ルフィの震えが落ち着いた頃、海の気候も穏やかになった。それにより遊んで来なさいと笑いかければルフィは小さく、すぐ姉に戻っちまうなんてブツブツ言いながら私の元を離れて行く。
それを見送りつつ私は気候も安定したならと思い、皆に声を掛ける。この僅かな時間でルフィは既に遊び始めていて、本当に子供は遊びの天才だと笑ってしまう。
「島が近い筈よ!」
「あら、ナミ?島ならもう見えてるわよ」
「ロビン!?そう言う時はちゃんと言えよ!良いか、島が見えた時は……」
なんてルフィがロビンに講釈垂れ始めたのを聞き流しつつ、ロビンの方へと歩み寄る。ロビンは霧が深いわと言うので私も島の方に視線を向ける。
霧と言われてブルックを思い出したけど、そう言う類じゃなさそうで、少しホッとする。本当にオバケとか駄目なのよねぇ……。
はしゃぐ皆を眺めながらロビンと共に並んで島を眺めていると、さほど時間がかかる事も無くメリーは島に到着した。その島は、草原の広がる島である事が見て取れる。
ただし全てのものが細長くて動植物が細長いが故に、木の実を得るのも難しいかもしれないと思わされる。叶うなら果物を少し入手して、果実酒やジャム等を保存用に作って、その他にパイとかお茶を楽しみたかったのだけど。
溜息を落としつつ、でもルフィとウソップなら簡単に収穫出来るかと思い立ち視線を向けたら、既にルフィとウソップと言う今回力になって欲しかった2人の姿が無くなっていた。
「遅かったか……!」
「どうしたんだい、ナミさん」
「この島は木が高いから、木の実をね、ルフィとウソップに取ってもらおうと思ってたのよ……」
「あァ……それは、残念でしたね。まァ、そのうち帰ってきますよ」
慰めるように言ってくれるサンジ君にありがとうと笑えば、ゾロが錨を下ろしてくれてるのが見えた。それからとりあえずこの場に残っているメンバーに、近くで木の実を集めて欲しいのだと理由と共に話せば、揃って船を降りる事になった。
船を降りて歩きだそうとしたその時、メリーを挟むようにして船を泊める愚か者が現れ、無意識でそれを短剣で斬り道を作れば叫ばれてしまった。でもね、先に喧嘩売ってきたのはそっちでしょ。
「私の船にちょっかい出そうだなんて、いい度胸してるじゃない」
「待て待て落ち着け!俺達はゲームの申し入れをしたくてだな!」
「……それの決定権は船長にしかないわ。どちらを選ぶかは船長判断でしょ。だからこそ、私の船の進路妨害はさせない。それとも……私達と〝普通〟に戦ってみる?」
私の言葉に同意するように、仲間達が戦意を顕にする。このゲームは人の奪い合い。
新しく欲しい人材も思い付かないし、誰1人奪われて良い人は居ない。でも、ルフィが……理由は忘れたけどこのゲームを受けてしまう事だけは覚えてるし、知識によればチョッパーを失う事になる。
なればこそ、私としては叶うならこの場で普通の戦闘に切り替えてしまいたいのよね。でもお祭りとしてコイツらが屋台を建て始めれば、もうどうにもならないと気付いてしまう。
仕方無く武器を戻して、代わりに皆にはお小遣いを渡して、今回は買い出しは無いから単純なお小遣いとしての為だけに全員同額を渡して行く。ルフィ達が帰ったら同じだけ渡してあげなきゃと思っていたら、チョッパーが楽しそうに綿飴を手にしているのが見えた。
どうやらサンジ君がロビンに渡した綿飴が、チョッパーにスライドしたらしい。可愛い顔で喜んでるチョッパーを見て、チョッパーが喜んでるからとりあえずは良いかなと思う。
サンジ君は当然のように私にも綿飴をくれたけど、1口食べてみたら何だか切なくなった。綿飴自体は懐かしいけど、慣れないイチゴ味だからなのかも知れないわね。
その時丁度チョッパーが綿飴を食べ切った所だったので、チョッパーに私の綿飴も差し出せば、瞳を輝かせて喜んでくれた。それによりサンジ君を呼び、綿飴を作れるか確認すると作れますけどなんて言われる。
「今度、チョッパーにたまに作ってあげて。喜ぶから」
「ナミさんは、チョッパーとルフィに甘過ぎますよ」
「……サンジ君、お願い」
「喜んでー!」
そんな会話をしつつ待っていればルフィ達が帰って来て、やはりゲームを受けたと言う。なので私は帰って来たメンバーにお小遣いを渡しつつ、ウソップに船底に隠せる最大サイズの鏡を用意するように頼む。
それによりウソップは何かを感じたらしく、即座に動いてくれた。私はそれからゲームの名前から内容を判断して、皆で参加するそれを選んで行く。
参加人数を考えると、全員参加が余儀なくされている事が解る。それを見ながら、最初のゲームは私の腕の見せどころねと笑みを浮かべれば、ロビンがなら私もそれに参加するわなんて言ってくれる。
そうして私達は、参加したくもないゲームに参加する事が決まった。どうしてナミちゃんが負けたのかは、イマイチ分からないけど、相手が色々な手段で邪魔立てしてくる事は分かってるし、ノロノロビームなるものを使ってくるのも分かってる。
チョッパーを見て、必ず勝つと決意する。それから私とロビン、ウソップが船に乗り込むと、レースは開始された。
必死に漕いで陸から離れるけど、魚に対してで考えると随分と不利で、しかも私はその魚人を見た時知らない魚人なのに1瞬体に、力が入らなくなったのだから救えない。震える私にロビンは1瞬その瞳を細めて、それからニッコリと微笑んだ。
攻撃してもいいのよね?なんて笑って。
何がロビンの琴線に触れたのでしょうか?
怖いです。ロビンが怖いです!
そんな私の気持ちをさらに落とそうとするかのように、相手が攻撃を仕掛けてきて、ロビンはふふふと笑った。それにより私とウソップは、恐怖の余りただ無心で漕ぐしか出来なくなる。
「さァ、反撃の時間よ……クラッチ!」
それでも距離は少しずつ離れて行くし、樽も減らされる。どうしたらいいかと焦る私の目の前で、1気に1瞬でウソップが距離を縮めそのまま追い抜いたので驚いて視線を向ければ、インパクトダイアルでそれを成したと解る。
その痛みに悶えるウソップからインパクトダイアルを借りて、成程と思う。その間にまたもや抜き返されてしまうけど、それに対してロビンが相手の船に掴まり休憩しつつ先へと進み始めた。
相手に気づかれる迄のその間にウソップの事を簡易的にだけど治療すれば、ロビンが何だか楽しそうにしている。そして、こんなに楽しい気持ちになるは、初めてのような気がするわなんて微笑むから何故だか泣きたくなった。
そんな時に相手に気付かれてしまい、結局残念だけどと言ってロビンが手を戻すと、ロビンの手を捕まえようとした相手さんが勢い余って落下した。それを助ける為に相手の魚人が進むのをやめたので、その間に此方は距離を稼ぐ。
でもこのままでは少し危ないわね……。どうにかならないかしら?
そんな事を考えながら進むと、珊瑚礁が大量にある海域にぶつかった。その場所は渦が出来ていて、じっとそれを見据える。
渦を見て経路を探る。全体が見渡せるこれは既に、子供が良くやる迷路ゲームと同じ方式だ。
まぁ、子供用に比べると少しばかり難易度が高いけど。その為に漕ぐのを辞めて渦を見る。
「見付けた!行くわよ!」
2人は私の指示に従い漕いでくれる。それにより途中からは相手が煙幕を妨害の為に放って来ても既に無意味。
でも……問題はここから。深呼吸して、インパクトダイアルを構える。
何も、心の準備をしなかった空島の時とは違う。銃よりも威力がある事を分かっていて、そのつもりで使えば問題は無い筈よ。
「ウソップ、ロビン、この先私漕げなくなるから、任せちゃう事になる。許してね」
「は?ナミお前何言って……」
「船縁に掴まって!」
私の言葉に本能的なのか何なのか、咄嗟に従ってくれた2人の目の前でインパクトダイアルを用いて1気に距離を稼げば、後は2人に任せる他ない。空島の時のような怪我はしなかったけど、やはりすぐには動かせそうも無くて、もう少し鍛えないといけないわねと思う。
その時妙な看板が見えて来て、それにウソップが反応するのを1喝して先に進ませる。ここで、この程度で勝てるならそもそもナミちゃんが負ける筈ないし、こんなわかりやすい罠に掛かるのはウソップとルフィとチョッパー位なものよ!
……あれ?
それってさり気無く1味の半数?
そんな事を考えていたらアナウンスが聞こえてきた。それは煽る為なのかとも思うけど、少しばかり耳障りだ。
「なんと敗れた!オヤビン十八番の嘘指示大作戦!これは手強い!この世の全てを信じない女なのか!」
そんな中で2人は何故か私を睨み付けながら苛立ちを隠さずにその怒りを原動力に、それ迄の比では無い速度で漕いでくれている。でも、なんか、後が怖い気がするのは……何故?
変な小細工は全て私の指示で無視して進む事となり、それに合わせてアナウンスは騒ぐ。その言葉に合わせるかのように、ロビンの腕が数を増やした。
「血も涙もない女!航海士ナミ!」
「……こんなゲーム、早く終わらせましょうね。ナミを罵倒した罪、シッカリと償ってもらいましょう」
そう言ってアナウンスに視線を向けたロビンは、微笑みを讃えているのにそれが何故か恐ろしい。アナウンスはそれを見て悲鳴を上げて暫し沈黙してから、ボソリとすみませんでしたと謝った。
……ロビンって凄い。
その後ゴールの看板を見てウソップが騙されかけるも、そこも無視して進むように言って完全無視すれば、そこでまたもやアナウンスは騒いだ。……懲りないわね。
「ここで彼女に問いたい!信じる心って何ですか?既に外道!」
その偽ゴールや迂回看板を破壊せずに進んだ事で、後続となっていた相手チームは迂回させられた上に偽ゴールで止まると言う事になって、随分と時間を稼げたのだから変な小細工に内心感謝してたりはする。もしもこれが普通のレースならば、元の速度が違い過ぎて勝てない事は間違い無かった。
ゴール付近の竹を目指して進んで貰うと、竹を過ぎた所でウソップに頼んでその竹を倒して貰う。それにより相手チームは竹に妨害されて、また少しの距離を稼げる。
腕はまだ少しばかり痛むけど、この程度で諦められる筈も無い。私は仲間を失うつもりなんて無いのだから!
そうは思っても腕は上手く動かせず、相手との距離は見る間に縮まって行く。やはり魚人が相手では恐ろしく不利だわ。
後少しでゴールと言うところで、敵の親分が現れた。私はそれを見て漕いでいる2人にそれを中断させない為にも、鏡に手を伸ばして立ち上がる。
それを見て1瞬嫌な笑い方をした相手の船長は、けれども能力を使って来たから鏡を構えてそれを受けると、そっとその角度を変えて相手のチームに向ける。自らの能力で、自らの選手を遅くした親分は茫然自失となり、遅くされた彼等はウソップとロビンの漕ぐ速度に追い付けなくなった為、何とかこのゲームは勝利を収める事が出来た。
帰った私は心配そうな顔で駆け寄るサンジ君と、泣きながら駆け寄ってくるチョッパー、そして無言で睨み付けてくるルフィ、ゾロ、ウソップと、何故か微笑みを浮かべているロビンに囲まれてしまう。その状況で、私に引き攣った笑みを浮かべる他に、どんな選択肢があったのだろうか。