※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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勝てない戦い

 とりあえずは青雉の言葉に従い、私達は揃って老人の荷造りを手伝う事になった。ロビンは常に青雉の様子を伺っていて表情が硬くなっているけど、こればかりはどうにも出来ない。

 ……ロビンの傍にいて、イザとなったらロビンを護らなきゃ。青雉に会う今回の情報は無くても、ロビンの過去を知ってるから怖がる理由だって充分に分かる。

 戦ったってかなわない事も、よく分かってる。それでも私は、ロビンを奪われるつもりなんて無いのよ……!

 

 「美女2人にそう警戒されると、心が痛むな。……で、どうよ。今夜?」

 「「巫山戯んなー!」」

 

 ウソップとサンジ君の声が重なる。それを聞きながら私はそっとロビンを庇うように立つと、クリマタクトを握り締めた。

 そんな私に青雉は瞳を細めると低く問い掛けてくる。それだけの事なのに、体に緊張が走る。

 

 「……そんなに、俺が怖いか?」

 「えぇ、怖いわね。その肩書きと悪魔の実の能力が、本当に怖いわ」

 「……ニコ・ロビンは兎も角、お姉ちゃんも情報で生き抜いてる口か。成程なァ」

 

 それから青雉は黙り、何も言わなくなった。それを見てロビンは体を微かに震わせるから、私はロビンをそっと抱き締める。

 必ず守るからと、死なせたりしないからと心に誓って。そうして荷造りを終えた私達は青雉に促されるままに海岸へ向かうと、そこで青雉の能力を目の当たりにする事となった。

 暖かい姿で馬と共に老人は笑顔で去って行き、それを皆が嬉しそうに楽しそうに見送る。それは本当に皆が嬉しそうで、楽しそうで、気持ちが少し穏やかになるのが自分で分かる。

 そこで突然それ迄と雰囲気を少し変えた青雉が、ルフィに声をかけた事で私達は動きを止める。ルフィも何かを感じ取ったようで、お気楽な雰囲気が霧散したのが分かる。

 

 「爺さんそっくりだな」

 

 ルフィが寒いのに汗かいてる。……ガープさん優しいのに、どうしてこんなに怯えた様子なのかしら?

 そして少しの雑談の後で、青雉は言い放つ。

 

 「やっぱお前ら……今、死んどくか」

 

 それから青雉は褒めてるのかなんなのかわからない言葉を放ちながら、けれども恐らくその評価は客観的に見て間違いはない。この1味で唯1危険視されない存在がいるとしたら、それはチョッパーだけだろう。

 チョッパーは野生動物であり、船医。海軍としてはどうでもいい存在の筈だから。

 強さだけならば、手配される事の無い筈の私やチョッパー、ウソップだけど、私は〝宝玉〟の名があるし、アーロンを裏切ったと世間では判断されるだろう。泥棒としての私の名は東の海だけとはいえ、それなりに有名だしサイクロンの発生を予知できるのは稀有な能力。

 ウソップは父親が問題すぎる。赤髪海賊団のヤソップと言えば、知らない人は居ないのではないかと思われる程だから。

 サンジ君は今のところ表向きゼフさんの息子として認識されてるけど、実際はヴィンスモーク家だし、ゾロは賞金稼ぎとしてその名を轟かせていた。ロビンは今この世界で唯1、古代文字を読める貴重な存在で……ルフィは父親がドラゴンさんだ。

 本当に、仲良し海賊ごっこが許されるようなメンバーでは決して無い。よくもまぁこれだけ危険人物と認識されそうなのだけを集めたと、ルフィに少しばかり視線を向けてしまう。

 けれどもその話の流れでロビンが青雉に侮辱されれば、サンジ君が怒りにその身を包み、私は無言で雷雲を発生させた。言うに事欠いてロビンを……尻軽ですって!?

 

 「……女が1人で生き抜く事の大変さを、男は分からないのよ!何もして無くても襲われて、被害にあってもそれはそんな服着てたのが悪いだの、お前から誘ったんじゃないのかと民間人でも言われるのに……幼い頃から世界に狙われていたロビンが、侮辱される謂れはない!」

 「ナミ……」

 

 私の言葉にロビンが驚いた様子で名を呼んでいるのが聞こえるけど、止まれない。ロビンの事を何も知らない癖に、良くもそんな事を……!

 

 「悪いのは政府じゃない!ロビンには、何も非は無いのに、ロビンはただ……親に1言褒めて欲しかっただけ、抱き締めて欲しかっただけよ!子供が親にそれを求める事の何が罪だと言うの!?」

 

 思わず言葉が口をついてでる。私が〝知る筈のない〟当時のロビンの心を、私は〝知っている〟が故に黙っては居られなかった。

 

 「お姉ちゃん……何を、知ってる?」

 「……ロビンは何も悪くない事を、知っているわ。ロビンは貴方達に陥れられた単なる被害者よ!」

 「言ってくれるじゃねェの……」

 

 青雉がゆらりと立ち上がる。それに怯えた様子を見せたロビンが青雉に攻撃を仕掛けた事で、1気に戦闘になる。

 ロビンの攻撃は覇気を纏っていないから、青雉にはダメージとして残る事は無く、草を投げて造られた剣でロビンを斬ろうとする。そこに迷う事無く助けに入ったのは、ロビンを1番警戒していた筈のゾロで、そうしてゾロが動きを止めた間にサンジ君が蹴りを入れる。

 そうしている間にルフィが青雉の胴体に殴り掛かるけど……分かってる、このままじゃ全員やられる。だからこそ私は慌てて雷を青雉に落としてみるけど、サンジ君とゾロが凍らされないで開放された他には何1つ成果は無い。

 寧ろ私に視線を向けた青雉は、小さくゴロゴロの実か?なんて言ってくる始末。

 

 「ロギアなら、もう少し役立てたかしらね。でも、残念ながら私は普通に泳げるわ」

 「……成程、ただのボインねーちゃんじゃねェって事か。なら、纏めて相手してやるよ」

 

 言いながらゾロとサンジ君、ルフィの体の1部を凍らせると3人が動けない間に青雉はロビンにゆっくりと歩み寄る。それに慌てて間に入り、覇気を纏わせたクリマタクトで殴り付ける事でロビンを庇う。

 

 「……覇気使い、だと?」

 

 恐らくは青雉も久々に受けた痛みだったのだろう。それに、東の海のこそ泥がこんな風に戦えるとは思わなかったに違いない。

 

 「ロビンは、渡さない」

 「渡してもらわなくても構わねェさ。……殺して行くだけだ」

 「……なら、私も容赦はしないわ」

 「ほォ?」

 

 クリマタクトを腰に差して、代わりに短剣を引き抜く。その四肢、ロビンに手を出すと言うなら……切り落としてくれるわ!

 地を蹴り、向かってくる氷を躱しながら四肢の1つでも構わないから切り落とそうと剣を振るう。それに小さく舌打ちして、青雉は私から少し距離取った。

 

 「剣の扱い、中々に堂に入ってるじゃないのよ。おねーちゃん!」

 「お褒めに預かり光栄ですわ!大将さん!」

 

 会話をしつつも攻撃を止める事はしない。今やめたら、長期戦になる。

 それでは私に勝ち目はない。今の内に逃げて、ロビン!

 

 「いい仲間に出会ったな……。しかし、お前はお前だ。ニコ・ロビン」

 「違う……私はもう……!!」

 

 私を無視して青雉はロビンに近付く。海楼石の短剣を用いて戦っていて、それでもこの実力差。

 青雉の言葉をロビンが〝否定してくれた〟のに、私はロビンを守りたいのに!

 青雉に片手で簡単にいなされて、吹き飛ばされる。倒れた私を見て、男達3人の声が重なる。

 

 「「「ナミ!!」」さん!!」

 

 その間にロビンは青雉に抱き締められて、その姿を氷像に変えてしまう。体を起こして駆け寄ろうとするけど、それよりもロビンが凍る方が早い。

 

 「ロビン!!」

 「ロビン!!危ねェぞ!逃げろォ!!」

 「私は……」

 「ロビンちゃん!!」

 

 名を呼ぶしか出来ない私と、逃げろと叫んだルフィ、同じように名を呼んだサンジ君。ゾロは無言で、けれども怒っていない訳でもなんでもない。

 ルフィがそれに怒りの咆哮をあげると、青雉は喚くなと言う。そして説明しつつロビンを砕こうとした時、ルフィがギリギリでロビンを守った。

 そして、次なる攻撃からはウソップがロビンを守り、逃げ出した。ウソップが駆け出したのを見て、ルフィはウソップとチョッパーに船へ走るよう命じる。

 ロビンを助けろと。そんなルフィの声に応えて、2人は勢いよく駆け出すから、私は彼等を追わせない為に再び青雉に立ち向かう。

 

 「やめとけ。その女は、助けねェ方が世の為だ」

 「お言葉ですけど、おにーさん、そういうのの集まりよ。海賊なんて。それにね……世の中なんて、私達にはどうでもいいのよ。私達には、ロビンは失えない大切な仲間なんだから」

 「……名前は、なんだったかね、おねーちゃん?」

 「答える義理はないわ」

 

 短剣をその腕に突き立てれば、小さく舌打ちしてから私を蹴り飛ばして来る。それに覇気を纏ってダメージを軽減したら、クリマタクトに持ち替えて倒れ行く体を利用して下半身を砕く。

 覇気を纏わない事で1瞬素直に砕かれるその体は、僅かでも時間稼ぎをする事か出来るはず。そんな私のクリマタクトを青雉は掴み、ルフィ達の方へと青雉は私を平然と投げ飛ばした。

 

 「退いてくれるか、おねーちゃん」

 「ナミさん!!」

 

 サンジ君とゾロが同時に私を庇おうと動き出す。草原の草まみれになってる私が体を起こすのとほぼ同時に、ルフィの声が響いた。

 

 「待った!!お前ら!!」

 「ルフィ!!」

 

 思わず叫ぶように呼んだその名は、無理はしないで欲しいとの願いを込めているけど、既に決意してしまったらしいルフィを止める事なんて誰にも出来る筈は無い。それでも、今のルフィでは勝てない!

 

 「お前ェら手ェだすな。1騎打ちでやりてェ!」

 

 私達は誰1人、それを拒絶する事は出来ない。自分の全てをかけた〝船長〟の〝命令〟に逆らえる通りなど有りはしないから。だからサンジ君とゾロは凍った体を動かして、逆らう事無く船へと戻る。

 それでも、共に帰ろうとは、2人は言わない。私もまたこうなると、意思を変えない事は分かっているからだろうけれど。

 

 「ナミも、船へ行け」

 「おねーちゃんも帰りな」

 

 2人の声が重なる。青雉は海軍の中でも珍しい優しさを保ったままに上まで行った人だから、海賊相手でもその優しさは健在なのだろう。

 ルフィは私を心配している。それが分かっていて、それでも私だって引き下がれない。

 

 「何もしないわ。決闘に水をさしたりしない!だけど、見てる事は拒否させない」

 「ナミ!!」

 

 ルフィは怒りを滲ませて名を呼ぶけど、私にも譲れないものはある。ルフィが絶対に勝てないと分かっていて、負けてから砕かれそうになった時に庇うのは、1騎打ちの後だもの。

 それくらいは、させて貰う。ルフィの事は、絶対に砕かせない。

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