1つずつ、焦らずに考えれば何か無いだろうか。私に出来る事が。
水は雷の力を通りやすくするだけで価値は無い。風も雷に何か影響を与える事が出来ない。
電気は雷の弱い版であるから、雷であるエネルへのダメージには繋がらない。火も雷から発生する事はあるけど、それに対して雷が弱る事は無い。
剃でエネルからの攻撃を避けられたとして、私からの攻撃には繋がらない。嵐脚を使えるようになったとして、努力してみたとしても嵐脚って鎌鼬の原理の筈だから雷相手に無意味だし、使いたいと思った瞬間に使えるようにもならない。
これ迄に嵐脚を練習しなかった訳じゃないけど、何か筋肉的に私には難しい感じなのよね。もしくは口笛みたいにコツがあるのかしら?
海楼石の剣はゾロに渡してきてしまった。残るは覇気だけれど、私の見聞色は探るのには余り役立たないし……いや、それだけに集中してれば使えるけど、基本的には攻撃が来る直前にそれを先読みできるだけ、即ちエネルのそれと同じタイプ。
ただ、エネルより少し性能がいいから、目を閉じて集中しなくてもそれを使える所だけが使い勝手を良くしてくれてる感じなのよね。それは当然攻撃には使えない。
武装色の方は、相変わらず無意識で防御で発動するけど、それが雷に対応出来るのかは分からない。そして、攻撃の為に自らの意思で纏うのには、私は体力と気力を恐ろしく消耗してしまう。
でも、使えるとしたらこれだけ。泣き言なんて言って居られない。
例えジリ貧に思えても、何も手段が無い訳じゃないから、絶望するのはまだ早い。でも……今の私が出来る事はなんだろう。
ねぇルフィ、私どうしたらいい?
「ルフィ……」
何とも言い表せない程に情けない声が出た。不安と怯えを隠す事さえ出来ていない、自分の愚かしさと情けなさに泣きたくなる程。
そんな私にルフィは視線を向ける事は無くて、エネルに視線を向けたままそっと帽子を取ると私の方に投げて来た。その帽子は見てもいない癖に何故か私の頭に落ちてくるから、それを手に取って腰に装着する。
……考えてみれば酷い姿だろうと思う。ビキニ姿で、足にバンド1つ巻いて、いつもはある短剣はない。
腰にベルトを巻いて、それに笛と扇子が取り付けられて、その上から流星錘……長い紐が巻かれている。その上更に今麦藁帽子まで取り付けられて、胸元にはクリマタクトが収納されているのだから。
ルフィはなんとも言えない姿になってる私を見る事は無く、それでも私の事を気にしてない訳じゃない様子で言葉を向けてくれる。その声が、私を導いてくれる。
「未来の海賊王のクルーが、情けねェ顔、するんじゃねェ」
その言葉にエネルが反応した。奇しくも私はその言葉を、前回会った時にエネルに向けているから。
2人の会話を聞きながらウェイバーに手を掛けて、ルフィの言葉に頷く。見えなくても、多分ルフィには伝わってる。
エネルが雷雲を呼ぶのを見て、風で散らせないかと奮闘してみるけどエネルギー量が違い過ぎて、圧倒的に不足しているが故に玉砕する。ルフィとエネルは戦い続けて、私は今は何もしない事が最善だと判断する。
必要になった時動けるように、準備だけはしておいて後はルフィを見守る事にする。明らかに今の私では、この戦いの邪魔にしかなりえないから。
気が付いた時にはルフィがエネルをタコ殴りにして、結果エネルは血塗れになる。けれども、エネルの反撃はそこからだった。
エネルは自らの雷の力を利用して高温を作り出す事で金を溶かして形を作ると、その金の塊を用いてルフィの手に重りとしてなのか装着して動きを阻害する。重心の傾いたルフィを船から落とすのは、体格差もあるからエネルには簡単だったようで、呆気なく蹴り落とされるルフィ。
「やだ!ルフィ!?」
思わずルフィを追い掛けるように船縁に近付くと、アイサとピエールの姿が見えて逃げてと叫ぶ。けれどもエネルは容赦無く攻撃を仕掛けるから、私は必死でその名を叫ぶように呼ぶ。
「ルフィー!アイサ!ピエール!」
そんな私をエネルは嘲笑するけれど、そんなのは構わない。でも私は……エネルに連れられて何処かへ行くなんて事は出来そうにないのよ。
ルフィの居ない明日なんて、私には何の価値もないから……だから、私はクリマタクトを胸元から取り出して強く握り締める。ルフィは無事だろうけど、私だけここに残る意味なんて無いから……。
夢はあるし、希望だってある。けれどもそれは、皆が……仲間が居るから目指せる未来なのよ。
「皆を見捨てて1人生き残るなんて考えられない。特に、貴方との未来なんて、御免こうむるわ。それ位なら私はもう……何もいらない!」
「命もだな」
エネルの言葉が、低く轟く。流石は雷と言いたくなるようなそれに……背筋を冷たい物が走り抜ける。
私がエネルにかなう道理は無いわ。散々考えたけど、時間稼ぎが精々で後は運が奇跡的に良ければ逃げることなら、叶うかも知れない。
それならば、可能な限り足掻いてみせる。この舟には居たくないし、後悔もしないように生きて来た。
もしもあの時と、そんな事だけは思わずにいられる生き方を選んできたのよ。これからだってそれは変わらない。
ギリッとエネルを睨み付ければ、愉快そうにエネルが嗤う。明らかに格下を見るような眼差しで。
「フェアリーバースへ共に連れて行き、可愛がってやるつもりでいたのだが……惜しいな。だが、神に逆らう不届き者に用はない」
「貴方は……神じゃない。ただの、危険思想を持つ悪魔の実の能力者でしかないわ!」
「ヤハハハハ!紛れ込んだ2匹の鼠に希望をかけているのか?」
鼠……?
何を言ってるの?
でも、こう言った場合の鼠は侵入者を意味する。なら、まさか……?
でも、無理よ。ルフィが落ちずによじ登ってるなら1人だし、ゾロ、チョッパー、ロビンは下で意識を失ってる。
サンジ君とウソップはエネルに既にやられてるから、身動きを取れずにメリーで休んで居る筈よ。
「本気で貴様を救出に来たらしい。馬鹿馬鹿しい限りだな。……それとも、最後に私からの情けだけでも受けてみるか?」
「……何度も言わせないで、私の男は、ただ1人……未来の海賊王だけよ!」
その瞬間エネルは私に雷を放って来る。誰が来ているのだとしても、それを待っている場合じゃない。
クリマタクトに覇気を纏わせ、雷を弾いてみれば普通に弾けた。
それならば、行けるかも知れない。私の体力が尽きるのが先か、エネルを殴り倒すのが先か……!
……でも、戦える手段があるならばと私は甲板の床を蹴って、エネルに突進する。避ける必要は無いと言わんばかりに受けたエネルは、首に容赦無くめり込むクリマタクトにより甲板に転がる。
それから即座に体勢を整えたエネルは、その棒は何なんだと睥睨する。でも、どうして教える必要があると思うのか。
この先だって2度と戦わない保証もないのに、どうして情報を与えて貰えると思うのか。阿呆め……私は、情報で生き抜いてるのに、簡単に教えて溜まるもんですか!
エネルは私に攻撃をされないように、間隔を空ける事なく何度も攻撃を繰り返して来る。それにより私が動けずにいれば、面白そうに私の様子を見詰めてきた。
次第に私の動きが緩慢になって行く事に、気付かれたのかも知れない。だとしたら、余力を残しておく為にも行動を切り替えるしかない。
近付けないなら、武装色の覇気は私には扱いきれないのだから無理は出来ない。私は武装色を解除してクリマタクトに電撃を纏わせると、見聞色の覇気にそれを切り替える。
避けられるものならば全て避けて、難しければ電気で道を作ることで逃がす。そんな私を見て、エネルはヤハハハハハ!と楽しそうに笑い……そうかと呟いた。
「貴様もマントラを使えるのか。そのマントラを違う形で使用する事で、攻撃に成功したと……実に面白い。だが……もう余興は充分だ」
エネルはそう言って私を舐めまわすように見てから、光と同等の速度で移動して私をその腕に抱き込んだ。しまったと思った時には、まるで当然のように唇が重ねられていた。
想像していた攻撃とは違うけど、それにより鳥肌が立つ。嫌だと、クリマタクトを振り回すけど覇気を纏っていないクリマタクトでは体を簡単に通り抜けてしまい、なんの意味もなさない。
片腕で私の体を押さえて、空いている手で胸を揉み始めるエネルに私は必死で暴れてみるけど、既に覇気を纏えるだけの体力は残されていないから全てがすり抜ける事で終わる。それにより泣きそうになりながら、思わず叫ぶ。
「やだっ!ルフィ……ルフィー!」
「ナミに触んな!……必殺!火薬星!!」
その時突然聞こえてきた声に、私は涙がこぼれそうになった。助けに、来てくれるなんて思ってもみなかったから。
エネルは私を解放すると、不愉快そうにウソップを睨み付ける。それにより即座にエネルに謝罪しちゃうヘタレな様子から、ウソップだわと妙に安心する。
……大丈夫、私はまだ動ける。何処にも怪我はないんだから。
ウソップの火薬星は火薬がある為に、少し私の起こす爆発とは違って目くらましにはなる。多少の威力だってある。
それを活用すれば、隙をついて2人で逃げる事も可能になる筈だわ。ウソップが居る事が、それだけで心強く思える。
ウソップは剃を使える訳でもないのに、雷から逃げ回れるのだから素晴らしい身体能力だと思う。それは誇るべきだわ。
「ナミ!」
「ウソップ、どうしたの?何か作戦でも?」
私の問い掛けにウソップは真剣な顔でエネルに視線を向けたまま、言い放った。震える声で。
「助けてくれ」
「そうよね。……ごめん、少し考えてみるわ」
そんな会話の中でも止む事の無い攻撃に晒され、ウソップの動きが危ない時はウソップを抱えてそれを躱す。このままではそれこそ後数分しか私の体力は持たないだろうと分かるので、作戦を必死で考える。
「ナミ、お前まさか、本気で俺を守る気かよ!?」
「当たり前じゃない!ウソップも大切なクルーだし、可愛い弟枠よ!」
「……確かに、姉っぽく思えることも多いけど、ナミは危なっかしいし、無理ばっかりするからなァ」
そんな事を言ってるウソップに、私は余裕そうねと小さく笑う。だって、軽口を言えるならまだ、戦えるって事だろうと思うから。
「ウソップ……私はね、ウェイバーで逃げるしか無いと思うのよ」
「分かった!それなら俺が時間を稼ぐ。ナミは準備してくれ!」
私にしかウェイバーを今のところ操縦出来ない事を理解してるからか、ウソップは力強くそう言ってくれる。それに感謝して、私はウソップから離れるとウェイバーに向かう。
ウソップがどんな方法で時間を稼ごうとしてるかも知らずに、急いで脱出準備を進め、ウェイバーに乗り込む。本来ウソップにそんな余力が無い事はよく分かってるから、私は急いで準備を整えてウソップに向き直った。
ウソップと共に、この場を離脱する為に。……共に、生き残る為に。