それぞれから叱られて、小さくなる私。そこでこちらの状況を理解せずに、何処か必死な様子で勝ったんだから誰が欲しいか言えと言ってくる相手の1味に対して、私以外の全員が声を揃えた。
「「「「「「五月蝿い!今は
此方の1味の剣幕におされてか黙る相手チーム。皆が怖いんだなぁ、うん分かるよ……と現実逃避する事も許されずに、怒れる仲間に叱られてる私です。
「だって!私、誰も失いたくないし、私もあんな奴らの所に行きたくないもの!必死になって何がおかしいのよ!私は……皆と1緒にいたいだけなのに……」
思わず口にした言葉で皆が黙った。また怒られるのかと俯けば、チョッパーの足音が聞こえて、次の瞬間には私の手を治療し始める。
驚いて視線を上げるとチョッパーが頭ごなしに怒ってごめんと言ってくれて、ウソップは私からダイアルを回収しつつ俺様も居るんだから頼れと言ってくれる。どうしたのかと思っていたら、ロビンが突然クスクスと笑い出した。
「ロビン?」
「ナミには、勝てないわね。私もナミとずっと1緒にいたいわ」
「ロビン!」
思わず抱きつこうとしたら治療中だとチョッパーに叱られ、ゾロは無言で視線をそらして、サンジ君は苦笑している。そしてルフィは、困ったような顔で笑っていた。
「ナミさん、俺達も負けません。だから、そんなに1人で頑張らないでください」
「言われるまで気付かなくて、ごめん。そうだよな、負けたら……仲間を奪われるんだよな……」
サンジ君とルフィが口々にそう言って、優しい視線を向けて来るから少し居た堪れないような気持ちになる。そんな私達に割れ頭達がそろそろ選んで頂けますかなんて声を掛けて来るから、次の試合が終わるまで保留と言えばとりあえずは落ち着いた。
そうしてゾロ、サンジ君、チョッパーの3人が戦い始めたのを眺める。ルフィは観戦もせずに屋台巡りをしているけど、それだけ必ず勝つと信じて疑ってないからなんだろうなと思えば、それだけ信頼されてる事が少し羨ましく思える。
ここの屋台は食べ物や飲み物は無料だと言うのもあり、ルフィはそれに大興奮で全種類を食べ尽くしたいと言う事もあるかも知れないけど。主に肉系は多目に貰い、それ以外は1個ずつ貰って食べ歩いてる姿に、今日の食費が随分浮いたわねなんて考えてしまう。
航海士としては気にする所がおかしい事をちゃんと自覚してるけど、こればかりは仕方ないと思う。このゲームを主催している割れ頭達が無料で屋台を提供してくれてるのだから、利用しない手はないもの。
それにこの後ルフィには戦ってもらう可能性が高いのだから、食べておいて貰わないと空腹だとルフィは弱くなるので、思う存分食べて欲しいところである。私は売られているものは基本的に怖くて手を出せないけど、ルフィは元々そんなに毒が効かないから大丈夫だろうと思う。
ウソップは戦い終わったら食えるようにって言いながら途中で買物に向かったので、私はすぐに仕事放棄する審判からカードと笛を奪い取る事で小さな手助けをする。後は試合終了の合図が必要かなって時に、笛が落ちてたふうを装って笛を差し出せば、試合終了の合図となりゾロ、サンジ君、チョッパーの勝利とする事が出来た。
でもこの時点で次にルフィが負けて誰か取られても、此方の権利でそれを奪い返せるから、戦う理由が無くなっている。ならばと思い私は時短の為に、そして、ルフィが怪我をせずに済むように口を開く。
「次の試合負けた事にしていいからさ、こっちの権利1つとそっちの権利1つの相殺で終わりでいいんじゃない?もう無駄だし」
その瞬間無駄とは何だとか、最後まで戦えとか言われる。でも、本当に欲しい人とか居ないし。戦ってルフィが負ける姿とか見たくないし、勝ったら勝ったで何かを対応しないとでしょ?
そう思ったら本当に面倒なのよね。此方としては奪われなければそれでいいのだから、これ以上の戦いは無意味なのよ。
「なら……相手さんの船長を貰えば不戦勝になるわよね。そうする?」
次の案として出したのに、またもやブーイングが起きてしまう。そして放送まで入れば流石に困ってしまう。
「ピーナッツ戦法だ!信じ難い耳を疑う悪魔の提案!人にあらず!その女、その名も航海士ナミ!」
そのまま散々罵られた私は、ロビンの胸に飛び込んで泣き真似してみる。それに合わせてロビンが慰めるように撫でてくれるから、少しそのままじゃれていたらウソップとチョッパーもそれで解決じゃねェかと同意してくれたのに、まだ私だけを悪く言う奴らにいい加減イライラして来た。
色々言う奴をサンジ君が怒ってくれるけど、ゾロはナミがこれは悪ィだろとか言うのである。まぁ、私が悪いのは分かってるけど、楽して得するって普通じゃないのかしら?
「ゾロがイヂメた。泣いてやる」
「おいコラ、巫山戯んな」
少し拗ねたように言ってからクスクスと笑い、そのまま視線を騒ぐヤツらに向ける。いい加減ウザイのよね。
「五月蝿いってのよアンタ達!!調子乗ってんじゃないわよ!」
怒りに任せて言葉を口にすれば、その場は1気に静まり返る。その後普通にロビンが問い掛けてきて、結果だけ言うならその話は無しになった。
「ねェナミ、その提案も素敵だし楽なんだけどね、同時に問題があるのよ。オヤビンが仲間になっちゃうわ」
「あ」
「「「「「アイツはいらねェ」」」」」
男達全員の声が揃った。それから少し相手とも話したけど、ルフィも何か退けない訳があってこのゲームを受けたようで、絶対に負けねェから戦わせてくれと言うので仕方なく頷いた。
「ルフィ、気を付けてね」
「おゥ!ナミはどうするんだ?」
「ルフィの帰りを待ってるわよ。何を貰うべきか相談しながらね」
そう言って笑うとルフィは私の頭に帽子を被せて、その勢いのまま唇を重ねてくる。1瞬だけ触れた程度だけど、こんなに人がいるのに何をするのか!
「なに、す……!」
「ん?なにって、ナミが居たからキスしただけだぞ?帽子頼むな」
……なに、その、登山家が山があったから登りましたみたいな反応は。私がいたら、キスするのが当たり前みたいな……!
その場で蹲る私の隣で、ロビンがあらあらとか言いながら寄り添うように立っていてくれる。そんなロビンに抱き着くと、ロビンが楽しそうに笑った。
「ルフィの気持ち、分からなくもないわ。私もナミがいたらつい、触れたくなるもの」
「ロビンまでそんな事言ってー!ロビンのばぁか!」
子供のようにそう言い捨ててチョッパーに抱き着くと、チョッパーがロビンってすげェとか言ってるけど、既に意味が分からない。そんな私にロビンはクスクスと笑って、甘えて貰えて嬉しいわなんて言う。
私とロビンが並んで座り、チョッパーが私の膝に座ると、私の逆隣にはゾロが腰掛けた。どうやらチョッパーと私の護衛をしてくれてるつもりらしい。
私は最前列に座っていたのだけど、その真後ろにはウソップが座り、色々買ってきてくれたサンジ君がウソップの隣に座った。それから少し話をしたら、ウソップがルフィのセコンドに向かう事になり、全て勝利で終わったら食料品と医療品を貰いましょうとの話で落ち着いた。
欲しい人材は居ないけど、欲しい物は沢山ある。だからどうしたって消耗品は、少しでも安く手に入れたいところだもん。
消耗品以外の物はその時は高くても長持ちする高い物を揃えた方が良いけど、消耗品は安くてその時使えればってのが私にはある。勿論妥協できないと言われればそれは受け入れるけどね。
だって私もインクは消耗品だけど、妥協なんて出来ないもの。安いインクなんて、使えないわよ本当に。
臭いし、紙はダメになるし、すぐに滲むのだから。紙だってそう、粗悪品ではペンが引っかかって穴が空いたりしてしまうし、ペン先に余計な負荷がかかってしまうのよ。
って、そんな話はどうでも良いのよ!
今は何を貰うかね。医療品と食料品は消耗品の代表選手だから貰うとして、調理器具は新品の良いものをサンジ君に選んでもらいたいから手垢のついた物はいらない。
衣服や布も消耗品だけどいらないわよね。楽器はとりあえず1通りあるし、武器はそれぞれが持ってる。紙とインクは私のこだわりと違ったら使えないし……。
そうなると最後の1つが決まらないのよね。……ルフィに任せてみようかと投げやりな気持ちで口にすると、皆がそれは面白そうなんて言って話が纏まった。
ルフィの戦いの大半は見えなくて、それをサンジ君が用意してくれたポップコーンと飲み物のセットを楽しみながら眺める。チョッパーのはイチゴ味で、私のはキャラメル味、ロビンのは塩味らしい。
ポップコーンのイチゴ味って何よと少し思ったけど、細かい事気にしてたらこの世界では生きられないから頭の片隅に追いやって、チョッパーと1口ずつポップコーンを交換して味見していたら、ロビンも1口くれたので同じように返す。そうしていたらチョッパーも同じようにロビンと交換して、結局自分のを残りは食べるという事になった。
「なんか……今俺の目の前でアットホームなやり取りが行われていた気がする」
「くそコック、安心しろ。コイツらはいつもだ」
「なに!?」
「お前作ってる事が多いから、見る機会少ねェだけだろ。ロビンとナミの分は特別メニュー味で変えてるからって理由で、交換してるのはよくあるぞ」
「俺も、1口ずついつも貰ってるぞ?」
チョッパーがその会話に加わると、チョッパーの分は用意してるだろうがと言うけど、味が違うもの。
「チョッパーのはいつもイチゴベースでしょ?私のはその日によって違うけど、蜜柑ベースが多いし、ロビンのは爽やかとかスッキリ系。だから皆で交換して食べてるのよ?」
「えぇ、いつもナミを美味しく食べてるわ。ありがとう、コックさん」
ロビンの言葉にサンジ君は頷いて、それから首を傾げた。あれ?と言いながら。
「今ロビンちゃん、ナミさん〝を〟食べてるって言いました?」
「あら?言い間違えたかしら?ナミ〝と〟ね?」
楽しそうにロビンは笑う。そしてそんな穏やかな私達の視線の先には何故かアフロヘアーのルフィが居るのだ。
アフロって実際に天然であれば仕方ないけど、それじゃない場合埃も絡みやすいし、静電気溜め込むし、手入れを怠ると虫が住み着きやすいからいい事ないと思うんだけど……何故か男達は大盛り上がり。どうにも理解できないわ。
戦いが始まるとルフィがどうしたって傷付く。傷付けてるのだから、傷付くのも当然なのだけど……見ていて時につらくなる。
視線をチョッパーに向けるとポップコーンが空になろうとしていて、チョッパーを自分の座っていたところに座らせると私の食べかけをそこの中に入れて、食べて待っててと声を掛ける。それにチョッパーが頷くから、私はチョッパーの為にと飲み物とポップコーンを購入しに向かう。
メリーに戻ったら歯を磨くのだけはさせなきゃと思っていたら、サンジ君がついてきていて買ったものを持ってくれた。さり気ないその気遣いに微笑みを向けたら、サンジ君が少し低い声で言葉を口にした。
「1人で動かないでください。このゲームに夢中に見えますけど、相手も海賊。何をさせるか分かりませんよ」
「そうね、ありがとう」
「ポップコーンとか、毒味しないで食べてたので少し心配になりました。もう、警戒しないでも食べられるようになったんですか?」
心配そうに聞いてきたその言葉に、気付かれてたかと笑ってしまう。流石は料理人だわ。
「サンジ君が持ってきたから、多分先に毒味したか安全だと思った物しか私には渡さないと思ってたのよ。……違った?」
「……作るところや容器に入れる所は確認して、問題無いと判断して買いましたが……どうして?」
「私はね、皆の事は信用してるの。だから、多分そうじゃないかなって思って」
サンジ君は少しだけ黙ると、小さくかなわないなと呟く。飲み物は全員分追加で購入して、そうして戻れば即座にそれは配られる。
サンジ君は、何についてかなわないなんて言ったんだろう。少し気になるけど、サンジ君も私を好きだと……そう言ってたから、あまり無遠慮に近づくのはどうかなと少し思ってたりはする。
でもね、どうしたってサンジ君とは顔を付き合わせて相談しないと、この船においてはどうにもならないのよねと思いながら小さく笑っていたら、ロビンが穏やかな笑みを向けて来た。こんな時間が長く続けばいいのに。
悲しい決意も、哀しい決断も、決別も、責任も、何もなくただ楽しい時間を過ごせたら良いのに。でも本当は分かってる……どれもこれも、私を含めた全員の成長に必要なんだって事を頭では……理解、しているのよ。