ルフィの為にと辺りに視線を巡らせる。黄金で造られている鐘ならば、間違いなくこの雷により光を反射してる筈だから。
金は何百年前の物でも、劣化して色が黒くなるなんて事は基本的に無い。酸化しないから、正しく処置すれば何時までも光り輝くし、何もしなくても自然な汚れの他は殆ど色なんて変わらない。
だからこそ、何千年も昔からその価値が認められてきたのよ。そう思っていたら、見付けた。
ルフィが舟の上に居るエネルからの電撃を弾いてくれたりしながら、真横で戦ってる間に、私は下にいるだろう仲間にメッセージを書く。ルフィの願いを叶える為に。
『蔓を西に切り倒せ』
そうしている間にエネルも鐘見付けたのか、移動を開始する。そこで先ほどよりも威力の強い円形の雷雲を創り出しているのを見て、私はルフィと会話をする。
エネルはルフィと戦いつつ、下から声がすると言っていた。だから、きっと皆はまだ下にいる。
もしそうであるならば、この計画はなる筈よ。皆ならば、必ず倒してくれる。
「ナミ、お前は逃げねェのか?」
「ルフィが、逃げないなら……ルフィが鳴らしたいなら何処までだって連れて行くわ。私は〝ルフィの航海士〟だから」
ルフィはそれに大きく頷いて、笑顔になる。ルフィが望むなら、なんでもやってみせる。
「そもそもルフィはウェイバーの操縦出来ないじゃない。飛ぼうとしたって落ちるだけ。なら……」
私は言葉を切ってルフィを見る。ルフィもまた、私を見詰める。
その強い眼差しに私の決意は固まり、自然と気が引き締まる。ルフィの為に、私は存在してる。
「私が乗せて飛んであげる。ただし!私の命はルフィにかかってるって事、忘れないでよ!」
「よし!わかった!よろしく!」
ルフィが私の背後に乗り込む。私はそのルフィにチャンスは1度きりなのだと伝えて、皆が蔓を倒してくれるのを待つ。
「傾いて来たわね。ルフィ、行くわよ。掴まっててよ!」
「おォ!思いっ切り、頼む!」
エンジンを掛けて、息を吸う。ルフィが私の腰に腕を回したのを確認して、声を掛ける。
「〝ジェットダイアル〟の『最速』まだ、出した事無いのよ。私でも制御しきれるか分からないから」
「んじゃ、それで!」
頷いて発進する。エネルが私とルフィを、いや……ルフィとその足である私を狙ってくる。
けれどもルフィは必ず約束は守るから、降り注ぐ電撃を拳や足で器用に、何度でも叩き落とし、弾き飛ばす。私には決して雷が当たらないように、私が操縦にだけ集中出来るように。
だから私は前を、前だけを見据えて突き進む。ルフィの望む未来へ向けて。
エネルはもう少しでルフィを連れて行けそうだと思えた頃に、苛立ちを隠さずに、最大値にはなっていないだろう雷雲を落とそうと動かし始める。それを見たルフィは、私の頭に手を置いて、耳元で言う。
「ありがとうナミ、絶対無駄にしねェから」
そしてルフィは、舟ではなく雷雲の中へと飛び込んで行く。その反動で途中にあった雲島に不時着した私は、ルフィに叫ぶ。
「その中は危険なのよルフィ!ルフィでもどうなるか!」
ゴムだから大丈夫。そんな事は言えないようなリスクの塊にルフィは平然と挑んで行く。
これが、私が全てを賭けた男か……と、小さく息を呑む。ルフィは、どうしたってルフィなのだ。
雷に打たれようと、絡まれようと、その中で暴れ続ける。手に装着されている金の塊がそれを後押しするように、その効果を示して1気に爆発するような勢いで雷雲を晴らしてしまう。
その勢いのままに、ルフィはエネルごと鐘を鳴らそうとするけれど、今度はエネルがそれを止めようと全力を出して来る。けれど……もう、ルフィは止まらない。
エネルにルフィを止める事は出来ない。だってルフィはゴムで、エネルは雷だから。
それに何より、ルフィはルフィだから。バランスを崩して落ちそうになるルフィが、途中にある雲島にいる私に気付いて声をかけて来る。
「ナミ、そこ退いてろ!」
手伝えとは言わないルフィに、私は頷く。ルフィの手が雲島に掴まっていると言う事に気付いて、端まで下がる。
ルフィが目の前を金の塊をその手に付けたまま通り過ぎて、そして……音とは空気を揺らす振動の事だと、それが響いて居る現象なのだという事を、私に体感させる。そんな勢いで、ルフィは盛大に鐘を打ち鳴らす。
大地にいた鳥達が、大騒ぎで飛び立つ。ノラは涙を流して、懐かしいその音に打ち震える。
黄金の鐘は〝島の歌声〟を響かせながら落下して行く。それに合わせたかのように、エネルの作らせた舟もエネルと共に、落下して行く。
鐘の音は、去る都市の栄華を誇る〝シャンドラの灯〟
戦いの終焉を告ぐ〝島の歌声〟
400年の時を経て鳴る〝約束の鐘〟
浮寝の島の旅路は長くも、遠い記憶は忘れがたし。
かつて人は鐘の音に言葉を託した。
遠い海まで届ける歌に、誇り高い言葉を託した。
『俺達は、ここにいる』
私のいる雲島に落ちて来たルフィは、当然のように私に抱き着いて、勝手に座らせると膝を頭で占拠した。麦藁帽子の無いその頭を、私はそっと撫でる。
お疲れ様、頑張ったね。その言葉の代わりに、想いを託して頭を撫でる。
「聞こえたかな、菱形のおっさんに」
「えぇ、きっと……」
「届いたかな、菱形のおっさんの先祖と、その友達に」
「……っ!……えぇ、きっと……届いたと、思うわ」
ルフィの言葉に、私の声は詰まり、震える。そんな私の膝でルフィは瞳を閉ざしたまま、そっと私の頬に手を伸ばしてくる。
優しく触れるその温もりに、私の体は小さく揺れる。それに気付かない筈も無いのに、ルフィは私頬を優しく撫でて穏やかな声を出す。
「『いつか再び〝約束の鐘〟が響いた時、2人の友人は空の彼方で酒を酌み交わし笑い合えるのだろう。その鐘を誰かが鳴らしてくれる事を、筆者は祈り続ける』……だったよな。ナミの祈りが、届いたな」
「……ルフィが、祈りを……現実に、してくれたのよ。ありがとう」
「ナミの願いは、いつも〝誰か〟の為だよな。俺はさ、そんなナミの甘い所も含めて、大切だし愛しいんだ」
ルフィの言葉を受けて、涙がこぼれそうになる。情けなくも、震える私に……ルフィは瞳を閉じたまま笑う。
「ナミ、泣いても良いんだぞ?」
「……いや、よ。私、そんなに弱くないもの」
「……1人で泣くくらいなら、俺の前で泣いてくれよ。ナミの涙を拭える距離に、俺は居たい」
その瞬間瞳を開いたルフィと視線が絡まる。ルフィが私の顔を見て、優しく笑う。
「いつもありがとう、ナミ。たださ、俺はもう少しだけ……こうしていたい」
「ルフィの望むままに、していいわよ」
そっとルフィの頭を撫でて、笑う。そんな私にルフィは少し黒い笑みを浮かべて、低い声で言う。
「ンなこと言ってると、この場で襲うぞ」
「……!?そ、れはダメッ!」
「にししっ!今は、辞めてやる」
そう言ってルフィは私の腰に腕を回すと、その頭を押し付けて来た。そんなルフィの頭に、預かっていたというか、借りてたと言うか、そんな帽子をそっと返す。
空島らしい晴れ渡る空を見上げて、私は己の幸福と今回も皆が生きていた事実に安堵の息をもらした。ルフィの髪を梳くように撫でながら。
それから暫くそうしていたけど、ルフィが腹減ったなんて言うから降りましょうかと声を掛ける。それに対してどうやって降りようかと、声を掛けたくせに考えてる私の腰をルフィは抱いて、ウェイバーを肩に担いでにししっ!と笑った。
嫌な、予感がするわ。そう思ったのと同時に、ルフィは雲島から飛び降りる。
悲鳴を何とか飲み込んで、でも声を出した方が恐怖を軽減できたんじゃなかったかなと少し思う。地上に着くと私が体を小刻みに震わせてるのに対して、ルフィはなんだか楽しそうで……。
「怖かったか?」
「だ、いじょ、ぶ、よ」
「……うん、駄目だったみたいだな。悪い」
謝った!?ルフィが!?
驚いて視線を向けると、ルフィは肩からウェイバーを下ろして私をヒョイっと抱え直すと何故か当然のようにキスしてくる。何事!?と混乱してる間にルフィからのそれは深くなり、気付けば縋るようにルフィの首に腕を回していた。
「ナミ……」
「ルフィ……」
僅かに離れた唇の隙間で名を呼び合い、どちらともなく自然と唇が合わさる。ルフィの唇に、慣れた感覚に、体の力が抜けそうになる。
ルフィの温もりにホッとして、やっと色々な事が終わったのだと実感出来る。私が世界で1番存在していたい場所はここなのだと、帰りたかったのはこの腕なのだと思わされる。
400年もの永きに渡り分かたれていた友情と、その音色は漸く安寧を得た。再会を喜び、共に酒を酌み交わしているだろう故人達を思い、笑い合う。
私の体はもう、震えて等いない。愛しくて、恋しくて、求め続けている温もりに包まれて、独りでは無いのだと実感する。
その時声が聞こえて幾度と無く繰り返していた口付けの中で突然正気に帰った私は、思わずルフィを突き飛ばしてウェイバーに飛び乗る。それから深呼吸して声の主に振り向いた。
「ナミさーん!」
「コニス!無事だったのね!」
そんな私にルフィは少し膨れた様子を見せてから、小さく仕方ねェかなんて溜息と共に呟いて立ち上がった。それから皆のいる方角に3人で歩き出すと、ルフィが食べ物に関してのみ反応させられる嗅覚でもって見付けた食料庫に飛び込んで行く。
ルフィが肉とかを食べているのを見ながら、珍しい調味料や懐かしい調味料を見付けて近くにあった布で包んで行けば、後はサンジ君がどうにかしてくれるだろうと小さく笑う。食料もある程度纏めて、2つをもって、1つを背負って貰おうとルフィを荷物運びに勝手に組み込んで、軽いけど嵩張る物をコニスに持たせようとやはり纏めていく。
そんな私とルフィの様子に、コニスは目を白黒させていたけど、これから宴になると思うからと言えば納得した様子で笑ってくれた。それぞれが持てるだけの食料を持って戻れば、麦藁の1味は全員意識を取り戻していてホッと息を吐き出す。
こんな時いつも思うのは、彼等の凄まじい生命力だ。私にはそれが無い。
このメンバーについて行く為にも、私はまだまだ強くならないといけないと決意を新たに1人で頷いていたら、ルフィが呆れたような顔をしていた。今になって疲れが出たのかしら?
「ナミはジコヒョーカを改めた方がいいと思うぞ。ぜってェナミは〝村娘A〟じゃねェから」
何を言ってるのか、このゴム人間は。私はか弱い普通より大分可愛い村娘よと内心で言い返してから、皆に向かって手を振る。
食料庫の話をして、宴の準備を始める皆に少しだけ休ませて欲しいと頼んでから、シャンクスのコートを脱いで木に寄りかかる形で腰を下ろせば、チョッパーが慌てた様子で駆け寄ってきた。その手には救急セットがあって、見れば私の腕に巻いていた包帯は既に黒く変色していて参ったなぁと思う。
心配かけたくなかったけど、シャンクスのコート汚したくないし。でも、流石に少しこの痛みはツラい。
鈍痛が私の腕にある。それにより生きてると実感出来るのだけど、チョッパーの顔が泣きそうに歪んでいるから、私は微笑みかける。
「ナミ……」
心配してくれる仲間がいる。大切に想ってくれる友がいる。
だから私は、素直に言葉を口に出来るようになって来た。これでも、随分。
「……少し、つらいわ。治療して貰える?」
「当たり前だ!バカやろー!」
半泣きでそう言ったチョッパーが私の包帯を外して治療をしてくれる。それを心配そうに見詰めてくれる暖かな視線がある。
そんな幸せな空間で、私は笑う。本当に私は恵まれてると実感しながら、幸福を噛み締めるように。