とは言え全18話しか無いですけどね。
新たな船出
空島からの落下中、それぞれが気の抜けた状態で過ごしていたら、突然タコバルーンが萎み始めた。それに気付いたルフィが慌てて指示を出す。
「全員メリーにしがみつけ!」
ルフィの声で皆がメリーの何処かにしがみつけば、それを待っていたかのようにメリーは海へと落下して行く。落下の衝撃で水飛沫と呼ぶには盛大すぎる海水が降り注ぎ、甲板とその場に居た全員が海水にのまれる。
能力者達が海に落ちてないかをそれぞれが即座に確認して、全員の無事を確認出来た時私達は
それでも、髪の毛の水を雑巾を絞るようにして絞りつつ海を見れば、青い色がついている事に気付く。今まで真っ白な雲海を見続けて居たからか、何となく感慨深い。
空島でも宴の間に網を下ろして空魚を捕まえていたし、食料も結構空島で貰えているから、とりあえず食べる物に困る事は暫く無さそうなのもありホッと息を吐く。皆もそれぞれが思い出を胸に空を見上げているのを眺めて、私はゆったりとした足取りで階段を上る。
そこで重たくなってる服を絞って水を出していたら、波の様子がおかしいと気付く。それに慌てて声を出そうとしたら、ルフィが号令をかける。
まるで分かっているかのようなタイミングに笑いながら見ていれば、ウソップが少し休みたいなんて言う。でもごめんね、常に人手不足なこの船に休んで居られる要員なんて1人も居ないのよ。
「ここは、そんなに優しい海じゃないでしょ!急いで!取り舵!」
予想していた通りに波が襲い掛かってくる。それをよく見てみればシーモンキーで、あれまぁと何処かのおばあちゃんみたいに思いながら、波から逃げる。
今のメリーには、こんな程度の衝撃だって命取りだと思うから、私としては必死だ。でも、シーモンキーはそんな事お構い無しで追いかけて来る。
彼等はただ遊んで欲しいだけで、波を起こして鬼ごっこしてる感覚なのだとは知ってるのだけど。それでもメリーを進める方向をそれに左右させては、今度は偉大なる航路の気候変動により苦労する事になる。
だからとログの示す方に進ませ続けて行けば、シーモンキーは途中で満足したのか疲れたのかは不明だけどそっと離れていく。気候もその直後には安定したので、恐らくは次の島の領域に入ったのだろうと分かる。
それにより漸く少し休めそうだとなった私達は、それぞれが漸く着替えたり、お風呂に入ったり、遊んだりと少し自由な時間を過ごす事になる。私はお風呂に入って着替えてから、ウェイバーをチョッパーに下ろしてもらった。
それにルフィが挑戦すると言うけど、危険すぎると私とゾロとサンジ君の声が重なる。それでもルフィは言い出したら聞かないので、仕方ないかと皆で揃ってルフィを見守る事になった。
本当は私が試す予定だったのにと思って見ていたら、ロビンが楽しそうに笑っているのが見えた。それによりロビンに声をかけようとしたら、ロビンの方から近付いてきてくれる。
「この船は、本当にいつも楽しいわね。新しい島につく事だけで、それが冒険になる。何も無い海で、皆が笑ったり心配したりする」
「そうね、それに人数の比率で考えたら悪魔の実の能力者が多過ぎるから、生身の組はいつも気を揉むのよ」
「あら、なら……まさか、私も心配かけてたの?」
「当然じゃない。この船の
私の言葉にロビンは驚いたような顔をしてから、可笑しそうに笑う。その笑顔が明るくて、無邪気で、それにホッとしてしまうのは、ロビンの抱える物が大き過ぎると知っているから。
「この船の頭脳は、ナミだと思うわよ。でも、そうね……この船なら、私も存在しても許される様な気がするわ」
「何言ってるのよ。ロビンは居てくれないと困るわ。〝許される〟なんてレベルじゃなくて〝居てくれないと困る〟のよ!……ところで、私の荷物にあった筈のコート知らない?」
「それなら、ルフィが部屋に探しに来てたから隠しておいたわ」
「渡したんじゃなくて、隠したの?」
「当たり前でしょう。捨てられそうだと分かる物を渡せないわ。……だって、あれナミの大切な物でしょう。大切そうに抱き締めてたものね」
……いつ、そんな事しましたか?
いやまぁ、抱き締めてた事は、多分何度かあったとは思うけど……でも、それは遠くに居る家族を想うからであって……その、深い意味は無いのよ。そう思うのに何故か、罪悪感があるのよね。
「後で隠した場所だけ教えておくわ。ボロボロにされたり捨てられたらナミが泣くんじゃないかと思ったら、クローゼットには戻せないもの」
「ありがとう、ロビン……」
私の言葉を聞いてロビンは優しく、風に向かって語りかけるように話し始めた。風は穏やかに吹いて、ロビンと私の髪を揺らす。
「私はね、ナミが浮気するとか考えて無いのよ。勿論、ルフィもそうだと思うわ。……それでもね、多分ルフィは不安になるのよ」
「浮気を疑ってないなら、どうして不安になるの?」
よく分からなくて問いかければ、ロビンは1瞬戸惑ったように手をさ迷わせてから優しく私を抱き締める。その体や腕が、少し震えていてどうしたのだろうかと思う。
「ナミは、愛情が深過ぎるのよ。愛が強すぎて、受けるには戸惑い、失うには恐怖で……。それを手にしてからは、他に同じように向けられる強いそれを目の当たりにして、臆病になるの」
「私、傷付けてるの?どうたら、苦しめなくてすむ?直せるなら直すから、教えて。悲しませたり苦しめたり「貴女は……綺麗すぎるのよ」」
遮られた言葉は、少し揺れていた。ロビンは痛みに耐えて、泣くのを我慢してるような顔で私を見詰めてから、私を強く抱きしめて……少しの間無言になった。
波の音が聞こえて、風が優しく包むように吹き抜ける。天候に変動の予兆は無くて、だからロビンの唇が何かを伝えようと動くまで、私は大人しくその場にいる事にした。
「……強過ぎる薬が毒になり、中毒を引き起こすように、ナミの愛は強過ぎて、でも1度触れたら失いたく無くなってしまうのよ」
「直せるような事じゃないのね……」
「えぇ、でもだからこそ、私もまたナミだけは信じられるし、守りたいと思うのよ」
「ロビン……」
「ナミ……」
互いの体に腕を回し合った時、ルフィが水没したと騒がしくなりウソップが助けに行ったのを知る。それにより私とロビンは腕を離して、どちらからともなく笑い出す。
「ロビン、大好きよ」
「私もよ、ナミ」
クスクスと笑いながら言い合うと、楽しそうですねと言いながらサンジ君が飲み物を持ってきてくれて、それをお礼を伝えつつ受け取る。ウソップに助けられたルフィをチョッパーが診察して、それを見ながらゾロがルフィを叱っていて、何だかとても幸せな気持ちになる。
グラスをロビンが預かってくれたので、私はルフィの代わりにウェイバーを操縦してみる。雲海も雲ではあったけど波はあった、そういう意味では問題無いけど……高波とかがない雲海とはやはり少し勝手は違うようだ。
とりあえず何かの時には問題なくウェイバーを使えそうだと分かり、ホッとして笑えば皆がメリーの上から声を掛けてくれる。暖かいそれに、私は作らなくても自然と笑えている事に気付く。
優しくて暖かい彼等に、私は何を返せるだろうか。彼等に何が出来るだろうか。
身代わりとしてでは無くて、私として……彼等に何かを返せたら良い。ナミちゃんの代わりではなくて、私が彼等と共にこの先へ進みたい。
メリーに戻ってみればウソップはダイアルのどれを使えるかと色々試していて、それにロビンが付き合っていた。そう言えば、私は強制的にだけど、ロビンは強制される事なくルフィだけは名前呼びに変わってる。
船長としてルフィを見られないからなんて事では恐らくは無いから、ロビンが信頼出来ると思えたって事なんだろうなと思う。でもそれって、凄い事なのよ、ルフィ……分かってる?
心で問いかけるだけだから、当然答えはない。その時ゾロがサンジ君からパンの耳を貰っていたようで、それを1人で食べているのが見える。
ならこの後の食事はサンドイッチねと小さく笑いつつ、パンの耳とかの余り物と呼ばれるもので作れるレシピ特集作ろうかしらと思いつく。何かを書けば書いた分、使える金額が増えて航海をして行くのに困らなくなると分かるから、書く事が余計に楽しく思える。
当然ゾロだけがパンの耳を食べていればルフィが黙っている筈も無くて、騒ぎ出してサンジ君の元へ向かう。そんな中でチョッパーは、ウェイバーを引き上げて片付けてくれている。
私はそんな皆を眺めつつ宝を食事室に運び込む。それを積み上げながらだいたいいくらになるかを計算して、1人でニンマリと笑みを浮かべた。
だいたい、7億ベリーって所ね。金の純度も高いし、細かい装飾もあるから、上手くやればもう少し増えるわ。
それから皆を呼び集めると、集まって来た皆が私の顔を見て煌めいた。貧乏航海からはこれでお別れよ!
「さぁてお待ちかね!お宝の山分けタイムよ!」
私の言葉を受けて皆が大はしゃぎで意見を言い始める。その時サンジ君が眼鏡を取り出して、すちゃっと装着すると算盤を取り出した。
眼鏡に弱い私はそれに1瞬ドキリとして、ルフィが眼鏡とか掛けたらどうなるだろうとか妙な事を考える。そんな阿呆な事を妄想してる間にサンジ君が必要と言うか、欲しい物と言うかを伝えて来るので、それを慌ててメモしていく。
……これは後でちゃんと話し合う必要がありそうね。鍋やフライパン等の消耗品である調理器具に、波とかによる落下等を含む色々な理由から減った食器、更には食料を害虫や鼠等から守る為の道具はどうしたって定期的に必要となる。
鼠対策ならば猫が有効だし、チョッパーもいるから意思の疎通も出来るだろうから居たら嬉しいなとは、正直思うけど……この船に猫を乗せるのは、猫の命が危険過ぎる。だから猫の案は無しよね。
チョッパーは本が欲しいと言う。私も可能な限りは書いてるけど、それだけでは足りないのは当然で、クルーの命を預かるチョッパーには考えるまでも無く必需品。
医療品も含めてこちらはお小遣いとは別に計算してきたけど、それは今後も変える事は出来ない。そうなると必要経費だけど固定経費ではないから、余裕を見て計算して置く必要がある。
ルフィとゾロの意見はこの際無視する。ウソップの話は半分聞いて、必要そうなものだけ計算に入れる。
「こういう時のナミって、怖いな……」
「この船の経理経済金銭管理は全てナミさんが1人で担ってる。逆らうなよ。小遣いの有無も心1つだ」
チョッパーとサンジ君の会話が聞こえるけど、メリーの修理費と言うか、新しい船の購入費も必要で……だとしたら……。嗚呼もう計算するのが、少しばかり面倒に思えて来たわ。
「まずとりあえず、私のヘソクリが8割でしょ!」
「「「「「待て待て待て待て!!」」」」」
考える事を少し放棄して冗談を口にすれば、男達の声が重なった。何だかんだと仲のいいクルーに小さく笑ってみるけど、その中にロビンは加わる事無くただ微笑んでいるだけだと分かる。
「冗談よ」
気分を変える為に言葉を口にすると、当然だと突っ込まれた。それにクスクスと笑えば、ルフィから笑えばなんでも許されると思うなよと言われてしまった。
さて取り敢えずは、真面目な話をしないといけないわね。メリーの修理費として話を持って行くしかない事は、頭では分かってる。
でも、それが本当はメリーとの別れを診断してもらう行為だとも、知ってるの。だから迷うけど、どちらにしても必要な事だからと心を決めて私は顔を上げた。