※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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聞かせて

 その後、アーロンが約束を反故にして、ルフィが……仲間達が助けてくれた事。それから冒険に出て来て、先日またドフラミンゴに会った事を話すと、シャンクスは優しく頭を撫でてくれた。

 

 「よく、頑張ったな。そりゃ、ルフィのものにもなるよな……。ナミは昔から、命よりも家族を優先してたんだから」

 「シャンクス……」

 「……まだ、俺はナミが泣ける相手なんだろ?なら、もう無理に襲わねェよ。今はまだ、ナミが泣ける相手でいてやる」

 「シャンクスッ!」

 「心のままに泣いとけ。どうせまだ、その仲間達に縋って泣ける程じゃねェだろ。ナミは、プライドが高いからな」

 

 強がりだとはよく言われる。でも、プライドが高いから泣けないなんて、はじめて言われた。

 そう思いながらシャンクスに縋って泣き続ける私は、恐らく相当に幼かったと思う。それなのに、服が濡れるのも気にしないでシャンクスは私を甘やかす。

 涙が枯れるまで泣いておけと、優しく頭や背を撫で続けながら。その優しさに、私はただ縋り付いて甘え続けてしまった。

 涙が落ち着くとシャンクスは、私の額に軽くキスをしてから立ち上がった。それを呆然と見上げたら、シャンクスは兄の顔で笑ってくれる。

 

 「それで、この島では何が起きてる?俺の手は必要か?」

 

 その問い掛けにエネルの事を説明すると、4~5億程度なら、片付けてやろうかなんて言ってくれるけど、私はそれにどう答えたら良いのか分からなくてシャンクスを見上げるしか出来ない。そんな私にシャンクスは、少し考える素振りを見せる。

 

 「だが、相手が雷ならルフィでもどうにかなるな。ナミはルフィに強くなって貰いたいんだろう?」

 「強くと言うより、真っ直ぐに生きて欲しいわ。妥協する事を、覚えないで欲しい」

 

 私の答えにシャンクスは頷いて、それなら手は出さねェ方が良いなと言ってから私の姿をマジマジと見詰めてくる。それからマントのように羽織っているそのコートを脱ぐと、私にふわりと掛けて来た。

 

 「これ……」

 「いくら夏島でも、その姿は目に毒だ。どうせ仲間の為だとかで必要に迫られてだろうが、俺の心の安定の為に着ててくれ」

 

 シャンクスのコートだから、どうしても大きい。踵のある靴のお陰で、立っていればギリギリで引き摺らない程度の長さはあるからなんか包まれてる感があるのよね。

 それにより、シャンクスが傍に居てくれてるような安心感もあるから、いらないとは言えそうもない。……夏島でどうなのとも思うけど、暖かいし。

 

 「ナミ、そのコートはやる。返そうとかしなくていい」

 「いいの?」

 「帰ればあるからな、何枚も」

 「それは知ってるけど……」

 

 そう答えた私に手を伸ばして、シャンクスはコートの前を半分くらいまで閉めると動きを阻害しそうだからここまでだなと言ってから、私の姿をもう1度見て……何故か頭を抱えた。それから、悪い事してる気分だと言うけど、悪い事って?

 

 「やめろ、そのキョトンとした幼い顔。罪悪感が……」

 「このコート、シャンクスが1緒に居るみたいで安心する。ありがとう、大切にするわね」

 

 私の返事にシャンクスは何も分かってねェと言ってから、そっと顔を近付けて唇を合わせてきた。それに対して何故か私は抵抗出来なくて、素直に受け止めるような形になれば唇を離したシャンクスに優しく笑われる。

 

 「鷹の目の船がねェと帰れなくなるから、今回はここまでだな。ルフィには、宜しく言っといてくれ。……今会うのは、約束と違うだろうからな」

 「うん、分かった。シャンクス、私……」

 「良いさ、ナミの泣き場所はまだ〝家族〟と〝赤髪海賊団〟だけみたいだからな」

 「どうして、わかるの?」

 「ずっと共に過ごしてきた。離れても手紙を読んでたからな。……帽子は、ルフィから預かったのか?」

 

 優しい眼差しでシャンクスは言う。だから私は素直にそれに頷いて、敵を前に動けなくなってたら貸してくれたと言えば楽しそうに笑った。

 その笑顔が少年のようで、それで居て何処か懐かしそうな顔でもある。それから小さく、ルフィは本気なんだなと呟いて少し困ったような顔をした。

 

 「離れ難いが行かないとな。ナミ〝赤髪海賊団〟はいつでもナミを歓迎する。忘れるなよ」

 

 何も、言えなかった。またなと去って行くその背中に、私は何も言えずに、ただ見送る事しか出来なかった。

 想像もしてなかった2人からのそれに、断る事さえ許されずに押し付けられたその想いの贈物を、どう扱えばいいのかなんて私には分からない。だからといって、誰に相談できるでもなく、私はそれを考えるのは今じゃないと振り払うようにして歩き出す。

 その時悲鳴が聞こえて来て、どうやらウソップとサンジ君がエネルの舟から共に落ちてるのだと理解出来た。落下のダメージ程度なら、あの2人ならば問題無いだろうと思えば、自然と体から力が抜けそうな程に安心出来る。

 でも、何が起きてるか分からないからと2人の元へとウェイバーで向かう事にした。声のした辺りを探せば、倒れて意識のないサンジ君と、雲に突き刺さってるウソップが見える。

 とりあえずサンジ君をウェイバーに乗せて、ウソップを雲から引っ張り出すと、現状と位置を確認してそれを伝える。……シャンクスの事はとりあえず何となく伏せて置いたけど。

 それから蔦の所まで移動してみようかと、無駄に目立つそれを目指して移動を開始する。皆は、どうしているかな。

 意識は戻ったかな?

 怪我は、大丈夫かな。

 

 その頃ナミと離れ鷹の目と合流した赤髪は、怪訝そうな瞳を向けられどうしたのかと視線で問い掛けると呆れたように溜息をつかれた。

 

 「……ナミを抱かなかったのか」

 「抱けるか。あんな無防備に信頼されて」

 「俺は、それを犯したが?」

 

 鷹の目の言葉に赤髪は睥睨するが鷹の目はそれを気にした様子も無く、顎で船に乗るよう示す。それに素直に従う赤髪に鷹の目は言葉を向ける。

 

 「コートはどうした」

 「ナミにやった」

 「……それはまた随分と卑猥な姿になりそうだな」

 「五月蝿ェ、想像するな」

 

 赤髪の言葉を受けた鷹の目はクツクツと喉の奥で笑うと、ゆっくりと船を動かした。2人はそれから暫し言葉も何も交わす事は無く、無言で空島を後にする。

 

 そのような会話がなされている頃ナミは蔦の所まで移動していた。到着してみればロビンが立っているのが見えてホッと息を吐き出す。

 良かった、雷なんて普通なら受けたら死んでしまうから、不安だったのよ。立ってるなら障害とかも残ってないのね。

 その流れで他に視線を向ければアイサの姿が確認できて、嬉しくなって声を掛ける。良かった、無事で!

 

 「ロビン!アイサ!良かった、無事なのね!」

 

 ウソップがサンジ君と共にウェイバーから降りて、ゾロ達の惨状に驚いたり嘆いたりしている間に、私は飛び付いてきたアイサを抱き留める。シャンクスも、こんな気持ちだったのかな。

 ……違う、か。だって、恋愛感情があるって……言ってたし……。

 思い出したらなんか恥ずかしくなって赤くなる私をロビンが不思議そうに見て来たけど、気付かないフリして気持ちを切り替える。その時ふと、女神ちゃんについて殴り損なった!と気付いたけど、それは次回に持ち越そうと溜息と共に怒りを霧散させる。

 

 「ナミ!ナミっ!」

 「アイサ、無事で良かったわ。ルフィは何処?1緒じゃなかったの?」

 

 あの雷に打たれて、1緒に落ちたように思ったんだけど、ルフィだけで移動したのかな?だとしたら、エネルの所へ?

 でも、エネルは空を飛んでる。どうやって行くつもりなのかな。

 

 「ルフィなら、今ナミを助けに蔓を登って行ったよ」

 「たった今よ。止めようとしたのだけれど……ナミの事になると、何も見えなくなるのね」

 

 申し訳無さそうに言ってから、少し揶揄うように笑ったロビンに、多分私は赤くなってる。なんか、プスプスと音が出そうな勢いです。

 でも、そんな遊んでる場合でも無いからとエネルが言っていた空島消滅計画について話して、皆にはメリーへの移動をお願いする。けれどもその会話の途中でエネルのその計画は動き出してしまい、雷の降り注ぐ空島に私達は言葉を失う。

 でも、ただ見てるだけなんてそんな余裕は無いから、私はウェイバーに飛び乗りアクセルを握る。それから皆に視線を向けた。

 

 「皆、船へ急いで!私もルフィを連れてすぐ行くから!」

 

 ウソップがそれに対して請け負ってくれたので、その場は任せてウェイバーの操縦に意識を集中させる。急がなくちゃ!

 いくらルフィでも、相手が空を飛んでるのだから手出しは出来ない。この国がなくなる前に脱出しなければ、黄金は欲しかったけど、命あっての物種だもの。

 そう思ってウェイバーを走らせているのに、いくら走ってもルフィに追い付けない。どんな速度で移動をしてるのよ……!

 ついさっき出発したとロビンは言っていたのに……だとするなら何かあった時、剃を使わなければ私は間違いなくルフィから逃げられないわねと思わされる。何という足の速さか。

 それ以前に垂直に限りなく近い木を走って登るとか、忍びの者なのかルフィは。そのうち水とか火とか操れるようになるんじゃないのかしら。

 そんな事を考えながら必死になってウェイバーを操縦していたら、腕がズキンと傷んだ。どうやら、篭手の反動で出来た傷が開いたらしいと分かるけど……今はどうにも出来ない。

 後で、チョッパーに見てもらわなきゃね。そう思った時、頂上が見えてきそうな辺りで何かを轢いた。

 それに驚いてウェイバーを止めると、それはルフィで……慌ててウェイバーを止めると声を掛ける。

 

 「ルフィ!」

 「え?ナミ!?お前何でここに居るんだ!?」

 「ルフィを迎えに来たのよ。私はサンジ君とウソップに助けて貰って、無事に降りたのにルフィがいないんだもの」

 「そうだったのか、良かった」

 

 ウェイバーの下で呑気に嬉しそうな声で笑うルフィに、少し脱力する。何でかしらね、ルフィといると力が抜けるのは。

 そんなふうに思いながらルフィを見ていたら、体が空気の……天候の異変を感じ取る。その異変の元に視線を向ければ、そこには膜放電の塊としか呼べない黒い円形の雷雲があった。

 それがエンジェル島を飲み込み、跡形もなく消し去ってしまう。これが、エネルの力なの?

 ……これが、エネルの望んでいるものなの?

 このままここにいたら、ルフィだけが生き残る未来に繋がる。そうなればルフィは、傷付き苦しむ。

 

 「ルフィ!兎に角乗って!ここを降りましょう」

 

 皆は先に船に向かってるのだと言葉を続けようとしたら、ルフィが冷静な声で言葉を返して来た。ただ1言、ダメだと。

 それについて問い詰めようと口を開けば、それを感じ取ったかのようにルフィは言う。真っ直ぐにエネルのいる方を見て。

 

 「ナミを助けなくて良くなっても、俺にはまだここに用事がある」

 「ルフィの用事って、何?」

 

 ルフィは、本質的な所では馬鹿でも愚かでもない。大切なものはいつも分かってる。

 だから仲間の命がかかっている今、それでも引き下がれないと言うなら何かがあるのは分かる。だから、心が凪いでいくのを感じる。

 ルフィのやりたい事をやらせるのが、クルーとしての役目だと思うから。特に、こんな真剣な顔をしている時は。

 

 「この空に〝黄金の鐘〟があるんだ!」

 「ルフィ?」

 

 ルフィがただ、宝を求めているのならば殴ってでも連れ帰るけど、そうじゃないのは分かる。だからこそ、ルフィの言いたい事が分からない。

 ルフィは何がしたいの?教えて、何でも叶えるし、何でも手伝うから。

 私の力が弱いのも、及ばないのも分かってる。でもね、ルフィの為なら私に不可能なんて何も無いのよ。

 ルフィが行きたいと言うなら、地獄の果てだって、ラフテルだって、必ず私が導いてみせる。それがルフィの航海士たる私の役目だと思ってるから。

 

 「嘘じゃ無かった。菱形のおっさんの先祖は、嘘なんかついてなかった!だから、下にいるおっさん達に教えてやるんだ!〝黄金郷〟は空にあったぞって!」

 

 ルフィの言葉には力がある。想いがダイレクトに伝わって来る。

 だから私は真っ直ぐにルフィを見詰める。そうね、あの時共に過した半分の家が、それを確かに証明しているものね。

 

 「鐘を鳴らせば聞こえる筈だ!!じゃなきゃおっさん達は、死ぬまで海底を探し続ける!エネルなんかに取られてたまるか!」

 

 ルフィは言葉を続ける。私は瞳を閉ざして、その声に、言葉に耳を傾ける。

 だから教えて、ルフィの願いを。私に聞かせて、ルフィの想いを。

 

 「だから俺は、黄金の鐘を鳴らすんだ!!」

 「分かった」

 

 私はルフィに応える。それにルフィは1瞬驚いた顔で私に振り向き、それから小さく付き合ってくれんのかと呟いた。

 それに笑って頷けば、かなわねェななんて言うけど……。この人と決めたその時から、私の全てはルフィのものだから、私にはルフィの為なら不可能なんて単語は何処にも存在し無いのよ。

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