覇王色の覇気は身につけようとして身につくものじゃない。でも、他の2種類の覇気は努力や訓練で、初期段階としてならば身に付けられる筈のもの。
それを何処までどうやって鍛えるか、鍛えられるかはその人の持つ性質に大きく作用される。だから私は覇気を使えても、攻撃力が増さないのだ。
剃や月歩は使えるけど、それを活用して攻撃しようとしたら骨が持たなくて、即ち筋肉が足りなくて足首か脹ら脛の骨が逝く。だから結局の所逃げる事、移動する事にしか活用出来ない。
皆は島を超える度に確実に強くなってる。なのに私は停滞したままのような、それどころか弱くなってさえいるような気がする。
ルフィを守りたいし、支えたい。無理ならせめて横に並んで居たいのに……ルフィが、遠くなってる気がする時がある。
このままでは喪ってしまう。何もかもを、亡くしてしまう。
焦燥感に崩れ落ちそうになるけど、それさえ全て私が弱いからで。守られてばかりで……。
でも私はこんな所で立ち止まるつもりは無いのよ。必ず、皆を守れる強さを得てみせる。
決意も新たに顔を上げた時、エネルは何かを気にするような素振りを見せて、辺りを警戒するような様子を隠そうともしない。……まさか、ルフィ?
「あの、どうかなさいましたか?」
問い掛けてみるも、エネルは今度は明確な答えは寄越さずに甲板へと移動する。それについて行きながら、期待に胸が踊るのを抑えられない。
ルフィ、なの?
そんな私の横でエネルは、予言が外れた事を不愉快だと言いながら下を睨み付ける。その様子と直後に聞こえた声が、ルフィの存在を決定づける。
「お前かァ!エネルって奴は!」
慌てて下が見える所まで移動して、必死になって覗き込めばルフィが立っているのが見えた。それにより脱力しそうな程の安心感がある。
けれどもルフィは大分怒ってる様子で、声をかけようとした所でエネルに腰を掴まれて抱き寄せられた。え?と思ってる間に重なる唇に、私は動揺する。
身長差の為に地につかない足をばたつかせて、両手でその顔を押して抵抗すると、エネルはヤハハハと笑い出した。
「ルフィっー!」
私の声に応えるようにルフィは舟に乗ってきて、エネルを睨み付ける。その顔はこれ迄見た事も無いようなもので……。
……え?
嘘、怖い顔してるのに、どうして……ルフィがカッコイイ。いや、待て私!見惚れてる場合じゃ無いから!
「ナミ、怪我……して無いな?」
「うん!」
「すぐに、助ける」
ルフィのその言葉にエネルは不愉快そうに眉を潜めて、容赦無く雷で攻撃を仕掛ける。その攻撃は明らかにルフィに当たり、エネルは満足そうに笑った。
その直後、首を傾げるルフィがいて、そのままスタスタと近付いてくる。それを見てよく躱したと言いながら再び攻撃を仕掛けるも、やはりルフィにダメージは無い。
エネルは私を解放すると両手でルフィに攻撃を仕掛け……互いに首を傾げ合う。その隙に私はエネルから距離を取って、ウェイバーのそばに向かう。
エネルの攻撃は全て無効化されて、ルフィからの打撃はエネルにダメージを与えて、ルフィが簡単に勝てるのではないかと1瞬期待させられる。エネルは空島にゴムが存在しない為に、ゴム人間と言われても理解出来ず、反撃方法にも困っているのが分かる。
でも、冷静になれば見えて来る。エネルは慢心しない上に馬鹿でも愚かでもない。この舟は金が大量に使われてるのもあるから、ルフィはここで1気に倒せないとジリ貧になるだろう。
「ルフィ!」
心配になって声をかけるけど、戦い始めたルフィは敵から絶対に視線を外さないから、私の方を見る事は無い。でも、ルフィはちゃんと私の声が聞こえているから、時々ふっと笑う。
私の方を見なくても、その笑顔を私が見ると分かっていて、笑ってくれる。大丈夫だと、無言で私に伝えてくれる。
「人の女に、手ェ出してんじゃねェよ」
「お前の、女?ナミがか?」
「そうだ」
「……道理で、貴様の存在を認識した瞬間から嬉しそうな訳だな。ならば……貴様を殺せば、好きにしていいと言う事だな」
エネルはそう言うと武器を刃物に変えて、その後はルフィも攻撃に当たれば危険となるから躱しながらの攻撃となる為に、次第に追い込まれて行く。でも、ルフィはゴムであるという事に変わりはない。
即ちまだルフィには勝機が残されていると言う事。このままエネルを倒せたら、この舟は落ちるかもしれない。
でも、落ちても構わない。問題は1つ、ルフィが敗北してしまう事のみ。
少しでも力になりたいと思うのに、私の攻撃手段では何もダメージを与えられないだろう。力になりたいと願うのに、何も出来ない現実がここにある。