※この作品はR-18です。

波間の向こうを目指して(新・本編)   作:夢枕 七変化

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目覚めてから

 そうして過ごしている間に、ルフィとロビンがほぼ同時に目を覚ました。それを受けて私は体を起こすと、チョッパーに航海士として質問する。

 

 「チョッパー、何日安静にしていれば良いのかしら?」

 「あんな状態で生きてたのが可笑しいんだって自覚しろよ?……でも、そうだな。明日の様子次第かな」

 「分かったわ。なら、伝えてくるわね」

 

 言いながらベッドを降りれば、チョッパーの焦ったような声が聞こえてきた。でも、皆にも伝えないといけない事もあるし、航海士として指示を出さないといけないかも知れないから、確認は必要なのよ。

 

 「おい、ナミ!聞いてたか!?俺の話!」

 「……チョッパーは〝船医〟として2人をお願い。私は〝航海士〟として、皆に話をしないといけないわ」

 

 私の言葉にチョッパーは1瞬黙り、それから頷いた。それから呟くように、それが終わったらここに帰って来いよと言って、不安そうな眼差しを向けて来た。

 だから私はそれに笑顔で頷くと、そっと部屋を出て行った。甲板に出れば3人が居て、ゾロは視線だけ向けてきて、ウソップは何故か潰れていて、サンジ君はハートを飛ばした。

 

 「心配かけてごめんね。ルフィが最後に砕かれないようにと思って挑発したら、凍らされちゃったの」

 

 てへっと笑えば3人が揃って呆れを含んだ心配そうな眼差しを向けて来た。それを甘受しつつ、航海士として言葉を伝える。

 

 「船長とクルーの体調を確認する為、少なくとも明日まではここに停泊する事になったわ。そのつもりで見張りをお願いね」

 「……なら、俺が見張る」

 

 ゾロが即座に名乗りをあげればウソップが俺は今回騒いでただけでなんて言うから、思わず口を挟む。

 

 「ウソップは大金星よ。ウソップがあの時ロビンを庇わなければ、ロビンはもうこの世にいないもの。ウソップは今回……大手柄だったわ」

 「ナミ……」

 「それと、ウソップにお願いがあるのよ。空島のダイアルで、クリマタクトを可能な限り強化して欲しいの。このままじゃ居られない。私は……私こそ……何も、出来なかった……!」

 「っ!……ナミ」

 

 ウソップはそれから少し黙り、その間2人は何も言わなかった。そしてウソップはゆっくりと息を吐き出してから、笑った。

 

 「……ナミがそう言うのは、いつも誰かの為だな。良いぜ、何もしないで待つよりは、ずっと良い」

 

 ウソップのその言葉が持つ多くの意味に、少し切なくなる。もしかしたら、私もウソップと同じでネガティブホロウ効かないかもなんて思ってしまう。

 それくらいウソップの気持ちは理解出来る所が多い。私は、ウソップとルフィに喧嘩なんてして欲しくない。

 喧嘩の理由はメリーだと覚えてるけど、それが結果どうなったのかはよく覚えてない。少年誌だったから、殴り合って友情を深めたとかかな?

 でも、何かが違う気がするけど、そこで大きな事になるなら、ウソップがロビンを助けに行く筈もなく、その先に共に進む筈もない。でも待って、ならどうしてロビンを助けに行く時、ウソップはお面つけてたの?

 考えれば考える程に分からなくなり、古すぎる記憶の為に何も必要な所は思い出せない。それが情けなくて、つらくなる。

 ウソップは私が〝誰かの為〟に強くなろうとしてると言うけれど、違うのよ。私は我儘だから私にとって大切な人達を〝誰も喪わず〟に〝誰も傷付かない〟で済むようにしたいだけなの。

 眼を閉じればその瞬間に浮かぶ大切な人達の姿。そして、眼を開けば目の前に居てくれる大切な人達の存在。

 その誰も喪いたくないし、傷付けたくない。……ルフィを、悲しませたくない。

 強くなるのよ、私は。足手纏いにならないようにじゃなくて、背中を預けて貰えるくらいに、強くなるの。

 

 「ナミさん、そんなに思い詰めなくてもいいと思いますよ。ナミさんはルフィを守りました。充分すぎる大金星です」

 

 私はサンジ君の優しい言葉に甘える訳にはいかなくて、首を横に振る。だって、私は結局何も出来なかったから……ただ、何も出来ずに凍らされただけだもの。

 

 「違うわ。私には何も出来なかったの。ルフィが助かったのは、青雉の情けで……私が助かったのは、ルフィが〝1騎打ち〟を挑んだ後だったからに過ぎないのよ」

 「……情けを掛けられるような、接触があったのか?」

 

 私の言葉に少し気遣う様子でゾロが問い掛けて来た。それに対して私は小さく首を横に振る。

 

 「ルフィがアラバスタでクロコダイルを討伐した事に対するお礼として、砕かないで居てくれただけなのよ。それと、ケムリンと青雉はお友達だから、ルフィの指示でゾロが助けたのも影響してると思うわ」

 

 もし、どれか1つでもそのボタンが掛け違っていたならば、今この場にルフィは居ない。私は、傍に残ったのに、今は唯1この1味の中で覇気が使えるのに……何も、出来なかった。

 ゾロも、サンジ君も、ウソップも、何も言わない。その重苦しい沈黙を破ったのはチョッパーの怒りに満ちた声だった。

 

 「ナミ!!早く戻れよ!自分の状態少しは理解してくれって!いいか……」

 

 それからお小言を言い続けるチョッパーにベッドへと連行された私は、寝かしつけられてからも暫くの間チョッパーのお小言を聞かされる事となった。それでも、皆が傍にいてくれる現実が安心感となり、私は久々にゆっくりと深く眠る事が出来た。

 悪夢に魘される事なく、深く、深く、眠る事が出来た。翌朝なのか、私が目覚めた時にはルフィは横でチョッパーに向かい、寝てるのに飽きた!と言っていて、ロビンに視線を向ければ大人しくベッドで読書をしているのが見える。

 ウソップはクリマタクトの改良を頼んだからか、姿は見えない。改良を頼んだ事でウソップの心に積もった何かが少しでも軽くなれば良いと思いつつ、そんな簡単な問題じゃないことも分かってるから自然と溜息が重くなる。

 ルフィ、ゾロ、サンジ君は戦いにおいて欠かす事の出来ない麦藁の1味においての主戦力。3強とか、船長と双璧とか呼ばれる位の人達。

 チョッパーは戦闘能力においてはそこまで高くないと認識されてるけど、それでも独特の戦い方で充分にその能力を発揮しつつ、船医として皆を支えている。今回もルフィとロビン、そして私の命を救ったのはチョッパーの功績だと言う他ない。

 ロビンは居なければラフテルに到達出来ない事を皆は知らないけど、でも古代文字を読める唯1の存在であり、3強にはかなわなくても充分な戦力として数えられる存在。知識も豊富で、この船のブレーンと言っても過言では無い。

 私は航海士としてはそれなりの役割を果たせているし、この船のお金の管理を行ってるから事務的な意味では役立ててる。戦闘能力は本来高い筈なのに迷惑かけてるのが悔しいけど……。

 そうなると、ウソップは苦しいだろうと思う。何かの役職名がつくならばウソップは〝狙撃手〟となる。

 それは即ちウソップが〝戦闘員〟である事を意味しているのに、私とチョッパーとウソップの3人は3強の逆で3弱とか、弱小トリオとか呼ばれてるのだから。そう、戦いにおいては戦闘員としての役割をまだウソップは果たせていない現実がある。

 これ迄もウソップは基本的には、ルフィの友達とか、船大工とか、私の武器製造を行ってる……手先の器用な船のムードメーカーと言うのが正直な所だった。ウソップが居なければここ迄来る事は出来なかったと思っているけど、きっとウソップはそんな自分の良さを分かってない。

 ここ迄で目に見えてウソップが活躍したのは、本業ではない筈の船大工としての姿。でもこれから船大工が仲間になるのならば、自分はもう不要だと……そんな事を考えたとしても何も不思議では無い。

 だからこそ、大切な人から貰ったメリーにウソップは執着する。元々優しい人だからと言うのもあるけど、それが無ければきっともう少し冷静になって喧嘩なんてしないだろうと分かるから、少し苦しくなる。

 本当に必要な時、大砲等を使いウソップは狙撃手としての活躍もしてくれているけど、それだってルフィがもう少し成長したら不要になってしまう。ならばウソップは、ウソップとして……狙撃手として成長する必要があるのは確かな事。

 チョッパーの診察後の言葉により4日、このロングリングロングランドに停泊する事が決まる。その間私とロビンは絶対安静との事で、私に手を出すなよとルフィも同じ病人枠の筈なのに念押しされていた。

 私は航海日誌を書く以外でペンを持つ事を規制され、ロビンと仲良く読書を楽しみつつ皆に指示を出すに留めていた。その穏やかで暇で、どうしようもなくもどかしい時間の中で、ロビンとウソップが何を考えていたのか、どんな想いを抱いていたのかは、当人達にしか分からない。

 ゾロは洗濯をしてくれていて、ウソップはクリマタクトの改良をしてくれている。サンジ君は料理をしてくれて、チョッパーは看病してくれる。

 私はルフィやロビンと共にただ、身を休ませる事になる。ルフィが暇だと、つまらないと言うのに対して苦笑する他は、何も出来ない現実がある。

 そうして穏やかに、緩やかに過ぎ行く1日の中で、こんなにものんびりした時間を過ごしたのは人生で初めてかも知れないと気付いて、つい笑ってしまう。これ迄は、1秒だって無駄に出来ないと、寝込む暇なんてないと思っていたし、実際そうだったから。

 こんなにも〝何もしない〟日は、時間はこれ迄無かった。だからこそ、どうやって過ごしたらいいのか分からなくて……少しだけ、泣きそうになる。

 けれども私がそうしてゆっくりと過ごせたのは1日だけで、翌日にはルフィが退屈過ぎてもうダメだと騒いだ事により、メリーの近くにある木々から木の実の採取に向かう事となり、そのお目付け役として私が同行する事になった。なのでロビンだけ大人しく休んでいる事になったのだけど……どうして私に皆ペンを持たせてくれないのかな!?

 私、文字を書きたいです。海図や地図を描きたいです。

 

 「ナミ?どうした?」

 「地図とか描きたい」

 「……ナミ、お前にはこの広い大冒険の島が見えないのか!?」

 「大冒険は禁止されてるから、いい子に食料調達だけお願いします」

 

 私の言葉にルフィは膨れるけど、膨れられてもね……。そう思うのに、私の手は無意識でルフィに伸ばされて、その頭を撫でている。

 なんで週に1度しかお風呂に入らないのに、ルフィの髪ってこんなに指通りが良いのかしら。主人公補正とかってやつなの?

 そんな事を思っていたら、ルフィと視線が絡んだ。私は近付いてくるルフィの顔を見て、そっと眼を閉じる事でそれに応えるのと同時にルフィの唇と私の唇は、自然と重なり合う。

 そんな2人を暖かな風が優しく包むように動き、双方の髪を揺らす。互いの無事を確かめ合うように、私とルフィはその体に自然と腕を伸ばして抱きしめ合った。

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