ウェイバーを掴みウソップに視線を向けた時見えたのは、ウソップがエネルにより吹き飛ばされている所だった。ここに来てくれただけでも、本来奇跡であったのだから、そんな事されたらウソップが持たない。
エネルに私が初めて会ったあの時、ウソップとサンジ君は雷によるダメージを与えられていたのだから、本来ウソップはここに来ているのだっておかしいような状態なのよ。そう思って私は助ける為にウェイバーを動かすけど、私と倒れているウソップの間にエネルが立ちはだかる。
それでも私には、ウソップを見捨てるなんて選択肢は無い。ウェイバーを操縦しながらウソップに手を伸ばす。
「ウソップ、手を!」
「この期に及んで助かろうとするんじゃない!」
エネルがそう言って邪魔をする。それでもウソップを助けようとする私の元へ、ウソップが飛ばされるようにして移動して来て、ウェイバーに落ちた。
それを感じながらウェイバーを動かし、何が起きてるのかと思いながら視線を向ければ、1言、煙と共に声を発する人物がいる。
「行け」
動揺して動けなくなる私の代わりに、ウソップがアクセルを握る。でも待って、サンジ君も乗せなきゃ!
「待ってウソップ!サンジ君が!!」
「良いから行け!お前は、男の覚悟を踏み躙る気か!」
ウソップの言葉に、体が震える。今の私では助けられない。
逃げるしか、道はない。ごめん、サンジ君……ありがとう。
私は下に見えている雲に向かって飛び降りる。けれども着地した時、ウソップの姿は無くて……辺りを見渡す。
ウェイバーから途中で落ちたのかと慌てるけど、その姿は確認出来ない。ウソップ……!
そのまま深呼吸して心を落ち着けると、見聞色の覇気で確認してみる。それによりエネルの舟に残ってるらしいと分かり……私だけ、逃がされたのだと気付く。
ウソップ、サンジ君……無事で居て。
2人が降りてこられるのかと心配しつつ上を見上げていたら、突然誰かに腰を抱かれて足が地から離れてしまう。ウェイバーも手から離れてその場に置き去りになり、誰かの胸に抱き込まれてしまえば慌てて振り向くけど……そこで、全ての身体機能が停止した。
「大きくなったな、ナミ」
見た目は殆ど変わってないその人は、昔より少しだけ声音が落ち着いたような気がする。夢や幻ではないのかと疑う事も出来ないのは、私を抱く慣れ親しんだその温もりを間違えられない程に知っているからなのか……涙が溢れ出して、声が詰まりそうになる。
「っ……師匠ー!」
思わずその首に両腕を伸ばして抱きつけば、小さくなんでここで名前じゃねェんだよとの声が聞こえたけど、そんなのはどうでもいい。逢いたかった……元気そうなその様子に、ココ最近の色々な出来事が走馬灯のように蘇り……涙が止まらなくなる。
幼い頃に戻ったような気がして、私はシャンクスに縋り付く。変わらない優しい温もりに、私が甘えられる貴重な相手である事を痛感させられる。
「大丈夫じゃ無さそうだな。……どうした?泣き顔なんて、珍しい。聞いてやるから、1つずつ話してみろ」
耳元で優しく囁かれて、私は頷くと言葉を口にしようとして……またも固まった。だって、そこには鷹の目が立っていたから。
……どうして気付かなかったの!?
「ん?あァ、鷹の目か。ローグタウンまで案内してやったんだって?」
「えぇ、そう、なのよ」
鷹の目がどんな説明したか分からなくて曖昧に頷くと、鷹の目が私の顔を見て小さく笑った。その顔が何処か、ホッとしてるように見えたのは気の所為だろうか。
「成程、恋人ではなく師弟か。道理で生娘であった訳だな」
その言葉にシャンクスが反応する。そして、低い声で鷹の目に問い掛ける。
「どう言う、意味だ?」
「……話さなかったか。ナミの〝ハジメテ〟は〝俺が奪った〟のだと」
「やめて!」
咄嗟に叫んだ私に、鷹の目は小首を傾げる。おっさんなのにそれが妙に似合うのはどうなのよと思いつつ、これ以上喋るなと睨み付ければそれを鼻で笑われた。
「……ナミは嫌がっていた。あれは明らかに強姦だろう。後悔も罪悪感も無いがな」
いや、強姦だと認識してるなら、少しは罪悪感とか持ちなさいよ。おかしいでしょ。
「……ナミを、犯した?それも、はじめてを……だと?」
シャンクスが唸るように言いながら、私を抱く腕に力を込める。それにより締まる体が地味に苦しい。
「あァ、泣いて嫌がり、貴様と副官を呼んでいたな。……もし孕んだなら言え。ナミごと貰い受けてやる」
やめて、本当に黙って。そう思うのに、何も言葉に出来ない。
だってシャンクスが珍しく、本気で怒ってる。なのに、シャンクスの腕からは、私を守るという意思が伝わって来る。
その事に涙がまた零れる。それに合わせたかのように、シャンクスは低い声で鷹の目に言葉を向ける。
「……鷹の目、覚悟は、出来てるか?」
「たかだか〝師匠〟が出しゃばるな。これは恋愛絡みの話で師匠でしかない貴様には関係なかろう」
「シャンクス、大丈夫だから!私、気にしてない!だから、やめて。お願い。ミホークさんも……煽らないで」
この2人の戦いに巻き込まれたら、体がいくつあっても足りないし、それこそ空島が無くなってしまう。そう思って口にしたら、シャンクスの怒りの視線が私に向けられた。
そして低くシャンクスが言葉を口にする。私に向けて。
「気にしてない?……初体験を強姦で奪われたのに、か……?」
正直、怖い。肌がビリビリとその怒りを感じて震える。
でも、ここで引き下がればこの2人がこの場で戦い始めるのは分かる。シャンクスは私を娘のように可愛がってくれていたか……あ、女神ちゃんの件は後で殴ろう。
「……私の男は、全てわかった上で気にしなくていいと言ってくれたわ。それに、ちゃんと上書きするように愛してくれてる。だから、もう気にしてないのよ」
「……男?誰だ」
「え?」
なんで、そんな事。ああそっか、お父さんとか兄として心配なのね。
安定の過保護さだわ。僅かな期間連絡し無かっただけで、暴れて紙面を賑わせた件を思い出してしまう。
「ルフィよ」
「……よりにもよって、ルフィか。……ナミ、俺にしとけよ」
「……?何を?」
意味が分からなくて首を傾げると、シャンクスの指が私の項から頭皮を撫でるように侵入して、それに体がビクリと反応する。……なに、コレ?
頭皮って、性感帯だった!?
そんな風に動揺している間に、シャンクスの唇が私の唇と重なっていた。歯列を割って侵入する舌に、遅れて抵抗を試みようとしたけど力でかなう筈がない。
頭はしっかりと押さえられているし、体も抱き上げられていて、1切の身動きが取れない。口内を舐る様に動くシャンクスの舌に、体がビクビクとその動きに合わせて反応する。
うそ、でしょ!?シャンクス、上手い……!
いや、そんな場合じゃ無いけど、嘘みたいにキスが上手い。尽くされてるような気持ちにさせられる。
僅かに離れた唇の隙間で呼吸を整えながらも、もうやだとシャンクスに縋るように言えばシャンクスはその場で唇の形を笑みに変えた。それは恐ろしく色気のある笑みで、でも私は……!
「……こう言う意味で、俺にしとけと言ったんだ。ナミ、俺のモノになれ」
「や、だ!私はルフィの……!」
言い終える前に、再びシャンクスの唇が私の唇と重なる。それを必死に両手で顔を押さえて阻止しようとしたけど、かなわない。
「んっ……ぅ……ゃ、ァ……!」
そもそも、どうしてここにシャンクスが居るのよと思っても、それを聞く事さえ出来ない。このまま流される訳には行かないと、足に覇気を纏わせて蹴りを入れてみるとそれはシャンクスの急所にダイレクトだったらしく、1瞬腕の力が緩みその隙に腕を抜け出すと荒い呼吸の中でシャンクスから距離を取る。
「ナミ……お前……」
「ヤダって言ってるのに!私は、ルフィのものなの!」
べーっとシャンクスに舌を出して下瞼を下げて見せれば何故か1瞬シャンクスは動きを止めて、それから笑い出した。なんだろうと思っていたら、妙に優しい視線を向けられる。
「ナミが、そういった幼い行動を取るのも随分と珍しいと思ってな。……本当は攫って行くつもりだったが、今回は見逃してやる。……それで、なんで泣いてたんだ?」
「もう、話しません!」
近付いてなるものか。なんて言うか、近付いたら絶対捕まるって確信できる何かを感じるのよ。
「ナミ?」
優しく名を呼ばれて、子供の頃のような感覚に戻りそうになる。でも、駄目よ、今何されたと思ってるの私。
シャンクスはそんな私にもう何もしねェから、来いよなんて言って手を広げる。……信じて、良いのかな?
「ナミ、信じるな。喰われるぞ」
鷹の目の声で1歩前に出ていた足がそこで止まる。鷹の目に視線を向けると、呆れたような眼差しとかち合った。
「主は、甘いな。赤髪はその舌先3寸で生きてきたようなものだぞ」
「鷹の目!?お前、俺の事そんな風に見てたのかよ!?」
「俺が主の写真を見せた所に、手紙で空島に居ると来た故、顔だけ見に行こうと赤髪が言い出して俺の船でここまで来てみたに過ぎん。副官のいない赤髪は止まらぬ。辞めておけ」
「鷹の目お前、俺の話聞く気あるか?」
「ナミが赤髪を男として認識し、抱かれても良いと思うならば飛び込めば良い。無論、俺に対しても同じ事が言える」
「おーい?」
「ミホークさん……?」
どう言う、事?
ミホークさんは、何を言いたいの?
「俺も赤髪もナミの〝兄〟の枠に収まるつもりは無い。主が望むならば、何時でも胸に飛び込んでもらって構わぬが、そういう意味で無くば不用意に近付くな。……ナミは、甘く鈍い故に親切心で教えている」
「鷹の目、お前俺の存在「俺は、ナミを女として愛している。望めばいつでも俺が守ってやる」」
……うそ、でしょ?
想像も、して無かった。遊ばれたとか、ちょうどいい所に可愛い顔の女がいたからとか、そんな理由だと思ってた。
なのに、私を……?
それも、シャンクスもだなんて……そんなの。
「うそ、でしょ?冗談……よね?」
「酔狂でこのような事を口にする趣味は、持ち合わせて居らぬ俺は「2人とも俺の話も聞け!」」
怒り心頭の様子でシャンクスが鷹の目に食って掛かる。それを軽く振り払い、鷹の目は言う。
「今後はミホークと呼べ。敬称は付けるな」
「ミホーク……?」
「……良いものだな、主の声で名を呼ばれるのは」
そう言いながら、穏やかに優しく、ミホークが笑った。そんな顔はこれ迄に1度も〝読んだ〟事さえ無くて……。
顔が、勝手に赤くなる。そんな優しい顔を出来るなんて、知らなかった。
ミホークはそうして、マントを翻して歩き出した。どうしたのかと思ってあっと声を出すと、1瞬振り向き小さく笑った。
「傍にいればナミの意思など無視してでも、主が欲しくなる。故に俺は帰る」
「……私は、ルフィのものだから、ミホークのものにはなれないわよ」
「ナミ、俺も海賊だ。あまり煽れば主の男を斬り捨てるぞ」
体がビクリと震える。そうだ、今はまだルフィはミホークに勝てない。
そんな私にミホークは体ごと振り向き、言う。
「……気は長い方でな。待っていてやる。何年でもな。だが……妙な抵抗をすればその限りでは無い。また会おう、ナミ」
「ミホーク……」
思わず呼び掛けるとミホークは呆れた様子で立ち止まり、シャンクスに視線を向けたと思った直後いつ動いたのかさえ定かでは無い速度で動き、私の腰を抱き上げて唇を重ねて来た。なんでっ!?
「や、だ……!」
思わず顔を背けて叫ぶ、脳裏に浮かぶ人達の名を。助けを求めて。
「ルフィ!ゾロ、サンジ君、ロビン!シャンクスッ!ベック!」
その瞬間、私はミホークの腕から解放されて地面に落ちた。シャンクスがミホークに剣を向けていたから。
「邪魔するか、赤髪」
「ナミが、助けを求めたからな」
「……随分、後に呼ばれるようになったがな」
「順番なんてのは、いつでもいい。ナミが俺を呼んだなら、助ける。そう約束してある」
互いに睨み合う2人のそばをジリジリと下がり、私は呼吸を整える。何が起きてるのかもう分からない。
「ナミ、帰らぬ方が良いか?」
「……気を付けてお帰りください」
思わず返した私にミホークは笑う。愉しそうに。
「……名を呼ばれるのは嬉しいが、理性が持たん。故に無闇に呼ぶな。腕の中に閉じ込め手放したくなくなる。ではなナミ」
ミホークはそう言って歩き出して、シャンクスは小さく舌打ちをした。そんなシャンクスに視線を向けると、頭をかきながらシャンクスは溜息を吐き出した。
それから真っ直ぐに、怖い程に真剣な顔で私を見る。狩られるのを待つしか出来ない兎のような気持ちにさせられて、足が自然と後ろに下がる。
「……鷹の目の話した事に、概ね間違いはねェな。だが……俺は〝兄〟や〝師匠〟としての立場も捨てるつもりはねェから……とりあえず、今は本当に何もしねェから、怯えないでくれ」
「シャンクス……」
「惚れてるさ、ナミにはずっとな。だが、だからこそ泣かせたくねェんだよ。……ナミ、来い」
言って手を差し伸べてくるシャンクスに、私の体は勝手に歩み寄り、気がついた時には駆け出してその胸に飛び込んでいた。私には、やはりシャンクスは大切な人で、大好きな兄であり、尊敬出来る師匠で……。
そんな私をシャンクスは優しく抱き締めて、全部話してみろと言ってくれる。シャンクス達と離れてから、何があったのか、全てと言われて……私はポツリポツリと語り出す。
分かっていた事だけど、アーロンに襲われて支配された事。その為に契約してお金を貯めようとした事。
そしてそのお金が貯まる直前でルフィと再会したけど、巻き込みたくなくて逃げ出したら、ミホークとドフラミンゴに会って、シャンクスの手紙はドフラミンゴに破られた事。それから、その2人に手篭めにされた事には触れずに居たのに、何故か言わなくても言い当てられて、うぐっと言葉を詰まらせるしか私には出来なかった。